
人事のKPI設定が「採用人数だけ」になっている組織は危ない
目次
- なぜ人事のKPI設計は難しいのか
- 人事の仕事の効果は「長期・間接・複合的」
- 「人事はコストセンター」という認識との戦い
- 経営から「何を期待されているか」が不明確
- よくある失敗パターン
- 失敗①:量の指標しかない
- 失敗②:現場が「自分ごと」としてのKPIを持っていない
- 失敗③:短期的な数字だけを追う
- プロの人事はこう考える
- 知る:人事KPIの「4つのレベル」を理解する
- 考える:「遅行指標」と「先行指標」のバランス
- 動く:まず「3つのコアKPI」を設定する
- 振り返る:KPIの見直しを年次で行う
- 明日からできる3つのこと
- 1. 現在の人事KPIを「量・質・効果」で分類する(30分)
- 2. 「採用した人材の現在の活躍状況」を確認する(30分)
- 3. 経営に「今期、人事に何を最も期待しているか」を聞く(30分)
- まとめ
人事のKPI設定が「採用人数だけ」になっている組織は危ない
「今期の採用目標は何人ですか?」——人事部門の目標を聞かれると、多くの場合「採用○名」という数字が返ってきます。採用担当者のKPIが「採用人数」になっている組織は珍しくありません。
でも、「採用人数」というKPIには大きな問題があります。「採用できた」という量は評価できても、「採用した人が活躍しているか」「組織に貢献しているか」という質が見えません。採用人数のKPIしかなければ、「とにかく人を入れる」という行動が最適化されてしまいます。
人事部門のKPI設計は、「何をもって人事の仕事が成功といえるか」を定義することです。採用・育成・評価・組織開発、それぞれの機能に対して、「どんな状態になっていたら仕事が機能していると言えるか」を明確にすることが重要です。
この記事では、人事KPIの設計で考えるべき視点と、よくある失敗をお伝えします。
なぜ人事のKPI設計は難しいのか
人事の仕事の効果は「長期・間接・複合的」
採用した人が活躍し始めるのは、入社から半年〜1年後です。育成の効果は3〜5年単位で表れることもあります。エンゲージメント施策の効果は離職率や生産性に影響しますが、他の要因との因果関係の切り分けが難しい。
「人事の仕事の効果は遅れて・間接的に・複合的に」現れるため、短期的な数字で測ることへの限界があります。
それでも「測定できないものは管理できない」という現実があります。完璧な指標は作れなくても、「目指す状態に近づいているか」を示す指標を持つことが重要です。
「人事はコストセンター」という認識との戦い
人事部門が「コストセンター(費用が発生するだけの部門)」として見られていると、KPIが「コスト管理」に偏ることがあります。「採用費用を予算内に収める」「研修費を削減する」といった守りのKPIだけになってしまう。
人事は「組織の成長への投資を管理する部門」として機能するべきで、KPIも「組織成長への貢献」という攻めの指標を持つべきです。
経営から「何を期待されているか」が不明確
人事KPIを設計するためには、「経営は人事部門に何を期待しているか」を明確にする必要があります。でも、これが明確でないことが多い。「採用をしっかりやってほしい」「社員がやりがいを持って働ける環境を」という漠然とした期待は、KPIに落とし込みにくいです。
よくある失敗パターン
失敗①:量の指標しかない
「採用○名」「研修実施○回」「1on1実施率○%」——こうした「量の指標」は活動量を測りますが、活動の「質と効果」を測りません。
「採用○名」が達成されても、その○名が活躍していなければ意味がありません。「量の指標」と「質・効果の指標」を組み合わせることが重要です。
量だけのKPIは「やったか・やってないか」の評価になり、「うまくやれたか」の評価にならないのです。
失敗②:現場が「自分ごと」としてのKPIを持っていない
人事部門のKPIはあるが、「現場のマネジャーが人育てに貢献しているか」を測る指標がない——という状態があります。
人事の仕事の多くは、「現場のマネジャーとの協働」によって成立します。マネジャーが「人を育てること」「エンゲージメントを高めること」「1on1を実施すること」をKPIとして持つことで、組織全体で人材育成・人材管理の文化が生まれます。
失敗③:短期的な数字だけを追う
