
アルムナイ採用(出戻り採用)を「縁の続き」として設計する
目次
- なぜアルムナイ採用は難しいのか
- 「一度辞めた人を歓迎する文化」がない
- 退職後の接点が切れている
- 「出戻り」の処遇設計が難しい
- よくある失敗パターン
- 失敗①:「採りたい人だけに声をかける」選択的なアプローチ
- 失敗②:退職時に「ネガティブな対応」をしてしまう
- 失敗③:アルムナイコミュニティを「採用ツール」としてしか見ない
- プロの人事はこう考える
- 知る:退職者とのコンタクト情報を整理する
- 考える:「アルムナイとの関係をどう設計するか」を決める
- 動く:退職者への「ウェルカムバックメッセージ」を発信する
- 振り返る:アルムナイ採用の質を評価する
- 明日からできる3つのこと
- 1. 直近3年の退職者リストを作る(30分)
- 2. 退職面談の「送り出し方」を見直す(30分)
- 3. 「アルムナイ採用を歓迎している」という一文を採用ページに追加することを検討する(15分)
- まとめ
アルムナイ採用(出戻り採用)を「縁の続き」として設計する
「一度辞めた人を採用するのは抵抗がある」——こういう感覚を持つ経営者・人事担当者は、まだ少なくありません。でも近年、アルムナイ(卒業生・OB/OG)採用を積極的に活用する企業が増えています。
アルムナイ採用の最大のメリットは「即戦力性」と「文化適合の確認済み」という点です。一度自社で働いた経験があるため、社風・仕事の進め方・チームの雰囲気を知っています。採用後の定着率も高い傾向があります。
でも「アルムナイ採用を活用したい」と思っても、「退職者との関係を維持する仕組みがない」「誰が退職したか把握していない」という状態では始められません。アルムナイ採用は、「退職時の丁寧な対応」と「退職後の関係維持の仕組み」があって初めて機能します。
この記事では、アルムナイ採用の設計で考えるべきことをお伝えします。
なぜアルムナイ採用は難しいのか
「一度辞めた人を歓迎する文化」がない
「退職は会社への裏切り」という意識が残っている組織では、「退職者が戻ってくることへの心理的抵抗」があります。「一度辞めた人を優遇したら、残った社員が不満を持つのでは」という懸念も出やすい。
でも、「人はキャリアを通じて複数の組織を経験する」時代になっています。「退職は縁の終わりではなく、縁の変化」という発想の転換が、アルムナイ採用を機能させる文化的な基盤になります。
退職後の接点が切れている
アルムナイ採用の前提として、「退職後も関係性が継続していること」が必要です。でも多くの企業では「退職した瞬間に関係が切れる」という状態になっています。
「退職後に連絡する仕組みがない」「退職者のコミュニティがない」「採用担当者が変わって誰が退職したかわからない」——この状態からアルムナイ採用を始めようとしても、「誰に声をかければいいかわからない」という問題が生じます。
「出戻り」の処遇設計が難しい
アルムナイとして戻ってきた場合の「ポジション・給与・評価」をどう設計するかは難しい問いです。「以前のポジションより下のポジションに戻すのか」「他社での経験を評価してポジションを上げるのか」「給与はどう決めるか」——これらの基準がないと、受け入れ時に混乱が生じます。
「アルムナイ採用のための処遇ガイドライン」を事前に作っておくことが重要です。
よくある失敗パターン
失敗①:「採りたい人だけに声をかける」選択的なアプローチ
「優秀な退職者だけに戻ってきてほしい」という発想で動くと、「声をかけられた人とそうでない人の差」が問題になることがあります。
アルムナイコミュニティは「すべての退職者を対象に関係を維持する仕組み」として設計することが基本です。その上で「採用のニーズ」が生じたときに、「コミュニティから声をかける」という流れが自然です。
「採りたいときだけ連絡してくる会社」という印象を与えないことが重要です。
失敗②:退職時に「ネガティブな対応」をしてしまう
退職を告げた社員に対して「なんで今辞めるのか」「会社への裏切りだ」というような対応をしてしまうと、アルムナイとしての関係はそこで終わります。
「退職は一つのライフイベント。縁が変わるだけ」という姿勢で退職を送り出すことが、アルムナイ関係の基盤になります。「退職面談での丁寧な対応」「退職時の手続きのスムーズな進行」「卒業メッセージ」——こうした対応が、「また関わりたい会社」という印象を生みます。
失敗③:アルムナイコミュニティを「採用ツール」としてしか見ない
