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管理職が育たない。研修をやっても変わらない組織に共通する「3つの落とし穴」と人事の関わり方

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管理職が育たない。研修をやっても変わらない組織に共通する「3つの落とし穴」と人事の関わり方

「管理職研修をやっても、職場に戻ると元に戻ってしまうんです。何が問題なのかわからなくて」

こういった言葉を、人事の方からよく聞きます。研修を企画して、外部講師を呼んで、受講後のアンケートは高評価だった。なのに、3ヶ月後に現場を見てみると、何も変わっていない。部下の育成が苦手な管理職は相変わらず苦手なままで、チームのコミュニケーションも以前と変わらない。

「予算をかけて研修を実施したのに、なぜ変わらないのか」「そもそも自分のやり方が間違っているのか」——そんな焦りや自己嫌悪を感じている人事の方は、決して少なくないと思います。

管理職育成は、人事の中でも特に難しいテーマのひとつです。技術研修のように「教えたら身につく」という性質のものではなく、マネジメントの力は「実践の積み重ね」の中でしか育たない側面が大きい。それでも多くの組織では、「研修を実施すること」が管理職育成の主な打ち手になっています。

なぜ研修だけでは変わらないのか。そして人事として、どんな関わり方が管理職の成長につながるのか。今日は、管理職育成においてよく見られる「落とし穴」と、実際に成果につながった人事の工夫について、一緒に考えてみたいと思います。


「研修をやっても変わらない」に隠れている構造的な問題

ある製造業の人事担当者が話してくれました。

「うちでは管理職向けのマネジメント研修を、年間で約200万円をかけて外部研修会社に委託していたんです。内容も充実していて、受講直後のアンケートは毎回すごく良かった。受講した管理職の満足度も高くて、人事としては『いい研修を導入できた』と思っていました」

でも、研修終了から3ヶ月後に状況を確認してみると、様子が違った。

「管理職に対するサーベイをとってみたら、部下から見た『上司のマネジメントへの満足度』が、研修前とほぼ変わっていなかったんです。管理職本人に話を聞きに行くと、『研修の内容はためになった。でも、いざ職場に戻ったら忙しくて試せなかった』という声が多くて。『研修で教わったことを実践しようとしたら、部下に戸惑われてしまった』と言う人もいました。高いお金をかけて、いい研修を選んで、それでも変わらなかった。何がいけなかったのかと、かなり落ち込みましたね」

この話を聞いたとき、研修の内容が悪かったわけではないと私は思いました。おそらく研修プログラムそのものは、マネジメントに必要な知識やスキルをきちんと伝えていたはずです。

問題は、研修が「学ぶ場」として設計されていたけれど、「実践する場」と「振り返る場」が設計されていなかったことにあったのではないでしょうか。

「知る→動く→振り返る」のサイクルがない

人は、「知る」だけでは変わりません。「知識を得ること」と「行動が変わること」の間には、大きなギャップがあります。特にマネジメントのような「対人関係の技術」は、一度知識として頭に入れても、実際に試してみなければ自分のものにはならない。そして試した後に、「うまくいったのか」「なぜうまくいかなかったのか」を振り返らないと、次に活かすことができない。

「知る(研修)→動く(実践)→振り返る(内省・フィードバック)」というサイクルを繰り返すことで、マネジメントの力は少しずつ育っていきます。

多くの組織で、管理職研修が「知る」の場として機能していることは確かです。ただ、「動く」と「振り返る」の場が設計されていないまま研修だけを続けていると、どれだけ良い研修を実施しても行動変容につながらない。「いい話を聞いた」で終わってしまうのは、このサイクルが回っていないからだと思っています。

管理職が「孤独なポジション」になっている

もう一つ、管理職育成を難しくしている構造的な要因があります。それは、管理職が組織の中で「孤独なポジション」に置かれやすいという問題です。

管理職は、上と下の板挟みに立つ役割です。経営からのプレッシャーを受けながら、チームの成果と部下の育成に責任を持ち、現場の業務にも関わらなければならない。そのプレッシャーの大きさに比べて、「マネジメントについて相談できる相手」が社内にいないことが多い。

