採用ROIを計測しないと、採用費用は永遠に「感覚」で管理される
採用・選考

採用ROIを計測しないと、採用費用は永遠に「感覚」で管理される

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採用ROIを計測しないと、採用費用は永遠に「感覚」で管理される

「採用にこれだけお金をかけているのに、成果が見えない」——経営層からこんな声が出ることがあります。採用担当者としては「精一杯やっている」のに、うまく評価されない。その背景には、採用活動の「費用対効果」が言語化されていないことが多いのではないかと思います。

採用ROI(Return on Investment:投資対効果)とは、採用に投じたコストに対して、どれだけのリターンが得られたかを指します。「何人採用できたか」という量的な指標だけでなく、「採用した人がどれだけ組織に貢献したか」「どのチャネルが最も効率よく活躍人材を獲得できたか」を測ることです。

採用ROIを計測することは、「人事が経営の言語で話す」ための一歩でもあります。採用費用を「コスト」として扱うのではなく、「事業成長への投資」として語れるようになることが、経営との信頼関係を築く土台になると思っています。

この記事では、採用ROIを計測することの意義、よくある失敗、そしてプロの人事がどうアプローチするかをお伝えします。


なぜ採用ROIは計測されないのか

「人の価値は数字で表せない」という信念

採用ROIの話をすると、「人の価値を数字で測るのは違和感がある」という反応が返ってくることがあります。この感覚は理解できます。採用した人の価値を単純に数値化するのは難しいですし、誤った計測は人を数字に還元してしまうリスクもあります。

ただ、ここで考えてほしいのは、「人の価値を数字で測る」のではなく、「採用への投資が事業にどう貢献しているかを確認する」という目的です。採用にかけているコスト(媒体費、人件費、選考にかかる時間)は実際に発生しています。そのコストが事業成長に結びついているのかを確認することは、むしろ人事の仕事に対するリスペクトの形だと思っています。

データが整備されていない

採用ROIを計測しようとすると、「採用チャネルごとのコスト」「内定承諾率」「入社後の活躍状況」などのデータが必要です。しかし、多くの企業ではこれらのデータが一元管理されておらず、「採用媒体Aにかけたコスト」と「そこから採用した人の定着率・パフォーマンス」が紐づけられていないことがあります。

計測の仕組みがないため、「やろうと思っても難しい」という状態に陥りやすいのです。

「採用=量を確保する」というKPI設計

「今年度10名採用」というKPIが設定されていると、「10名採れたかどうか」だけが評価指標になりがちです。採用した10名がその後どうなったかを追う仕組みがないと、採用ROIは可視化されません。

採用の「量」だけでなく「質」を評価する仕組みを持つことが、採用ROIを語るための前提条件です。


よくある失敗パターン

失敗①:採用単価だけを見てチャネルを評価する

「媒体Aは採用単価が安い、媒体Bは高い」という形で媒体を評価していると、実態が見えないことがあります。採用単価が安くても、採用した人の定着率が低ければ、実質的な採用コストは高くなります。

ある製造業の人事担当者から聞いた話では、採用単価が安い媒体Aを長年使っていたが、そこから採用した人の3年定着率が30%以下だった。一方、採用単価が高い媒体Bからの採用者は定着率80%で活躍率も高かった。トータルコスト(再採用コスト・研修コスト・生産性損失)を含めると、媒体Bの方が投資対効果が高かった——という話です。

「安い=コスパが良い」という思い込みは、採用ROIの観点から見ると危険です。

失敗②:採用後を追わない

採用した後、「入社1年後にどれだけ活躍しているか」を人事部門が追っていないケースがあります。採用した人のパフォーマンスデータは現場のマネジャーが持っていても、それが採用部門にフィードバックされる仕組みがない。

結果として、「今年の採用は成功だったか失敗だったか」が永遠にわからないまま、次の採用活動が始まります。

失敗③:コストの全体像が見えていない

採用にかかるコストとして、媒体費は見えやすいですが、以下のコストは見えにくいことが多いです。

・採用担当者の人件費(採用活動にかけている時間×時給) ・面接官の時間コスト ・オンボーディングコスト ・早期退職による再採用コスト

これらを含めたトータルコストを把握しないと、採用ROIの計算は不完全です。「媒体費ゼロのリファラル採用が最もROI高い」という結論が出ても、それは媒体費しか見ていないから、という可能性があります。


