
採用ピッチが弱いと優秀な人ほど逃げていく——伝わる会社の魅力の言語化
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採用ピッチが弱いと優秀な人ほど逃げていく——伝わる会社の魅力の言語化
「うちの会社の魅力を聞かれると、なんかうまく答えられなくて」
採用担当の方からよくこんな話を聞きます。会社の良さは肌感覚でわかっているのに、いざ候補者に話そうとすると言葉が出てこない。あるいは、自分では一生懸命伝えているつもりなのに「なんとなくピンとこない」と辞退されてしまう。こういう経験、一度はあるのではないでしょうか。
採用ピッチというのは、要するに「候補者の心を動かす会社の語り方」です。スペックの羅列ではなく、「なぜこの会社でなければならないか」を候補者に届けることです。この記事では、採用ピッチをどう設計し、どう磨いていくかについて、現場の実情を踏まえながら考えていきたいと思います。
なぜ採用ピッチは難しいのか
「自分たちのことは自分たちが一番わからない」の罠
採用ピッチが弱い組織に共通しているのは、「自分たちの強みを客観的に言語化できていない」ということだと思っています。
これはある意味当然で、自分たちの文化や仕事の面白さというのは、毎日その中にいると「普通のこと」として見えなくなっていきます。他社の人に話してみて初めて「そんなことをやっているんですか、すごいですね」と言われて気づく、というのはよくある話です。
ある製造業のメーカーで採用担当を務める方が、こんな話をしてくれました。「うちは品質管理が徹底されていて、職人気質の人が多い。でもそれって当たり前のことじゃないかと思っていた。候補者に話したら"そこまでこだわっている会社は珍しい"と言われて、初めて価値に気づいた」と。
自分たちの当たり前が、候補者にとっての「選ぶ理由」になっているケースはとても多いのです。でも、それを掘り出せていない。
「全員に刺さる話」は「誰にも刺さらない」
もう一つ、採用ピッチが機能しない原因は「ターゲットが曖昧なまま話している」ことです。
「チャレンジできる環境です」「成長できます」「風通しが良いです」という言葉は、ほとんどの会社のホームページに書かれています。候補者はもうそういった言葉には慣れてしまっていて、聞き流してしまいます。
なぜかというと、それが「誰に向けた言葉なのか」が不明確だからです。転職理由が「専門性を高めたい」という人と「マネジメントに挑戦したい」という人では、響く言葉はまったく異なります。採用ピッチは、ターゲットを絞って設計しないと機能しないのです。
スペックを並べても「なぜここか」は伝わらない
三つ目の原因は、「事実の羅列」に留まっていることです。
「従業員数○名、平均残業○時間、有給取得率○%」という情報は候補者の安心感には貢献しますが、「ここで働きたい」という感情には直結しません。感情を動かすのは、数字よりもストーリーです。
「なぜこの会社を作ったのか」「どんな失敗をして、何を学んできたのか」「今どんな課題に向き合っていて、そこに入ってくれる人に何を期待しているのか」——そういう文脈のある話が、候補者の心に届くのだと思います。
よくある採用ピッチの失敗パターン
失敗パターン1:自社の良いところだけ話す
会社の良い面だけを並べると、候補者に「本当のことを話してもらえていない」という不信感を生むことがあります。「うちの課題はここで、だからこういう人に来てほしい」という率直さが、逆に信頼を生むことがあります。ある人事の方が「弱みも正直に話したら、候補者から"正直に話してくれる会社は珍しい"と言って内定承諾してくれた」という経験を話してくれました。
失敗パターン2:社内の人の言葉が一人歩きしていない
採用担当だけが採用ピッチを考えていて、現場の社員が「うちの会社の魅力」をうまく語れない状態は要注意です。候補者は面接や会社見学で複数の社員と接します。採用担当が語る魅力と現場社員が語る魅力に乖離があると、候補者の混乱と不信を招きます。
失敗パターン3:コンテキストなしにカルチャーを語る
「うちはスピード感があります」「オーナーシップを大切にしています」といった言葉は、それだけ聞いても伝わらないことが多いです。「スピード感がある」とはどういう意味か、具体的なエピソードで語らないと候補者には届きません。
プロの人事はこう考える——採用ピッチの設計ステップ
知る:自社の「当たり前」を棚卸しする
まず始めるべきは、社内の「当たり前」を他社と比較して棚卸しすることです。入社1〜3年の社員に「入社前と入社後で驚いたこと」「他社の友人に話したら羨ましがられること」を聞くと、宝の山が出てきます。
