制度設計・運用

ピープルマネジメントを管理職任せにしない。人事が設計できる支援の全体像

#1on1#エンゲージメント#採用#評価#研修

ピープルマネジメントを管理職任せにしない。人事が設計できる支援の全体像

「うちの管理職、部下との関係がうまくいっていないみたいなんですよね。でも、何をどう支援すればいいか、正直わからなくて」

この言葉を聞いたとき、私は少しだけ立ち止まって考えます。「管理職の問題」として片付けてしまえば話は早い。でも、それで本当に組織は変わるのでしょうか。ピープルマネジメントという言葉が注目を集める中で、人事はどんな役割を果たせるのか。今日はそのことを、一緒に考えてみたいと思います。

ピープルマネジメントという概念は、「人を管理する」から「人を活かす」へのシフトを象徴する言葉として広まっています。しかし実際の組織の現場では、管理職たちが「どうすれば部下のやる気を引き出せるのか」「どうフィードバックすればいいのか」「どこまで任せて、どこから介入すればいいのか」と日々悩みながら、ほとんどの場合、一人で試行錯誤している。そして人事は「管理職研修をやりました」「1on1の導入をお願いしました」で終わってしまっている。

こうした状況に、漠然とした違和感を持っている中堅人事の方は少なくないのではないでしょうか。「もっと踏み込んだ支援ができるはずなのに」「でも何をどうすればいいかわからない」という感覚。その感覚は正しいと思います。ピープルマネジメントの推進は、管理職個人の努力に任せるものではなく、人事が設計するものです。どんな設計が必要なのか、どんな仕組みが機能するのか。一緒に考えてみたいと思います。


第1章:ピープルマネジメントを正確に理解する

ある管理職が話してくれました。

ある製造業の工場長が話してくれました。「昔は、俺が言った通りにやれば良かった。知識も経験も俺の方が上だったから。でも今は違う。IT系のメンバーは自分より詳しいし、外国人スタッフは文化も違う。何より、テレワークで毎日様子を見られなくなった。正直、どう関わればいいのかわからなくなってきた」

この言葉は、日本の多くの職場で起きていることを端的に表しています。かつての「指示・管理型マネジメント」が機能しなくなった背景には、仕事の複雑性の増大、知識や専門性の分散化、働く場所と時間の多様化、そして価値観の個別化という4つの構造変化があります。

「上司が部下より詳しい」「上司が業務のすべてを把握できる」という前提が崩れたとき、「指示を出して管理する」というアプローチでは組織は機能しません。上司が知らない領域で部下が仕事をしている。上司が見ていない時間・場所で業務が進んでいる。こうした状況で組織を機能させるためには、「人を管理する」ではなく「人を信頼し、引き出し、活かす」マネジメントへの転換が不可欠です。これがピープルマネジメントの本質的な背景です。

ピープルマネジメントの定義:「個別対応の設計技術」

ピープルマネジメントを一言で定義するなら、「個別対応の設計技術」と言えます。部下一人ひとりの強み・弱み・動機・価値観・キャリア志向を深く理解した上で、その人に合った関わり方・仕事の任せ方・フィードバックの仕方・成長支援のアプローチを選択し続けること。それがピープルマネジメントの実践です。

重要なのは「全員に同じ接し方をしない」という点です。従来の公平性の概念は「全員に同じことをする」でしたが、ピープルマネジメントにおける公平性は「一人ひとりに必要なことをする」です。この違いは非常に大きく、管理職がこの転換を腹落ちして実践できるかどうかが、ピープルマネジメントの定着を大きく左右します。

また、ピープルマネジメントは「管理職の性格や人間性の問題」ではありません。これは技術です。学べる技術であり、設計できる仕組みです。だからこそ、人事が介入できる余地がある。管理職の個人的な努力に依存するのではなく、学習と実践を支援するシステムを人事が設計する必要があります。

なぜ今、ピープルマネジメントが日本企業で難しいのか

日本企業でピープルマネジメントが定着しにくい理由は、構造的なものです。第一に、管理職の選抜基準の問題があります。多くの企業では、個人として優秀だった人が管理職に昇格します。しかし、個人の高いパフォーマンスと、他者を活かす能力は必ずしも一致しません。「自分でやった方が早い」という優秀な個人が、部下の成長機会を奪っているケースは珍しくありません。

