面接官トレーニングをやらないと、採用は永遠に「運」で決まる
育成・研修

面接官トレーニングをやらないと、採用は永遠に「運」で決まる

#採用#評価#研修#組織開発#経営参画

面接官トレーニングをやらないと、採用は永遠に「運」で決まる

「また期待した人と違った」「入社してみたらイメージと全然違う」——そんな声が、採用担当者から聞こえてくることはありませんか。採用の質を上げたいのに、何から手をつけたらいいかわからない。そんなモヤモヤを抱えている人事の方に、今日は「面接官トレーニング」という切り口から考えてみたいと思います。

採用の成功は、面接官の力量に大きく左右されます。でも、多くの企業では面接官になる管理職に「採用の方法」をきちんと教えていません。「自分も面接を受けてきたから」「経験があるから大丈夫」という暗黙の前提で、トレーニングなしで面接に臨んでいるのが実態ではないでしょうか。

ある製造業の人事マネージャーが、こんなことを話してくれました。「面接で"いい人だ"と全員が高評価にした候補者を3人採用したら、全員が1年以内に離職した。振り返ってみると、私たちは"感じの良さ"だけを見ていて、"この仕事で活躍できるか"を全然見ていなかった。その後、行動面接法を学んで、過去の具体的な行動エピソードを確認する面接に変えた。採用後2年定着率が58%から84%に上がった。面接官トレーニングへの投資が最も費用対効果の高い採用改善だったと今は思っている」と。

この記事では、面接官トレーニングがなぜ必要なのか、どこから始めればいいのか、そして人事がどう設計・推進すればいいのかについて、一緒に考えていきたいと思います。


なぜ「面接官トレーニング」は後回しにされるのか

面接は誰でもできる、という誤解

面接官トレーニングが後回しにされる最大の理由は、「面接くらい誰でもできる」という誤解にあるのではないかと思っています。

確かに、面接の「形」だけなら誰でもできます。候補者を迎え、質問して、話を聞く。それ自体は特別なスキルがなくてもできてしまう。でも、「その人が入社後に活躍できるかどうか」を見極める面接は、全く別の話です。

「いい人」と「活躍する人」は違います。でもその違いを識別するための訓練を、私たちはできているでしょうか。「雰囲気のいい人を採用してしまう」「面接が上手い人を採用してしまう」という問題は、面接官の見極め力の問題です。この力は、意図的に訓練しなければ身につきません。

人事の仕事の質の7〜8割は「知る」の質で決まるという考え方があります。採用においても、「自社で活躍する人がどんな行動をしているか」を深く知り、「その行動を面接で見極めるにはどんな質問が有効か」を考え続けることが、面接の質を高める根本です。

構造的な問題:採用は人事だけの仕事ではない

面接官トレーニングが難しいのは、面接官が「人事の社員」だけでないことにも理由があります。現場の管理職、事業部長、時には経営陣が面接に加わる。でも彼らは採用のプロではなく、本来の仕事を持ちながら面接に参加しています。

「採用に時間を取られたくない」という思いがある中で、「面接トレーニングを受けてください」と言っても、「そこまでする必要があるの?」となりやすい。だから人事は言い出しにくい。そうして面接のやり方が属人化したまま、採用の質が「運」に左右される状態が続いてしまうんです。

面接官トレーニングを「受けさせるもの」ではなく、「面接官にとっても役に立つもの」として設計することが、参加への抵抗を下げる鍵です。「部下を育てるための質問技術が身につく」「採用した人が定着することで自分の負担も減る」という観点で伝えると、管理職の関心が高まりやすいです。

採用失敗のコストが見えにくい

もう一つの構造的問題は、採用失敗のコストが見えにくいことです。

採用した人が活躍しなかったとき、そのコストは「その人の給与」だけではありません。採用にかかった費用、入社後の教育コスト(OJT担当者の時間)、その人がいることで生じる機会損失、早期退職した場合の再採用コスト——積み上げると、中途採用一人の失敗が数百万円単位のコストになることも珍しくないんです。

