
採用担当者を育てないと、採用力は上がらない——チームで採用する仕組みの作り方
目次
採用担当者を育てないと、採用力は上がらない——チームで採用する仕組みの作り方
「採用は一人でやっているので、誰かに相談できなくて」
こんな声を聞くことがあります。一方で、複数人の採用チームを抱えているのに「担当者によって面接の質がバラバラ」「ベテランに依存していて、若手が育たない」という悩みを持つ人事の方も多い。採用担当者の育成は、思っているよりずっと後回しにされがちなテーマです。
でも、採用力というのは個人のセンスや経験に依存している限り、組織として安定しません。担当者が変わるたびに採用品質が揺らぎ、採用結果に波が出る。これを変えるには、採用担当者を「育てる」ことを意図的に設計する必要があります。この記事では、採用チームの育成に取り組む際の考え方と実践について、現場感を踏まえながらお伝えできればと思います。
なぜ採用担当者の育成は後回しになるのか
採用は「やっていれば育つ」と思われがち
採用の仕事は、やればやるほど経験が積まれる側面があります。たくさんの候補者と会い、面接をこなすうちに「人を見る目」が磨かれていく。この感覚があるため、「採用担当者の育成は経験に任せればいい」という空気が生まれやすいのだと思います。
ただ、経験だけに任せた育成には大きなリスクがあります。間違ったやり方が「自分のやり方」として固定化されてしまうことです。候補者を「なんとなくいい人」で評価し続けるクセがついてしまったり、面接で自分が話すことに慣れてしまって候補者の話を聞けなかったり。こういうパターンは、指摘してもらう機会がないと自分では気づきにくい。
「面接で"いい人"と全員が評価した人が、入社後にパフォーマンスが出ない」という経験をした人事の方は少なくないと思います。"いい人"と"活躍する人"は違う。でも、その見極め訓練をしていなかった——という反省です。採用担当者が経験を積むだけでは、このギャップは埋まらないのです。
採用の「暗黙知」が言語化されていない
多くの組織では、優秀な採用担当者の「勘」や「経験則」が暗黙知として個人の中に留まっています。「あの人に判断を仰げばいい」という依存関係が生まれ、ベテランが抜けたときに採用品質が一気に落ちる。
これは料理でいえば、「シェフの感覚」だけで調理していて、レシピが存在しない状態です。新しいスタッフが入ってきても、「見て覚えろ」しかない。組織として採用力を高めるには、この暗黙知を言語化・共有する仕組みが必要です。
育成に使える時間が構造的に取れない
採用担当者が多忙で、育成に時間を割けないという問題もあります。面接、候補者フォロー、求人票作成、エージェントとのやりとり——日々の業務に追われると、「育成」は後まわしになります。
しかし、育成への投資を怠ると、採用の質は上がらず、また担当者が変わるたびにゼロから立て直す羽目になります。短期的には回っているように見えても、組織の採用力は蓄積されていかない。構造的な問題として認識して、意図的に時間を確保することが大切だと思っています。
よくある採用担当者育成の失敗パターン
失敗パターン1:OJTだけで育てようとする
「とりあえず面接に同席させて、後は自分でやらせる」というアプローチは、よくある失敗パターンです。面接の場数は増えますが、「何を見ていたか」「どう判断したか」を振り返る機会がなければ成長に直結しません。同席後のデブリーフィング(振り返り)がセットになって初めて、経験が学びに変わります。
失敗パターン2:評価基準の共有なしに採用判断させる
採用担当者に「判断を任せる」ことと、「評価基準を共有せずに判断させる」ことは別物です。判断基準が曖昧なまま個人の感覚に任せると、担当者によって「合格基準」がバラバラになります。特に複数人で採用する場合、この統一がされていないと採用品質が安定しません。
失敗パターン3:失敗から学ぶ機会を作らない
採用において、「あの人を採用したが、想定と違った」という経験は非常に重要な学びです。でも、採用担当者がこの失敗を振り返る機会が設計されていないことが多い。「採用後に入社者の活躍状況を採用担当者にフィードバックする」という仕組みを持っている組織は、まだ少ないと思います。
プロの人事はこう考える——採用担当者育成の設計
知る:採用担当者に必要なスキルを整理する
採用担当者のスキルは大きく3つに分けて考えられます。
一つ目は「人を理解するスキル」。候補者の価値観、動機、経験のパターンを読み取る力です。面接での質問設計、傾聴力、行動特性の見極め方などが含まれます。
二つ目は「会社を伝えるスキル」。採用ピッチの構成、候補者の関心に合わせた伝え方、オファー面談でのクロージング力などです。
三つ目は「採用プロセスを設計・改善するスキル」。採用KPIの設計、エージェントやスカウトの活用、候補者体験の設計などです。
