
面接官トレーニングを後回しにすると採用がうまくいかない本当の理由
目次
- なぜ「面接官トレーニング」は後回しにされてしまうのか
- 「面接はだれでもできる」という思い込み
- 面接官は「人事の仕事ではない」という分断
- 短期的なKPIの罠
- よくある失敗パターン
- 失敗①:トレーニングが「座学だけ」で終わる
- 失敗②:評価基準が「感覚」のまま
- 失敗③:フィードバックの場がない
- プロの人事はこう考える
- 知る:面接官のバイアスを「先に知る」
- 考える:行動ベースの質問設計
- 動く:ロールプレイで「体に染み込ませる」
- 振り返る:採用後のデータで面接精度を上げる
- 明日からできる3つのこと
- 1. 直近の採用を振り返り「評価ズレ」を確認する(30分)
- 2. 面接官に「よく使う質問リスト」を共有する(60分)
- 3. 次回面接後に15分の振り返り会を設ける(15分)
- まとめ
面接官トレーニングを後回しにすると採用がうまくいかない本当の理由
「採用に失敗したな」と感じたとき、多くの人事担当者は採用媒体を変えたり、求人票を書き直したり、スカウト文の文面を工夫したりします。でも、面接官のトレーニングを見直したことはあるでしょうか。
採用の品質を決める要素の中で、面接官の「見極め力」と「候補者体験をつくる力」が占める割合はとても大きいのではないかと、私は思っています。どれだけ魅力的な求人票を書いても、どれだけ丁寧にスカウトを送っても、選考の現場で候補者が「この会社はないな」と感じてしまえば、そこで終わりです。そして逆に、面接官がしっかりトレーニングされていれば、採用チャネルが変わっても一定の品質を保てる。面接官は採用における「最後の砦」であると同時に、「ブランドの体現者」でもあると思っています。
「でも、うちの会社では面接官がみんな忙しくて、トレーニングの時間を取るのが難しくて……」という声はよく聞きます。その気持ちはよくわかります。ただ、その状態を放置した結果、採用コストが毎年かさみ続けているとしたら、どちらが本当の「効率」なのかを一度立ち止まって考えてみてほしいのです。
この記事では、面接官トレーニングがなぜ後回しにされてしまうのか、どんな失敗が起きやすいのか、そしてプロの人事はどう設計しているのかをお伝えしていきます。
なぜ「面接官トレーニング」は後回しにされてしまうのか
「面接はだれでもできる」という思い込み
面接官トレーニングが後回しにされる最大の理由は、「面接なんて話せばわかる」という感覚が根強くあるからではないかと思っています。
確かに、面接は特別な資格がなくてもできます。話を聞いて、印象を語ればいい。でも、それは「面接のような何か」であって、採用面接としては機能していないことが多いのです。
ある食品メーカーの人事担当者がこんなことを話してくれました。「面接で"この人いい"と全員が高評価をつけた方が、入社後にほとんど成果を出せなかった。振り返ってみると、"感じがいい"を"活躍できる"と混同していたことに気づいた」と。
「感じがいい人」と「自社で活躍できる人」は必ずしも一致しません。活躍する人材を見極めるには、意図的に設計された質問と、評価の軸が必要です。それを面接官が共有していなければ、いくら人を集めて面接しても、採用の精度は上がりません。
面接官は「人事の仕事ではない」という分断
もう一つの構造的な問題として、「面接官を誰が育てるのか」が曖昧になっていることがあります。
現場マネジャーや部門長が面接官を担うことが多いですが、彼らは基本的に「自分の仕事」に忙しい。面接は「人事に頼まれているついで仕事」と感じていることも少なくありません。そのため、「面接の方法を教わりたい」という動機がそもそも薄いことがあります。
一方で人事側は、「現場に動いてもらわないといけないから、あまり強く言えない」と遠慮してしまう。結果として、面接官トレーニングは「やった方がいいと思いつつ、誰も主導しない領域」になりがちです。
短期的なKPIの罠
採用活動には「何名採用できたか」という数字が伴います。このKPIが強すぎると、「面接官の質を上げる投資」より「とにかく今月の採用枠を埋める行動」が優先されてしまいます。