第二に、管理職の業務過多の問題があります。プレイングマネージャーとして自身の業務もこなしながら、チームマネジメントもこなすことを求められる管理職は、「部下一人ひとりを深く知る」ための時間的余裕がそもそもありません。時間がなければ、どんな良いマネジメント理論を学んでも実践に落とし込めない。

第三に、評価と報酬のひずみがあります。「どれだけ部下を育てたか」「チームの心理的安全性を高めたか」という指標が管理職の評価に組み込まれていないため、ピープルマネジメントへの取り組みが評価につながらない構造になっています。評価されないことは、継続されません。

これらの構造的問題に対して、「管理職研修をやる」「1on1を導入する」だけでは根本的な解決になりません。人事が設計すべきは、研修単体ではなく、こうした構造問題を解消するシステム全体です。


第2章:よくある失敗パターン

失敗パターン①:「管理職に丸投げ」してしまう失敗

人事部門がピープルマネジメントを推進しようとするとき、最も多い失敗が「管理職に丸投げ」パターンです。「ピープルマネジメントが大事です」という方針を打ち出し、管理職向けに研修を実施し、「あとは各管理職がやってください」という形になってしまう。

このアプローチが機能しない理由は明確です。管理職にとって、ピープルマネジメントの実践は「新たな業務の追加」です。ただでさえ忙しい管理職に「これも大事です、やってください」と言うだけでは、実践に至りません。「やりたい気持ちはある。でも時間がない。やり方もよくわからない。うまくいかないと不安だ」という状況で、意欲だけに頼る支援は機能しません。

また、管理職への丸投げは、「管理職の力量の差」をそのまま組織内の格差にします。ピープルマネジメントが得意な管理職のチームは活性化し、苦手な管理職のチームは停滞する。その結果、「配属ガチャ」と呼ばれる現象が起き、どの上司に当たるかで部下のキャリアや成長機会が大きく変わってしまいます。組織としての均質な土台がない状態で、個人の管理職スキルに依存するのは、リスクの高いアプローチです。

さらに深刻なのは、「管理職に丸投げ」することで、人事が組織の実態を把握できなくなることです。「各チームでどんなことが起きているのか」「管理職が何に困っているのか」「部下たちの満足度や不満はどうか」——こうした情報が人事に届かない組織では、問題が深刻化して表面化するまで気づけません。若手の離職が相次ぐ、エンゲージメントサーベイで低スコアが出る、といった結果が出て初めて対処しようとしても、すでに手遅れになっているケースがあります。人事が設計者として機能するためには、丸投げではなく、継続的な関与の仕組みを持つことが必要です。

失敗パターン②:「スキル研修だけ」で終わってしまう失敗

ピープルマネジメントの推進において、次に多い失敗が「スキル研修だけ」パターンです。「コーチングを学ぶ研修」「フィードバックの技術を学ぶ研修」「1on1の実施方法を学ぶ研修」——こうした研修を実施することは悪いことではありません。しかし、研修単体で組織が変わったケースを私は多く知りません。

なぜ研修だけでは変わらないのか。理由は「学ぶこと」と「実践すること」の間に高い壁があるからです。研修で「傾聴が大事」「部下の意見を引き出す質問をする」と学んでも、翌日の現場で実践できるかどうかは別の問題です。実践には「試す機会」「失敗を振り返る機会」「改善のフィードバックを受ける機会」が必要です。こうした学習サイクルを設計しなければ、研修で学んだことは「知識」として頭に残るだけで、「行動」には結びつきません。

また、スキル研修は「個人の変容」を促しますが、組織の構造は変わりません。管理職個人が1on1の重要性を理解しても、毎週1on1を実施する時間的余裕がなければ、実践できません。フィードバックの重要性を学んでも、フィードバックを積極的にしようとすると「部下から嫌われる」リスクを感じるような心理的安全性の低い職場では、実践しにくくなります。スキルの習得だけでなく、スキルを発揮できる環境・仕組みの設計が必要です。

