
事業計画と人員計画がズレていると、採用が後追いになる
目次
- なぜ事業計画と人員計画はズレるのか
- 「人事は実行者、計画は現場が作る」という分業
- 人員計画が「ヘッドカウントの管理」になっている
- 事業の変化が速くて計画が陳腐化する
- よくある失敗パターン
- 失敗①:「今の事業部の要求」をそのまま採用計画にする
- 失敗②:採用計画が「今年度の補充」しか考えていない
- 失敗③:育成計画が人員計画と分離している
- プロの人事はこう考える
- 知る:事業計画の読み方を身につける
- 考える:「需要予測」と「供給計画」のフレームで考える
- 動く:事業計画レビューに人事を参加させる
- 振り返る:計画と実績の乖離を定期的に確認する
- 明日からできる3つのこと
- 1. 今年度の事業計画を読んで「人材の観点」で3点書き出す(60分)
- 2. 半年後・1年後に必要な人材を一つ特定する(30分)
- 3. 事業部長との「人材についての対話」を月1回設ける(継続)
- まとめ
事業計画と人員計画がズレていると、採用が後追いになる
「採用が追いついていない」「人手が足りない」——こんな声が上がってから採用活動を強化しても、「今すぐ欲しい人材がいない」という状況に陥ることがあります。採用は「採決→活動開始→入社」まで最低でも3〜6ヶ月かかります。今困っているから今動いても、間に合わないことが多いのです。
事業計画と人員計画を連動させることは、「前もって必要な人材を確保する」という採用の先手を打つことを意味します。「来期はどんな事業を伸ばすのか」「そのためにどんな人材が・何人必要か・いつまでに」を今から設計することで、採用の「後手」を「先手」に変えられます。
でも実際には、事業計画と人員計画が別々に存在し、「事業部は事業計画を作り、人事は採用計画を作る」というサイロが生まれているケースが多いです。
この記事では、事業計画と人員計画の連動をどう設計するか、人事のアプローチをお伝えします。
なぜ事業計画と人員計画はズレるのか
「人事は実行者、計画は現場が作る」という分業
「事業計画は事業部が作る。人事は採用と育成を実行する」という役割分担が根強い組織があります。この分業の結果、人事が人員計画の策定に関与するのが「事業計画が決まった後」になり、後追いになります。
人事が事業計画の策定プロセスに早い段階から参画することが、人員計画の精度と先行性を高めます。「事業を伸ばすために必要な人材は何か」という問いは、事業計画の中に含まれるべき問いです。
人員計画が「ヘッドカウントの管理」になっている
「今期は○人採用する」という人員計画は、「何人採用するか」というヘッドカウント管理にとどまりがちです。
本当に重要なのは「どんな人材を・いつまでに・どのくらいの規模で確保するか」という質と時間軸の設計です。「10人採用」という計画でも、「どんなスキル・経験・特性を持つ10人か」が設計されていなければ、採用活動の方向性が定まりません。
事業の変化が速くて計画が陳腐化する
年度初めに設計した人員計画が、半年後には事業の変化でほぼ無意味になっている——こういうことは特に変化の速い業種で起きやすいです。
年次の人員計画だけでなく、四半期ごとに見直す仕組みを持つことが重要です。「計画を作ること」よりも「計画を使って動き続けること」の方が重要です。
よくある失敗パターン
失敗①:「今の事業部の要求」をそのまま採用計画にする
「事業部長が10人追加を希望した」をそのまま採用計画にすると、「組織全体として本当に必要な人員か」という検証がされません。
事業部の要求には、「本当に必要な人材」だけでなく、「あれば便利」「余裕があれば」という要素が混じることがあります。また、一部の事業部が過剰な要求をして、他の事業部に割り当てるべきリソースを圧迫することもあります。
「事業全体として・戦略的に・どの領域にどのくらいの人材が必要か」を人事が事業計画を読んで独立した視点で判断することが重要です。
失敗②:採用計画が「今年度の補充」しか考えていない
「今年退職した人の補充」という発想だけで採用計画を作ると、「今の組織を維持すること」が採用の目的になります。
でも、事業の成長には「今まで持っていなかったスキル・知見を持ち込む採用」が必要なことがあります。「欠員の補充」という採用観から「事業の成長のための戦略的採用」という採用観への転換が、事業計画と人員計画の連動の核心です。
失敗③:育成計画が人員計画と分離している
