中途採用した人が定着しない。入社後の「当たり前」を見直す
採用・選考

中途採用した人が定着しない。入社後の「当たり前」を見直す

#1on1#採用#組織開発#経営参画#制度設計

中途採用した人が定着しない。入社後の「当たり前」を見直す

「中途採用した人が、入社して半年で辞めていくんです。どこに問題があるのかわからなくて」

こういった悩みを、人事の現場でよく耳にします。中途採用は、新卒採用と違って「即戦力」として期待されます。だから「すぐに活躍してくれるはず」と思いやすい。でも実際には、前職での経験やスキルがある人でも、職場が変わると思うように力を発揮できないまま離れていくケースが後を絶ちません。

中途採用の定着率が低い組織に共通しているのは、「採用の後」の設計が薄いことです。「採ること」に力を使い切って、「定着させること」を後回しにしている。今日は中途採用の定着率を上げるための考え方と、明日から始められることをお伝えします。


「即戦力だから大丈夫」という思い込みの落とし穴

ある企業で中途採用を担当していた人事のHさんが話してくれました。

中途で採用したコンサルティングファーム出身の人材。スキルも経験も申し分なかった。でも入社3ヶ月後から様子がおかしくなり、半年後に退職の申し出があった。

退職後にヒアリングすると、本音が出てきた。「入社直後に"わからないことがあれば聞いてください"と言われたけど、何がわからないかもわからなかった。前の会社と全然違う文化で、自分が浮いているのを感じていた。でも中途だから弱みを見せてはいけないと思って、誰にも言えなかった」と。

スキルは十分でも、「この会社の当たり前」がわからない状態で放置されると、優秀な人ほど「自分には合わない」と判断して去ってしまう。この状況を経営数字に換算してみると、中途採用一人あたりのコストは採用費・育成費・機会損失を含めると数百万円規模になります。半年で辞めてしまうと、その投資がまるごと無駄になるばかりか、また採用コストがかかる。「定着支援への投資」は採用コスト削減という意味で、経営的にも合理的な判断です。

中途採用者が抱える「3つの不安」

中途採用者には、新卒採用者とは別の特有の不安があります。

① 「中途だから知っていて当然」プレッシャー:新卒のように「わからなくて当然」という扱いをされない。でも実際には、会社の文化・暗黙のルール・人間関係は全くわからない状態で入社している。「こんなことも知らないのか」と思われたくないというプレッシャーが、質問することを躊躇させます。

② 前職との比較で生まれる違和感:前職の「当たり前」とのギャップを感じても、「この会社に慣れないといけない」と自分に言い聞かせる。でもギャップが大きいと適応コストが高くなり、消耗していく。「前の会社ではこうだったのに……」という違和感をずっと抱えたまま、それを誰にも言えない状況が続くと、じわじわと疲弊していきます。

③ 期待値との乖離:「即戦力として活躍してほしい」という期待を感じながら、なかなか成果が出ない期間のプレッシャーが大きい。「期待に応えられていない」という焦りが積み重なる。特に3〜6ヶ月の段階で「思ったように活躍できていない」と感じると、「この会社は自分に合っていないのかもしれない」という方向に考えが向きやすくなります。


中途採用の定着率を上げる3つのアプローチ

アプローチ1:「オンボーディング」を設計する

「ウェルカム感」を最初の1週間でしっかり作ることが、定着の最初の関門です。

具体的には、入社初日に「この人を迎えるための準備ができている」というメッセージを伝えること。席の準備、必要なアカウントの開設、チームへの紹介——当たり前のことに見えますが、できていない会社が意外と多い。「入社したのに机がなかった」「パソコンが初日に来なかった」という経験をすると、「この会社、自分の入社を本当に歓迎してくれているのかな」という疑問が芽生えます。

入社1ヶ月は「業務を覚える期間」ではなく「この会社と人を知る期間」と位置づける。最初の1ヶ月で「この会社で頑張りたい」と思えるかどうかが、その後の定着に大きく影響します。この期間に「自分は受け入れられている」「ここでやっていける」という安心感が生まれるかどうかが、その後の定着の分岐点になります。

また、入社前の「内定承諾から入社まで」の期間も重要です。内定承諾後に何の連絡もないまま入社日を迎えると、不安が高まります。「入社前に軽く顔合わせをしましょう」「チームメンバーを紹介するランチ会を企画しました」という一言が、入社初日の緊張を大きく緩和します。

