人事の年間スケジュール。「いつ何をするか」を知っておくと仕事がラクになる
目次
- なぜ人事の仕事は「突然来る」感覚が生まれるのか
- 人事業務は「定例業務」と「非定例業務」の二層構造になっている
- Q1〜Q4、年間を通じた人事の大きなリズム
- 「後手に回る人事」と「先手を打つ人事」の違い
- 年間スケジュールを知らないことで起きる落とし穴
- パターン①:「急に来た」と思っていたことが、実は毎年同じ時期に来ていた
- パターン②:準備期間が短くて、採用・評価・研修の質が下がる
- パターン③:年間を通じた「戦略的な計画」が立てられず、後追いで終わる
- では、人事のプロはどう考えているのか
- 工夫①:年間の「人事カレンダー」を作る
- 工夫②:「定例業務」を先にカレンダーに入れる
- 工夫③:「今月・来月・再来月」の3ヶ月先読みをする習慣を持つ
- 工夫④:経営カレンダーと人事カレンダーを連動させる
- 明日からできる3つのこと
- アクション①:今年の「人事カレンダー」を1枚で作る
- アクション②:来月に来る人事業務を今日リストアップして、必要な準備を確認する
- アクション③:経営カレンダー(決算・事業計画)と自分の人事業務の連動を確認する
- まとめ
人事の年間スケジュール。「いつ何をするか」を知っておくと仕事がラクになる
「人事の仕事って、突然やることが増えて、何がいつ来るのかわからなくて、いつも追われている感じがして……」
あなたも、こんな感覚を覚えたことはありませんか。
人事の仕事に就いてしばらく経ったのに、なぜかいつも後手に回っている。先週は採用の面接調整に追われて、今週は急に「評価シートの締め切りが来週だ」と上司から言われて、来週には「社会保険の手続きをまとめてやらないといけない」ことに気づいて——そういった「常に何かに追われている」感覚が、人事担当者の多くに共通してあります。
これは、あなたの段取りが悪いからでも、仕事の要領が悪いからでもありません。「人事の仕事には、年間を通じた大きなリズムがある」ということを誰も教えてくれないまま、現場に投げ込まれているからです。
採用活動が本格化する時期、評価面談が集中する時期、労務手続きが重なる時期——これらは毎年、ほぼ同じタイミングで繰り返されます。そのリズムを事前に知っているだけで、「突然来た」という感覚が「あ、来た来た、知ってた」に変わります。
今日は、人事の年間スケジュール(人事カレンダー)について、一緒に考えてみたいと思います。「先が見えている人事」と「いつも追われている人事」の差は、才能でも経験年数でもなく、年間の流れを知っているかどうかの差であることが多いのです。
なぜ人事の仕事は「突然来る」感覚が生まれるのか
あるご相談が、今でも印象に残っています。
従業員30名のスタートアップで、一人で人事を担当しているという方からのことでした。「採用も労務も研修も評価も全部一人でやっています。何から手をつけていいかわからないし、相談できる人もいない。毎月何かが急に降ってくる感じで、本当に追われています」と。
初めて一人でその仕事を担うとき、人事業務の「全体像」を教えてもらえることはほとんどありません。先輩から引き継いだとしても「これをやっておいて」という個別タスクを渡されるだけで、「なぜ今これをやるのか」「この後どんな仕事が来るのか」という流れを教えてもらえることは少ない。
だから「突然来た」という感覚になるのです。実際には、突然ではなく、毎年同じ時期に来ているのに。
人事業務は「定例業務」と「非定例業務」の二層構造になっている
まず、人事の仕事全体の構造を整理してみましょう。
人事業務には大きく分けて「定例業務(ルーティン)」と「非定例業務(プロジェクト)」の二種類があります。
定例業務とは、毎年・毎月・毎週ほぼ決まったタイミングで繰り返される業務です。給与計算、社会保険手続き、評価サイクル、採用シーズン対応、研修の企画・実施、年末調整など。これらは「いつ来るか」があらかじめわかっているものです。
非定例業務とは、経営の意思決定や組織の状況変化によって発生するプロジェクト型の仕事です。新しい人事制度の設計、働き方改革への対応、組織再編に伴う人員配置の見直しなど。こちらは予測しにくく、急に発生することもあります。