「足りない人材は外から採用する」という発想だけでは、人件費が膨らみ続けます。「今いる人材を育てて、将来必要な役割を担えるようにする」という育成計画と採用計画を統合することが、持続可能な人員計画の条件です。
「1年後に必要な人材は、今いる誰かを育てることで確保できるか、それとも採用が必要か」という問いが、採用と育成のバランスを決めます。
プロの人事はこう考える
知る:事業計画の読み方を身につける
事業計画と人員計画を連動させるには、まず人事が事業計画を読める必要があります。「売上目標・事業展開の方向性・注力市場・新規事業の計画」——これらを人材の観点から解釈することが、人員計画設計の出発点です。
「事業を伸ばすためには、どんな能力・経験・特性を持つ人材が・何人・いつまでに必要か」を事業計画から逆算することが、戦略的な人員計画の作り方です。
「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という考え方の実践として、事業計画を起点に人員計画を設計する習慣を持つことが重要です。
考える:「需要予測」と「供給計画」のフレームで考える
人員計画は、「どんな人材がいつ何人必要か(需要予測)」と「その人材をどうやって確保するか(供給計画)」の2つから成ります。
需要予測:事業計画をもとに、部門別・役職別・スキル別の人材需要を時系列で予測する
供給計画:採用(外部からの確保)と育成(内部からの育成)をどの割合でどのタイミングで行うかを計画する
この2つを繋げることで、「今から何ヶ月後に何人採用を開始すれば間に合うか」が逆算できます。
動く:事業計画レビューに人事を参加させる
最も実践的な一手は、「事業計画策定のレビュー会議に人事を参加させること」です。
「この事業計画を実現するためには、どんな人材が何人いつまでに必要か」という問いを、事業計画のレビュー段階で人事が提起できれば、人員計画は後追いではなく先手になります。
最初は難しくても、「人事が事業計画に基づいた人材観点の示唆を出せる」という実績を積み上げることで、参画の機会が生まれていきます。
振り返る:計画と実績の乖離を定期的に確認する
四半期ごとに「人員計画の達成状況(予定採用数・実際の採用数・入社後の定着状況)」と「事業計画との乖離(計画通りの事業進捗か)」を照合する場を持つことが重要です。
計画と実績のギャップを早めに察知し、採用活動の加速・育成計画の修正・必要に応じた採用要件の見直しを行う柔軟性が、変化する事業環境への対応を可能にします。
明日からできる3つのこと
1. 今年度の事業計画を読んで「人材の観点」で3点書き出す(60分)
現在の事業計画を読んで、「この事業計画を実現するために必要な人材は何か・いつ必要か・何人くらいか」を3点だけ書き出してみましょう。この作業が、事業と人員計画を連動させる思考の練習になります。
着手ポイント:事業計画が読めない場合は、事業部長に「来期はどんな事業を伸ばす予定ですか?それにはどんな人材が必要だと思いますか?」と聞くだけでも十分な情報が得られます。
2. 半年後・1年後に必要な人材を一つ特定する(30分)
「半年後・1年後に、この役割の人材がいなければ事業が困る」というポジションを一つ特定しましょう。そのポジションの採用を今から準備するかどうかを判断する。この思考が事業計画と採用計画の連動です。
着手ポイント:「今すぐは必要ないが、今から準備しないと間に合わない」という人材こそ、最初に取り組む優先案件です。
3. 事業部長との「人材についての対話」を月1回設ける(継続)
主要な事業部長と月に一度、「事業の進み具合と、それに伴う人材課題」を話す場を設けてみましょう。この定期的な対話が、事業計画と人員計画の連動を機能させます。
着手ポイント:最初は15〜30分の短い対話でOKです。「人事として何かサポートできることはありますか?」という問いから始められます。
まとめ
事業計画と人員計画の連動は、「採用を先手に変える」ための最重要な取り組みです。そのためには、人事が事業計画を読み、人材の観点から逆算し、先行して動ける仕組みを作ることが必要です。
「事業を伸ばす人事は、事業の言語で語れる」——事業計画を読んで人材計画を語ることができる人事こそ、経営のパートナーとして機能できます。まず事業計画を読むことから始めましょう。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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