ジョブディスクリプションが書けないと、採用は「感覚頼み」になり続ける
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ジョブディスクリプションが書けないと、採用は「感覚頼み」になり続ける

#採用#評価#組織開発#経営参画#離職防止

ジョブディスクリプションが書けないと、採用は「感覚頼み」になり続ける

「欲しい人材のイメージはあるんだけど、うまく言葉にできない」——採用の現場でよく聞くお悩みです。現場から「こういう人が欲しい」と言われても、それを採用要件に落とし込もうとすると言葉が出てこない。求人票は作れるけど、ジョブディスクリプション(JD)となると途端にハードルが上がる。

でも、ここで立ち止まって考えてみると、「うまく言語化できない」ということは、「何を採用したいのかが実は明確になっていない」ということかもしれません。

ある消費財メーカーの人事担当者が、こんな経験を話してくれました。「マーケティング担当者の採用で、現場から"デジタルマーケができてブランドも理解できてデータ分析もできるコミュニケーション能力の高い人"と言われた。求人を出しても全然書類が通らない。半年かけて7人が最終面接まで進んだが全員不合格。現場に"何が足りなかったか"を聞くと毎回違う答えが返ってきた。要件が統一されていなかった。そこでJDを0から作り直し、"入社6ヶ月以内にECサイトのCVRを5%改善すること"という成果定義から逆算して要件を整理した。翌四半期で2人採用でき、1年後どちらも高業績者になった」と。JDが採用を変えると実感したと話してくれました。

今日は、ジョブディスクリプションの書き方という切り口から、採用の本質について一緒に考えてみたいと思います。


なぜジョブディスクリプションの作成は難しいのか

「仕事の内容」と「求める人物像」を混同してしまう

ジョブディスクリプション(JD)は、その名の通り「ジョブ(仕事)のディスクリプション(説明)」です。つまり、「その仕事で何をするか」「何を期待されているか」「どんな成果を出すべきか」を明文化したものです。

ところが多くの場合、JDと求人票が混同されてしまっています。「営業担当者を募集します。基本給〇〇万円〜。未経験歓迎」という求人票と、「この仕事で何をするのか」「どんな成果を求めるのか」を明記したJDは、本来別のものです。

求人票は「候補者を集めるための広告」であり、JDは「この仕事で何をするかを明確化した内部文書」です。前者がないと候補者が集まらず、後者がないと採用の基準がブレます。「何人面接しても決まらない」という状態は、JDが不明確なことによる選考基準のブレが原因のケースが多いです。

現場の「曖昧なニーズ」をそのまま言語化しようとする

もう一つの難しさは、現場から出てくるニーズが往々にして曖昧なことです。「コミュニケーション能力が高い人」「主体的に動ける人」「ポテンシャルのある人」——こういった表現は、誰もが「大切だ」とは思うけれど、「どういう行動ができる人か」という具体的なイメージにつながらないことが多い。

「現場から"前職で実績のある人"と言われ続けて困った」という経験をした人事担当者の話があります。「実績のある人って、どんな実績がある人なんですか?前職の規模感はどのくらいを想定していますか?」と聞くと、現場も初めて「自分たちが何を求めているかがよくわかっていなかった」と気づく、というケースは珍しくありません。

JDを書く難しさの本質は、「書く技術」の問題ではなく、「何を採用したいかが明確になっていない」という問題であることが多いのだと思っています。

「書いて終わり」になりがちな構造的問題

JDの運用でよくある問題が、「一度書いたら更新されない」という状態です。事業の状況が変わり、求める人材も変わっているのに、JDは3年前のまま——そんなことが起きていませんか。

JDは「生き物」です。事業の成長や変化に合わせて、定期的に見直す必要があります。でも多くの場合、JDを作った時点で「完成」と思われてしまい、更新の仕組みが作られていないことが多いのです。

古いJDを使い続けると、「現在の業務実態と採用要件がズレている」という状態が続き、入社後のミスマッチを引き起こすリスクがあります。JDの有効期限は「直近1〜2年の事業環境が変わっていない場合」という感覚で定期更新することが望ましいです。


よくある失敗パターン

失敗パターン1:スキル・経験の羅列になる

「TOEIC800点以上、マネジメント経験3年以上、○○の資格保有者」——こういったスキルや経験の箇条書きになってしまうJDをよく見かけます。

でもこれは、「どんな人を採用したいか」ではなく、「過去の経験として何を持っている人か」の基準です。大切なのは「この仕事で活躍できるか」であって、「過去に何をしてきたか」だけが採用の軸になってしまうと、本当に活躍できる人を見落とす可能性があります。

「この仕事で3ヶ月後に何ができるようになってほしいか、1年後に何を達成してほしいか」という成果の視点からJDを書き直すことで、「本当に必要なスキル・経験」が浮かび上がってきます。スキルは成果を出すための手段であり、成果定義がJDの出発点です。

失敗パターン2:「何でもできる人」要件になる

「営業力があり、マーケティングも理解でき、プロジェクトマネジメントも得意で、データ分析もでき、グローバルなコミュニケーションも問題なく……」。こんなJDを見ると、「スーパーマンを探しているの?」という感想を持ってしまいます。

要件を詰め込めば詰め込むほど、「当てはまる候補者がいない」問題が起きます。JDは「あれもこれも」ではなく、「この仕事で最も重要な要素に絞る」ことが大切です。

Mustが10個以上あるJDは、採用競争力を大幅に下げます。「10個全部満たす候補者はほぼいない」からです。Mustは3〜5個に絞り、残りをWantやNice to Haveに分類することで、「Mustを満たす候補者の母集団」が増えます。