さらに言えば、スキル研修だけのアプローチは「評価と切り離されている」という問題があります。ピープルマネジメントのスキルを学んでも、それが評価に反映されなければ、優先順位は下がります。「頑張っても頑張らなくても評価は同じ」という状況では、日々の業務に忙殺される管理職がピープルマネジメントを継続的に実践する動機が生まれません。研修と評価の連動設計なしには、「研修はやったが、組織は変わらなかった」という結果になりがちです。

失敗パターン③:「人事が仕組みを作らない」ままの失敗

三つ目の失敗パターンは、「人事が仕組みを作らない」ままの状態です。これは少し別の角度から見た失敗で、「やる気はあるが、何を作ればいいかわからない」という状態が続いてしまうことです。

仕組みを作らない状態では、ピープルマネジメントは「意識の高い管理職だけがやること」になります。組織としての取り組みではなく、個人の裁量に依存する取り組みになってしまい、継続性も均質性も担保できません。「あの部署はうまくいっているのに、うちの部署は」という状況が生まれ、組織全体の底上げにはつながりません。

人事が仕組みを作らない理由は、大きく二つあります。一つは「何を作ればいいかわからない」という設計能力の問題です。ピープルマネジメントを支援する仕組みとしてどんなものが有効なのか、どのように設計すればいいのか、が見えないと動けません。もう一つは「経営に説明できない」という問題です。仕組みを作るには人・時間・コストが必要です。それを経営に対して「なぜ必要か」「どんな効果があるか」を数字で語れないと、承認が得られません。「人にとって良いから」だけでは経営を動かせない。経営数字との連動で語る必要があります。

この二つの課題——「設計能力」と「経営との対話力」——を身につけることが、人事がピープルマネジメントの推進者として機能するための核心です。


第3章:人事のプロはどうしているか

工夫①:人事が「ピープルマネジメントの設計者」として機能する方法

ピープルマネジメントを推進する人事のプロは、まず「自分たちが設計者である」という自覚から始めます。管理職の意識改革を促す側ではなく、管理職が実践しやすい環境・仕組みを設計する側に立つ。この視点の転換が、すべての出発点です。

設計者として機能するために必要なのは、まず「現状把握」です。今、各チームでどんなことが起きているのか。管理職は何に困っているのか。部下たちの本音はどこにあるのか。この情報なしに、有効な支援の設計はできません。エンゲージメントサーベイ、パルスサーベイ、管理職インタビュー、部下インタビューなど、複数の情報収集手段を組み合わせて、組織の実態を把握することから始めます。

次に「優先課題の特定」です。「何でも支援する」では焦点が定まりません。今、最も組織のパフォーマンスに影響している課題はどこか。管理職の行動変容が最もインパクトをもたらす領域はどこか。これを見極めることで、設計するべき仕組みの優先順位が見えてきます。

そして「設計と実装」です。優先課題に対して、研修・ツール・プロセス・評価制度の変更など、複数の手段を組み合わせた「システム」を設計します。単一の施策ではなく、互いを補完し合う複数の施策を一体で設計することで、持続的な変容が生まれます。

さらに「効果測定とフィードバック」が重要です。設計した仕組みが機能しているかどうかを継続的に測定し、改善を繰り返す。人事が「実施したら終わり」ではなく、「実施してからが始まり」という姿勢で取り組むことで、組織への実質的な貢献が生まれます。

この設計者としての役割を担うためには、人事自身が「ピープルマネジメントとは何か」「何が機能するか」「なぜ機能するか」を深く理解している必要があります。表面的な知識ではなく、現場での実践と理論の両方を持つことで、現場の実態に合った設計ができます。

工夫②:管理職の1on1を機能させる仕組み設計(質・量・フォロー)

ピープルマネジメントの実践において、1on1は最も重要なツールの一つです。しかし「1on1をやってください」という指示だけでは、形骸化します。人事のプロが設計するのは、1on1の「量・質・フォロー」の三位一体の仕組みです。