多くの人事担当者が「突然来た」と感じるのは、実は定例業務のことが多いのです。定例業務さえカレンダーで見通せていれば、「突然来た感」はほぼなくなります。残るのは本当に予測困難な非定例業務だけ——そう整理すると、だいぶ気持ちが楽になります。
Q1〜Q4、年間を通じた人事の大きなリズム
年間の流れを大きく見ると、次のような特徴があります。
**Q1(1〜3月)**は、「締め」と「準備」が重なる最も忙しい時期です。前年度の評価・賞与の確定、昇給昇格の処理、新卒内定者フォロー、4月入社の受け入れ準備、新人研修の企画・手配——これらが一気に集中します。
**Q2(4〜6月)**は、新年度のスタートとともに採用活動が本格化する時期です。新入社員の育成フォロー、目標設定面談のサポート、夏採用の準備、社会保険の算定基礎届の対応など、組織と個人の「動き出し」を支える業務が多くなります。
**Q3(7〜9月)**は、採用の山場と組織診断が重なる時期です。新卒採用の選考・内定出しが集中し、同時に上半期の中間評価や、エンゲージメントサーベイの実施など、組織の「状態確認」をする業務も多くなります。
**Q4(10〜12月)**は、今期の締めと来期準備が本格化する時期です。評価面談、来期の採用・育成計画の策定、年末調整、賞与計算、来期の組織設計——と、「締め」と「仕込み」が同時に走ります。
このリズムを知っているだけで、「今がどの時期で、次に何が来るのか」を把握できます。
「後手に回る人事」と「先手を打つ人事」の違い
後手に回る人事担当者が「大変だ、また急に仕事が来た」と感じているとき、先手を打っている人事担当者は「この時期はこうなるとわかっていたから、先月のうちに準備しておいた」と動いています。
差は才能でも経験年数でもありません。「年間の流れを知っているかどうか」と「その流れに合わせて事前準備をする習慣があるかどうか」——それだけです。
そして、年間の流れを知ることの効果は、業務の効率化だけではありません。「次に何が来るかわかっている」という感覚は、メンタル的な安心感にもつながります。「先が見えている」というのは、仕事の質だけでなく、働く人のコンディションにも大きく影響するのです。
私はよく「人事の仕事の質の7〜8割は"知る"の質で決まる」とお伝えしています。年間の流れを知ること、組織の状態を知ること、現場の声を知ること——この「知る」の積み重ねが、人事の仕事の質を決めます。年間スケジュールを知ることは、その「知る」の最初の一歩です。
年間スケジュールを知らないことで起きる落とし穴
以前、ある人事担当者の方から「なぜかいつもギリギリで、準備が間に合わないことが多い」というお悩みを聞いたことがあります。話を聞いていくと、共通するパターンが見えてきました。
私が現場の方々と話していてよく感じることがあります。ランチ10分の雑談の中に「組織の本当の課題」が詰まっていることがある——そんな感覚です。問題が起きたときに反射的に解決策を探すより、まず状況を様々な角度から見てみることが大切です。年間スケジュールを知らないことで起きる「落とし穴」も、立ち止まって見てみると、いくつかの共通したパターンがあります。
パターン①:「急に来た」と思っていたことが、実は毎年同じ時期に来ていた
最も多い落とし穴がこれです。「急に評価シートの締め切りが来た」「急に社会保険の手続きが来た」「急に内定者フォローのイベントを企画しないといけなくなった」——でも実は、これらは去年も一昨年も同じ時期に来ていたはずです。
「初めての仕事」は当然、事前にわかりません。でも2年目・3年目になっても同じパターンで驚いているとしたら、それは「去年の経験を次年度の計画に活かす」習慣がないということかもしれません。年間スケジュールを記録・更新していく習慣があれば、「去年この時期にこれが来たから、今年は1ヶ月前から準備しよう」という動きができるようになります。
パターン②:準備期間が短くて、採用・評価・研修の質が下がる
「締め切りが来てから動く」人事になると、準備にかけられる時間が必然的に短くなります。