「採用一人の失敗コスト:採用費150万円+入社後研修費50万円+1年間の給与500万円+再採用費150万円=約850万円」——この試算を経営に示すことで、「面接官トレーニングへの投資(数十万円)が最も費用対効果の高い採用改善」という議論ができるようになります。

「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という考え方があります。面接官トレーニングを推進するにも、「採用の質が上がると定着率が〇%改善し、再採用コストが年間〇〇万円削減できる」という経営数字で語れると、経営や現場を動かしやすくなります。


よくある面接官トレーニングの失敗パターン

失敗パターン1:「面接のお作法」だけ教えて終わる

よくあるのが、「候補者への禁止事項(不適切な質問)」や「面接の基本的な流れ」だけを伝えて終わるパターンです。これはコンプライアンス研修としては必要ですが、採用の質を上げるためには不十分です。

面接官が本当に身につけたいのは、「この候補者が活躍できるかどうかを、限られた時間の中でどう見極めるか」です。そのための質問技術、観察力、評価の仕方——これらは「お作法」の研修では習得できません。

「禁止されている質問」を知ることと「活躍を予測する質問ができる」は別のスキルです。前者だけ教えて後者を教えないトレーニングは、「採用リスクの回避」にはなっても「採用の質向上」にはなりません。

失敗パターン2:一度やって「完了」にする

面接官トレーニングを一度実施して、それで終わりにしてしまうパターンも多いです。でも面接は、練習なしに技術が維持される仕事ではありません。

外科医が継続的に技術を磨くように、面接官も定期的にフィードバックを受け、自分の面接を振り返る機会が必要です。「半年前にトレーニングを受けた」では、技術は定着しません。継続的な学習の仕組みが必要なんです。

採用シーズン前に一回研修を行い、翌年にはまたゼロから——これでは採用力が組織に蓄積されません。「継続的な学習」が、採用を「運」から「技術」に変えます。

失敗パターン3:現場任せで人事が介在しない

「採用基準を伝えました。あとは現場で面接してください」という状態も危険です。

採用基準があっても、それを面接の場でどう確認するかは別の問題です。人事が面接に同席して観察する、面接後に振り返りの時間を設ける、定期的に面接の品質をチェックする——そうした仕組みがないと、採用の「質の管理」ができません。

「採用基準を渡して終わり」にすると、面接官ごとの解釈が乱れていきます。同じ採用基準を持っていても、「主体性」の解釈が面接官によってバラバラなら、評価の一貫性は保てません。人事が継続的に品質管理を担うことが、採用の質を組織全体で底上げします。


プロの人事はこう考える:面接官トレーニングの設計

まず「何を見極めるか」から始める

面接官トレーニングを設計する前に、まず「この採用で何を見極めたいか」を明確にする必要があります。

職種によって見極めるポイントは違います。営業職なら「お客様との関係構築力」「困難な状況でも諦めない粘り強さ」、エンジニアなら「技術的な問題解決の思考プロセス」「チームでの協働経験」——そういった具体的な評価ポイントを先に整理しておかないと、面接官トレーニングの内容も「汎用的すぎて使えない」ものになってしまいます。

「この職種で活躍している既存社員に共通する行動特性は何か」をインタビューで洗い出し、それを面接で確認するための質問に落とし込む——この作業を経ることで、「自社固有の面接基準」ができます。汎用的なコンピテンシーより、自社の実態から作られた基準の方が、面接官が使いやすいです。

「構造化面接」の考え方を導入する

面接官トレーニングで効果が高いのが、「構造化面接」の考え方の導入です。

構造化面接とは、「誰が面接しても、同じ観点で評価できるように」面接の質問と評価基準を統一する手法です。「あなたが困難な状況を乗り越えた経験を教えてください」という行動面接法(BEI)の質問を使い、過去の具体的な行動から活躍可能性を見極めます。

構造化面接の有効性は多くの研究で示されています。非構造化面接(面接官が自由に質問を決める)より、構造化面接の方が採用後のパフォーマンス予測精度が高いことがわかっています。「STAR(Situation・Task・Action・Result)」のフレームワークで候補者の行動エピソードを深掘りすることで、「面接が上手い人」と「仕事が上手い人」を見分けやすくなります。