アプローチ2:「バディ制度」で心理的な接続点を作る

中途採用者が入社直後に困りやすいのは、「誰に何を聞けばいいかわからない」状態です。

同じ部署の先輩一人を「バディ」として指名して、最初の3ヶ月間サポートしてもらう仕組みが効果的です。業務のわからないことだけでなく、「ランチを一緒に行ける人」「社内の人間関係について気軽に聞ける人」がいるかどうかが、定着に大きく影響します。

バディは上司である必要はありません。むしろ、同じ目線で話せる年次の近い社員の方が、本音を引き出しやすい。「上司には言えないけど、バディには話せる」というケースが多く、「職場に馴染んでいるか」「困っていることはないか」を把握する窓口として機能します。

バディになる社員にも「バディとしての役割の説明」が必要です。「月に2〜3回、ランチや立ち話で話しかけてください」「気になることがあったら人事に連絡してください」という具体的な行動を伝えることで、「何をすればいいかわからない」という負担感を下げることができます。

アプローチ3:入社後1〜3ヶ月の「定期対話」を人事が担う

OJT担当やバディに任せっきりにせず、人事が入社1ヶ月・3ヶ月のタイミングで中途採用者と個別に話す場を設けましょう。

「業務への適応状況」「職場環境への満足度」「困っていることはないか」を確認する。人事が直接関わることで、OJTやバディに言いにくいことが出てくることがあります。早期発見・早期対応が、離職防止の最も確実な方法です。

人事との対話では、「何か問題はありませんか?」という開いた質問より、「入社前に期待していたことと、実際はどうでしたか?」「この会社で活躍するためにあったら助かるサポートは何ですか?」という具体的な問いかけの方が、本音が出やすくなります。


中途採用者の定着を支える「組織側の準備」

中途採用者の定着は、入社後の本人のケアだけでなく、受け入れる組織側の準備も同じくらい重要です。

「あの人、中途で来たけどなかなか使えないね」という声が職場から出ている場合、それは「受け入れる側の準備が不足していたサイン」かもしれません。

受け入れ準備として特に重要なのは:

業務内容・役割の明確化:「この人に何をやってもらうのか」が曖昧なまま採用してしまうと、入社後に「思っていた仕事と違う」という乖離が生まれやすい。採用前に「入社後90日で何を達成してほしいか」を明確にしておくことが重要です。

現場マネージャーの巻き込み:人事だけが「定着させよう」と思っても、現場のマネージャーが「中途は即戦力だから自分で動けるはず」という姿勢でいると、必要なサポートが届きません。「入社後の3ヶ月は特に意識してフォローアップしてください」とマネージャーに依頼し、具体的な行動(週1の1on1など)を約束してもらうことが重要です。


明日からできる3つのこと

1. 「直近1年の中途採用者の定着率」を確認する(所要時間:1時間)

直近1年で採用した中途社員のうち、何割が今も在籍しているかを確認してみましょう。「3ヶ月以内離職」「半年以内離職」「1年以内離職」に分けてカウントすると、「どの時期に離職が多いか」が見えてきます。

離職のタイミングによって、原因の仮説が変わります。「3ヶ月以内」なら入社前期待とのギャップ、「半年前後」なら職場への不適応、「1年前後」なら成長・活躍機会の不満——というパターンが多いです。

2. 「直近の中途退職者の退職理由」を確認する(所要時間:30分〜1時間)

直近1〜2年の中途退職者の退職届・面談記録を見直してみましょう。「一身上の都合」という表記しかない場合は、「実際に何が原因だったか」を知るために、退職後3ヶ月を目安に任意でのヒアリングをお願いしてみることも一つの方法です。

3. 「中途採用者向けのオンボーディングチェックリスト」を作る(所要時間:2〜3時間)

「入社前に確認すること」「入社初日にすること」「入社1週間でやること」「入社1ヶ月でやること」をチェックリストにまとめてみましょう。一度作れば次の採用から使いまわせます。「チェックリストがある」というだけで、受け入れ担当者が安心して動けるようになります。


まとめ

中途採用の定着率が低いのは、「採った人材が悪かった」のではなく、「入社後の環境設計が薄かった」ことがほとんどです。オンボーディングを丁寧に設計し、バディで心理的な接続点を作り、人事が定期的に関わり続ける。この3つを整えることで、「せっかく採用したのに辞めてしまった」という痛みを減らすことができます。

採用は「入社させること」ではなく「活躍し続けてもらうこと」が目標です。「採用の成功は入社後1年の定着と活躍で決まる」——そういう発想で、採用後のプロセス設計にも力を入れてみてください。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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