部下には弱みを見せにくい。上司には「管理職ならできて当然」というプレッシャーがある。同僚の管理職とは仕事の接点があっても、マネジメントの悩みを共有する場は用意されていない。

この「孤独」が、管理職の成長を阻む要因になっていると私は思っています。誰かに悩みを打ち明けて考える機会がなければ、試行錯誤の質が上がっていかない。管理職が孤軍奮闘している状態では、たとえ研修でインプットを得ても、現場での実践につながりにくいのです。

「研修すれば育つ」という前提そのものを見直す必要がある

管理職育成の本質的な問題は、「研修を実施すること」と「管理職が育つこと」を同一視している前提にあるかもしれません。

研修は、知識やフレームワークを効率的に届けるための場として機能します。でも管理職に必要な力——部下一人ひとりの特性を理解して関わる力、チームの方向性を示しながら現場の業務にも目を配る力、上位層と現場の橋渡しをする力——は、研修の場だけでは身につかない。

「管理職が育たない」という問題は、管理職本人の意欲や能力の問題である場合もありますが、多くは「管理職が育ちにくい環境・仕組みが組織側にある」ことが原因になっていると感じています。人事として管理職育成に取り組む際には、「個人への研修インプット」だけでなく、「組織側の設計」に目を向けることが大切なのではないでしょうか。


よくある失敗パターン:管理職育成が空回りするとき

管理職育成に真剣に取り組んでいるにもかかわらず、成果につながらないケースには、いくつかの共通パターンがあります。

別の会社の人事担当者から聞いた話です。

「社員サーベイで『上司のマネジメントに問題がある』という結果が出て、急いでマネジメント研修を企画したんです。でも、研修の内容を現場の管理職に話したら、『また人事のやつか』という反応で。正直、冷めた目で見られているのが伝わってきました」

なぜそうなったのか。

「あとから振り返ると、現場の管理職に『どんなことで困っているか』をまったく聞いていなかったんです。人事が問題だと思ったことを、人事が良いと思った方法で解決しようとした。現場からすれば、自分たちの困りごとと関係ない研修を受けさせられた感覚だったと思います」

この「現場と研修の断絶」は、管理職育成の失敗パターンとして非常によく見られます。人事の善意と現場の実態がかみ合わないまま施策が走ると、どれだけ内容が良くても機能しない。

管理職育成でよく見られる3つの失敗パターンを整理しておきます。

失敗パターン1:「研修すれば変わる」と信じて終わり

研修の実施を「育成の完了」と捉えてしまうパターンです。研修後に実践の場や振り返りの機会が設計されておらず、「知識のインプット」で育成が止まっている。管理職本人も「研修を受けた」という事実が残るだけで、行動変容のきっかけが得られないまま日常業務に戻っていきます。

研修のアンケートが高評価だからといって、育成が機能しているとは言えません。「研修後に何が変わったか」を追いかける設計が欠けている場合、多くのケースで3ヶ月後に元通りになっています。

失敗パターン2:管理職を孤独にしている

「管理職に任せた」という名目で、管理職が一人で問題を抱え込む状況を作ってしまうパターンです。人事も上位層も「問題があれば相談してくる」と思っているが、管理職の側は「相談できる雰囲気がない」「弱みを見せたくない」と感じている。

この構造の中では、管理職は試行錯誤を繰り返しながらも、その試行錯誤が「学び」につながっていきません。成功も失敗も、誰かと共有して振り返る機会がないからです。孤独な状態での実践は、成長の速度を遅くします。

失敗パターン3:「なる前」の準備をしていない

プレイヤーとして優秀な人が管理職になった直後に「マネジメントができない」という状況に陥るのは、管理職になる前の準備ができていないからであることが多い。

多くの組織では、管理職候補を育成するプログラムが「管理職になってから始まる」設計になっています。でも、マネジメントに必要な視点や経験は、管理職になる前から少しずつ積み上げることができます。「なる前」の準備なしに管理職に任命することは、泳げない人をプールに放り込むような側面があります。


人事のプロはどうしているか:管理職が育つ環境の設計

では、管理職育成に成果を出している人事の方は、どんな工夫をしているのでしょうか。私が関わった事例や、人事の方から聞いた話をもとに、実際に機能している4つのアプローチを紹介します。