これを実践するには、「どんな質問をするか」「回答のどこに注目するか」「どう評価するか(A/B/C評価基準)」を事前に整理しておく必要があります。面接官トレーニングでは、この構造化の考え方とやり方を実践的に練習することが大切です。

ロールプレイで「見る力」を養う

トレーニングで特に効果的なのがロールプレイです。

一人が候補者役、一人が面接官役、もう一人がオブザーバーを担当し、実際に面接練習をする。そしてオブザーバーが「どんな質問をしたか」「候補者の回答のどこに注目していたか」「評価の判断基準は何だったか」をフィードバックする。

「見る力」は、話を聞くだけでは身につきません。実際にやってみて、フィードバックをもらうことで初めて磨かれていきます。ロールプレイは手間がかかりますが、その分効果が高い方法です。

ロールプレイで特に有用なのが「難しい候補者」「強引な自己アピールをする候補者」「必要以上に謙虚な候補者」などリアルな場面設定です。「想定外のケース」を事前に体験することで、実際の面接での対応力が上がります。

面接後の「振り返り」を仕組み化する

面接が終わったら、評価シートを提出して終わりではなく、短い振り返りの時間を設けることをおすすめしたいと思います。

「候補者のどんな回答が評価の根拠になったか」「判断に迷った点はどこか」「他の面接官はどう見たか」——こうした対話をすることで、面接官の評価軸が揃っていき、採用の質が安定してきます。

最初は5〜10分でいい。「面接後に少し話す」という文化を作るだけで、面接の質は大きく変わります。この「デブリーフィング(事後討議)」を積み重ねることで、「なぜそう判断したか」を言語化する習慣が面接官に育ちます。

人事が定期的に面接を「観察」する

面接官の技術を維持・向上させるために、人事が定期的に面接に同席し、観察することも重要です。

これは「チェック」ではなく「サポート」として位置づけることが大切です。「あの面接、候補者が話しやすそうでしたね」「この質問、候補者の本音を引き出せていましたね」というポジティブなフィードバックを中心にしながら、改善点も伝える。そうすると、面接官も「観察される」ことを嫌がらなくなっていきます。

観察データを蓄積することで、「この面接官が採用した人は1年後の定着率が高い」「この面接官が採用した人はパフォーマンスが出やすい」という「面接官の採用力評価」もできるようになります。


明日からできる3つのこと

1. まず「採用基準」の言語化から始める(所要時間:半日〜1日)

面接官トレーニングの前に、「どんな人を採用したいのか」の基準を言語化することから始めましょう。

具体的には、「この職種で活躍している社員の特徴は何か」を、現場の管理職と一緒に洗い出します。「お客様との関係構築が上手い」「問題が起きたときに自分で動ける」「わからないことをすぐ質問できる」——こういった行動レベルで書き出すことが大切です。

抽象的な「コミュニケーション能力」ではなく、「どんな状況でどんな行動ができるか」という具体的な言葉にする。さらに「この行動を確認するための面接質問は何か」「この行動ができている/できていないの判断基準は何か」まで落とし込むことで、面接官が使えるツールになります。管理職と一緒に作ることで、「自分たちの言葉で作ったもの」という当事者意識が生まれ、実際に使われやすくなります。

2. 簡単なロールプレイを1回やってみる(所要時間:2〜3時間)

採用基準が言語化できたら、管理職2〜3人を集めて、簡単なロールプレイをやってみましょう。

「私が候補者役をやります」と人事が申し出て、実際に面接をやってもらう。その後、「どこが気になりましたか」「何が評価の根拠でしたか」を短く話し合う。最初から完璧にやろうとしなくて大丈夫です。「やってみる」ことで初めて、「自分の面接のクセ」に気づけます。

ロールプレイ後の振り返りでは、「どの質問が候補者の本音を引き出せていたか」「どの質問は回答が浅かったか」という視点でフィードバックすることが大切です。「質問の種類(オープン質問とクローズ質問)」「深掘りの仕方("具体的にはどういうことですか"という問い)」という技術的な側面もロールプレイ後に伝えると、面接官の自己改善意欲につながります。