採用であれば、求人票の精度・面接設計・選考基準の整備——これらを急ごしらえするとどうなるか。「とりあえず書いた求人票」「場当たり的な面接」になり、結果として「採用後のミスマッチ」が増えます。評価であれば、評価基準の説明・評価者トレーニング・フィードバックの質——これらも時間をかけてこそ機能します。急ぎすぎた評価運用は、「納得感のない評価」につながり、モチベーションや離職率に影響します。
人事業務の質は、準備にかけた時間と密接に関係しています。「事前に動けているかどうか」が、施策の質の差になって現れるのです。
パターン③:年間を通じた「戦略的な計画」が立てられず、後追いで終わる
最も大きな落とし穴かもしれません。
年間スケジュールが見えていないと、人事担当者の仕事は「来たものを処理する」モードになりがちです。目の前のタスクをこなすことで精一杯で、「組織をどういう状態にしたいのか」「来期の採用戦略はどうするか」「どんな人材育成の仕組みを作りたいのか」——という中長期的な視点に立った仕事がなかなかできなくなります。
「処理型の人事」と「設計型の人事」の差は、年間の流れを見通せているかどうかと深く関係しています。後手に回る仕事が続くと、「自分は本当に価値ある仕事ができているのだろうか」という自信の喪失にもつながりかねません。
年間スケジュールを知ることは、「処理するだけの人事」から「設計する人事」への第一歩でもあります。
では、人事のプロはどう考えているのか
私がリクルートマネジメントソリューションズで500社以上の組織人事を支援してきた中で気づいたことがあります。うまく動いている人事担当者には、年間の見通しを持つための共通した「工夫」があります。
工夫①:年間の「人事カレンダー」を作る
最も基本的で、最も効果的な工夫です。
「人事カレンダー」とは、年間を通じて発生する主な人事業務を月別・週別に整理した一覧です。特別なツールは必要ありません。ExcelでもGoogleスプレッドシートでも、紙の年間カレンダーでも構いません。「いつ・何が・どのくらいの準備期間が必要か」を可視化することが目的です。
以下に、一般的な年間の主な業務の流れをご紹介します。もちろん企業規模や業種によって異なりますが、「大きなリズム」として参考にしてください。
1〜3月(年度末・新年度準備期)
この時期は、人事担当者にとって「締め」と「始まり」が重なる、一年で最も業務が集中する時期です。
まず、前年度の評価フィードバックと昇給昇格の処理があります。評価結果を踏まえた面談を各管理職が実施できるよう、評価シートの確認・集計・調整作業が1月中旬から始まります。昇給昇格の内示、給与改定の事務処理は2月〜3月にかけて行われることが多く、社会保険の標準報酬月額との兼ね合いも確認が必要です。
同時に、新卒内定者のフォロー業務も本格化します。4月入社を控えた内定者に向けた入社前研修の企画、内定者懇親会の開催、入社書類の回収と確認——これらを2〜3月中に完了させておく必要があります。内定辞退を防ぐためのフォロー連絡も、この時期の重要な仕事です。
4月入社の受け入れ準備も並行して進めます。入社手続き書類の準備(雇用保険・社会保険の加入手続き、マイナンバーの収集など)、PCやIDカードなどの備品準備、配属先の調整、メンター・OJT担当の決定——これらを3月中旬までに完了させておくのが理想です。
そして、新人研修の準備と実施。4月入社者向けの研修プログラムを2月中には確定させ、講師の手配、研修場所の確保、資料作成を3月末までに整えます。3〜4月にかけて実施される研修の設計と運営が、この時期の大きな仕事のひとつです。
1〜3月は「一番忙しい時期」と言われますが、それは「これだけ多くの重要業務が重なる時期」だからです。早め早めの準備が、この時期の質を決めます。
4〜6月(新年度スタート・採用ピーク期)
4月は「新年度の始まり」であると同時に、人事担当者には新入社員フォローという大仕事があります。研修後の配属フォロー、メンターとの連携確認、現場への適応状況の把握——「研修で終わり」ではなく、現場に出てからのフォローが新入社員の定着に大きく影響します。特に入社後1〜3ヶ月が「早期離職の高リスク期間」でもあるため、定期的な状態確認が重要です。
