DEI推進を「スローガン」から「経営成果」につなげる
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DEI推進を「スローガン」から「経営成果」につなげる

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DEI推進を「スローガン」から「経営成果」につなげる

「DEIに取り組んでいます」と言える会社は増えました。でも「DEI施策が事業の成果に貢献した」と言える会社はまだ少ない。

ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)は、「社会的な正しさ」として語られることが多いですが、経営の視点では「多様な人材が力を発揮できる組織は、より良い意思決定・より高いイノベーション・より広い採用市場という競争優位につながる」という事業命題でもあります。

この記事では、DEIを「スローガン」から「実際の行動変化」「経営への貢献」につなげるための、人事の実践的アプローチをお伝えします。


なぜDEI推進は難しいのか

構造的原因1:「多様性を入れる」と「力を発揮させる」は別の問題

ダイバーシティ(多様性)の確保——採用の多様化・女性・外国人・中途採用者の増加——は、「多様な人材が組織に入る」ことです。でもそれだけでは不十分で、「入った後に力を発揮できる環境(インクルージョン)」がなければ、「採用したが活躍できずに辞めた」という逆効果になります。

「入れること」と「活かすこと」の両方を設計することが、DEI推進の本質です。

構造的原因2:「公平性(エクイティ)」の概念が浸透していない

エクイティ(公平性)は「全員に同じ機会を与える(平等)」ではなく「必要な人に必要なサポートを提供して、同じ出発点に立てるようにする(公平)」という概念です。

例えば、外国人社員に「日本語でのプレゼン機会を同等に与える」(平等)だけでなく、「プレゼン準備のための言語サポートを提供する」(公平)ことで、実質的な機会均等が生まれます。

この違いを理解せずに「全員平等」を推進すると、形式的な平等と実質的な不公平が同時に存在する状態になります。

構造的原因3:経営・現場管理職の「腹落ち」がない

「DEIを推進したい」というのが人事からの発信だけで、経営・管理職が「なぜ必要か」を理解していないと、現場での行動変化が生まれません。

「DEIは社会的責任だから」という外発的な理由だけでなく、「多様なチームの方が意思決定の質が高い」「採用できる人材の幅が広がる」「組織の柔軟性が高まる」という内発的な理由——事業上のメリット——を経営と共有することが先決です。


よくある失敗パターン

失敗1:女性活躍推進だけがDEIになっている

「DEI=女性の管理職比率を上げること」という認識になっている場合、男女以外の多様性(年齢・国籍・障害・LGBTQ+・働き方の違いなど)への対応が遅れます。

女性活躍は重要な課題ですが、それをDEI全体と等号で結ぶことで、他の多様性課題が後回しになります。DEIを「あらゆる個人が力を発揮できる組織」という広い視点で捉え直すことが必要です。

失敗2:「研修で終わり」のアプローチ

「全社員向けのダイバーシティ研修を実施しました」という一度の研修で意識変化が起きると期待するアプローチは、効果が限定的です。

研修は「考えるきっかけ」にはなりますが、「行動変化」は日常の仕事の中での小さな選択の積み重ねから生まれます。採用・評価・会議のファシリテーション・フィードバックの質——日常の行動プラクティスを変えることが、研修後の継続的な変化につながります。

失敗3:数値目標だけを追う

「女性管理職比率30%」という数値目標は設定したが、「なぜその目標か」「目標を達成するためにどんな環境・機会・育成が必要か」が設計されていないケースがあります。

数値目標は「進捗を見える化するためのもの」であり、目標自体が目的ではありません。数値の背後にある「多様な人材が活躍できる環境を作る」という目的に戻ることが重要です。


プロの人事はこう考える

知る:DEIを「ビジネスケース」で語る準備をする

DEIの推進を経営に納得させるには「ビジネスケース(事業上の根拠)」が必要です。

主なビジネスケース: ①多様なチームのイノベーション効果:McKinseyの研究(2020年)では、ジェンダー多様性上位25%の企業は業界平均より財務パフォーマンスが25%高い傾向が示されています。 ②採用市場の拡大:「多様性に取り組む企業」は求職者の関心を集めやすく、採用できる人材の幅が広がります。 ③顧客理解の深化:多様な社員の視点が、多様な顧客への理解と製品・サービスの改善につながります。 ④離職率の改善:自分がインクルードされている(受け入れられている)と感じる社員は、組織に留まる傾向が強い。

これらのデータを自社の事業課題と結びつけて経営に提示することが、DEI投資の承認につながります。

考える:DEI推進の「3つのレイヤー」で設計する

DEI施策を以下の3つのレイヤーで整理します。

①制度・仕組みレイヤー:採用基準の見直し(バイアスの排除)・評価基準の明確化・柔軟な働き方制度・育休・介護制度の整備。

②文化・行動レイヤー:アンコンシャスバイアス研修・インクルーシブなミーティングの実践・心理的安全性の醸成・経営者のメッセージ発信。

③測定・改善レイヤー:DEI指標の設定(多様性の現状把握)・エンゲージメントサーベイへのインクルージョン設問の追加・施策の効果測定・定期的なPDCA。

この3つのレイヤーを組み合わせた設計が、「研修だけ」「制度だけ」に偏らないDEI推進につながります。

動く:「小さく始める」DEI施策の選び方

DEI推進を全部一度に始めようとすると、リソースが分散して成果が出にくい。「一つのことに集中して成果を出し、次に横展開する」アプローチが有効です。

最初の一歩として効果的な施策例:採用選考でのバイアス排除(複数面接官・構造化面接の導入)・1つの部門でのインクルージョン調査と改善・管理職向けのアンコンシャスバイアス研修(3時間×6名→次の6名)。

「ここで成果が出た」という事例を一つ作ることが、次の施策への経営の投資を引き出します。

振り返る:DEI指標を定期的にモニタリングする

最低限測定すべきDEI指標:採用における多様性(性別・年齢・国籍・中途・新卒比率)・管理職層の多様性・昇格・昇給の性別・属性別の差(公平性の確認)・エンゲージメントサーベイにおける帰属感スコア・DEI関連研修の受講率と行動変化。

これらをダッシュボードで可視化し、経営に定期報告することで、「DEIが組織の中でどう変化しているか」を示します。


明日からできる3つのこと

1. 自社の現状のDEI指標を「見える化」する(2〜3時間)

採用・管理職・評価・離職における「多様性と公平性に関する数字」を集計します。「現状が見えていない」ことが多いため、まず事実を把握することが始まりです。

2. 経営に「なぜDEIが事業にとって重要か」を1ページで整理して共有する(2時間)

自社の事業課題(採用難・イノベーション不足・特定層の離職増など)とDEIの関係を1ページのレポートにまとめます。「社会的責任」ではなく「事業課題」として提示することが、経営の関心を引き出します。

3. 「採用のバイアス排除」から始める小さな一歩を設計する(1時間)

採用選考に複数の面接官(性別・部門が異なる)を加える、または構造化面接(事前に決めた評価基準で評価する)を1つのポジションで試す。採用の多様性改善は、最もすぐに着手できるDEI施策の一つです。


まとめ

DEI推進は「スローガンを掲げること」ではなく「多様な人材が力を発揮できる環境を継続的に改善すること」です。「制度」「文化」「測定」の3つのレイヤーで設計し、小さく始めて成果を積み重ねることが、持続的なDEI推進につながります。

「経営数字から発想する人事」という視点では、DEIは採用力・組織の意思決定品質・エンゲージメント・離職率という経営成果と直結する戦略投資です。「やっている」から「成果が出ている」への転換が、DEI担当人事の本当の仕事です。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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