ジョブディスクリプションがないと採用も評価も迷走する
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ジョブディスクリプションがないと採用も評価も迷走する

#採用#評価#組織開発#経営参画#マネジメント

ジョブディスクリプションがないと採用も評価も迷走する

「うちは採用がなかなかうまくいかなくて……」という相談を受けるとき、話を聞いていくと「採用要件はあるけど、ジョブディスクリプション(JD)は整備されていない」というケースが思いのほか多いことに気づきます。

「求人票はあるじゃないか」という声も聞こえてきそうですが、求人票とJDは似て非なるものです。求人票は「こんな人を探しています」という外向きのメッセージ。JDは「このポジションは何をする役割で、どんな成果を期待されているか」を内外に明確にするドキュメントです。

JDがなければ、採用面接で「何を見極めればいいのか」が面接官によってバラバラになります。入社後に「思っていた仕事と違う」という齟齬が生まれやすくなります。評価の場面でも「このポジションに何を期待しているのか」が曖昧になり、上司と部下の認識がズレたまま評価面談を迎えることになります。

ジョブディスクリプションは、採用・育成・評価・配置のすべてをつなぐ「組織の地図」のようなものだと思っています。この地図がなければ、どこへ向かっているのかがわからなくなってしまう。

この記事では、JDをなぜ整備する必要があるのか、よくある失敗と、プロの人事がどうアプローチするかをお伝えします。


なぜジョブディスクリプションの整備は進まないのか

「うちには合わない」という思い込み

JDというと、「外資系企業のもの」「ジョブ型雇用を導入している会社のもの」というイメージを持つ方もいます。日本の多くの企業はメンバーシップ型雇用を採用しており、「役割が流動的だからJDは難しい」と感じるのも無理はありません。

ただ、ここで少し立ち止まって考えたいのです。「役割が流動的」だとしても、「今このポジションに何を期待しているか」は必ずあるはずです。それを言語化するのがJDです。JDは「役割を固定するもの」ではなく、「今この時点での期待を明確にするもの」と捉えてほしいと思います。

むしろ、役割が流動的な組織こそ、「今この人に何を期待しているか」を言語化しないと、本人も周囲も迷子になりやすいのではないでしょうか。

作ること自体が面倒に見える

JDを整備しようとすると、「各部署の全ポジションについて書かなければならない」「どこまで書けばいいかわからない」という壁が現れます。完璧なJDを一気に全社で作ろうとすると、確かに大変です。

でも、まず採用中のポジションから始めるだけでいいのです。「今回採用するエンジニアリングマネジャーのポジションについて、何を期待しているか」を整理する。そこから少しずつ積み上げていく。「小さく始めて成功事例を作って横展開する」——このアプローチがJD整備でも有効だと思っています。

JDの「所有者」が不明確

JDを誰が管理するのかも問題です。人事が作るのか、現場のマネジャーが作るのか。多くの場合、「人事が整備するもの」と認識されていますが、実際に役割の詳細を知っているのは現場のマネジャーです。

JDは人事と現場が「協働」で作るものです。人事が全部一人で作ろうとすると、現場との認識が合わないJDができあがってしまう。一方で、現場に全部まかせると整合性がなくなる。「人事がフォーマットを設計し、現場のマネジャーと対話しながら中身を作る」プロセスが必要です。


よくある失敗パターン

失敗①:スキル要件の羅列になってしまう

JDを作ろうとすると、「〇〇の経験3年以上」「△△のスキルを有すること」という要件リストになりがちです。これは採用要件に近いもので、JDとしては不完全です。

JDに必要なのは「このポジションは何をするためにあるのか(ミッション)」「どんな成果を出せばよいのか(期待アウトカム)」「どんな権限と責任を持つのか」です。スキル要件はあくまで「誰がこの役割を担えるか」の基準であって、役割そのものではありません。

スキルリストしか書かれていないJDで採用すると、「採用できた人がいたけれど、入社後に何をすればいいかわからない」という状況が生まれやすくなります。

失敗②:一度作ったら更新されない

JDを作ること自体に大きな労力をかけた結果、「もう二度とやりたくない」となってしまい、その後全く更新されないケースがあります。

組織は変化します。事業が変われば、そのポジションに求めることも変わります。「去年作ったJD」に基づいて今年採用すると、「採用した人のスキルが今の事業フェーズと合わない」という結果になることも。

JDは「定期的に見直す」仕組みとセットで運用することが重要です。年に一度、採用前のタイミングで確認するだけでも、ずいぶん違います。

失敗③:本人に見せない

JDを整備しても、在籍社員に見せていない会社があります。「これは採用のための書類」という認識で、既存社員には関係ないと思われているのです。

しかし、JDは「自分はこの役割に何を期待されているか」を確認するためのものでもあります。目標設定の場面でも、育成の議論でも、「JDにはこう書いてある。今の自分はこの役割をどのくらい担えているか」という対話ができると、評価の納得感が大きく変わります。