目標設定面談のサポートも4〜5月の仕事です。新年度の個人目標と部署目標の接続を確認し、管理職が適切な目標設定面談を実施できるよう、評価制度の運用説明や管理職向けのサポートを行います。
5〜6月は夏採用活動の本格化時期です。新卒採用では、翌年4月入社に向けた採用計画の策定・求人票の作成・採用チャネルの選定が始まります。中途採用では、上半期のニーズを踏まえた採用計画の見直しと、求人広告の展開が本格化します。
労務面では社会保険の算定基礎届(4〜7月報告分)の準備が始まります。4〜6月の給与実績をもとに標準報酬月額を算定し、7月に届け出る作業です。年金事務所への提出期限は毎年7月10日頃——この準備を6月中に始めておくと余裕が生まれます。
7〜9月(夏採用・組織診断期)
7〜8月は新卒採用の山場です。インターンシップの受け入れ、採用説明会の開催、エントリーシートの選考、面接の実施——採用担当者にとっては、一年で最も面接数が多い時期になることもあります。内定出しのタイミングや内定承諾率の確認も、この時期の重要な仕事です。
**中間評価(上半期評価)**も7〜8月に実施する企業が多いです。評価シートの配布、各部門での評価実施、集計・調整の作業を短期間で完了させる必要があります。上半期の評価結果は、下半期の目標修正や動機づけに活用できるため、形式的な運用にならないよう管理職への働きかけも大切です。
エンゲージメントサーベイの実施を7〜9月に設定している企業も増えています。サーベイの目的と設問の確認、実施周知、結果集計・分析・報告まで一連の流れを担うのが人事の仕事です。結果を受けての職場改善アクションの立案まで設計しておくと、サーベイが「やりっぱなし」にならずに済みます。
人材育成計画の見直しも、この時期に行うのが効果的です。上半期の評価結果や現場からのフィードバックをもとに、下半期の育成計画・研修計画を調整します。特に次年度の管理職候補の洗い出しや、育成が必要な層へのアプローチは、早めに動き始めると選択肢が広がります。
10〜12月(来期準備・評価期)
10〜11月は年間評価の本格的な準備期間です。評価シートの配布、評価者(管理職)向けの評価トレーニングの実施、評価面談のスケジュール調整——11〜12月にかけて評価面談が集中する企業が多いため、評価の準備は10月から始めておくのが理想です。
来期の採用計画の策定も10〜11月の重要な仕事です。今期の採用実績の振り返り、来期の事業計画と連動した採用ニーズの確認、採用チャネルや予算の検討——これを経営幹部・現場マネジャーと連携しながら進めます。特に新卒採用は、来期4月入社に向けた選考を年内から開始することも多く、計画の確定を早めることが重要です。
年末調整は、11〜12月の労務担当の最大の山場です。従業員への書類案内・回収、税務署への申告、給与システムへの反映——手作業が多く、ミスが許されない業務であるため、11月初旬からスケジュールを組んで進めます。
賞与計算と支給も12月の重要業務です。評価結果と連動した賞与額の算定、社会保険・税金の計算、支給明細の準備——これらを12月の給与支給日に向けて、11月中から準備を進めます。
来期の組織設計も、この時期から動き始めます。来期の事業方針を踏まえた組織構造の見直し、人員配置の方向性の検討、異動・昇格の候補者の整理——経営陣との対話を重ねながら、1〜3月の意思決定に向けて土台を作ります。
工夫②:「定例業務」を先にカレンダーに入れる
人事カレンダーを作るとき、まず「定例業務」を全部カレンダーに入れてしまうことをお勧めしています。
毎年繰り返す業務を年初(または年度初め)に全部カレンダーに書き込んでしまう。給与計算の締め日、社会保険手続きの提出期限、評価サイクルの節目、採用イベントの時期——これらを先に「ブロック」しておくのです。
そうすることで、「空いている時間」が可視化されます。その「余白」に、プロジェクト型の非定例業務を配置していく——この順序が大切です。
多くの人事担当者が陥りがちなのは、「空いている時間にプロジェクト業務を詰め込もうとする」のではなく、「プロジェクト業務の時間を意図的に確保しておく」という発想の転換です。定例業務を先に押さえることで、「プロジェクト業務のための時間」が守られます。