工夫1:「知る→動く→振り返る」のサイクルを設計する

研修単体の設計から、「研修→実践→振り返り」を一連のプログラムとして設計することへのシフトです。

具体的なイメージとしては、こんな形です。研修で「1on1の効果的な進め方」を学んだとすれば、その後2週間の「実践期間」を設けて、管理職が実際に1on1を試してみる。その後、グループ形式の「振り返りセッション」を実施して、「どんな反応があったか」「うまくいったこと・難しかったこと」を共有する。

この「振り返りセッション」が機能すると、「自分はこう試した」「部下にこんな反応をされた」という生きた経験が、他の管理職の学びにもなります。研修で学んだ理論が「使える知識」として定着していくプロセスを、人事が設計することができます。

重要なのは、振り返りセッションを「評価の場」にしないことです。「うまくいかなかった」という経験を話しやすい心理的安全性を確保することで、管理職が率直に実践を共有できる場になります。

この設計は、研修後の追加コストとしてイメージされることもありますが、実際には「研修の効果を最大化する設計」として捉えることができます。研修への投資対効果を高める観点からも、経営に説明しやすいアプローチだと思っています。

工夫2:管理職同士の対話の場をつくる

管理職の孤独を解消するために、「管理職同士が悩みを共有できる場」を定期的に設けるアプローチです。

月1回、1時間程度の「マネージャーミーティング」を設計している組織があります。議題は業務連絡ではなく、「最近のマネジメントの困りごと共有」が中心です。ファシリテーターを人事担当者が務め、「今月一番難しかったマネジメント場面は?」「誰かに相談したいことはある?」といった問いを投げかけながら進めます。

この場が機能し始めると、管理職同士が「自分だけじゃなかったんだ」と感じ、互いの経験から学ぶ文化が生まれてきます。「同じ会社の別部署で同じ悩みを持っていた管理職が、こんなアプローチを試していた」という情報は、外部研修で得る知識よりもすぐに実践に活かしやすい場合があります。

人事担当者からは、「最初は話してくれるか不安だったけど、3回目くらいから管理職の方から『あの話を続けたい』と言ってくれるようになった」という声を聞くことがあります。場を設けることへの管理職の抵抗感も、継続する中で薄れていくことが多いようです。

また、この場は人事にとっても「現場の管理職が何に困っているか」を知る機会になります。「現場と研修の断絶」を防ぐためのヒアリングの場としても機能します。管理職育成の施策が「人事の思い込み」で設計されることを避けるためにも、この場は意味があると感じています。

工夫3:権限の明確化——責任と権限をセットで渡す

「管理職に任せる」と言いながら、実際の意思決定権が人事や上位層に集中している組織では、管理職は育ちにくい。自分で判断して、その結果を引き受けるという経験の積み重ねが、管理職の成長につながるからです。

人事として取り組める具体的なアプローチのひとつは、「管理職の権限範囲の明文化」です。

「この範囲の採用判断は管理職が決定する」「チームの業務プロセス改善は管理職が提案・実行する」「部下の育成計画は管理職が主導する」といった形で、権限の範囲を明確にすることで、管理職が「自分が責任を持つ領域」を認識できるようになります。

権限の明確化は、管理職の成長のためだけでなく、組織の意思決定スピードにも影響します。管理職が自分の権限範囲で動けるようになると、現場の判断が速くなり、経営に上がってくる案件が「本当に経営が判断すべきもの」に絞られていきます。経営の観点からも、権限委譲の設計は意味があることを伝えやすいアプローチです。

ただし、権限だけを渡して「あとはよろしく」では機能しません。権限を渡す前後に「その権限をどう行使するか」についての対話を重ねることが、管理職の判断力を育てる上で大切だと思っています。権限の委譲は、「渡す」ではなく「育てながら渡す」というプロセスとして設計することで、管理職の成長につながっていきます。