面接官トレーニングの効果は、すぐには数字に出ません。でも3年後、5年後の「定着率」「活躍率」「採用コスト削減」という数字に確実に現れてくる。採用ROIの観点から見れば、面接官育成は最もコストパフォーマンスの高い投資の一つだと思っています。
よくある失敗パターン
失敗①:トレーニングが「座学だけ」で終わる
「面接の進め方マニュアルを配布した」「半日の研修を年に一度やっている」という会社は多いです。でも、それだけでは行動は変わりません。
料理に例えると、レシピを読んで終わりの状態です。実際に包丁を持って食材を切ってみないと、技術は身につかない。面接も同じで、ロールプレイや模擬面接を通じて「体で覚える」ことが重要です。
知識を得ることと、スキルを身につけることは別物です。面接官トレーニングで最も大切なのは、実践を通じたフィードバックの経験です。
失敗②:評価基準が「感覚」のまま
「この人は雰囲気がいい」「うちっぽい」「なんかピンとくる」——こうした言葉で面接評価が語られることは、残念ながら珍しくありません。
感覚による評価の問題は、再現性がないことです。面接官によって評価が全く変わってしまい、会社として「どんな人を採りたいのか」が機能していない状態になります。また、バイアスの影響を受けやすく、多様な人材の採用を阻んでしまうこともあります。
採用要件を行動ベースで定義し、それに紐づいた質問リストと評価基準を整備することが、面接官トレーニングの前提です。
失敗③:フィードバックの場がない
面接が終わったあと、面接官同士で「どう見えたか」を話し合う場が設けられていない会社も多いです。バラバラに評価シートを書いて終わり、という形式です。
複数の面接官が独立して評価するだけでは、バイアスの共有・修正が起きません。合議する場があることで、「自分が見落としていた点」「他の面接官との評価のズレ」に気づくことができます。これが面接官を育てる「非公式のOJT」にもなっていきます。
プロの人事はこう考える
知る:面接官のバイアスを「先に知る」
面接官トレーニングの第一歩は、「バイアスを知ること」から始めるのがいいと思っています。ハロー効果、コントラスト効果、類似性バイアス——私たちの判断は、気づかないうちにこうしたバイアスの影響を受けています。
トレーニングの冒頭で「自分はどんな時にバイアスがかかりやすいか」を考えてもらう時間を設けると、その後の実践への意識がぐっと変わります。「知ることが武器になる」という感覚を面接官に持ってもらうことが出発点です。
「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」という考え方があります。面接官育成でも、まず「見極めの原理」を理解することが、その後の行動を変えます。
考える:行動ベースの質問設計
次に、「何を聞けば見極められるか」を一緒に考える場を作ることが重要です。
採用要件として定義した「活躍する人材像」に基づき、行動事実を引き出す質問(STAR法:Situation, Task, Action, Result)を設計します。「あなたの強みは何ですか?」ではなく、「その強みが発揮された具体的なエピソードを教えてください」という形です。
質問の質が、情報の質を決めます。面接官が「どんな情報を得ようとしているか」が明確であれば、同じ候補者への評価のブレが格段に小さくなります。
動く:ロールプレイで「体に染み込ませる」
知識と設計が整ったら、いよいよ実践です。人事担当者が面接官役と候補者役に分かれて、模擬面接を行います。
重要なのは、「やってみた後のフィードバック」です。「あの沈黙の間に何を考えていたか」「候補者のこの発言を、なぜA評価にしたのか」を言語化する練習が、面接官の「判断の軸」を育てていきます。
月に一度、面接のケーススタディを共有する場を設けている会社もあります。「この面接、どう見ますか?」という形で実際の(匿名化した)ケースを検討するだけでも、チームとしての評価基準の揃いが生まれてきます。
振り返る:採用後のデータで面接精度を上げる
面接でAランクをつけた候補者の、入社後の活躍度合いを追いかけることを「予測妥当性の検証」と言います。