特に一人人事の場合、「プロジェクト業務(制度設計・組織開発など)」は後回しになりがちです。目の前の事務処理に追われているうちに、「本当はやりたかった仕事」が一年間できなかった——というのは、とてもよく聞くお話です。年初にプロジェクト業務の時間をカレンダーに「先取り」しておくことが、その防止策になります。
また、「余白」を意図的に残しておくことも重要です。人事の仕事には、予測できない緊急対応が必ず発生します。ハラスメント相談への対応、突然の離職者への対処、経営からの急な依頼——これらに対応できる「バッファ」を、あらかじめカレンダーに組み込んでおくことで、緊急対応が入っても全体計画が崩れにくくなります。
工夫③:「今月・来月・再来月」の3ヶ月先読みをする習慣を持つ
年間カレンダーを作るだけでなく、毎月1日(または月末)に「今後3ヶ月で来ること」を確認する習慣を持つことをお勧めしています。
年間カレンダーは「大きな地図」です。でも、日々の仕事は「今いる場所と、次の目的地」を確認することが大切です。毎月1回、「今月・来月・再来月に来る人事業務は何か」を確認し、「今月中に動いておくべき準備は何か」を洗い出す——この習慣が、「先手を打つ人事」につながります。
具体的には、月初に15〜30分だけ「3ヶ月先読みの時間」を設けます。
- 来月末に締め切りがある業務は何か
- 再来月に大きな業務のピークが来るが、今月中に準備すべきことはあるか
- 経営から何か依頼が来そうな予感はあるか(決算期、事業計画の時期など)
これを毎月繰り返すことで、「急に来た」という感覚が少しずつ減っていきます。
特に採用業務は「リードタイム」が長いため、3ヶ月先読みが効果的です。「3ヶ月後に採用ニーズが出る」と予測できれば、今から求人票を整え、採用チャネルを選び、選考フローを設計しておくことができます。「採用が必要になってから動く」より、「採用が必要になる前から動く」ことで、採用の質と速度が大きく変わります。
工夫④:経営カレンダーと人事カレンダーを連動させる
これが、「普通の人事担当者」と「経営から信頼される人事担当者」の最も大きな差かもしれません。
経営には「経営カレンダー」があります。四半期決算、期初・期末の事業計画策定、株主総会、取締役会——こうした経営の節目が、年間を通じて定期的に存在します。
多くの人事担当者は、「人事の仕事のカレンダー」だけを意識して動いています。でも、経営から見ると、人事に期待していることは「自分たちの経営の意思決定を支えること」です。
たとえば、経営が「来期は新規事業を本格化させる」という方針を持っているとしましょう。その意思決定が11月の経営会議で固まるとすると、人事が「来期の採用計画」を12月に動き始めても遅いのです。11月の経営会議の前から「新規事業立ち上げに必要な人材像と採用計画の素案」を持っていけるかどうか——それが「先を読む人事」です。
私が500社以上の組織人事を支援してきた経験から言えば、経営から「人事に相談しよう」と思ってもらえる人事担当者は、決まって「経営の動きを先読みしている」方です。経営数字を見て「このタイミングで採用ニーズが増えるはず」と動いている人事と、「採用依頼が来てから動く」人事では、経営との関係性が根本的に違います。
**「経営数字から発想する」**という視点を持つことが、人事の仕事を「作業」から「戦略的な仕事」に変えていく鍵です。
- 今期の売上が伸びているなら、来期は人員増強のニーズが高まるかもしれない
- 特定の部門の離職率が高いなら、採用コストが増える前にエンゲージメント改善を提案できるかもしれない
- 新規事業の立ち上げが決まったなら、必要な人材の採用・育成計画を早めに動かせるかもしれない
「組織の状態からの発想」と「経営数字からの発想」——この両方を持つことが、人事の仕事の幅を広げます。経営カレンダーと人事カレンダーを連動させることは、その実践的な第一歩です。
明日からできる3つのこと
「年間スケジュールを把握することが大切」とわかっても、「じゃあ、どこから始めたらいいの?」と思う方も多いと思います。難しく考えなくて大丈夫です。明日からできる小さな一歩をご紹介します。
