
採用広報が機能しない本当の理由——「伝える」前に「知る」を徹底せよ
目次
- なぜ採用広報は機能しないのか
- 「誰に届けるか」が曖昧なまま発信している
- 「良いところ」しか伝えない発信の逆効果
- 「発信」が目的になっている
- よくある失敗パターン
- 失敗1:社員インタビューが「広報部の宣材写真」になっている
- 失敗2:採用チャネルとコンテンツが一致していない
- 失敗3:採用広報と採用選考が別物になっている
- プロの人事はこう考える
- ターゲットペルソナの「心の声」から設計する
- 「知る→考える→動く」のフローを設計する
- 経営数字で証明できる採用広報にする
- 社員を「発信者」にする仕組み
- 明日からできる3つのこと
- 1. 最近の内定辞退者に「どこで弊社を知ったか」を聞く(1〜2時間)
- 2. 現在の採用広報コンテンツを「誰向けか」で整理する(2時間)
- 3. 「失敗した話」を一本書いてみる(半日)
- まとめ
- もっと深く学びたい方へ
採用広報が機能しない本当の理由——「伝える」前に「知る」を徹底せよ
「採用広報をちゃんとやろう」と言って、SNSアカウントを開設したり、社員インタビュー記事を量産したりする。でも半年経っても応募者数はほとんど変わらない——。
そんな経験、ありませんか?採用広報の施策を一生懸命やっているのに、なぜか効果が出ない。その原因が「伝え方」にあると思って改善を繰り返す。でも本当の問題は、もっと手前にあることが多いと思っています。
この記事では、採用広報が機能しない構造的な原因と、プロの人事がどう考えて設計するかをお伝えします。
なぜ採用広報は機能しないのか
「誰に届けるか」が曖昧なまま発信している
採用広報が機能しない最大の理由は、「伝えたいことを伝えている」状態から抜け出せていないことです。
ある成長期のIT企業の話です。LinkedInとTwitter(現X)とnoteを使って毎月10本以上のコンテンツを発信していた。社員インタビュー、社内イベントのレポート、CEOのコラム——バラエティも豊かで、見た目の充実度はあった。でも応募者の質は変わらず、「会社のことをよく知らずに応募してきた人が多い」という採用担当者の悩みは解消されなかった。
原因を探ると、コンテンツが「誰のために書かれているのか」が全くクリアでなかったことがわかりました。中途採用のビジネス職向けなのか、新卒エンジニア向けなのか、転職潜在層なのか。受信する側に「これは自分に向けられたメッセージだ」という感覚が生まれていなかったのです。
「良いところ」しか伝えない発信の逆効果
「採用広報だから、良いことを伝えなければ」という思い込みも問題です。
良い面しか見せないコンテンツは、読んだ人に「宣伝っぽい」という印象を与えます。特に転職を本気で考えている人は、表面的なきれいごとに敏感です。「こんなに楽しそうに働いていることが全て本当なのか」という不信感が、応募のハードルを上げてしまうことがあります。
失敗した経験、難しい課題に挑んでいるリアル、葛藤しながら成長している社員の姿——こういった「等身大のリアル」を伝えることが、むしろ候補者との信頼関係を作ります。「ここは本音で語れる会社だな」という印象が、「この会社に話を聞いてみたい」というアクションにつながります。
「発信」が目的になっている
採用広報で最も陥りやすいパターンが、「コンテンツを出すこと」が目的化することです。
毎週1本の更新を目標にしていると、内容よりも「出すこと」に意識が向いてしまいます。量は増えているのに、一本一本のコンテンツの質と目的が薄れていく。これでは応募者に刺さるメッセージは生まれません。
採用広報は「何を発信するか」より先に「誰を動かしたいのか」「その人はどんな状態で何を考えているのか」を明確にすることが必要です。
よくある失敗パターン
失敗1:社員インタビューが「広報部の宣材写真」になっている
社員インタビューは採用広報の王道コンテンツですが、「働きやすい環境です」「成長できる会社です」という言葉だけが並んだインタビューは読まれません。
読み手が知りたいのは、「その人がどんな葛藤を経て、今どんな仕事をしているのか」というリアルな物語です。整えすぎたインタビューより、「実はこういうことで悩んでいた」という本音の一言の方が、はるかに記憶に残ります。
失敗2:採用チャネルとコンテンツが一致していない
採用広報のチャネル選びに戦略がないケースも多いです。
「とりあえず全部やろう」とLinkedIn、X、note、Wantedly、採用サイト全てを同じコンテンツで運用している。でも各チャネルにいるユーザーの属性も使い方も違います。エンジニアはGitHubやTwitterのテック系アカウントを見ている。営業職はWantedlyや転職エージェントを使っている。チャネルを増やすことより、「誰がどこにいるか」を理解することが先です。
失敗3:採用広報と採用選考が別物になっている
採用広報が採用担当者の「別業務」になっていて、選考のプロセスと全く連動していない企業があります。
広報では「フラットな組織」を訴求しているのに、選考では役職が入ったフォーマルな面接しか設定していない。広報で「裁量が大きい」と伝えているのに、選考の質問は全て型通り。候補者が体験する「広報での期待」と「選考での実感」がズレていると、辞退率が上がります。