3. 面接後の5分振り返りを1つの採用で試してみる(所要時間:採用のたびに5分)

次の採用から、面接後に5分だけ振り返りの時間を設けてみましょう。

「どの発言が一番印象に残りましたか」「もし採用するとしたら、どこが懸念点ですか」——この2つだけでいい。これを続けることで、面接官の評価軸が徐々に揃ってきます。

5分の振り返りを続けると、「面接官によって同じ候補者の評価がこんなに違う」という事実が見えてきます。その違いから「評価の基準をどう揃えるか」という議論が生まれ、次の面接の質が上がります。最初は「時間がもったいない」と感じることもあるかもしれませんが、採用の質向上という観点での「5分の投資効果」は非常に高いです。


まとめ:採用の質は、面接官の技術で決まる

採用の成功率を上げたいなら、求人票の工夫や母集団の拡大も大切ですが、「面接官の技術」にも目を向けることが重要だと思っています。

「人事の仕事の質の7〜8割は"知る"の質で決まる」という考え方があります。採用においても、「自社で活躍する人材がどんな人か」を深く知り、「その人材を見極めるための面接をどう設計するか」を考え続けることが、採用の質を上げる根本です。

「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という考え方でいえば、面接官トレーニングも「採用失敗コストの削減(経営数字)」と「面接官の力量向上(組織状況)」の両方の観点から経営に提案できる施策です。

面接官トレーニングは、一度やって終わりではありません。継続的に磨き続けることで、採用が「運」ではなく「技術」で決まるようになっていきます。最初から完璧なトレーニングを作ろうとしなくていい。まず小さく試して、少しずつ改善していくことが大切だと思っています。


もっと深く学びたい方へ

人事の採用力・面接力をもっと体系的に磨きたい方には、「人事のプロ実践講座」がお役に立てるかもしれません。採用から評価、組織開発まで、現場で使える知識とスキルを実践的に学べる講座です。

▼ 人事のプロ実践講座(詳細・申込み) 人事図書館の詳細・入会はこちら

人事の仲間とつながりながら、体系的に学べる「人事図書館」へのご参加もお待ちしています。

▼ 人事図書館(詳細・入会申込み) 人事図書館の詳細・入会はこちら

吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

著者の実践講座を見る →
0

人事の知見が集まるコミュニティで、実践知を学びませんか?

人事図書館は、人事のプロフェッショナルが集まる学びのコミュニティです。

関連記事

人事部門の予算をどう設計するか——経営に認められる予算の立て方
育成・研修

人事部門の予算をどう設計するか——経営に認められる予算の立て方

毎年予算が削られて、やりたいことが何もできない

#エンゲージメント#採用#研修
研修に時間が取れない時代の学び方——マイクロラーニングを人事はどう活用するか
育成・研修

研修に時間が取れない時代の学び方——マイクロラーニングを人事はどう活用するか

現場からこんな声が上がると、人事としてはなんとも言えない気持ちになるのではないでしょうか。研修の必要性はわかっている。でも、現場の業務は待ってくれない。研修の欠席が増え、受講しても身が入らない。この悩みを持つ人事の方は多いと思います。

#1on1#評価#研修
ビジョン・ミッションが「ポスターで終わり」にならないために
育成・研修

ビジョン・ミッションが「ポスターで終わり」にならないために

会社にビジョンはあるが、現場で語られていない——こういう状況は珍しくありません。立派なビジョン・ミッション・バリューが策定され、ウェブサイトや社内ポスターに掲示されているのに、日常の業務には全く登場しない。新入社員研修のオリエンテーションで一度だけ紹介される。そんな状態です。

#1on1#採用#評価
経営人材育成が「研修プログラム」だけで終わってしまう理由
育成・研修

経営人材育成が「研修プログラム」だけで終わってしまう理由

次世代の経営人材を育てたい——この課題は、多くの経営者・人事担当者が抱えています。でも経営者候補向けの研修を実施したMBAへの派遣を始めたという施策だけで経営人材育成をやっているという状態になっていませんか。

#研修#組織開発#経営参画