
リーダーシップ開発が「研修で終わり」になっていませんか
目次
- なぜリーダーシップ開発は難しいのか
- 「リーダーシップ」の定義が組織によって違う
- 「体験の場」がない
- フィードバックが機能していない
- よくある失敗パターン
- 失敗①:研修を受ければリーダーシップが育つという期待
- 失敗②:選抜が固定化する
- 失敗③:「任せない」上司が邪魔をする
- プロの人事はこう考える
- 知る:「70-20-10の法則」を活かす
- 考える:経験を「学習に変える」仕組みを作る
- 動く:「小さなリーダー体験」を日常に組み込む
- 振り返る:「育ちつつある人材」を定期的に確認する
- 明日からできる3つのこと
- 1. 「自社にとってのリーダーシップ」を定義する(60分)
- 2. 「小さなリーダー体験」の機会を一つ設計する(30分)
- 3. 「リーダー候補」とのリフレクション面談を設定する(60分)
- まとめ
リーダーシップ開発が「研修で終わり」になっていませんか
「リーダーシップのある人材を育てたい」——この要望は経営から人事によく届きます。でも、「リーダーシップとは何か」「どうすれば育つのか」について、組織としての答えが曖昧なままリーダーシップ研修が実施されることが多いのではないかと思っています。
研修の満足度は高い。でも3ヶ月後、受講者の行動がほとんど変わっていない。現場マネジャーに「あの研修、どうでしたか?」と聞くと「いい話でしたけど、日常の業務に戻るとね……」という反応が返ってくる。これは多くの組織でよく見られる光景です。
リーダーシップは「学んで身につくもの」ではなく、「経験して磨かれるもの」です。研修はその入口であり、本当の成長は「経験」「フィードバック」「振り返り」の繰り返しの中で起きます。
この記事では、リーダーシップ開発がなぜ機能しにくいのか、プロの人事がどう設計するかをお伝えします。
なぜリーダーシップ開発は難しいのか
「リーダーシップ」の定義が組織によって違う
「リーダーシップのある人材を育てたい」と言うとき、何を指しているのかは組織によって全く異なります。「ビジョンを掲げて人を引っ張る力」なのか「チームの成果を最大化する力」なのか「変化を牽引する力」なのか。
定義が曖昧なまま研修を実施すると、「よい話を聞いた」で終わります。研修の設計前に「自社にとって必要なリーダーシップとは何か」を事業戦略・組織課題から定義することが最初の一歩です。
「体験の場」がない
リーダーシップは、困難な状況で意思決定し、失敗し、フィードバックを受ける経験の中で磨かれます。研修室の中で「リーダーシップとは何か」を学んでも、それだけでは実際の行動は変わりません。
「ストレッチアサインメント(少し背伸びをした仕事への配置)」こそが、最もリーダーシップを育てる経験です。でも多くの組織では、「失敗のリスクが怖い」「リソースが足りない」という理由で、意図的なストレッチアサインメントが設計されていません。
フィードバックが機能していない
リーダーシップ開発には、定期的なフィードバックが欠かせません。でも、「きちんとフィードバックを受けた経験がない」「フィードバックを求めても表面的なことしか言ってもらえない」という現実があります。
心理的安全性の低い組織では、本音のフィードバックが出てきにくいです。また、フィードバックする側(上司やメンター)自身がフィードバックのスキルを持っていないこともあります。
よくある失敗パターン
失敗①:研修を受ければリーダーシップが育つという期待
「リーダーシップ研修を入れれば解決する」という発想で研修を実施するのは、「薬さえ飲めば健康になる」という考え方と似ています。研修は知識とフレームの提供には有効ですが、行動の変容は「実践の場」なしには起きません。
研修を「終点」ではなく「起点」として設計することが重要です。「研修後に何をするか」を研修の中で設計し、実践のサイクルに組み込む必要があります。
失敗②:選抜が固定化する
「リーダーシップ研修は選抜された人だけが受ける」という設計が続くと、「育てる人と育てない人」の二極化が起きることがあります。また、最初の選抜が間違っていた場合、その人に資源が集中し続けてしまうリスクもあります。
リーダーシップの萌芽はさまざまな人に潜んでいます。「誰を選抜するか」の基準を定期的に見直し、多様なリーダーシップスタイルを認める環境を作ることが重要です。
失敗③:「任せない」上司が邪魔をする
リーダーシップ育成の取り組みとして、若手にプロジェクトリーダーを任せようとしたところ、直属の上司が「心配だから」と全て自分でやってしまう——こういう状況は珍しくありません。
上司が「任せる力」を持っていないと、いくら育成プログラムを設計しても機能しません。リーダーシップ開発は「育てられる側」だけでなく「育てる側」のスキルと意識が同時に必要です。