プロの人事はこう考える

知る:JDが機能する条件を理解する

JDは「書いた瞬間から機能する」わけではありません。JDが組織の中で意味を持つためには、いくつかの条件があります。

まず、「経営や事業の方向性」とJDがつながっていること。事業を伸ばすために、このポジションが何をするのかが明確でないと、JDは「形式的な書類」になってしまいます。次に、採用・評価・育成の場面で実際に使われること。書いたけど棚に眠っているだけでは意味がありません。

「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」という考え方からすると、まず「自社の事業の方向性」と「各ポジションが事業にどう貢献するか」を深く知ることが、JD整備の出発点です。

考える:JDの構成要素を整理する

実用的なJDには、最低限以下の要素が含まれていると機能しやすいと思っています。

① ポジションのミッション(2〜3行):このポジションはなぜ存在するのか、どんな価値を生み出すことを期待されているのか。

② 主な職務内容(5〜7項目程度):具体的に何をするポジションか。業務の内容と頻度のバランスを示す。

③ 成果指標(KPIや期待アウトプット):このポジションで「よくやっている」と言えるのはどんな状態か。

④ 他ポジションとの関係性:誰と協働し、誰に報告し、誰をマネジメントするか。

⑤ 求める人材要件:スキル・経験・価値観の観点で、このポジションを担える人の条件。

難しく考えず、現場のマネジャーに「このポジションに期待していることを5つ教えてください」と聞いて言語化するところから始めるだけでも、十分な出発点になります。

動く:採用中のポジションから小さく始める

全社一斉にJDを整備しようとするのではなく、「今採用しているポジション」から始めることをおすすめしています。

採用担当者が現場のマネジャーと30分話して、「このポジションで活躍している人はどんな人ですか?」「このポジションが実現したい成果は何ですか?」を聞き取り、それをA4一枚にまとめる。まずそこから始める。

その「A4一枚のJD」を、採用面接の前に面接官全員と共有するだけで、評価のブレが小さくなります。内定後に候補者に見せることで、「思っていた仕事と違う」という入社後のミスマッチも減らせます。

振り返る:JDを「使って」改善していく

JDは一度作ったら終わりではなく、使いながら磨いていくものです。採用が終わったタイミング、評価面談が終わったタイミングで、「このJD、実態と合っていたか?」を確認する習慣を持つといいと思っています。

「このスキル要件、実際には使わなかった」「この成果指標、測定できていない」という気づきが積み重なることで、JDが現場の実態に合ったものになっていきます。


明日からできる3つのこと

1. 今採用中のポジションのJDを30分で仮作成する(30分)

求人票とは別に、「このポジションのミッション・主な職務・期待成果」を箇条書きで整理してみましょう。完璧でなくていいです。まず「言語化されていない状態」から「言語化されている状態」にすることが第一歩です。

着手ポイント:現場のマネジャーとの採用前の打ち合わせで、「このポジションで一年後に活躍している人はどんな状態ですか?」を聞いてみてください。その答えがJDの核心になります。

2. 面接前に面接官とJDを共有する(10分)

今あるJD(もしくは今回作った仮版)を、面接前に面接官に共有してみましょう。「このポジションは〇〇を期待されています。面接では△△の観点で見てもらえますか?」と一言添えるだけで、面接官の見立てが揃いやすくなります。

着手ポイント:メールで共有するだけでOKです。15分以上かける必要はありません。

3. 入社後3ヶ月で「JDとのズレ」を確認する(30分)

採用した方が入社して3ヶ月後に、上司に「入社前に共有したJDと、実際の業務に大きなズレはありましたか?」を確認してみてください。ズレがあれば、そこがJDの改善ポイントです。

着手ポイント:オンボーディング面談のアジェンダに「JDの確認」を加えるだけで実現できます。


まとめ

ジョブディスクリプションは、採用・評価・育成のすべてをつなぐ「共通言語」です。この共通言語がないまま採用を繰り返すと、毎回「採った人と思っていた人が違う」という齟齬が積み重なっていきます。

「手段ありきで人事を動かしてはいけない」という考え方があります。JDを整備することは、採用という「手段」に走る前に「このポジションが本当に必要なのか」「このポジションで何を実現したいのか」を問い直すプロセスでもあります。

完璧なJDを一気に作ろうとしなくていいと思います。まず今採用しているポジションから、A4一枚の仮JDを作ってみる。使いながら磨いていく。その積み重ねが、1年後の採用品質を変えていきます。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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