人事施策の優先順位をどう決めるか
採用・選考

人事施策の優先順位をどう決めるか

#エンゲージメント#採用#評価#組織開発#経営参画

人事施策の優先順位をどう決めるか

「やりたいことはたくさんあるが、リソースが足りない」「経営から『採用も育成もエンゲージメントも全部やれ』と言われるが、一人人事には限界がある」——人事担当者が口にする悩みの中で最も多いのが「優先順位の問題」です。

人事が対処すべき課題は多岐にわたります。採用・育成・評価・制度・組織開発・労務——どれも「重要」ですが、全てに同時に取り組むことはできません。「重要だが緊急でないこと(組織開発・文化変革)」は常に「緊急で重要なこと(採用・労務対応)」に押されて後回しになりやすい。

この記事では、人事施策の優先順位を合理的に決めるための考え方をお伝えします。


なぜ優先順位の設定は難しいのか

「全部大事」になってしまう問題

人事の仕事の多くは「やらないと困る(コンプライアンス・採用・給与)」か「やると効果が出る可能性がある(エンゲージメント・育成・文化変革)」に大別されます。

前者は「やらないと困る」のでやらざるを得ません。後者は「やりたいが、やらなくても今すぐは困らない」という性質を持つため、常に後回しにされやすい。

「緊急度と重要度の2軸」で考えると、人事の仕事は「緊急で重要(採用・労務対応)」「緊急でないが重要(組織開発・文化)」「緊急だが重要でない(日常の問い合わせ対応)」に分類できます。「緊急でないが重要」な施策を意図的に優先しなければ、戦略的な人事活動は常に後回しになります。

「経営が何を最も求めているか」の把握不足

人事施策の優先順位を決めるために最も重要なのは「今この時期に経営が人事に最も期待していること」を正確に把握することです。

「採用が最優先だと思っていたら、経営は組織文化の変革を最重要課題だと思っていた」というズレが、「人事が一生懸命やっているのに経営から評価されない」という状況を生みます。

経営との対話なしに、人事側の判断だけで優先順位を決めることの限界がここにあります。

「人事の工数」が可視化されていない

人事の仕事の多くは「定常業務」に追われており、「戦略的施策に使えるリソース」が把握されていないケースが多い。

「新しい施策をやろう」と言っても、「今の定常業務を誰がどれくらいの時間でやっているか」が見えていなければ、「どれだけのリソースが新施策に使えるか」の判断ができません。人事工数の可視化が優先順位設定の前提です。


よくある失敗パターン

失敗1:「経営の鶴の一声」で優先順位が変わる

経営者が外部の勉強会に出席して「ウェルビーイングが大事」「ピープルアナリティクスを導入すべき」と感化され、人事に「すぐにやるように」と指示する。人事は急遽リソースを振り向けるが、以前取り組んでいた施策が中断される。

「経営の関心」に振り回されず、中長期の施策方針を持ちながら経営の新たな関心を適切に位置づける判断軸が必要です。

失敗2:「できることから始める」が戦略を欠く

「まずは着手できることからやろう」という発想で、難易度・コストが低い施策から始める。でも「やりやすいこと」が「最も成果につながること」とは限りません。

難しくても「事業成果への影響が大きい施策」を優先する判断が、戦略的な人事の姿勢です。

失敗3:「何もかも中途半端」になる

全ての施策に少しずつリソースを分散させ、どれも中途半端な状態が続く。「全部やっているが、何も成果が出ていない」という状況は、優先順位の設定なしに全体を同時に進めようとしたときに起きます。

「捨てる勇気」——特定の時期に「何をやらないか」を決めることが、施策の質を上げる鍵です。


プロの人事はこう考える

「事業インパクト×実現可能性」のマトリクス

プロの人事が施策の優先順位を決めるとき、「事業インパクト(この施策が事業成果にどれだけ貢献するか)」と「実現可能性(今のリソース・環境でこの施策を実行できるか)」の2軸でマトリクスを作ります。

  • 事業インパクト高×実現可能性高 → すぐに取り組む「必勝施策」
  • 事業インパクト高×実現可能性低 → 実現可能性を高めるための準備をしながら進める「投資施策」
  • 事業インパクト低×実現可能性高 → リソースが余ったときに取り組む「余力施策」
  • 事業インパクト低×実現可能性低 → 今は取り組まない

この分類は「やりたいかどうか」ではなく「事業への貢献度」で判断することを強制します。

「人事の役割の定義」から逆算する

人事施策の優先順位を決める前に「今この組織において人事に何が期待されているか」を明確にすることが重要です。

「採用が最大の課題」「組織力の向上が最大の課題」「コンプライアンスの強化が最大の課題」——経営フェーズ・事業状況によって、人事に期待される役割は変化します。

「今この時期の人事の最重要ミッション」を明確にし、それに沿って施策を優先することが、経営からの評価につながります。

「定常業務の効率化」が施策投資のリソースを生む

戦略的施策に時間を割くためには、定常業務のリソースを削減することが必要です。

「給与計算・勤怠管理のアウトソース」「頻出質問のFAQ化」「繰り返し発生するプロセスの自動化」——定常業務の効率化に一時的にリソースを投じることで、長期的には「戦略施策に使えるリソース」を生み出します。

「今が忙しいから効率化の時間がない」という悪循環を断ち切るために、「定常業務の効率化」を施策の優先項目として位置づけることが重要です。

「小さく始めて成果を示す」で経営の投資を引き出す

大規模な施策への経営の承認を得るためには、まず「小さなパイロット」で成果を示すことが有効です。

「全社に展開する前に、1部門で試して成果を数字で示す」「3ヶ月の実験期間を設け、効果を測定してから拡大を判断する」——この「小さく始めて成果を示す」アプローチは、経営のリスクを下げ、承認を得やすくします。

「施策全体への大きな投資」より「小さな実験への小さな投資+成果確認後の本格投資」という段階設計が、施策実現の可能性を高めます。


明日からできる3つのこと

1. 「今期の人事施策リスト」を「事業インパクト×実現可能性」で分類する(2時間)

現在検討中または実施中の人事施策を全てリストアップし、「事業インパクト」と「実現可能性」の2軸で4象限に分類してください。「すぐに取り組む必勝施策」が何かが見えてきます。

2. 経営者に「今期、人事に最も期待することは何か」を確認する(1時間)

直近の経営者との対話で「今期の人事の最重要課題は何だと考えているか」を確認してください。人事側の認識と経営の認識にズレがあれば、優先順位の再設定が必要です。

3. 「定常業務の時間」を可視化する(2時間)

先月の人事チームの業務時間を「定常業務」「プロジェクト施策」「アドホック対応」に分類し、それぞれの割合を計算してください。「定常業務が80%を超えている」なら、効率化に取り組む優先順位が高いサインです。


まとめ

人事施策の優先順位は「やりたい順」でも「やりやすい順」でもなく、「事業成果への貢献度」で決めることが重要です。

「経営数字から発想する人事」——全ての施策の優先判断を「これは事業成果にどうつながるか」という問いに立ち返って考えることが、人事が経営から信頼されるパートナーになるための出発点です。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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