「アルムナイコミュニティを作ったが、採用のお知らせしか発信しない」という状態では、退職者が「また採用のお知らせか」と感じてコミュニティを離れます。
アルムナイコミュニティは「採用ツール」ではなく「関係維持・価値交換の場」として設計することが重要です。「業界情報の共有」「現役社員との対話会」「退職者同士のネットワーク」——採用以外の価値を提供することで、コミュニティが活性化します。
プロの人事はこう考える
知る:退職者とのコンタクト情報を整理する
アルムナイ採用を始めるための最初のステップは、「過去の退職者の情報を把握すること」です。
「誰が退職したか」「現在どこで働いているか(把握できる範囲で)」「退職時の印象・関係性」——これらを整理することが、アルムナイコミュニティの設計の出発点になります。
まずは「直近3〜5年の退職者リスト」を作ることから始めてみましょう。
考える:「アルムナイとの関係をどう設計するか」を決める
アルムナイとの関係設計には複数の選択肢があります。
・非公式の連絡維持:退職者と個人的に連絡を取り続ける(シンプルだが属人的) ・アルムナイコミュニティ:退職者向けのオンラインコミュニティ・Slackグループ等を運営 ・アルムナイイベント:年1〜2回の退職者向けイベント・勉強会を開催 ・アルムナイポータル:退職者が自社の求人情報を確認できるWebサービス
企業規模・退職者数・HR Tech予算に合わせて、「続けられる仕組み」を選ぶことが重要です。
動く:退職者への「ウェルカムバックメッセージ」を発信する
アルムナイ採用のスタートとして、「過去に退職された方へ、戻ってくることを歓迎しています」というメッセージを発信することが有効です。
会社のWebサイト・採用ページ・SNSで「アルムナイ採用を行っています」と表明するだけでも、「戻ることを検討しているが言い出せなかった退職者」が動くきっかけになります。
「遠回りに見えても、まず関係を広げることが近道」——アルムナイ採用でも、「採用する前に関係をつくること」が先です。
振り返る:アルムナイ採用の質を評価する
アルムナイ採用で入社した方の「定着率・活躍率・内定承諾率」を通常採用と比較することが、アルムナイ採用の価値を数値で確認する方法です。
「アルムナイとして戻ってきた方の定着率が高い」というデータが出れば、アルムナイ採用への投資の根拠になります。「採用の質を数字で語れる人事」としての信頼にもつながります。
明日からできる3つのこと
1. 直近3年の退職者リストを作る(30分)
直近3年間で退職した方の名前・部署・退職時期・現在の状況(わかる範囲で)をまとめたリストを作ってみましょう。「誰が退職したかを把握する」ことが、アルムナイ採用の第一歩です。
着手ポイント:リスト化してみると「意外と優秀な人材が退職していた」「採れそうな人材が複数いる」という気づきが生まれることがあります。
2. 退職面談の「送り出し方」を見直す(30分)
現在の退職面談・手続きのプロセスを確認し、「退職する方に対してポジティブな印象で送り出せているか」を確認してみましょう。「次のキャリアへの応援」のメッセージが伝えられているかがポイントです。
着手ポイント:「退職者に自社のアルムナイとして関わり続けてほしいという意志を伝えているか」も確認してください。
3. 「アルムナイ採用を歓迎している」という一文を採用ページに追加することを検討する(15分)
採用サイト・採用ページに「過去に在籍していた方の再応募を歓迎しています」という一文を追加することを検討してみましょう。この一文があるだけで、「戻ることを検討している退職者」への扉が開きます。
着手ポイント:まず社内の承認が必要か確認し、承認が取れれば早めに追加することをおすすめします。
まとめ
アルムナイ採用は「一度辞めた人を採る」という特別なことではなく、「縁がある人と再び一緒に働く」という自然な採用の形です。
そのためには、「退職時の丁寧な対応」「退職後の関係維持の仕組み」「出戻り歓迎の文化」の3つが揃うことが重要です。「採りたいときだけ連絡する」のではなく、「日頃から縁を大切にする」姿勢が、アルムナイ採用を機能させます。
まず「直近の退職者リストを作ること」から始めてみてください。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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