「量」の設計とは、1on1の頻度と時間を組織として確保するための仕組みです。「月に1回30分」「隔週で30分」など、組織として最低限の頻度を定め、それが実施されているかどうかをトラッキングします。実施率を見える化するだけで、「やらない」という状況に対するプレッシャーが生まれます。最初から高い頻度を求めすぎると継続が難しくなるため、「まず隔週30分から始める」という段階的な設計が有効です。

「質」の設計とは、1on1の中で何を話すかのガイドラインを作ることです。業務進捗の確認だけで終わらず、「部下の内面・動機・不安・キャリア志向」に触れる対話が生まれるよう、「1on1アジェンダテンプレート」を用意します。ただし、テンプレートは押しつけではなく、あくまでも「対話を深めるためのヒント」として活用します。管理職が自分のスタイルで使えるよう、複数のパターンを用意することが効果的です。

「フォロー」の設計とは、1on1の実施後に人事が管理職を支援する仕組みです。「1on1で部下から出てきた課題に、どう対応すればいいか」「部下が悩んでいると分かったが、どうアプローチすればいいか」——こうした管理職の悩みに対して、人事が相談に乗れる仕組みを作ります。「管理職の管理職」として人事が機能することで、管理職は「1on1を深めたい」という意欲を持ちやすくなります。

また、1on1の質を継続的に向上させるために、「管理職同士の学び合い」の場を設計することも有効です。「自分の1on1がうまくいったパターン」「難しいと感じた状況」を共有するセッションを定期的に実施することで、組織内での学習が蓄積されます。外部の研修よりも、「同じ組織の同じ文化の中で働く仲間の経験」の方が実践への示唆が多いことも少なくありません。

数字で示すと、1on1の実施頻度と部下のエンゲージメントスコアの間には相関があるという調査データが複数あります。週1回1on1を実施しているチームのエンゲージメントスコアは、月1回以下のチームより平均で20〜30%高いとされます。また、1on1の質が高いチームでは離職率が低い傾向があり、優秀な人材の定着コスト削減という観点から経営に提案できる数字になります。

工夫③:ピープルマネジメントの効果を経営数字で語る技術

人事がピープルマネジメントの重要性を経営に訴えるとき、「人のために大事だから」だけでは経営を動かすことはできません。人事のプロは、ピープルマネジメントの効果を経営数字で語る技術を持っています。

まず押さえておくべき数字が「離職コスト」です。一般的に、社員一人が離職したときに企業が負担するコスト(採用費・研修費・生産性低下・引き継ぎコストなど)は、その人の年収の50〜200%とされています。年収400万円の社員が離職した場合、200万〜800万円のコストが発生する計算です。もし年間10人の離職者がいる組織であれば、その離職コストは2,000万〜8,000万円に上ります。ピープルマネジメントの強化によって離職率が2〜3%低下した場合、組織規模によっては数千万円のコスト削減になります。

次に「エンゲージメントと生産性の関係」です。ギャラップ社の調査によると、エンゲージメントが高い社員は低い社員と比較して、生産性が17%高く、欠勤率が41%低く、顧客満足度への貢献が10%高いとされています。エンゲージメントを10%向上させることで、生産性にどれだけの影響があるか——この数字を自社のビジネス規模に当てはめて示すことで、投資対効果を語ることができます。

また「採用コスト削減効果」も重要な指標です。優秀な人材の定着率が高まれば、採用数を減らせます。求人広告費・エージェント費用・採用担当者の工数——こうした採用コストを削減できることを数字で示します。さらに「内部からの管理職登用率の向上」は、外部からの管理職採用コスト(高いポジションほど採用コストも高い)の削減にもつながります。

これらの数字を使って経営に提案するとき、大切なのは「保守的な試算をすること」です。楽観的な数字を並べると「それは理想論」と一蹴されます。「控えめに見積もっても、これだけの効果が期待できる」という誠実な試算が、経営の信頼を得ます。そして「今何もしないことのコスト」を示すことも有効です。「このまま離職率が続いた場合、来年の採用コストと離職コストはXX円になります」という形で、現状維持のコストを可視化することで、投資判断を促します。