「面接でAをつけた人が、入社半年後にどのくらい活躍しているか」を定期的に確認することで、評価基準の見直しができます。もし採用時のAランクと入社後のパフォーマンスに相関がなければ、どこかに見極めの課題があるサインです。
この「振り返り→改善」のサイクルを回すことが、面接官育成を継続的な取り組みにするための仕組みです。
明日からできる3つのこと
1. 直近の採用を振り返り「評価ズレ」を確認する(30分)
直近半年〜1年で採用した方について、「面接での評価」と「入社後3〜6ヶ月のパフォーマンス」を並べて見てみましょう。評価が高かった人が活躍しているか、評価が低かった人でも実は活躍しているケースがないか。このズレを確認するだけで、面接の改善ポイントが見えてきます。
着手ポイント:採用管理システムや評価シートのデータがあれば、まずそこから。なければ記憶ベースでも構いません。「なんとなく感じていたズレ」を言語化するだけでも第一歩です。
2. 面接官に「よく使う質問リスト」を共有する(60分)
現在自社で使われている面接の質問を整理してみましょう。「どんな質問をすれば活躍する人を見極められるか」を採用要件と照らし合わせ、行動事実を引き出す質問をリスト化して面接官に共有するだけでも、評価基準の整合性が高まります。
着手ポイント:人事担当者が自分でリストを作って、主要な面接官に「これも参考にしてみてください」とメールするだけでOKです。完璧である必要はありません。
3. 次回面接後に15分の振り返り会を設ける(15分)
次の面接が終わったら、面接官で15分だけ集まって「どう見えたか」を話し合ってみましょう。評価の根拠を言語化するだけで、面接官同士の基準の「ズレ」と「共通点」が見えてきます。
着手ポイント:オンラインでもOKです。評価シートを記入したまま終わりにするのではなく、「なぜそう思ったか」を一言話す場を作ることがポイントです。
まとめ
面接官トレーニングは、採用品質を根本から変える投資です。媒体を変えるより、文章を磨くより、面接官が育つことの方が採用に与える影響は大きい。そう思っています。
「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」——これは面接官育成にも当てはまります。まず面接官が「なぜズレが生まれるのか」「何を見極めるべきか」を知ることから始める。そして小さく試して、フィードバックのサイクルを回していく。
完璧なトレーニングプログラムをいきなり作ろうとしなくていいと思っています。まず一つ、次の面接の後に振り返りの場を設けてみる。そこから始まるものが、1年後の採用品質を変えていきます。
面接官育成は、地道で地味に見えますが、実は採用のROIを最も効率よく高める取り組みの一つです。遠回りに見えても、それが近道だと思っています。
人事のプロとして、採用の「質」を高め続けたい方へ
採用面接の設計から組織開発まで、実践的な知識を仲間と一緒に学べる場があります。
▶ 人事のプロ実践講座への参加はこちら 講座の詳細・申込みはこちら
▶ 人事の学びと仲間のコミュニティ「人事図書館」 人事図書館の詳細・入会はこちら
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
著者の実践講座を見る →関連記事
採用・選考AI時代の採用で「人事が問われていること」
採用にAIを使うのは当たり前になってきた——書類選考の自動化、面接の録画・AI評価、AIによるスカウトメール生成……採用プロセスへのAI活用は急速に広がっています。
採用・選考次世代の人事リーダーを組織内で育てるために
人事部門の後継者がいない自分が退いた後を担える人材が育っていない——こういう課題を抱える人事責任者・CHROは少なくありません。
採用・選考アルムナイ採用(出戻り採用)を「縁の続き」として設計する
一度辞めた人を採用するのは抵抗がある——こういう感覚を持つ経営者・人事担当者は、まだ少なくありません。でも近年、アルムナイ(卒業生・OB/OG)採用を積極的に活用する企業が増えています。
採用・選考採用広報が「発信すること」だけになっていませんか
採用広報に力を入れています——こう言いながらも、SNSで社員インタビューを投稿している採用サイトを更新したという段階で止まっているケースは多いと思います。