プロの人事はこう考える
知る:「70-20-10の法則」を活かす
マネジメント学の研究から生まれた「70-20-10の法則」によれば、人の成長の70%は「仕事の実体験」から、20%は「他者との対話・フィードバック」から、10%は「研修・教材」から生まれます。
リーダーシップ開発の設計を考えるとき、「10%の研修」に集中しているとしたら、70%の「実体験の設計」こそが本当の課題だということになります。
「どんな経験をさせるか」「どんなプロジェクトに関わらせるか」「どんな困難な状況を経験させるか」を意図的に設計することが、人事の重要な役割です。
考える:経験を「学習に変える」仕組みを作る
ストレッチアサインメントの経験があっても、それを「振り返り」で言語化し「学び」に変換しないと、成長につながりません。
「経験学習モデル(コルブのサイクル)」では、具体的経験→振り返り→概念化→試行→また具体的経験というサイクルを回すことが学習の本質とされています。リーダーシップ開発でも、このサイクルを意図的に回す仕組み——定期的な振り返り面談、ピアラーニングの場、コーチングやメンタリング——が重要です。
「振り返り」で「観」(人間観・仕事観・組織観)を磨き続けることが、長期的なリーダーシップ成長の核心だと思っています。
動く:「小さなリーダー体験」を日常に組み込む
大きなプロジェクトのリーダーを任せることが「リーダーシップ体験」だと思いがちですが、日常業務の中に「小さなリーダー体験」を散りばめることも同様に重要です。
・月次のチームミーティングのファシリテーションを担当してもらう ・新入社員のOJTトレーナーを任せる ・部門横断の小プロジェクトのリードを担当してもらう
こうした「小さなリーダー体験」を積み重ねることで、「大きなポジション」に備えるリーダーシップが育っていきます。「小さく始めて成功体験を積み上げる」アプローチはリーダーシップ開発でも有効です。
振り返る:「育ちつつある人材」を定期的に確認する
リーダーシップ開発の成果は、数ヶ月後・数年後に現れることが多いです。定期的に「誰がどのように成長しているか」を確認する場——タレントレビュー、マネジャー評価のフィードバック共有、1on1の記録——を持つことが重要です。
また、「育てる側(上司・メンター)」の貢献も評価することが、組織としてのリーダーシップ開発文化を作っていきます。
明日からできる3つのこと
1. 「自社にとってのリーダーシップ」を定義する(60分)
経営や人事チームで「自社にとって必要なリーダーシップとは何か」を議論してみましょう。「ビジョンを描く力」「人をまとめる力」「変革を推進する力」など、いくつかの要素を洗い出して、自社の事業フェーズに合ったリーダーシップ像を言語化することから始めます。
着手ポイント:「今活躍しているマネジャー・リーダーに共通する特徴は何か」を考えると、自社らしいリーダーシップ像が見えてきます。
2. 「小さなリーダー体験」の機会を一つ設計する(30分)
チームの中で、次の3ヶ月以内に「小さなリーダー体験」ができる場面はないか考えてみましょう。会議のファシリテーション、新人育成、小規模プロジェクトのリード——一つだけ特定して、適切な人材に任せてみてください。
着手ポイント:「任せる」ときに「何を判断していいか」「何を確認すべきか」を事前に共有することが、「任せる」を「放任」にしないポイントです。
3. 「リーダー候補」とのリフレクション面談を設定する(60分)
現在リーダー候補と思っている方と、「最近の仕事の中で一番成長を感じた場面はどこか」「逆に難しかったのはどんな場面か」を話し合う時間を設けましょう。この対話がリーダーシップ開発の「振り返りの場」になります。
着手ポイント:「評価する」のではなく「共に振り返る」スタンスで臨むことが、本音の対話につながります。
まとめ
リーダーシップは研修で育てるものではなく、経験と振り返りの中で磨かれるものです。人事の役割は、その「経験の設計者」になることだと思っています。
「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という考え方で見れば、リーダーシップ開発も「どんなリーダーが事業成長に必要か」という経営視点と「今の組織にどんな変化が必要か」という組織視点の両方から設計することが重要です。
焦らず、小さな体験の積み重ねを大切に。リーダーシップは「遠回りに見えても、経験の積み重ねが最も確かな近道」だと思っています。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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