人事が経営数字を語る技術を持つことは、ピープルマネジメントの推進だけでなく、人事の組織内での立場を高めることにもつながります。「コストセンター」としての人事から「投資対効果を語れる事業パートナー」としての人事へ——この転換が、経営から信頼される人事への道です。

工夫④:チーム全体の心理的安全性を高める組織的アプローチ

ピープルマネジメントが機能するための最も根本的な条件が「心理的安全性」です。心理的安全性が低い職場では、部下は本音を語らず、管理職は部下を深く知れず、ピープルマネジメントのどんなツールも機能しません。だからこそ、心理的安全性の向上は「ピープルマネジメント支援の土台」として最優先で取り組む必要があります。

ただし「心理的安全性を高めましょう」と言うだけでは、何も変わりません。人事のプロは、組織的アプローチとして設計できる具体的な施策を持っています。

まず「管理職行動の観察と支援」です。心理的安全性を高める行動(発言を受け止める・批判より質問で返す・失敗を学習として扱う・弱さを見せる)をしているかどうかを、人事が観察します。観察の方法は360度評価、部下インタビュー、1on1への同席(許可を得た上で)など複数あります。観察した結果を管理職にフィードバックし、改善をサポートします。

次に「心理的安全性の測定」です。定期的なパルスサーベイに心理的安全性に関する設問を組み込み、チームごとのスコアを見える化します。「発言しても安全だと感じますか」「失敗しても批判されないと感じますか」「本音を話せる環境だと思いますか」——こうした設問で定量的に測定することで、課題のあるチームを早期に発見できます。

「心理的安全性の低さが組織に与えるコスト」も経営数字で語れます。心理的安全性が低い職場では、メンバーが「発言しない」「失敗を隠す」「問題を抱え込む」行動をとります。その結果、課題の発見が遅れ、小さな問題が大きな問題になり、顧客クレームやプロジェクトの失敗につながります。また、「意見を言っても無駄」という無力感は、エンゲージメントの低下と離職につながります。こうした連鎖を断ち切るための投資として、心理的安全性向上の施策を経営に提案できます。

さらに「管理職同士が弱さを見せられる場の設計」も重要です。管理職が「自分も悩んでいる、うまくいかないことがある」と話せる場があることで、職場全体の心理的安全性の文化が醸成されます。人事が「管理職の悩み共有会」「失敗から学ぶケーススタディセッション」などを設計することで、管理職が「弱さを見せることは悪いことではない」という体験を積めます。

心理的安全性が高まった組織では、定量的に「エンゲージメントスコアの向上」「離職率の低下」「アイデアや提案件数の増加」「問題発見の早期化」といった変化が現れます。これらを測定して経営に報告し続けることで、「心理的安全性への投資は組織パフォーマンスへの投資だ」という認識を組織に根付かせることができます。


第4章:明日からできる具体的アクション

アクション①:現状把握のための「ピープルマネジメント実態調査」を実施する

所要時間: 設計1週間・実施2週間・分析1週間、合計約1ヶ月

必要なもの: サーベイツール(Google フォームでも可)、関係者への説明資料、分析用のスプレッドシート

最初の一歩: 今週中に「調査の目的と設問項目の草案」を作る

まず、自分たちの組織でピープルマネジメントが今どのくらい機能しているかを把握しましょう。管理職向けと部下向けで別々の設問を用意し、「1on1の実施頻度と満足度」「フィードバックの質」「心理的安全性のスコア」「マネジャーへの信頼度」を測定します。

設問は5問程度に絞ることで、回答率を高めます。結果を集計したら、チームごとのスコアを比較し、「特に課題があるチーム」と「うまくいっているチーム」を特定します。うまくいっているチームの管理職に話を聞くことで、「組織内の成功事例」を発見できます。外部のベストプラクティスより、自分たちの組織の成功事例の方が、他の管理職への説得力が高いことが多いです。

この調査の結果は、上司への報告資料としても、経営への提案資料としても活用できます。「現状の課題はここにある」「だからこんな施策が必要だ」という提案に、データが根拠を与えます。

