男性育休を形骸化させない——取得率向上より「取得後」に目を向けよ
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男性育休を形骸化させない——取得率向上より「取得後」に目を向けよ

#評価#組織開発#経営参画#キャリア#制度設計

男性育休を形骸化させない——取得率向上より「取得後」に目を向けよ

「男性育休取得率は上がったが、2〜3日取って終わり。本当に意味があるのか」「管理職が育休を取ると現場がまわらなくなる」——男性育休の推進に真剣に取り組んでいる人事担当者からよく聞く声です。

育児・介護休業法の改正で「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設され(2022年10月〜)、男性育休取得に向けた制度整備は進んでいます。でも「制度はある。でも文化がない」という状態に多くの組織が直面しています。

この記事では、男性育休を「取得率の数字」ではなく「組織文化と業務設計の変革」として捉えることの重要性をお伝えします。


なぜ男性育休は取れないのか

「取得しにくい」文化と職場環境

男性が育休を取りにくい背景には、複数の要因が絡み合っています。

「育休を取ったら評価が下がるかもしれない」「プロジェクトの途中で抜けるわけにいかない」「同僚に迷惑がかかる」——これらは制度の有無と無関係に働く「取得抑制」の力です。

特に管理職・リーダー職になるほど、「自分が抜けるとチームが機能しない」という責任感から育休を取りにくい状況が生まれます。これは個人の意識の問題ではなく、「特定の人に業務が集中している」という組織設計の問題です。

「育休=キャリアブレーク」という思い込み

男性にとって育休を取ることが「キャリアのブレーク」になるという認識も取得抑制につながっています。

「育休を取った後の評価が心配」「復帰後に重要なプロジェクトから外されるのでは」という不安が、本来育休を取りたい人の行動を抑制します。

この不安は、「育休を取った先輩がどうなったか」というロールモデルの有無に大きく左右されます。育休を取った男性管理職が活躍しているという実績がない組織では、不安が大きくなります。

「育休中何をするのか」が不明確

男性が育休を取ることへの心理的準備ができていないケースも多いです。

「育休を取って家にいても何をすればいいかわからない」「2週間以上の育休は長すぎて不安」という感覚は、「育児に主体的に関わるイメージ」が具体的に持てないことから来ています。

育休取得の前に「育休中にすること・できること」のイメージを持てるような支援が不足しています。


よくある失敗パターン

失敗1:「取得率目標」だけを設定して取得を促す

「今期は男性育休取得率〇%を達成する」という目標を設定し、上司から「育休を取れ」と言う。形式的に2〜3日取得する人が増え、数字は達成するが実質的な育児への参加は増えない。

取得率の数字より「取得日数」や「育休中の育児参加度」という質的な指標の方が、本当の意味での育休推進を反映します。

失敗2:「育休取得は本人の選択」と放置する

「育休制度はある。あとは本人が選ぶこと」という立場を取り、組織として取得しやすい環境づくりをしない。この場合、「取得したい人も取れない」という状態が続きます。

個人の選択を尊重しながらも、「取得したい人が安心して取れる環境」を組織として整えることは、人事の役割です。

失敗3:業務の「分散化」なく育休取得を推進する

育休を取りたい人材がいても、その人の業務を代替できる体制がなければ、「取れない」状態が続きます。「1人に業務が集中している状態」のまま育休を推進しても、取得者も残るメンバーも苦しくなります。

業務の可視化・マニュアル化・分散化という「組織の業務設計の改善」が、育休推進の前提です。


プロの人事はこう考える

「育休推進」を「業務設計の改善機会」として捉える

プロの人事が男性育休推進に取り組むとき、「育休を取りやすくすること」と「組織の業務を強くすること」を同時に実現する設計を考えます。

「特定の人がいないと業務がまわらない状態」は、その人が病気・事故で突然不在になった場合のリスクでもあります。育休の取得しやすさを高めることは、「一人依存リスクの低減」という組織の健全性向上でもあります。

この視点で経営に語ると、「育休推進のコスト」ではなく「事業継続性への投資」という認識を生めます。

ロールモデルを作る

男性育休推進で最も効果的なアクションのひとつが、「管理職・リーダー職の男性が育休を取る」というロールモデルを作ることです。

役員や部長クラスが育休を取り、その体験を社内で共有する——「あの人でも取れるんだ」という実績が、他の男性社員の心理的ハードルを大きく下げます。

「ロールモデルは1人でいい。最初の1人を作ることに全力を注ぐ」という考え方で、まず経営陣・管理職の協力を取り付けることが先決です。

育休前後の伴走支援を設計する

育休前の業務引き継ぎ支援、育休中の状況確認(強制ではなく希望があれば)、復帰後の再オンボーディング——この一連のサポートを設計することが、「育休を取ることへの不安」を下げます。

「育休を取った後もちゃんと戻れる」という安心感を作ることで、育休取得の決断がしやすくなります。

取得後の「変化」を可視化する

育休を取得した男性社員が復帰後どのように活躍しているか、育休を通じてどんな変化があったかを可視化し、社内に共有することが、次の取得者への後押しになります。

「育休を取ったら、育児の大変さがわかって部下への共感力が上がった」「育休中に業務の棚卸しができて、復帰後の生産性が上がった」——こうした声は、「育休はキャリアにプラスになる」というメッセージを社内に発信します。


明日からできる3つのこと

1. 直近1年の男性育休取得者に「体験を聞く」(2時間)

直近1年で育休を取得した男性社員に「取得前後の気持ち・取得中の様子・復帰後の変化」を聞いてみてください。ポジティブな体験があれば、社内ニュースレターや人事広報に共有することを提案してください。

2. 「育休取得の障壁」を当事者世代から聞く(1〜2時間)

今後数年以内に子どもが生まれる可能性がある世代(20代後半〜30代の男性社員)数名に「育休を取る上でどんな懸念があるか」を聞いてみてください。具体的な懸念を把握することが、対策設計につながります。

3. 「業務依存マップ」を一部門で作ってみる(2時間)

「この業務はこの人しかできない」という状況を可視化した「業務依存マップ」を一部門で試作してみてください。育休推進の前提となる業務分散の課題が見えてきます。


まとめ

男性育休の推進は「取得率の数字」ではなく、「組織文化・業務設計・管理職のロールモデル」の変革として捉えることが重要です。

「遠回りに見えるが実は近道」——業務の分散化・ロールモデルの確立・育休前後の支援設計という地道な取り組みが、男性育休が「当たり前」になる組織文化への近道です。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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