
グローバル人材育成を「英語研修で終わり」にしない
目次
- なぜグローバル人材育成は難しいのか
- 「グローバル人材の定義」が曖昧
- 「英語力=グローバル力」の誤解
- 「帰国後の活用」設計の欠如
- よくある失敗パターン
- 失敗1:「TOEIC目標点数」が育成指標になる
- 失敗2:「希望者だけ」のグローバル研修
- 失敗3:「グローバル経験」の社内展開がない
- プロの人事はこう考える
- 「グローバル人材要件」を事業目標から定義する
- 「越境体験」を意図的に設計する
- 「グローバル経験者のキャリアパス」を設計する
- 「異文化理解・多様性活用のスキル研修」を組み込む
- 明日からできる3つのこと
- 1. 「5年後のグローバルビジネス目標」に必要な人材数を経営と確認する(1時間)
- 2. 現在のグローバル育成プログラムの「英語以外の要素」を確認する(1時間)
- 3. 海外赴任・グローバルプロジェクト経験者に「帰国後の満足度」を聞く(2時間)
- まとめ
- もっと深く学びたい方へ
グローバル人材育成を「英語研修で終わり」にしない
「グローバル人材育成が必要だと言われているが、英語研修以上のことが出来ていない」「海外赴任させると、帰国後に転職してしまう」——グローバル人材育成の課題は、多くの企業で解決されないまま残っています。
グローバルビジネスが拡大する中で「グローバルで活躍できる人材」の育成は経営の重要課題です。でも「グローバル人材育成」と言った瞬間に「英語力強化」に議論が収束してしまう企業は少なくありません。
この記事では、グローバル人材育成を「英語研修」以上の取り組みにするための考え方をお伝えします。
なぜグローバル人材育成は難しいのか
「グローバル人材の定義」が曖昧
「グローバル人材を育てましょう」という目標は語られるが、「うちの会社にとってのグローバル人材とはどんな人か」の定義が曖昧なままの企業が多い。
「英語が話せる人」「海外に赴任できる人」「異文化と協力できる人」——どれも「グローバル人材」の一側面ですが、「うちの会社のグローバル事業に何が必要か」という事業側の要件から逆算されていなければ、育成の方向性がブレます。
「グローバル人材の定義」は「グローバルビジネスで何を達成したいか」という事業目標から逆算するべきです。
「英語力=グローバル力」の誤解
グローバルで活躍するために必要な能力は「英語力」だけではありません。「異文化理解力・適応力」「多様なチームでの協働力」「不確実な環境での意思決定力」「グローバル市場への洞察力」——これらが組み合わさって初めて「グローバルで活躍できる人材」が育ちます。
英語研修は「グローバル力」の必要条件の一つですが十分条件ではありません。「英語ができるからグローバルで通用する」とは言えない。
「帰国後の活用」設計の欠如
海外赴任・海外留学・グローバルプロジェクト参加を通じて育成した人材を、帰国後・プロジェクト終了後に「どのポジションでどう活用するか」の設計がない企業が多い。
「海外でスキルを磨いた人材が帰国後にキャリアパスが見えない→転職する」というパターンが繰り返されます。「グローバル経験を積んだ人材の帰国後のキャリアパス」の設計が、グローバル人材育成の定着に不可欠です。
よくある失敗パターン
失敗1:「TOEIC目標点数」が育成指標になる
グローバル人材育成の進捗管理として「社員のTOEIC平均点数の推移」を指標にする。でもTOEICのスコアが上がっても「実際のビジネスで英語でのコミュニケーションが取れる」とは限りません。
「英語でのビジネスコミュニケーション能力」を「英語テストのスコア」で代替することの限界を理解した上で、「実際のビジネス場面での英語使用機会」を育成プログラムに組み込むことが重要です。
失敗2:「希望者だけ」のグローバル研修
「グローバルで活躍したい社員は手を挙げてください」という選抜式のグローバル育成プログラムを設ける。でも「グローバルに挑戦したい社員」だけではなく、「潜在的にグローバルで活躍できる可能性を持つ社員」をどう特定して育てるかという観点が欠けます。
「手を挙げた人だけ育てる」では、グローバル人材のパイプラインが限られます。
失敗3:「グローバル経験」の社内展開がない
海外赴任・留学・グローバルプロジェクトで得た経験・知識・ネットワークが「個人の財産」で終わり、組織に還元されていないケースがあります。
帰国後に「何を学んだか、組織にどう活かすか」を発信する場を設けることが、個人の経験を組織知に変換します。
プロの人事はこう考える
「グローバル人材要件」を事業目標から定義する
プロの人事がグローバル人材育成を設計するとき、「グローバルビジネスの目標(5年後に海外売上比率X%にする)」から「どんな人材が・どれだけ必要か」を逆算します。
「海外現地法人のマネージャー候補(5年後に5名必要)」「グローバルプロジェクトを牽引できるプロジェクトリーダー(3年後に10名必要)」——具体的な数と要件を定義することで、育成の投資先と規模が決まります。
