リーダーシップ開発はなぜ難しいのか——次世代リーダーを育てる人事の考え方
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リーダーシップ開発はなぜ難しいのか——次世代リーダーを育てる人事の考え方

#1on1#採用#評価#研修#組織開発

リーダーシップ開発はなぜ難しいのか——次世代リーダーを育てる人事の考え方

「リーダーシップ研修を実施しているのに、なかなかリーダーが育たない」という悩みを抱える人事担当者は多いと思います。

研修を受けた翌週には行動変容が見られるのに、3ヶ月後には元に戻っている。「あの人はリーダーに向いていない」という評価が先行して、本人の成長機会が限られてしまう。研修に費用をかけても、組織のリーダーシップの総量が増えている実感が持てない——。

この記事では、リーダーシップ開発が難しい構造的な理由と、プロの人事がどう取り組むかをお伝えします。


なぜリーダーシップ開発は難しいのか

「研修で学べるもの」と「実践で育つもの」のギャップ

リーダーシップは、教室で教えられる知識よりも、実践の中で身につくものが圧倒的に多いスキルです。

チームを率いる難しさ、対立する意見を調整する難しさ、失敗の責任を負う経験——これらは研修シミュレーションでは再現しきれません。「理論はわかった。でも現場ではどうしたらいいかわからない」という状態で研修を終えることが多いのは、このギャップが原因です。

日本企業のリーダーシップ開発でよく見られるのが、「管理職になってから教える」という構造です。昇格してはじめてリーダーシップ研修を受けるが、すでに部下はついていて、組織の期待はある。「リーダーとして動かなければならない」というプレッシャーの中で研修を受けても、学習効果は上がりにくい。

「リーダーシップ=カリスマ性」という誤解

リーダーシップ開発を阻む根本的な誤解が、「リーダーシップとはカリスマや天性のものだ」という思い込みです。

「あの人は生まれながらのリーダー」「リーダーシップがある人とない人は決まっている」——こうした信念が組織に蔓延していると、リーダーシップを「開発するもの」ではなく「選抜するもの」として扱ってしまいます。

リーダーシップ開発の現代的な考え方は、「リーダーシップはスキルとして習得可能」というものです。誰もがリーダーシップを発揮できる場面があり、誰もが成長の余地を持っている。この前提がなければ、リーダーシップ開発施策は「選抜のフィルター」にしかなりません。

開発機会が「特定の人だけ」に集中している

多くの組織では、リーダーシップ開発の機会が「選ばれた人材」にしか与えられません。

ハイポテンシャル人材向けのプログラム、管理職候補者研修、役員向けエグゼクティブコーチング——こうした投資が一部の人材に集中する一方、「普通の」メンバーにはリーダーシップを発揮する機会も学ぶ機会も与えられない。

組織全体のリーダーシップ総量を上げるためには、「特定の人を育てる」から「誰もがリーダーシップを発揮できる環境を作る」という発想転換が必要です。


よくある失敗パターン

失敗1:「リーダーシップ研修」が知識インプットで終わる

2日間の研修でリーダーシップ理論を学ぶ。ケーススタディを行い、ロールプレイをする。終わった後のアンケートでは「参考になった」という声が多い。でも職場に戻ったら何も変わらない。

研修後に「実践する場」「フィードバックをもらう仕組み」「振り返る機会」がなければ、知識は記憶として残っても行動変容には至りません。リーダーシップ研修は「インプットの場」ではなく「変容のプロセスのひとつ」として位置づけることが重要です。

失敗2:上司がリーダーシップ開発の妨げになっている

若手社員が「リーダーシップを発揮しよう」と新しいことに挑戦しようとすると、「余計なことをするな」「前例がない」と上司から止められる。リーダーシップを発揮した結果が失敗に終わると、「だから言ったじゃないか」と責任を問われる。

この状態では、リーダーシップを発揮することが「リスク」になってしまいます。上司がリーダーシップ開発の「支援者」ではなく「障壁」になっているケースは思ったよりも多いです。

失敗3:「目標を持つこと」がリーダーシップ開発になっている

「個人の目標設定研修を実施すれば、自律的なリーダーが育つ」という発想で、目標設定ワークショップを充実させる。しかし目標を持つことと、他者を巻き込んで成果を上げることは別のスキルです。

