
テレワーク規程が「後追いルール」になっていませんか
目次
- なぜテレワーク規程の整備は難しいのか
- 法的要件と現場の実態がズレやすい
- 「管理」と「信頼」のバランスが難しい
- 評価制度・手当制度との整合性が取れていない
- よくある失敗パターン
- 失敗①:「許可制」の形骸化
- 失敗②:セキュリティ規程が実態に合っていない
- 失敗③:テレワーク対象者の基準が曖昧
- プロの人事はこう考える
- 知る:現行規程と「実際の運用」のギャップを把握する
- 考える:「どんな働き方を設計したいか」から逆算する
- 動く:労務・法務・ITのクロスファンクションで整備する
- 振り返る:年1回の規程見直しサイクルを設ける
- 明日からできる3つのこと
- 1. 現行テレワーク規程と「実際の運用」のギャップを確認する(30分)
- 2. テレワーク手当・通勤手当の現行制度を確認する(15分)
- 3. 情報セキュリティ規程とテレワーク規程の整合性を確認する(30分)
- まとめ
テレワーク規程が「後追いルール」になっていませんか
コロナ禍で急遽スタートしたテレワークが、今や多くの企業で恒久的な働き方の一つになっています。でも「最初に整備した就業規則をそのまま使っている」「実態に合っていないルールが放置されている」という状態になっていませんか。
テレワーク規程は「許可証」ではなく「設計図」です。どこで働くか、何時に働くか、どう評価するか——これらの前提が変わる中で、人事制度もアップデートが求められます。
「法令を満たしているから問題ない」という発想では、現場の実態と乖離した「形だけの規程」ができあがりやすい。規程は「守られること」で初めて意味を持ちます。
この記事では、テレワーク規程整備で見落としがちなポイントと、実務での考え方をお伝えします。
なぜテレワーク規程の整備は難しいのか
法的要件と現場の実態がズレやすい
テレワーク規程には、労働基準法・安全衛生法・個人情報保護法など複数の法的要件があります。「法令遵守だけを考えて作ったルール」と「現場の実態」が乖離することが多い。
例えば、「業務時間中の離席は禁止」という規程を作っても、自宅で働いている以上、宅配便の受け取りや家事の合間に業務する社員は現実にいます。「法的に正しい規程」と「現実的に守られる規程」の両立を考えることが重要です。
また、テレワーク関連の法律・ガイドラインは定期的に改定されます。「最初に作ったまま更新していない」規程は、法的なリスクも抱えていることがあります。
「管理」と「信頼」のバランスが難しい
テレワークでは「社員が今何をしているか」が見えにくくなります。「管理を強化するか」「信頼を前提にするか」という判断が、規程設計に直接影響します。
「管理強化」に偏ると——PCの画面キャプチャを定期的に送らせる、勤怠をリアルタイムで入力させる——といった規程になりがちです。これは現場の信頼感を損ない、「テレワーク=監視されている」という文化を生み出します。
一方「信頼だけ」に偏ると、長時間労働の管理ができない、業務の実態が把握できないというリスクが高まります。「信頼を前提に、最低限の確認手段を持つ」という設計が現実的です。
評価制度・手当制度との整合性が取れていない
テレワーク規程は単独で機能しません。評価制度(プロセスではなく成果で見るか)、手当設計(通勤手当・在宅勤務手当)、業務に必要な費用の負担ルール——これらとの整合性が取れていないと、「規程だけ整備して現場が混乱」という状態になります。
「テレワーク手当を支払う」と決めたなら、その額の根拠、支払い条件、在宅日数との関係も整理する必要があります。「なんとなく支払っている」状態は、後から「なぜあの人は多いのに自分は少ないのか」という不満の原因になります。
よくある失敗パターン
失敗①:「許可制」の形骸化
「上長の許可を取れば在宅勤務可」という規程にしているが、実際には誰も申請していない(暗黙の了解で使っている)——という状態があります。
規程と実態が乖離していると、「ある日突然、規程通りに運用しろ」となったときに現場が混乱します。また、監査や労務トラブルの際に「実態と規程が違う」ことが問題になることもあります。
「形だけある規程」を放置しないために、定期的に「規程通りに運用されているか」を確認する習慣が必要です。
失敗②:セキュリティ規程が実態に合っていない
「業務データの社外持ち出し禁止」という規程があるが、実際にはクラウドサービスを使って普通に業務している——という矛盾が放置されているケースがあります。
情報セキュリティ規程は、テクノロジーの進化に合わせた見直しが必要です。「禁止だが実態では許容されている」という状態は、情報漏洩リスクに対して無防備な状態です。
