
ハイブリッドワーク時代に「会社への帰属意識」はどう育てるか
目次
ハイブリッドワーク時代に「会社への帰属意識」はどう育てるか
「週2〜3日出社になってから、なんとなくバラバラな感じが続いているんです」
ハイブリッドワーク(オフィスとリモートを組み合わせた働き方)を導入した後、こんな悩みを持つ人事の方が増えています。出社率を上げるべきか、それとも今の状態に適応した組織設計に変えるべきか——正解が見えにくいまま、時間だけが過ぎていく。
帰属意識(組織への所属感・自分がここにいることへの意味)は、エンゲージメントや離職率に直結する重要な指標です。この帰属意識が、ハイブリッドワーク下では「自然には生まれにくくなった」という事実に、人事として向き合う必要があります。この記事では、ハイブリッドワーク時代の帰属意識の設計について考えてみたいと思います。
なぜハイブリッドワークで帰属意識が薄れやすいのか
「場の共有」がなくなったことの影響
以前は、毎日同じ場所に集まること自体が「帰属意識」を育てていました。同じ空気を吸い、同じ景色を見て、休憩室で偶然話す——これらの「場の共有」が、「自分たちはひとつのチームだ」という感覚の基盤になっていました。
ハイブリッドワークでは、この「場の共有」が部分的になります。出社する日が人によって違い、全員が揃う機会が減る。「今日のオフィスには誰がいるかわからない」という状態が続くと、組織に対する「自分の居場所」感が薄れていきます。
非公式なつながりが激減した
公式の会議・プロジェクト以外の「非公式なつながり」——廊下での立ち話、ランチの雑談、帰り際の一言——これらは帰属意識を育てる重要な要素でした。
リモートが増えるとこれらが激減し、「仕事上の付き合いだけ」の関係になりやすくなります。組織への帰属意識は「人との関係性」から生まれる側面が大きいため、人間関係が薄くなると、帰属意識も薄くなっていきます。
「自分の仕事が組織全体の何に貢献しているか」が見えにくくなった
オフィスでは、同じ空間にいることで「他の部門が何をやっているか」「会社全体の動向」が自然に入ってきました。リモートが増えると、「自分の仕事の範囲外」の情報が届きにくくなり、「自分は大きな絵の中のどこにいるのか」が見えにくくなります。
「自分の仕事が会社全体に貢献している」という感覚が薄れると、帰属意識も低下します。
よくある失敗パターン
失敗パターン1:「出社率を上げれば解決する」と考える
「帰属意識を高めるために出社頻度を増やす」という判断は、短絡的な場合があります。強制的な出社義務化は、「ここに来たくない」という離職リスクを高める可能性があります。出社率を上げることと、帰属意識を高めることは、同じではありません。
失敗パターン2:全員一律のルールを設定する
「週3日出社義務」という一律ルールが、子育て中の社員、地方在住の社員、身体的な理由でリモートが必要な社員にとっては機能しない、という問題が生まれます。画一的なルールより、「個々の状況に応じた柔軟な設計」が現代的なアプローチです。
失敗パターン3:定期的なイベントだけで帰属意識を維持しようとする
四半期に一度の全社イベントや懇親会で帰属意識を補おうとするパターンです。イベント直後は盛り上がるが、日常が変わらなければ帰属意識は戻ってしまいます。日常の設計こそが重要です。
プロの人事はこう考える——ハイブリッド時代の帰属意識設計
知る:自社の「帰属意識を生む要因」を分析する
まず問うべきは「何が自社の帰属意識を生んできたか」です。
以前、社員が「ここにいたい」と思っていた理由は何か。「仕事の面白さ」「チームの仲間」「使命感・ビジョン」「成長の機会」——それぞれが帰属意識にどれくらい寄与していたかを把握する。
エンゲージメントサーベイに「自分がこの組織の一員であることを誇りに思う」「自分の仕事が組織全体に貢献していると感じる」という設問を入れ、ハイブリッド導入前後の変化を追う。変化の大きい部門や職種を特定することで、「どこで帰属意識が弱まっているか」が見えてきます。
考える:「帰属意識の4つの源泉」を設計する
帰属意識は4つの源泉から生まれると考えられます。それぞれをハイブリッドワーク下でどう設計するかが重要です。