プロの人事はこう考える
ターゲットペルソナの「心の声」から設計する
プロの人事が採用広報を設計するとき、まずコンテンツの「形」ではなく、「届けたい人の状態」を具体的に描くことから始めます。
たとえば、「5年目の事業会社の人事担当者で、専門性をもっと深めたいと感じているが、上司との関係で転職に踏み切れないでいる」というペルソナを設定する。この人の「心の声」は何か。「今の会社でずっとやっていけるのか不安」「でも転職に失敗したくない」「自分の人事の経験が他社でも通用するか自信がない」——こうした心の声に直接語りかけるコンテンツを設計する。
「そのモヤモヤ、私たちの会社でこう解決した」というストーリーが、彼女の「これは自分のための記事だ」という感覚を生みます。
「知る→考える→動く」のフローを設計する
採用広報は一本のコンテンツで完結させようとしないことが大切です。
「知る」段階のコンテンツ(会社・仕事・文化を知ってもらう)、「考える」段階のコンテンツ(自分がここで働くとどうなるか想像してもらう)、「動く」段階のコンテンツ(応募・説明会申込みなどのアクションを促す)——この3段階を意識してコンテンツポートフォリオを設計する。
一本一本のコンテンツが「どの段階の人に向けて書かれているか」が明確だと、発信の質と一貫性が上がります。
経営数字で証明できる採用広報にする
採用広報に投資した効果を経営に証明できる仕組みを最初から作っておくことが重要です。
UTMパラメータを全てのリンクに付与し、「このコンテンツ経由の応募者は何人で、選考通過率は何%で、内定承諾率は何%か」を追えるようにする。コンテンツ別の採用転換率を可視化することで、「この種のコンテンツが採用に効いている」という証明ができます。
採用広報への投資を「採用コスト削減」として語れると、経営のテーブルで予算を守りやすくなります。「エージェント採用単価が100万円のところ、広報経由採用は20万円。今期〇人採用できれば〇百万円の削減になる」という説明が、採用広報の予算確保に直結します。
社員を「発信者」にする仕組み
採用広報の最も強力なコンテンツは、「社員自身の発信」です。
会社のアカウントが何を言っても「会社側の言い分」に聞こえる。でも社員個人のSNSで語られた言葉は、より信頼性が高く感じられます。社員が自発的に「うちの会社のこういうところが好き」と発信したくなる文化を作ることが、長期的な採用広報の基盤になります。
そのためには、社員が「自分の仕事に誇りを持てる体験」を積み重ねることが先決です。採用広報の充実より先に、「この会社で働くことを誰かに伝えたいか」という問いを社員に投げかけることも、採用力を高める手段のひとつです。
明日からできる3つのこと
1. 最近の内定辞退者に「どこで弊社を知ったか」を聞く(1〜2時間)
直近の内定辞退者のうち、連絡を取れる方に短いアンケートかインタビューをお願いする。特に「弊社のどのコンテンツや情報が印象に残っているか」「応募を決めた際に参考にした情報は何か」を聞く。
この情報が、現在の採用広報の何が機能していて何が機能していないかを明確にしてくれます。
2. 現在の採用広報コンテンツを「誰向けか」で整理する(2時間)
現在発信しているコンテンツを全てリストアップし、「新卒/中途」「職種」「転職顕在層/潜在層」でタグ付けしてみる。バランスが偏っていないか、どのペルソナへのコンテンツが少ないかが見えてきます。
3. 「失敗した話」を一本書いてみる(半日)
社員インタビューや社内ブログで、「失敗した経験とそこから学んだこと」を正直に語るコンテンツを1本作ってみてください。書く社員を探すのが難しければ、自分自身の経験でもかまいません。
リアルな失敗談は、読んだ人の「この会社は本音で話せる」という印象を作ります。最初の1本を出してみると、社員が「私も書いてもいいですか」と言ってくれることが多いです。
まとめ
採用広報は「発信すること」が目的ではありません。「届けたい人を動かすこと」が目的です。
「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という視点で言えば、採用広報の設計も「採用コスト削減」という数字の視点と「候補者の心の声に寄り添う」という組織・人の視点の両方が必要です。
「まず誰に届けるか」を徹底的に考え、少数の人に深く刺さるコンテンツを作る。そこから少しずつ広げていく。それが採用広報の「遠回りに見えるが実は近道」だと思っています。
もっと深く学びたい方へ
採用広報を含む採用戦略全体を、経営目線で体系的に学びたい方へ。
人事のプロ実践講座では、採用・育成・評価・組織開発を「なぜそうするのか」から学べます。現場で即使える考え方を身につけたい方にお勧めです。
採用の仲間と情報交換しながら学びたい方は、人事図書館もご活用ください。
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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