IT部門・法務部門と連携して「現実的に守られる情報セキュリティのルール」を設計することが重要です。
失敗③:テレワーク対象者の基準が曖昧
「職種・役職・業務内容によってテレワーク対象が異なる」ことは多いですが、その基準が曖昧だと「あの部署はできるのに、なぜ自分の部署はできないのか」という不公平感が生まれます。
「現場の実態として対象外になっている職種・部門」がある場合、「なぜ対象外か」の理由を明文化することが重要です。「説明できないルール」は、社員の信頼を損ないます。
プロの人事はこう考える
知る:現行規程と「実際の運用」のギャップを把握する
テレワーク規程を整備・見直す前に、「今の規程が現場でどう運用されているか」を確認することが重要です。
「申請フローは守られているか」「テレワーク中の勤怠管理は規程通りか」「情報セキュリティのルールは実際に守られているか」——これらのギャップを把握することが、実効性のある規程設計の出発点です。
「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」という観点から、規程整備でも「現場の実態を知ること」が最初のステップです。
考える:「どんな働き方を設計したいか」から逆算する
テレワーク規程は「禁止事項のリスト」ではなく、「こういう働き方を実現するための設計図」として考えることが重要です。
「どこでも成果が出せる組織にしたい」という方向性なら、成果で評価する制度とセットで設計する必要があります。「家庭との両立を支援したい」という方向性なら、育児・介護との調和を考慮したルール設計が必要です。
「規程の目的は何か」を明確にすることが、整合性のある規程設計につながります。
動く:労務・法務・ITのクロスファンクションで整備する
テレワーク規程は、人事部門だけで整備するには限界があります。
労務管理の実務を知る人事・労務担当者、法的リスクを確認できる法務担当者、情報セキュリティの実態を知るIT担当者——これら3つの視点を組み合わせることで、「法的に適切で・現場で守られて・セキュアな」規程が作れます。
「人事が一人で抱えない」——テレワーク規程の整備は横断的なプロジェクトとして進めることが重要です。
振り返る:年1回の規程見直しサイクルを設ける
テレワークを取り巻く法令・技術・社員の意識は変化し続けます。「作ったら終わり」ではなく、年に一度は規程の見直しを行うサイクルを設けることが重要です。
「利用率の変化」「社員からの問い合わせ内容」「法改正の有無」を確認し、実態に合った規程を維持していくことが、テレワーク規程の「生きたルール化」につながります。
明日からできる3つのこと
1. 現行テレワーク規程と「実際の運用」のギャップを確認する(30分)
現行のテレワーク規程を読み、「この規程、実際に守られているか?」という視点で確認してみましょう。申請フロー・勤怠管理・セキュリティルールの3点を優先的に確認することをおすすめします。
着手ポイント:「形骸化しているルール」が見つかったら、「廃止か厳格化か」を判断する必要があります。どちらにせよ、放置するより早めの整理が重要です。
2. テレワーク手当・通勤手当の現行制度を確認する(15分)
テレワーク導入に伴う「手当の変化」が、社員の不満の原因になっていないか確認してみましょう。「通勤手当を実費支給から定額に変えたが説明が不十分だった」「在宅勤務手当の支給基準が曖昧」という課題はありませんか。
着手ポイント:手当の変更が就業規則・給与規程に適切に反映されているか確認してください。変更が就業規則に反映されていない場合は、整備が必要です。
3. 情報セキュリティ規程とテレワーク規程の整合性を確認する(30分)
「テレワーク中のデータ取り扱いルール」が情報セキュリティ規程と整合しているか確認してみましょう。「クラウドサービスの利用」「個人PCの業務利用の可否」「VPN接続のルール」が現実と合っているかがポイントです。
着手ポイント:IT部門と30分のミーティングをセットするだけで、「実態との乖離がどこにあるか」が見えてきます。
まとめ
テレワーク規程は「作ったから安心」ではなく、「守られることで初めて機能する」ものです。現場の実態と乖離した規程は、「形だけのルール」として放置され、労務リスクの原因にもなります。
「手段ありきで人事を動かしてはいけない」——規程整備でも同じです。「どんな働き方を実現したいか」という目的から逆算し、現場で守られる実効性のある規程を設計することが重要です。
まず「今の規程と実態のギャップ」を確認することから始めてみてください。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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