①使命・ビジョンへの共鳴:「この会社・チームが何のためにあるか」への共感。リモートでも伝わるよう、定期的に「なぜ」を語る機会を作る(経営からの語りかけ、チームのビジョン共有)。
②関係性・つながり感:「ここに自分の仲間がいる」という感覚。意図的な非公式コミュニケーションの設計(ランダムペア雑談、チームランチ、社内コミュニティ)。
③成長・貢献の実感:「ここにいることで自分は成長している」「自分の仕事が役に立っている」という感覚。フィードバックの充実、評価での承認、プロジェクトへの意味付け。
④インクルージョン(包摂感):「自分はここに受け入れられている」「自分らしくいられる」という感覚。出社・リモートの違いによる不公平感の解消、多様な働き方への理解。
この4つをバランスよく設計することが、ハイブリッド時代の帰属意識の基盤になります。
動く:「接続の儀式」を日常に埋め込む
帰属意識を高める最もシンプルな実践は、「チームが定期的に繋がる儀式を作ること」です。
毎週月曜日のチームミーティング冒頭に「今週一番楽しみにしていること」を一人ずつ話す(5分)。月1回、プロジェクト外の雑談タイムを設ける。四半期に一度、全員が集まる「チームの振り返りと次へのビジョン共有」の場を持つ。
これらは小さな「接続の儀式」です。儀式というのは「繰り返されること」「誰もが参加すること」「象徴的な意味を持つこと」という要素を持っています。定期的に同じことをすることで、「このチームの一員だ」という感覚が積み上がります。
マネジャーが「チームメンバーの今を知っている」状態も重要です。「△△さん、最近子どもが体調崩したって言ってたけど大丈夫かな」と覚えている上司がいると、帰属意識は育ちます。人事はマネジャーに「部下を個人として知ること」の重要性を伝える役割を担えます。
振り返る:帰属意識と事業成果の連動を追う
帰属意識の高い組織ほど、離職率が低く、生産性が高く、顧客満足度が高い——この相関を自社データで追うことで、帰属意識への投資を経営に語れます。
「帰属意識スコアが〇〇ポイント低い部門は、同期比で離職率が○%高い」「帰属意識を高める施策を導入した後、当該部門のエンゲージメントスコアが○%向上した」という形でデータを持てると、施策への継続的な支援を得やすくなります。
明日からできる3つのこと
1. チームミーティングの冒頭5分に「雑談タイム」を設ける(今週から)
仕事の話ではなく、「今週の一番良かったこと」「最近ハマっていること」などを一人ずつ話す5分を作る。最初は照れくさくても、続けると「チームの人間関係」が育ちます。
2. エンゲージメントサーベイに「帰属意識」を測る設問を追加する(今月中に)
「自分がこの組織の一員であることを誇りに思う」「自分のチームに居場所があると感じる」という設問を追加し、変化を追跡する。
3. マネジャーに「部下の近況をどれくらい知っているか」を確認する(来月中に)
マネジャーに「チームメンバー全員の最近の関心や状態を説明できますか」を問いかける。答えられないメンバーがいれば、そこに帰属意識のリスクがあります。
まとめ
ハイブリッドワーク時代の帰属意識は、「自然には生まれなくなった」ものです。意図的に設計し、日常の中に「接続の機会」を埋め込み、継続的に維持していくことが求められます。
「仲間と学びで、未来を拓く」という言葉があります。帰属意識の根底には「仲間がいる」という感覚があります。物理的な距離が広がった時代だからこそ、「人と人のつながりを設計する人事」の役割が大切になっていると思います。
働く場所が変わっても、「ここにいたい」と思える組織を作ること——それが、ハイブリッド時代の人事に求められることの一つではないでしょうか。
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本記事は、吉田洋介著『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』の思想に基づいて執筆しています。
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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