工夫4:「なる前」の準備——管理職候補への早期経験設計

管理職になってから育成を始めるのではなく、管理職になる前の段階から「管理職的な視点と経験」を積み重ねてもらう設計です。

具体的には、次のような場を意図的に設けることが考えられます。

後輩の指導経験を与える——「教えることで自分の理解が深まる」という学習効果だけでなく、「他者の成長に関わる責任感」を早い段階から経験してもらう機会になります。

プロジェクトリーダーを任せる——チームをまとめる経験、関係者との調整経験、成果への責任感は、プロジェクトリーダーとして初めて経験できることが多い。プレイヤーとしての業務だけをしていると気づきにくい「管理職の視点」を、前倒しで経験できる機会です。

管理職の会議にオブザーバーとして参加させる——実際の管理職がどんな判断をしているか、どんな情報を見ているかを体感することで、「管理職になってからのイメージ」が具体的になります。「管理職って大変そう」という漠然とした印象から、「自分にもできそう」「ここは準備が必要だな」という具体的な認識へのシフトを促します。

これらの経験は、「管理職候補への育成投資」としてだけでなく、「現在の組織にとっての即戦力づくり」という観点からも経営に説明できます。管理職候補が早期から戦力として機能するようになることで、組織全体の人材密度が上がっていくからです。


明日からできる具体的なアクション

ここまでお読みいただいた方の中には、「では何から手をつければいいか」と感じている方もいるかもしれません。3つの具体的なアクションを提案します。

アクション1:管理職に「最近の困りごと」を聞く1時間を設ける

所要時間: 管理職1人あたり30〜60分(複数名いる場合は優先順位をつけて)

必要なもの: 管理職との個別面談の時間、メモ用のノートやドキュメント

最初の一歩: 管理職の一人に声をかけて、「最近のマネジメントで困っていることや、やりにくいと感じていることを聞かせてほしい」とリクエストする。評価面談や業務連絡とは別の、「人事があなたの現場を理解したい」という文脈で設定することがポイントです。

この面談を通じて「現場と研修の断絶」を防ぐための情報収集ができます。また、「人事が話を聞いてくれた」という経験は、管理職と人事の間の信頼関係にもつながります。得た情報は、次の施策設計に活かしていきます。

アクション2:研修後の「振り返りセッション」を1回設計してみる

所要時間: 60〜90分(参加者:研修を受けた管理職4〜8名程度)

必要なもの: 会議室または Web 会議ツール、ファシリテーションの準備(問いのリスト)

最初の一歩: 過去に実施した研修(または次回予定の研修)の後日に、「研修の実践報告会」として設定する。事前に管理職へ「研修内容を一つ試してみてほしい」とお願いしておき、その結果を持ち寄る場として開催する。

ファシリテーターは人事担当者が務める形でよいと思います。「うまくいったこと」だけでなく「難しかったこと」を共有しやすい雰囲気をつくるために、人事担当者が最初に「自分がやってみて難しかったこと」を開示することで、場の安全性が高まります。

アクション3:管理職候補の「なる前」の経験を一つ設計する

所要時間: 設計の検討に2〜3時間程度(実際の経験期間は3ヶ月〜半年)

必要なもの: 管理職候補のリストアップ、関連する上長との合意形成

最初の一歩: 現在「管理職候補」として認識している人が一人でもいるなら、その人に「後輩の指導役」を意図的に任せるよう、上長と相談する。「育成のため」という目的を明示した上で、指導役に任命する。その後、定期的に「指導していてどうか」を聞く場を設けることで、指導者本人の成長も促すことができます。


まとめ

管理職が育たない原因は、管理職本人の意欲や能力だけにあるわけではありません。多くの場合、「管理職が育ちにくい環境が組織側にある」ことが大きな要因になっています。

「研修すれば変わる」という思い込みで研修を繰り返すのではなく、「知る→動く→振り返る」のサイクルを設計すること。管理職が孤独にならないよう、対話の場をつくること。権限と責任をセットで渡し、「なる前」から管理職的な経験を積めるよう設計すること。

これらは、どれも「管理職個人への介入」ではなく、「組織側の設計」へのアプローチです。人事として、管理職育成を「個人の問題」として捉えるのではなく、「環境の設計」として捉え直すことが、成果につながる関わり方ではないかと私は思っています。

一朝一夕に変わるものではありませんが、組織の設計を少しずつ変えていくことで、管理職が育ちやすい土壌は必ずつくっていくことができます。今日の記事が、その一歩を考えるきっかけになれば嬉しいです。


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