この作業を「採用ピッチの素材収集」と位置づけて、定期的にインタビューを実施している人事担当者がいます。「半年に一度、3〜5名に15分ずつ話を聞くだけで、すごく新鮮な言葉が集まる」とのことです。
また、内定承諾者・辞退者の双方にフィードバックを求めることも有効です。「なぜ承諾してくれたのか」「なぜ辞退したのか」を聞くと、自分たちの採用ピッチのどこが響いていて、どこが機能していないかがわかります。
考える:ターゲット別にメッセージを設計する
収集した素材をもとに、採用ターゲット別のピッチを設計します。ここで大切なのは「全員に刺さる一つのメッセージ」を追求しないことです。
たとえば、「専門性を深めたい20代後半」と「マネジメントに挑戦したい30代前半」では、響くメッセージが違います。前者には「どれだけ専門を深められるか」「先輩の専門性の高さ」が刺さりますし、後者には「どのくらい早くマネジメントを任せてもらえるか」「マネジャーとしての成功事例」が刺さります。
採用要件ごとにピッチのバリエーションを用意しておくと、面接の場でも使いやすくなります。
動く:ピッチを「場面別」に整備する
採用ピッチは一つのシナリオではなく、場面によって使い分けるものです。
- スカウト文・求人票:30秒で「なぜここか」が伝わる短いピッチ
- 一次面接:候補者の関心に合わせた5分程度のピッチ
- カジュアル面談:「まだ検討段階」の候補者向けの対話型ピッチ
- 最終面接・オファー面談:「なぜあなたに来てほしいか」を伝えるパーソナルなピッチ
それぞれの場面で何を伝えるかを整理しておくと、採用担当者によって話す内容がバラバラになることを防げます。
振り返る:数字とフィードバックで磨き続ける
採用ピッチは一度作ったら終わりではなく、継続的に磨くものです。
承諾率・辞退率の変化を追いながら、「どのタイミングで候補者が離脱しているか」「どのメッセージが承諾に貢献しているか」を定点観測します。
「人事の仕事の質の7〜8割は"知る"の質で決まる」とよく言われます。採用ピッチも、候補者をどれだけ知り、自社をどれだけ客観的に知れているかで、その質が決まるのだと思います。
明日からできる3つのこと
1. 入社1〜3年の社員に15分のインタビューをする(今週中に)
「入社前の期待と入社後の現実のギャップ」「他社の友人に話したら驚かれたこと」この2つの質問だけで十分です。録音・メモをとって、使える言葉を拾い出してみてください。素材収集に慣れれば、1〜2ヶ月に一度のルーティンにできます。
2. 現在の求人票・スカウト文を声に出して読んでみる(今日中に)
声に出すと、候補者目線で聞こえ方がよくわかります。「これを読んで、応募したいと思うか」「これを聞いて、会いに行きたいと思うか」を自問してみてください。「どこの会社にも書いてある言葉」だと気づいたら、改善のサインです。
3. 採用担当者以外の社員に「うちの会社の魅力を3つ言って」と聞く(今週中に)
人事担当者と現場社員で「魅力」に対する認識がどう違うかを確認します。乖離が大きければ、ピッチを揃える作業が必要です。現場社員の言葉はリアリティがあるので、そのまま使える素材になることもあります。
まとめ
採用ピッチとは、候補者に「ここで働きたい」と思ってもらうための言語化の技術です。スペックの羅列でも、良いことばかりを並べた売り込みでもなく、「なぜこの会社なのか」を誠実に、具体的に、ターゲットに合わせて届けることが核心だと思っています。
「手段ありきで人事を動かしてはいけない」という言葉があります。採用ピッチも同じで、まず「どんな人に来てほしいか」「なぜこの会社を選んでほしいか」という問いから始めないと、表面的な言葉の磨き直しで終わってしまいます。
自分たちの当たり前を棚卸しし、ターゲットに合わせてメッセージを設計し、継続的に磨いていく。そのプロセス自体が、採用力を根本から高めることになると思っています。
最初は不完全でも大丈夫です。小さなインタビューから始めて、少しずつ言葉を集めていけば、半年後には採用担当者全員が自信を持って語れるピッチができあがっているはずです。
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本記事は、吉田洋介著『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』の思想に基づいて執筆しています。
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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