
次世代の人事リーダーを組織内で育てるために
目次
- なぜ人事リーダーの育成は難しいのか
- 「人事の専門家」と「リーダー」は別の仕事
- 「人事の視野」だけでは経営に貢献できない
- 「ロールモデルが身近にいない」問題
- よくある失敗パターン
- 失敗①:「人事部門内でだけ育てる」
- 失敗②:「知識・スキルの習得」だけに焦点を当てる
- 失敗③:「自分の後継者育成」を後回しにする
- プロの人事はこう考える
- 知る:「次世代に求める人事リーダー像」を定義する
- 考える:「経験の設計」を意図的に行う
- 動く:「1 on 1でのキャリア対話」を継続する
- 振り返る:「育成の成果」を3年スパンで振り返る
- 明日からできる3つのこと
- 1. 「3年後に自分の後継者になり得る人材」を1〜2人考える(15分)
- 2. その候補者に「次の6ヶ月で新しい挑戦機会」を一つ設計する(30分)
- 3. 「自分が人事リーダーとして大切にしていること」を後輩に話す(今週中に)
- まとめ
次世代の人事リーダーを組織内で育てるために
「人事部門の後継者がいない」「自分が退いた後を担える人材が育っていない」——こういう課題を抱える人事責任者・CHROは少なくありません。
人事部門の後継者育成は、経営人材育成と同様に「意図的に設計しないと自然には進まない」課題です。「優秀な担当者がいずれマネジャーになる」という自然な流れに任せていると、「人事の専門性と戦略的思考を持ったリーダー」は育ちにくい。
次世代の人事リーダーには、「人事の専門知識」だけでなく「事業を理解する力」「組織を動かすマネジメント力」「経営と対等に議論できる戦略思考」が求められます。これらは「業務をこなすこと」だけでは身につきません。意図的な経験設計と育成支援が必要です。
この記事では、次世代の人事リーダーを育てるための考え方をお伝えします。
なぜ人事リーダーの育成は難しいのか
「人事の専門家」と「リーダー」は別の仕事
人事の専門家として優秀であることと、「人事リーダー」として機能することは別の能力が必要です。
「採用の専門家として優秀」な担当者が「採用チームのリーダー」になったとき、「チームを動かす・経営と議論する・部門を横断して影響を与える」という新しい課題に直面します。「専門性の高さ」と「リーダーシップの発揮」は、必ずしも比例しません。
「人事専門家をリーダーに育てるための経験設計」が、次世代人事リーダー育成の核心です。
「人事の視野」だけでは経営に貢献できない
次世代の人事リーダーに求められるのは「人事の専門知識」だけでなく、「事業理解・経営数字・組織ダイナミクス」への深い理解です。
「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」という観点から、「事業・組織・人・歴史を深く知ること」が人事リーダーとしての土台です。「人事部門の中だけで育った人事リーダー」は、この「事業を知る経験」が不足することがあります。
「ロールモデルが身近にいない」問題
人事部門の中に「こういう人事リーダーになりたい」というロールモデルがいないと、若手・中堅の人事担当者が「目指すべき方向」を描きにくくなります。
「CHROや人事部長が、どんなキャリアを経てそのポジションに就いたか」「何を大切にして仕事をしているか」——これらを後輩人事担当者に見せることが、ロールモデルとしての影響力になります。
よくある失敗パターン
失敗①:「人事部門内でだけ育てる」
「人事部門内でいろいろな機能を経験させる(採用→労務→育成→組織開発)」というローテーションは、人事の幅広い知識を得るために有効ですが、「事業部門との関わり」がないと「ビジネスを深く理解した人事リーダー」が育ちにくい。
「人事候補者を一定期間、事業部門に出向させる」「HRBPとして特定の事業部門に伴走する経験を与える」という「越境の機会」が、次世代人事リーダーの視野を広げます。
失敗②:「知識・スキルの習得」だけに焦点を当てる
「人事の実践講座」「組織行動論の研修」「データ分析スキル習得」——知識・スキルの習得は重要ですが、「学んだことを実際の人事課題に使う機会がない」と、学びが定着しません。
「学び→実践→振り返り」のサイクルが機能することが、次世代人事リーダーの成長を加速させます。特に「難しい課題・初めての挑戦での経験」が、リーダーシップの実力を伸ばします。
失敗③:「自分の後継者育成」を後回しにする
「今は忙しいから」「あと数年はまだ自分がやる」という理由で後継者育成が後回しになるケースがあります。