この3つのスキルを意識して、それぞれの育成を設計することが大切です。すべてを一度に育てる必要はありませんが、どのスキルをどの順で強化するかのロードマップがあると、育成の道筋が見えてきます。
考える:「共通言語」を作る
採用担当者間で「いい候補者とは何か」の共通言語を作ることが、育成の核心だと思っています。
具体的には、採用後に活躍している社員の特徴を分析して「活躍パターン」を言語化し、それを採用の評価軸に落とし込む作業です。「リーダーシップがある」という曖昧な言葉ではなく、「曖昧な状況でも自分なりの判断を下し、チームを動かした経験を持つ人」のように具体化します。
この作業は、ベテランの採用担当者が持つ「感覚」を言語化するプロセスでもあります。「なぜあの人を採用したのか」を言葉にしてもらい、それを評価基準として整理する。この共有作業自体が、組織の採用知識を積み上げることになります。
動く:面接後の振り返りをルーティン化する
最も費用対効果が高い採用担当者育成の施策は、「面接後のデブリーフィング」だと思っています。
面接が終わったら、5〜10分でいいので「どこを見ていたか」「何が判断の決め手だったか」を言語化する習慣をつける。複数人で面接した場合は、お互いの判断を共有して「見ている点が違うな」「なるほど、そういう解釈もあるか」という対話をする。
この振り返りを継続することで、採用担当者は自分の判断軸を意識的に磨くことができます。月に1回でいいので、採用チームで「印象に残った候補者の事例」を共有する場を設けることも有効です。
また、入社後3〜6ヶ月のタイミングで、採用担当者に「入社者の活躍状況」をフィードバックする仕組みを作ることをお勧めします。「あの判断は正しかったのか」「どこを見落としていたか」というフィードバックループがあって初めて、採用の精度が上がっていきます。「経年変化を眺める」ことで発想が変わるように、採用結果の追跡が人事としての「知る力」を育てます。
振り返る:採用力の定点観測
採用担当者の育成は、「候補者と接した回数」だけで測れるものではありません。採用後の活躍率、オファー承諾率、辞退理由の変化——こういった数字の変化を担当者別・時期別に追うことで、育成の進捗を把握できます。
「採用の質」を数値化して経営に報告できる状態になると、採用への投資承認も得やすくなります。「採用担当者の育成にこれだけ投資して、活躍率がこれだけ改善した」という形で語れると、採用部門の価値が経営に伝わりやすくなります。
明日からできる3つのこと
1. 次の面接後に10分の振り返りタイムを設ける(今週から)
一人で面接した場合でも、「候補者のどこを評価したか」「どこが気になったか」をメモするだけで始められます。複数人で面接するなら、対話形式で振り返る習慣をつける。最初は5分でも大丈夫です。継続することに意味があります。
2. 採用後に活躍している社員の特徴を3つ言語化する(今月中に)
入社1〜2年で活躍している人を3名思い浮かべ、「なぜ活躍しているか」を自分なりに言語化してみる。その言葉が、採用評価軸の素材になります。現場の意見も聞きながら作ると、より精度が高まります。
3. 採用担当者間で「判断基準」を共有する場を作る(来月から)
月1回、30分でいいので採用チームで「最近の採用で悩んだこと・学んだこと」を共有する時間を設ける。担当者が一人でも、自分の振り返りをノートに書き続けることが同じ効果を持ちます。
まとめ
採用担当者の育成は、「採用力を組織として高める」ための根幹です。個人の経験やセンスに依存しているうちは、担当者が変わるたびに採用品質が揺らぎます。
「小さく始めて、成功事例を作って横展開する」という考え方がありますが、採用担当者育成も同じです。まずは振り返りの習慣を一人から始めて、それが定着してきたらチームに広げていく。理想的な育成プログラムを一気に作ろうとするのではなく、日常の仕事の中に「学ぶ仕組み」を少しずつ埋め込んでいくことが大切だと思っています。
採用担当者が育つほど、採用の質は上がり、入社後の活躍率も上がる。それがコスト削減(採用のやり直し・早期退職の防止)にもつながりますし、組織の事業成長を下支えすることにもなります。採用担当者の育成は、人事が経営に貢献できる重要な投資の一つです。
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本記事は、吉田洋介著『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』の思想に基づいて執筆しています。
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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