事業計画に人材育成計画が連動することが、グローバル人材育成の「戦略性」を作ります。
「越境体験」を意図的に設計する
グローバル力の中核をなすのは「自分の文化・価値観と異なる環境で適応する経験」です。この経験は「国内の教室型研修」では得られません。
「海外現地での短期プロジェクト参加」「グローバルメンバーとのバーチャルチームへのアサイン」「外国籍社員との長期的な協働」——これらの「越境体験」を意図的に育成プログラムに組み込むことが、「グローバルで機能する経験値」を積む唯一の方法です。
コストと機会の問題はありますが、「越境体験なしにグローバル力は育たない」という原則から目を背けることはできません。
「グローバル経験者のキャリアパス」を設計する
グローバル育成に投資した人材の定着率を上げるために、「グローバル経験を積んだ社員の帰国後のキャリアパス」を事前に設計することが重要です。
「海外赴任から帰国した社員は〇〇のポジションに就き、グローバルビジネスの推進に関わる」「グローバルリーダーとして〇〇のキャリアステップが用意されている」——明確なキャリアパスの提示が、「グローバル経験を積むことが自分のキャリアに意味がある」という確信を与えます。
「異文化理解・多様性活用のスキル研修」を組み込む
英語研修に加えて「異文化理解・コミュニケーションスタイルの違い・ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化の差異・グローバルチームでの対立の扱い方」などの研修を組み込むことが、グローバル人材育成の「英語以上の要素」を補います。
「なぜ相手は自分の言っていることを理解してくれないのか」という異文化ギャップへの理解が、グローバル環境での適応力を高めます。
明日からできる3つのこと
1. 「5年後のグローバルビジネス目標」に必要な人材数を経営と確認する(1時間)
自社の5年後のグローバルビジネス目標を達成するために「どんな人材が・どれだけ必要か」を経営・事業部門と確認してください。この数字が「グローバル人材育成への投資規模」の根拠になります。
2. 現在のグローバル育成プログラムの「英語以外の要素」を確認する(1時間)
現在のグローバル人材育成プログラムに「異文化理解」「グローバルチームでの協働体験」「越境体験」が含まれているかを確認してください。「英語研修だけ」という状況であれば、追加すべき要素が見えてきます。
3. 海外赴任・グローバルプロジェクト経験者に「帰国後の満足度」を聞く(2時間)
過去3〜5年の海外赴任者・グローバルプロジェクト参加者に「帰国後・プロジェクト後のキャリアに満足しているか」を聞いてください。「不満がある」という場合、帰国後のキャリアパス設計の見直しが必要なサインです。
まとめ
グローバル人材育成は「英語研修+海外経験」だけでなく、「事業目標から逆算した人材要件の定義」「越境体験の意図的な設計」「帰国後のキャリアパスの整備」を組み合わせた総合的な投資として設計することが重要です。
「遠回りに見えるが実は近道」——グローバル人材育成への真剣な投資が、グローバル事業の実行力を高める唯一の道です。
もっと深く学びたい方へ
グローバル人材育成・ダイバーシティ推進・タレントマネジメントを体系的に学びたい方へ。
人事のプロ実践講座では、グローバル人材育成の実践知識を経営目線で学べます。
グローバル人材育成に悩む人事仲間と情報交換したい方は、人事図書館もどうぞ。
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
著者の実践講座を見る →関連記事
育成・研修人事部門の予算をどう設計するか——経営に認められる予算の立て方
毎年予算が削られて、やりたいことが何もできない
育成・研修研修に時間が取れない時代の学び方——マイクロラーニングを人事はどう活用するか
現場からこんな声が上がると、人事としてはなんとも言えない気持ちになるのではないでしょうか。研修の必要性はわかっている。でも、現場の業務は待ってくれない。研修の欠席が増え、受講しても身が入らない。この悩みを持つ人事の方は多いと思います。
育成・研修ビジョン・ミッションが「ポスターで終わり」にならないために
会社にビジョンはあるが、現場で語られていない——こういう状況は珍しくありません。立派なビジョン・ミッション・バリューが策定され、ウェブサイトや社内ポスターに掲示されているのに、日常の業務には全く登場しない。新入社員研修のオリエンテーションで一度だけ紹介される。そんな状態です。
育成・研修経営人材育成が「研修プログラム」だけで終わってしまう理由
次世代の経営人材を育てたい——この課題は、多くの経営者・人事担当者が抱えています。でも経営者候補向けの研修を実施したMBAへの派遣を始めたという施策だけで経営人材育成をやっているという状態になっていませんか。