アクション①:今年の「人事カレンダー」を1枚で作る
所要時間:1〜2時間 必要なもの:ExcelかGoogleスプレッドシート(または紙の年間カレンダー) 最初の一歩:1月から12月まで縦軸に並べ、「今年すでに経験した業務」を書き出すことから始める
まず「完璧なカレンダーを作ろう」と思わないことが大切です。今年の1〜3月に実際にやった仕事を思い出して書く。4月以降に来ることがわかっている仕事を書く——それだけで十分な出発点になります。
書き出す項目は「業務名・時期・準備開始時期の目安」の3つだけで十分です。「来年の自分が助かるカレンダー」を作るつもりで、ざっくりでいいので一枚の表にまとめてみてください。
カレンダーが完成したら、それを定期的に更新する習慣をつけましょう。「今年初めてやった仕事」「準備が間に合わなかった仕事」「来年はもっと早く動きたい仕事」——を年末にメモしておくだけで、翌年のカレンダーが精度アップします。
アクション②:来月に来る人事業務を今日リストアップして、必要な準備を確認する
所要時間:30分 必要なもの:自社の就業規則・評価規定・採用スケジュール(あれば) 最初の一歩:「来月、自分がやること・やらなければならないことは何か」を付箋や紙に書き出す
まず、来月のことだけを考えます。「来月末に締め切りがある仕事は何か」「来月に実施する予定の業務は何か」「来月のために今月中に準備しておくべきことは何か」——これを30分で洗い出します。
この作業を月初に毎月繰り返すことが大切です。最初はうまく思い出せないこともあるかもしれません。でも繰り返すうちに、「先読みの精度」が上がっていきます。
特に「今月中に動いておかないと来月間に合わない仕事」を必ず確認してください。採用の求人票作成、評価シートの準備、研修の講師手配——これらはリードタイムが必要です。「来月になってから気づいた」では手遅れになるものも多いので、今月の視点で確認しておく習慣が効果的です。
アクション③:経営カレンダー(決算・事業計画)と自分の人事業務の連動を確認する
所要時間:30分〜1時間 必要なもの:自社の決算スケジュール・経営会議の開催時期(おおよそでも可) 最初の一歩:「自社の決算はいつか?」「事業計画の策定時期はいつか?」を確認する
経営の意思決定の節目を把握した上で、「その直前に人事として何を準備・提案できるか」を考えてみてください。
たとえば、決算前に「部門別の採用コスト・離職コスト」を整理しておく。事業計画の策定時期に合わせて「来期の人員計画の素案」を準備しておく。そうした「経営が必要なタイミングで、人事から必要な情報を提供する」動きが、経営との信頼関係を築いていきます。
最初は「経営カレンダーを把握する」だけで十分です。その上で「人事として何ができるか」を少しずつ考えていきましょう。
まとめ
先が見えると、動き方が変わります。
「突然来た」という感覚でいるとき、私たちは常に「今」に対応することしかできません。でも、「この時期にこれが来るとわかっている」という感覚があるとき、私たちは「今」と「未来」の両方を見ながら動けるようになります。
年間スケジュールを知ることは、「悩まなくていいことは手放し、本当に悩むべきことに時間を使う」ための基盤を作ることです。定例業務のリズムを掴んでしまえば、そこに悩むエネルギーを使わなくてよくなる。その分、「どんな組織を作りたいのか」「この課題にどう向き合うか」という、人事として本当に悩むべき問いに時間とエネルギーを使えるようになります。
年間を見通して動ける人事は、経営からも現場からも信頼されます。「いつも追われているように見える人事」と「余裕を持って動いている人事」の差は、そのほとんどが「先が見えているかどうか」です。
あなたの人事の仕事が、「後手の仕事」から「先手の仕事」へと変わっていく。その第一歩として、今日ご紹介した内容が少しでも役に立てば、嬉しいです。
一人で悩んでいる方へ
人事図書館は、人事の仲間と学びが詰まった場です。 人事の年間スケジュール設計から、計画的に動くための実践まで、仲間と一緒に学べます。
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