人事が事業を「体験する」価値——経営目線はここから始まる
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人事が事業を「体験する」価値——経営目線はここから始まる

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人事が事業を「体験する」価値——経営目線はここから始まる

「経営目線を持ってほしい」と言われるが、どうすれば身につくのかわからない。事業部に異動でもしなければ、経営の感覚は掴めないのだろうか——そんな問いを持つ人事担当者は多いと思います。

事業を体験することは、経営目線を養う最も直接的な方法の一つです。でも「本格的な事業部への長期異動」だけが選択肢ではありません。人事の仕事の中にも、事業を体験する機会を意図的に作れます。

この記事では、人事担当者が事業を体験し、経営目線を育てるための考え方と実践をお伝えします。


なぜ「経営目線」が身につきにくいのか

構造的原因1:人事が「後方支援」の意識に留まりがち

人事の仕事は「事業部の要求に応える」という姿勢が染みついていることがあります。「採用してほしいと言われたから採用する」「研修を実施してほしいと言われたから実施する」——この受け身の姿勢では、「事業のために何が本当に必要か」を考える経営目線は育ちません。

「事業の担い手」という自覚を持ち、人事施策が事業成長にどう貢献するかを考える姿勢が、経営目線の出発点です。

構造的原因2:事業の「リアル」に触れる機会が少ない

人事部門は本社・バックオフィスに位置することが多く、顧客に接する機会・現場で業務を行う機会が限られています。「この事業は何を大切にしているのか」「どんな喜びや苦労があるのか」が体感できないと、施策の設計が「現場感」を欠いたものになります。

構造的原因3:「財務・数字は経理の仕事」という思い込み

財務諸表の読み方・事業計画の見方・投資判断の仕組み——これらを「経理・財務の専門知識」として敬遠している人事担当者が多い。でも経営目線の基礎は「自社の事業数字を定期的に見ること」から始まります。


よくある失敗パターン

失敗1:「事業を知る」を理由に現場に行かない

「忙しい」「タイミングがない」——現場に行く機会を後回しにし続けると、現場感が永遠に身につきません。最初の一歩は小さくていい。「営業に同行する」「製造現場を見学する」「顧客のフィードバックを直接聞く場に参加する」——一つの体験が視野を大きく変えます。

失敗2:「事業理解」が浅いまま事業部に提案する

事業の状況を十分に理解せずに「こんな施策はどうですか?」と提案すると、「現場をわかっていない」と感じられます。現場への提案は、事業の課題を十分に理解した上で「この問題に対してはこれが有効です」という論理で行うことが大切です。

失敗3:「一度行ったからいい」で終わらせる

現場見学を一度して「理解した気になる」落とし穴があります。事業は変化します。四半期ごとに現場の状況を確認し、変化を追い続けることが「生きた事業理解」を保ちます。


プロの人事はこう考える

知る:「事業体験」の3つのレベル

事業を体験する深さには3つのレベルがあります。

Level1(観察):現場の仕事を見る・話を聞く。営業同行・現場見学・事業部のミーティングへのオブザーバー参加など。最も始めやすいレベルです。

Level2(参加):事業部のプロジェクトに人事として関与する。CFT参加・事業部主催の会議に定期参加・事業部の課題解決を一緒に考えるなど。人事と事業部の連携が深まります。

Level3(担当):人事の仕事の中で「この事業部専任」のHRBP(HRビジネスパートナー)として活動する。事業部の中に入り込み、事業と人事を直接つなぐ役割です。

最初はLevel1から始めて、関係が深まるにつれてLevel2・3へと進むのが現実的です。

考える:「人事の目線で事業を見る」習慣を作る

事業を体験する際、「顧客としての感想」ではなく「人事の目線からの観察」を意識することが大切です。

「この業務を担当するために、どんなスキルが必要か」「この現場での人間関係はどうか」「このチームの課題は何か」「どんな人が活躍していて、どんな人が苦労しているか」——この観察眼が、採用・育成・評価の設計を現場感のあるものに変えます。

動く:今すぐできる「事業体験」の始め方

①営業に1日同行する:これ一つで「顧客が何に価値を感じているか」「現場の営業担当者がどんなプレッシャーの中で働いているか」がリアルに理解できます。

②事業部のKPIミーティングに月1回出席する:「今月はどんな数字で、なぜそうなったか、次にどうするか」という事業部のリズムに触れることで、事業の見え方が変わります。

③事業部の新入社員に「どんな仕事をしているか」を聞く:配属後6ヶ月の社員に「今の仕事で一番難しいことは何か」と聞くことで、採用で何を見るべきか、育成で何を補うべきかが具体的になります。

振り返る:「事業体験から何を学んだか」を人事施策に落とす

事業体験を経た後、「これを人事施策にどう活かすか」を必ず考えます。

「営業現場を見て、採用要件に"顧客に寄り添う姿勢"を加えた」「事業部のKPI会議に参加し、離職が多い時期の業績への影響を初めて数字で理解した」——この変換作業が、体験を学びに変えます。


明日からできる3つのこと

1. 事業部の誰かに「仕事を見せてもらえますか?」と頼む(今日)

まず一人の事業部メンバーに「あなたの仕事を半日見学させてほしい」と頼みます。ほとんどの場合、快く引き受けてもらえます。この一歩が全ての出発点です。

2. 次の月次の事業報告を「人事の目線から」読む(1時間)

月次の事業報告(経営報告・部門報告)を「人材・組織の観点から何が見えるか」という目線で読みます。「この部門の成長に必要な人材は何人か」「この課題の背景に組織問題はあるか」という問いを持って読むと、見え方が変わります。

3. 「事業部との定期対話」を月1回設ける(継続的)

特定の事業部長またはマネージャーと月1回の30分の対話を設けます。「事業の状況と人事に期待すること」を聞き続けることで、事業理解と信頼関係が同時に育まれます。


まとめ

「事業を知る人事」は、採用・育成・評価の全ての設計が現場感を持ちます。施策の根拠が「理論」だけでなく「現場の実態」に基づいているため、経営・現場の両方から信頼を得やすくなります。

「大切なのは経験ではなく、経営者が優先して見ているものを同じだけ見ること」という言葉があります。事業部への長期異動がなくても、意識的に事業を観察し・触れ・考え続けることで、経営目線は育ちます。その積み重ねが、「すべての組織に人事のプロを」という目標への道です。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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