
ベテランが抜けると組織が止まる——知識の継承をどう仕組みにするか
目次
ベテランが抜けると組織が止まる——知識の継承をどう仕組みにするか
「○○さんが退職したら、あの仕事ができる人がいなくなる」——そんな「属人化リスク」を抱えていませんか。
長年勤めてきたベテラン社員の頭の中には、マニュアルに書かれていない「暗黙知」が蓄積されています。「なぜこの顧客にはこのアプローチが有効か」「このトラブルが起きたとき誰に相談すればいいか」「過去にこういう経緯があってこのルールになっている」——こういった知識は、人が去ることで失われます。
知識の継承を「偶然に頼る」のではなく「仕組みにする」ための考え方を整理します。
「ベテランが抜けると組織が止まる」が起きる構造
暗黙知の性質
人が持つ知識は「形式知(言語化できる知識)」と「暗黙知(言語化しにくい経験・直感・ノウハウ)」に分かれます。マニュアルに書けるのは形式知だけ。「体で覚えた感覚」「状況の読み方」「人間関係の使い方」は、暗黙知として人の中にあります。
暗黙知は「見て覚える・一緒にやってみる」という経験的な継承が必要で、単純なマニュアル化では伝えにくい。
継承する機会が作られていない
「いつか時間ができたら引き継ぎしてもらおう」と思っているうちに、退職・異動のタイミングが来てしまう。「引き継ぎの設計」を日常業務の中に組み込まないと、継承は起きません。
知識継承の4つのアプローチ
アプローチ1:マニュアル・ドキュメント化
「形式知」を言語化する最もシンプルな方法です。「このプロセスをどうやるか」を文書化します。
効果を上げるコツは「書いた人が更新する文化」を作ること。「一度作って終わり」のマニュアルは、すぐに古くなります。「業務をやった人がすぐ更新する」「誰でも更新できる」という設計が重要です。
アプローチ2:ペアリング・OJTによる継承
ベテランと若手を「ペアにして一緒に仕事をする期間」を意図的に設計します。退職・異動の半年〜1年前から「引き継ぎ期間」を設けることで、暗黙知の移転が起きます。
「ただ横で見ているだけ」より、「一緒にやりながら、なぜそうするかを説明してもらう」設計が効果的です。
アプローチ3:「経験を語る場」の設計
社内勉強会・ナレッジシェアの場で、ベテランが「自分の経験・失敗・学び」を語る機会を作ります。「この仕事で一番難しかったこと」「若いころの失敗から学んだこと」という語りは、マニュアルには書けない知識を伝えます。
アプローチ4:ナレッジマネジメントシステムの活用
社内wikiや知識管理ツールを使い、「誰でも検索できる知識のデータベース」を作ります。「あの人に聞けばわかる」という構造を、「検索すれば出てくる」構造に変えていく取り組みです。
人事が「引き継ぎリスク」を把握する
人事として、「引き継ぎリスクの高い人材」を定期的に把握することが重要です。
「重要なナレッジを持っているが、後継者がいない人」「近いうちに退職・異動する可能性のある人」を把握し、早期に継承計画を立てることが、「ベテランが抜けて組織が止まる」リスクを減らします。
「属人化」を完全になくすことの難しさ
「全ての知識を組織に移転する」ことは、現実的には難しいです。個人の経験・センス・人脈は、完全に組織の「資産」にはなりません。
目指すのは「属人化ゼロ」ではなく、「一人が抜けた際の衝撃を小さくする」です。「バックアップになれる人を育てておく」「重要な部分だけでも記録する」という現実的な目標設定が有効です。
おわりに
知識継承は「退職が決まってから始める」のでは遅い。今の職場で「この人しか知らない重要なこと」は何か——そこから始めてみてください。まず1つ「退職リスクのある人の暗黙知」をリストアップするところから。
組織開発と人材育成の実践をもっと深く学びたい方は、人事のプロ実践講座でご一緒しましょう。
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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