でも「後継者育成」には時間がかかります。「5年後に自分の代わりができる人材」を今育て始めなければ、間に合わないことがあります。後継者育成は「今すぐ始めなければ間に合わない長期投資」です。
プロの人事はこう考える
知る:「次世代に求める人事リーダー像」を定義する
「次世代の人事リーダーにどんな役割・能力を求めるか」を明確にすることが育成設計の前提です。
次世代人事リーダーに求められる要素: ・事業・経営への深い理解(経営数字・事業戦略・市場の変化) ・組織を動かすマネジメント力(チーム運営・関係者調整・影響力) ・人事の専門性(採用・育成・評価・労務・組織開発) ・変化に適応する学習力 ・経営と対等に議論できるコミュニケーション力
「自社が次の時代に必要とする人事リーダー像」を経営陣と対話して定義することが重要です。
考える:「経験の設計」を意図的に行う
次世代人事リーダーの育成において最も重要なのは「どんな経験をどの順番で積ませるか」です。
効果的な経験設計の要素: ・「人事責任者の代行」経験(会議のファシリテーション・経営への報告) ・「事業部門との伴走」経験(HRBPとして特定部門の人事課題を一緒に解決) ・「困難なプロジェクトのリード」経験(制度改定・組織再編のプロジェクトマネジメント) ・「社外での学び・発信」経験(コミュニティでの発表・外部との交流)
「業務をこなす経験」から「責任を持ってリードする経験」への移行が、人事リーダーとしての成長を促します。
動く:「1 on 1でのキャリア対話」を継続する
次世代リーダー候補の人事担当者と、月に一度「キャリアの方向性・成長の課題・挑戦したいこと」を対話することが重要です。
「本人が何を目指しているか」「今の経験で不足していると感じることは何か」を定期的に確認し、「意図的な経験の設計」に反映することが、本人の主体的な成長を促します。
「遠回りに見えても、しつこく関わり続けることが近道」——1 on 1の継続的な対話が、次世代リーダー育成の最も効果的な手段の一つです。
振り返る:「育成の成果」を3年スパンで振り返る
次世代人事リーダー候補の「3年前との変化」を確認することが重要です。
「当初の育成計画通りに成長しているか」「想定外の強みが見えてきたか」「追加で経験させるべきことは何か」——この振り返りが、育成計画の調整と、候補者自身へのフィードバックにつながります。
明日からできる3つのこと
1. 「3年後に自分の後継者になり得る人材」を1〜2人考える(15分)
今の人事部門の中で「3〜5年後に自分の後継者・人事のリーダーになり得る人材」を1〜2人考えてみましょう。「誰もいない」という場合は、「採用・育成での手が必要」というサインです。
着手ポイント:「今の業績の高さ」だけでなく「将来の伸びしろ・学習への意欲・リーダーシップの萌芽」という視点で見ることが重要です。
2. その候補者に「次の6ヶ月で新しい挑戦機会」を一つ設計する(30分)
特定した後継候補者に対して、「今の仕事の延長ではない、新しい挑戦の機会」を一つ設計してみましょう。「経営報告の場への同席」「困難なプロジェクトへのアサイン」など、背伸びが必要な経験を与えることが成長を促します。
着手ポイント:「本人の意向を確認してから」アサインすることが重要です。「会社から与えられるだけ」では主体性が育ちにくいです。
3. 「自分が人事リーダーとして大切にしていること」を後輩に話す(今週中に)
自分がどんな考え方・価値観・姿勢で人事の仕事に向き合っているかを、若手・中堅の人事担当者に話す機会を作ってみましょう。「ロールモデルとしての存在感」を見せることが、次世代リーダーの方向性を育てます。
着手ポイント:「完璧な人事リーダーとしての話」ではなく「自分が悩んできたこと・大切にしていること」を正直に話す方が、相手の心に届きます。
まとめ
次世代の人事リーダーを育てることは、「今すぐ始めなければ間に合わない長期投資」です。そのためには「次世代に求める人事リーダー像の定義」「意図的な経験設計」「継続的なキャリア対話」「3年スパンでの育成振り返り」が重要です。
「仲間と学びで、未来を拓く」——次世代の人事リーダーを育てることは、「自分の後継者を作ること」だけでなく、「人事という職能の未来を作ること」でもあります。
まず「3年後の自分の後継者になり得る人材を1人考えること」から始めてみてください。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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