人事戦略マップの作り方——「施策の羅列」から「戦略の物語」へ
採用・選考

人事戦略マップの作り方——「施策の羅列」から「戦略の物語」へ

#1on1#エンゲージメント#採用#評価#研修

人事戦略マップの作り方——「施策の羅列」から「戦略の物語」へ

「人事部の年間計画を作るとき、昨年の施策を少し修正して出しているだけになっている」「施策はたくさんあるが、それが何を目指しているのかのストーリーが見えない」——そんな状況に覚えがある人事担当者は少なくないと思います。

人事戦略マップは、「どんな組織・人材を作りたいか」という方向性と「そのために何をするか」という施策を、一枚の絵として整理する思考ツールです。これができると、経営との対話が変わり、チーム内の優先順位も揃います。

この記事では、人事戦略マップを作り、使いこなすための考え方と実践をお伝えします。


なぜ人事の戦略は「施策の羅列」になるのか

構造的原因1:事業戦略から逆算していない

「採用を強化する」「研修を充実させる」「評価制度を改定する」——これらは施策です。問題は「なぜそれが必要か」の根拠が事業戦略に結びついていないことです。

「事業が〇〇を目指すから、このスキルを持つ人材が必要で、そのために採用・育成・評価をこう変える」という論理の流れがないと、施策の優先順位が決まらず、資源配分もぶれます。

構造的原因2:人事の各機能が縦割りで動いている

採用担当・育成担当・評価担当・労務担当——人事部門の中でも機能分担があります。それぞれが「自分の担当領域の施策」を考えると、全体としての一貫性が失われます。「採用で入れた人を育成でどう育て、評価でどう報いるか」という横断的な設計ができていないと、個々の施策の効果が打ち消し合うことがあります。

構造的原因3:「現状の問題への対処」だけで設計されている

「今、離職率が高いから対策する」「今、採用が困難だから採用ブランディングを強化する」——目の前の問題への対処は必要ですが、それだけでは3年後・5年後に必要な人材・組織の設計が抜け落ちます。現在の問題解決と中長期の組織づくりの両方を含んだ戦略設計が必要です。


よくある失敗パターン

失敗1:フレームワークを使うことが目的になる

「人事戦略マップを作ろう」という意欲はいいのですが、「ウォーターフォール型で作れば完成する」という形式主義に陥ることがあります。マップは思考を整理するための道具です。きれいに仕上げることより、「これで経営と対話できるか」「チームの優先順位が揃うか」が大切です。

失敗2:作ったマップを更新しない

事業環境は変化します。半年前に作った人事戦略マップが今の状況に合っていないのに、そのままにしていると「マップと現実が乖離している」という状態になります。四半期ごとの見直しを設計に組み込むことが大切です。

失敗3:「経営に見せる用」と「人事チーム用」が別々になる

経営への報告資料と、人事チームが日常的に使う施策管理表が別々になっていると、「経営に見せているものと実際にやっていることが違う」という状況が生まれます。人事戦略マップは一つの文書として、経営報告にも内部管理にも使える形にすることが理想です。


プロの人事はこう考える

知る:人事戦略マップの「4つの層」

効果的な人事戦略マップは4つの層で構成されます。

①ビジョン層:3〜5年後にどんな組織・人材の状態にしたいか。「全社員が自律的にキャリアを設計できる組織」「事業の変化に対応できる多様な専門人材を持つ組織」など、目指す姿を言葉にします。

②課題層:現在の組織・人材の状態とビジョンのギャップを整理します。「採用競争力が低い」「管理職のマネジメント力が不足」「専門スキルの育成が後回し」など、優先度をつけながら整理します。

③施策層:各課題に対応する施策を整理します。「採用競争力向上→採用ブランディング・給与水準改定」「管理職育成→管理職研修の再設計・1on1支援」という対応関係を可視化します。

④指標層:各施策の効果を測る指標を設定します。「採用競争力→内定承諾率・採用コスト・入社後定着率」「管理職育成→マネージャー評価スコア・部下のエンゲージメント」など。

考える:バランスドスコアカード(BSC)的なアプローチ

人事戦略マップを設計する際、バランスドスコアカードの考え方が参考になります。

財務視点(人件費の効率・採用ROI)、顧客視点(経営・現場が人事に感じる価値)、業務プロセス視点(採用・育成・評価の業務品質)、成長・学習視点(人事チーム自体の能力・知識の成長)——この4つの視点から人事の戦略を整理すると、均衡の取れた計画になります。

動く:1日でドラフトを作るワークショップ

人事チームを集め、1日のワークショップで戦略マップのドラフトを作ることが可能です。

午前(3時間):事業戦略の確認→人材・組織の「あるべき姿」の議論→現状とのギャップ整理 午後(3時間):施策の洗い出し→優先順位づけ→指標の設定→経営への報告フォーマットの検討

このドラフトをたたき台に、経営との対話を経て磨いていきます。完璧なマップを最初から作る必要はありません。「まず動かせるものを作る」ことが大切です。

振り返る:四半期レビューで進捗と環境変化を確認する

四半期ごとに「計画通り進んでいるか」「事業環境が変わって計画を見直す必要があるか」を確認します。計画との乖離が大きい場合は、計画側を修正することも重要です。「計画に縛られる」ではなく「計画を使って対話する」という姿勢が、戦略マップを生きたツールにします。


明日からできる3つのこと

1. 事業計画の「人材・組織に関わる部分」を抽出する(1時間)

今期の事業計画を読み、「人材・組織に関係する要素」を箇条書きで抜き出します。「〇〇事業を拡大するために新たに〇人採用」「海外展開に向けてグローバル人材を育成」など。これが人事戦略の「起点」になります。

2. 現在の人事施策を「ビジョン」「課題」「施策」「指標」の4層に分類してみる(1〜2時間)

今動いている人事施策を4層に分類します。指標層が抜けていることが多いので、「この施策の効果を何で測るか」を一つずつ考えてみましょう。

3. 人事チームで「1年後の組織の姿」を議論する30分を設ける(30分)

人事チームのメンバーで「1年後、この会社の組織・人材はどんな状態になっていてほしいか」を自由に語る時間を作ります。この対話が、戦略マップの「ビジョン層」の素材になります。


まとめ

人事戦略マップは「作ること」が目的ではなく、「経営と人事が同じ絵を見て対話できること」が目的です。

「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という考え方があります。人事戦略マップは、この「両利き」を実現するための思考ツールです。事業の数字から発想し、組織の状況から発想し、その両方を統合したストーリーを持つことで、人事の仕事は「施策の実行者」から「戦略の担い手」に変わります。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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