リーダーシップは「自律」より「他者との関係性」の中で発揮されます。目標設定だけを強化しても、組織への影響力・調整力・対立解消力は育ちません。


プロの人事はこう考える

「経験学習サイクル」を設計する

プロの人事がリーダーシップ開発を設計するとき、「研修」よりも「経験」を中心に置きます。

デービッド・コルブの経験学習モデル(経験→内省→概念化→実験)に沿った学習サイクルを、職場の中に組み込むことが基本的な考え方です。

具体的には、「リーダーシップを発揮できる経験の機会を意図的に設計する」ことから始まります。プロジェクトリーダーの経験、新人への指導役、社内タスクフォースの参加——これらは管理職になる前から与えられる「リーダーシップの練習機会」です。

この機会の後に「内省の場」(1on1、日誌、コーチング)を設け、「何が起きたか」「なぜそうなったか」「次どうするか」を考える時間を確保する。これがリーダーシップを「経験から学ぶ」設計の核心です。

フィードバック環境を整える

リーダーシップ開発において、フィードバックの質と量は極めて重要です。

360度フィードバックをリーダーシップ開発と連動させることが一つの方法ですが、それ以上に重要なのが「日常的に率直なフィードバックをもらえる関係性を作ること」です。

上司から「あなたのあの言動で、チームメンバーがどう感じていたか伝えてもいいですか」という具体的なフィードバックが日常的にある環境と、年1回の人事評価フィードバックしかない環境では、リーダーシップの成長速度が根本的に違います。

人事がやるべきことは、こうした「フィードバックが機能する文化」を作ることです。

「上司のリーダーシップ開発支援スキル」を高める

若手のリーダーシップを育てたいなら、その上司のコーチング・フィードバックスキルを先に開発することが先決です。

上司が「指示と評価をする人」から「成長を支援する人」に変わらなければ、部下のリーダーシップは育ちにくい。管理職向けの「人材育成スキル研修」を、リーダーシップ開発プログラムの前段として設計することが効果的です。

組織全体のリーダーシップ「文化」を育てる

最終的には、「リーダーシップを発揮することが普通」という組織文化を作ることが目標です。

誰かが新しい提案をしたとき、周囲が「それ面白い、やってみよう」と言える雰囲気があるか。失敗したとき、責任を問われるのではなく「何を学んだか」が問われるか。組織の至るところでリーダーシップが発揮される文化が根付けば、特定のリーダーシップ研修がなくても人材が育っていきます。

「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」という視点で言えば、まず自社のリーダーシップ文化の現状を丁寧に「知る」ことが出発点です。


明日からできる3つのこと

1. 自社の「リーダーシップ成功事例」を3つ探す(2時間)

過去1〜2年で「この人がリーダーシップを発揮した」と思えるエピソードを3つ探してください。管理職でなくてもかまいません。メンバーが自発的に動いた場面、プロジェクトを引っ張った場面、困難な状況を打開した場面——それらに共通する要素は何かを考える。

これが自社のリーダーシップ開発の「素材」になります。

2. 若手社員の「リーダーシップ機会」を一つ作る(30分)

現在の業務の中で、若手がリーダー役を担える機会を一つ作ってみてください。社内イベントの仕切り役、部門の課題解決ワークショップのファシリテーター、新入社員のOJTメンター——比較的小さな機会から始めて、事後に丁寧なフィードバックを返すことが重要です。

3. 管理職に「部下の成長を具体的に語ってもらう」場を設ける(1時間)

次回の管理職会議や1on1の機会に、「今あなたが育成に最も力を入れている部下は誰で、どんな成長を見せているか」を具体的に聞いてみてください。答えられない管理職がいたら、そこが育成支援が必要な場所です。


まとめ

リーダーシップ開発は、「優秀な人材を選んで研修を受けさせる」ことではありません。誰もがリーダーシップを発揮できる経験と環境を作り、組織全体の成長力を高めることです。

「小さく始めて、成功事例を作って横展開する」——リーダーシップ開発も同じです。まず一人の成長ストーリーを丁寧に設計し、その経験を組織に展開する。遠回りに見えますが、それが最も確かな方法だと思っています。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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