「今月の採用進捗」「今期の離職率」という短期指標だけを追うKPI設計では、長期的な組織健全性が見えません。
「3年間の定着率」「入社2年目のエンゲージメント推移」「管理職昇格者の活躍率」——こうした中長期の指標を持つことが、採用・育成の「質」を測る上で重要です。
プロの人事はこう考える
知る:人事KPIの「4つのレベル」を理解する
人事のKPIは、4つのレベルで設計することが有効です。
Level1:活動量指標:採用面接実施件数・研修実施回数・1on1実施率など
Level2:プロセス品質指標:内定承諾率・研修満足度・評価面談の実施率など
Level3:成果指標:定着率・エンゲージメントスコア・昇格率など
Level4:事業への貢献指標:採用した人材の活躍率・生産性向上・離職コスト削減額など
多くの組織では Level1〜2 しか持っていませんが、Level3〜4 まで持つことで、「人事の仕事が事業にどう貢献しているか」が見えるようになります。
「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」——人事KPIも「事業への貢献(経営数字)」と「組織の健全性(組織状況)」の両面で設計することが重要です。
考える:「遅行指標」と「先行指標」のバランス
KPIには「結果を見る遅行指標(離職率・業績)」と「問題を予兆する先行指標(エンゲージメントスコアの低下・1on1実施率の低下)」があります。
遅行指標だけを追うと、問題が起きてから気づきます。先行指標を持つことで、「離職が増える前に介入できる」状態になります。
バランスの取れたKPI設計は、「先行指標で問題を早期発見・先手介入し、遅行指標で施策の効果を確認する」という使い分けです。
動く:まず「3つのコアKPI」を設定する
すべての活動にKPIを設定しようとすると複雑になりすぎます。まず「人事部門として最も重要な3つのKPI」を経営と合意することから始めることをおすすめします。
例えば、「①採用した人材の1年定着率 ②エンゲージメントスコアの経年変化 ③管理職評価の平均スコア(部下の評価を管理職に実施)」——この3つを持つだけでも、採用・エンゲージメント・育成の三領域での人事機能の「健全性」が測れます。
振り返る:KPIの見直しを年次で行う
事業環境や組織課題が変われば、人事に期待されることも変わります。昨年設定したKPIが今年も最適かどうかを年次で確認し、必要に応じて見直すことが重要です。
明日からできる3つのこと
1. 現在の人事KPIを「量・質・効果」で分類する(30分)
現在持っている人事KPIを「量(活動量)」「質(プロセス品質)」「効果(成果・事業貢献)」の3つに分類してみましょう。「量の指標しかない」という状況が見えたら、「質・効果の指標」を一つ追加することを検討してください。
着手ポイント:現在のKPIリストを書き出すだけで、分類できます。
2. 「採用した人材の現在の活躍状況」を確認する(30分)
直近1〜2年で採用した方の「現在の活躍状況(在籍・パフォーマンス)」を整理してみましょう。この数字が「採用ROI」と「採用の質の指標」になります。
着手ポイント:「採用した○人のうち今も在籍しているのは何人か」という定着率から始めるだけでOKです。
3. 経営に「今期、人事に何を最も期待しているか」を聞く(30分)
経営(社長・役員)に「今期、人事部門に何を最も期待していますか?」という問いを直接聞いてみましょう。その答えが、人事KPIの優先順位を決める最も重要なインプットになります。
着手ポイント:直接聞きにくければ、「1on1の機会に一つだけ聞いてみる」という形から始められます。
まとめ
人事KPIは「何をもって人事の仕事が機能しているか」を定義するものです。量の指標だけでは人事の価値は伝わりません。「採用した人が活躍しているか」「組織が健全な状態か」「事業成長に貢献できているか」という質と効果の指標を持つことで、人事部門が「経営のパートナー」として機能できるようになります。
「すべての組織に人事のプロを」——プロの人事は、自分の仕事の価値をKPIで語れる人事だと思っています。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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