プロの人事はこう考える

知る:採用ROIを構成する要素を整理する

採用ROIを考えるとき、分子(リターン)と分母(コスト)の両方を理解することが重要です。

分母(採用コスト)の主な要素: ・採用媒体費・エージェント手数料 ・採用担当者の人件費(採用活動に割いた時間) ・面接官の時間コスト(参加者×時間×人件費単価) ・選考ツール・システム費用 ・入社後オンボーディングコスト

分子(リターン)の主な指標: ・入社後の業績への貢献(定量化できる場合) ・定着率(早期退職を防ぐことで節約できたコスト) ・活躍率(目標達成率・マネジャー評価) ・内定承諾率(採用コスト効率)

すべてを完璧に計測しようとしなくていいです。まず「定着率」と「活躍率」をチャネル別に把握することから始めると、実態が見えてきます。

考える:経営数字と接続する

採用ROIを経営層に説明するとき、「採用コストが〇円でした」だけでは不十分です。「この採用によって、売上にどう貢献したか」「早期退職を〇人防いだことで、再採用コスト〇円を節約できた」という形で語れると、経営との対話が変わります。

「経営者の第一言語は数字。その言語で語れなければ経営のテーブルに座れない」という考え方があります。採用ROIは、人事が経営の言語で話すための重要なツールです。

採用施策の効果を「売上伸長・コスト削減・リスク低減」の3軸で整理すると、経営に伝わりやすくなります。たとえば、「面接官トレーニングへの投資〇万円によって内定承諾率が5%改善し、再採用コスト〇万円を削減できた」という形です。

動く:まず一つのチャネルで計測を始める

全社横断でROI計測の仕組みを整えようとすると大変です。まず一つのチャネル(例えば、最もコストの高いエージェント経由の採用)について、「採用コスト」と「入社6ヶ月後の定着率・パフォーマンス評価」を紐づけて追ってみる。それだけでも、採用ROIの一端が見えてきます。

また、採用後のパフォーマンス追跡を仕組みとして持つことが重要です。採用から6ヶ月後、1年後に「現場マネジャーの評価」と「定着の有無」を採用担当者がフォローアップする仕組みを作るだけで、採用の「質」が見えてきます。

振り返る:半年に一度チャネルROIを振り返る

半年に一度、チャネル別の採用ROIを振り返るミーティングを設けることをおすすめしています。「媒体A:採用単価〇万円、定着率〇%、活躍率〇%」という形で並べると、どのチャネルに投資すべきかの判断材料になります。

この振り返りのデータを経営報告に組み込むことで、「人事部門が採用をROIで管理している」という信頼が生まれ、採用予算の確保もしやすくなります。


明日からできる3つのこと

1. 直近採用した人の「今の状況」を確認する(60分)

直近1〜2年で採用した方の「現在の状況」を整理してみましょう。在籍しているか、活躍度合いはどうか(マネジャーの簡単な評価でOK)、採用チャネルは何か。この一覧を作るだけで、「どのチャネルから採った人が活躍しているか」のパターンが見えてきます。

着手ポイント:人事システムに入社者一覧があれば、そこから在籍確認と採用チャネルの情報を拾うだけで始められます。

2. 採用コストの「全体像」を一度計算してみる(90分)

今年度の採用コストを、媒体費だけでなく、面接官の時間コストも含めて計算してみましょう。「採用担当者1人が採用活動に使っている時間×時給」「面接官が年間何時間面接に費やしているか」を含めると、思いの外大きな数字になることがあります。

着手ポイント:完璧な数字でなくていいです。「媒体費は計上されているが、人件費は計上されていなかった」という気づきだけでも価値があります。

3. 採用後のフォローアップの仕組みを一つ作る(30分)

今後採用する方について、「入社から6ヶ月後に現場マネジャーに一言感想を聞く」という仕組みを作ってみましょう。Google フォームで3問のアンケートを作って送るだけでもOKです。

着手ポイント:「活躍しているか(1〜5点)」「期待と実態のギャップはあったか(はい/いいえ)」「採用プロセスで改善できることがあれば」の3問だけで十分です。


まとめ

採用ROIを計測することは、採用を「感覚」から「経営の言語」に移行させる取り組みです。「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という考え方のもと、採用も「事業への投資」として語れる人事になっていくことが、経営との信頼を築く道だと思っています。

完璧なROI計測の仕組みをいきなり作ろうとしなくていいです。まず直近採用した人の「今の状況」を確認してみる。それだけで、採用の「質」の実態が見えてきます。そこから少しずつ、計測の仕組みを整えていく。

遠回りに見えますが、採用ROIが語れる人事になることは、経営のパートナーとして認められるための、実は近道だと思っています。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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