アクション②:管理職向け「1on1支援ガイド」を作成・配布する

所要時間: 設計と作成で2〜3週間

必要なもの: 自社の1on1の実態把握データ、他社事例・外部資料、作成ツール(Word・Notion・Canvaなど)

最初の一歩: 今日、自社の「現在の1on1の実態」を確認する(何割の管理職がやっているか、どんな形式か)

管理職が「1on1をやりたいが、何をどう話せばいいかわからない」という状況を解消するためのガイドを作成します。10〜15ページ程度の実践的なガイドで、「なぜ1on1が大事か」「どのくらいの頻度・時間が適切か」「どんな質問をすればいいか(状況別の例)」「うまくいかないときのよくある原因と対処法」を盛り込みます。

重要なのは「型を押しつけない」ことです。「必ずこの通りにやれ」ではなく、「これを参考に、自分のスタイルで試してみてください」というトーンで作成します。管理職が自分の言葉で1on1を実践できるよう、「考え方の軸」を提供することが目的です。

ガイドを配布した後は、「ガイドを使ってみてどうだったか」のフィードバックを1ヶ月後に収集します。ガイド自体も、現場の声を反映して改善し続けることで、組織に根付いたものになっていきます。

アクション③:「ピープルマネジメント効果測定」の仕組みを構築する

所要時間: 設計2週間・初回測定1ヶ月、以降は四半期ごとに継続

必要なもの: サーベイツール、測定項目の定義、経営報告のフォーマット

最初の一歩: 「何を測れば、ピープルマネジメントの効果がわかるか」を今週整理する

ピープルマネジメントへの取り組みが組織に何をもたらしているかを継続的に測定する仕組みを作ります。測定項目の例として、「エンゲージメントスコア(チーム別)」「1on1実施率」「離職率(チーム別)」「管理職への信頼度スコア」「心理的安全性スコア」などが挙げられます。

これらを四半期ごとに測定し、経営に報告します。最初は「ベースライン(初期値)」を把握することが目的です。どのチームが課題があるか、どの指標が弱いかを把握した上で、施策を打ち、3ヶ月後・6ヶ月後に変化を測定します。

経営報告の際は、「この施策を実施したことで、エンゲージメントスコアがXX%向上し、離職率がXX%低下しました。換算すると、採用コストと離職コストとして年間XX万円の削減に相当します」という形で示します。数字で語ることで、人事の取り組みが経営の意思決定に直結する情報になります。

測定の継続が、人事の存在価値を高めます。「人事は何をしているかわからない」という組織からの見方を変えるためにも、効果の見える化は戦略的に重要です。


まとめ

ピープルマネジメントを「管理職個人の問題」として扱い続ける限り、組織は変わりません。優秀な管理職が一人いるチームは機能するが、異動や退職でその管理職がいなくなれば元に戻る。そんな「人依存」の組織から脱するための唯一の方法が、人事が「設計者」として機能することです。

今回お伝えしてきたことは、すべて「人事がやれること」です。現状を把握する調査を設計すること、管理職が実践しやすいガイドを作ること、1on1の量・質・フォローを仕組みとして設計すること、効果を経営数字で語ること、心理的安全性を組織全体で高めるアプローチを設計すること——これらはすべて、人事の役割の中にあります。

大切なのは、「完璧な仕組みを一気に作る」ではなく、「今できることから始める」です。まず一つの調査を実施してみる。まず一つのガイドを作ってみる。まず一つのチームで試してみる。小さな取り組みが積み重なり、組織の実態が変わっていきます。そしてその変化を経営数字で示し続けることで、人事の発言権と信頼が高まっていきます。

ピープルマネジメントの推進は、「良い職場を作るための活動」であると同時に、「事業のパフォーマンスを高めるための投資」です。この二つの視点を持って設計に臨む人事が、経営から信頼され、組織に本質的な価値をもたらす「人事のプロ」です。どこから始めればいいかわからないという方も、まず一歩を踏み出してみてください。その一歩が、組織を変える始まりになります。


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本記事は書籍『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』(吉田洋介著)の思想に準拠して執筆しています。

#人事 #ピープルマネジメント #管理職育成 #組織開発 #人事図書館

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