失敗パターン3:現場と人事が別々に作る

JD作成のもう一つの失敗は、人事だけで作ってしまうか、現場だけに任せてしまうかです。

人事だけで作ると「現場の実態と乖離したJD」になりがちで、現場だけに任せると「採用市場の現実を無視した要件」になりがちです。JDは、人事と現場が対話を通じて一緒に作るものです。

「現場は欲しい人材を知っているが、採用市場の現実を知らない。人事は採用市場を知っているが、業務の実態を深くは知らない」という補完関係を活かして、対話で作るJDが最も精度の高いものになります。


プロの人事はこう考える:良いJDの設計

「この仕事でどんな成果を出してほしいか」から始める

良いJDを書くための出発点は、「この仕事で何をしてほしいか」ではなく、「この仕事でどんな成果を出してほしいか」です。

「営業活動をしてほしい」ではなく、「入社1年以内に○社のアカウントを担当し、既存顧客の継続率を○%以上に維持してほしい」。「プロジェクトマネジメントをしてほしい」ではなく、「3ヶ月以内に△のシステムをリリースし、ユーザー部門からの満足度を□点以上にしてほしい」。

成果から逆算することで、「その成果を出すためにどんな力が必要か」という採用要件が自然と導き出せます。また、「成果が明確なJD」は候補者にも伝わりやすく、「自分にできるかどうか」の判断材料になります。ミスマッチを採用前に防ぐためにも、成果定義の明確化は重要です。

「Must」「Want」「Nice to Have」を分ける

JDの要件を整理する際には、「絶対に必要なもの(Must)」「あると望ましいもの(Want)」「あればなおいいもの(Nice to Have)」の3段階に分けることをおすすめします。

Mustは「これがなければ候補者として検討しない」という要件。Wantは「採用の優先度を上げる要件」。Nice to Haveは「加点要素」です。この区分をすることで、「何が本当に必要か」の優先順位が明確になり、面接官の評価軸も揃ってきます。

「人事の仕事の質の7〜8割は"知る"の質で決まる」という考え方があります。JD作成においても、「自社の事業・組織・仕事の実態をどれだけ深く知っているか」が、JDの質を左右します。現場とのヒアリングで「この要件はMustかWantか」を一緒に議論することが、JDの質を高めます。

現場と対話しながら「翻訳する」

JD作成で人事が担う最も重要な役割は、現場から出てくる「曖昧なニーズ」を、「具体的な行動・成果・スキル要件」に翻訳することです。

「主体的に動ける人が欲しい」と言われたら、「主体的に動くって、どんな場面でどんな行動のことですか?」と掘り下げる。「前職でうまくいった事例を一つ教えてもらえますか?その人のどんなところが特に良かったですか?」と聞く。

こうして現場の言葉を深掘りすることで、「本当に求めているもの」が見えてきます。この翻訳作業こそが、人事の仕事の核心の一つです。翻訳がうまくできると、面接質問の設計にも活きます。「主体性」を「上司への相談なしに新しい取り組みを提案した経験がありますか?」という質問に変換できれば、面接で確認できる要件になります。

定期的に見直す仕組みを作る

JDは作って終わりではなく、定期的に見直す仕組みが必要です。

半年に一度、現場の管理職と「このJDは今の事業・組織の状況に合っているか」を確認する。実際に採用した人が活躍しているかを振り返り、「採用基準は正しかったか」を検証する。こうして継続的にJDを改善していくことで、採用の精度が上がっていきます。

「採用後1年で高評価の人材に共通していた特徴」と「採用後1年で低評価または離職した人材に共通していた特徴」を比較することで、「どの要件が活躍を予測する力があるか」が見えてきます。このフィードバックをJDに反映することが、採用の精度を高める継続改善の核心です。


明日からできる3つのこと

1. 現場の管理職と「活躍している社員の特徴」を30分話し合う(所要時間:30〜60分)

JDを書く前に、まず「この職種で今活躍している社員は、どんな行動をしているか」を現場の管理職と話し合いましょう。

「〇〇さんの仕事ぶりで、特に良いと思う部分はどんなところですか?」「その人を採用した時の面接で、何が決め手でしたか?」——こういった対話から、「本当に必要な要件」が浮かび上がってきます。これがJD作成の最良のインプットになります。

話し合いの後、「活躍している社員に共通する行動パターン」をリストアップしてみましょう。このリストが、JDの要件の原材料になります。「そういえばあの人もこの行動をしていた」という発見が、「本当に大事な要件」を教えてくれます。

2. 要件を「Must/Want/Nice to Have」の3段階に分類する(所要時間:1〜2時間)

洗い出した要件を3段階に分類してみましょう。「これがなければ話にならない」がMust、「あると嬉しいけど、なくても選考は進む」がWant、「あればさらに評価が上がる」がNice to Haveです。

Mustは多くても3〜5個に絞ることをおすすめします。Mustが多すぎると、「Mustをすべて満たす候補者がいない」という状態になりがちです。

分類したら、現場の管理職に「このMustの設定に同意できますか?もしMustを3個に絞るとしたら何を選びますか?」と聞いてみましょう。この問いが、「本当に必要なもの」と「あれば嬉しいもの」を分ける対話を生みます。3個への絞り込みは難しいですが、その難しさの中に「本当に大切なもの」が見えてきます。

3. 既存のJDを一つ見直してみる(所要時間:1〜2時間)

すでにJDがある場合は、一つ選んで見直してみましょう。「この要件は本当にMustか?」「成果が書かれているか?」「現場の実態に合っているか?」という視点で読み返すと、改善点が見つかるはずです。

見直しの際は、「このJDを元に採用した人が1年後に活躍しているか」という結果を見ながら評価することが重要です。「活躍している人が共通して持っていたがJDに書かれていなかった要件」や「JDには書いてあったが、活躍と相関がなかった要件」が見えてくれば、JDを改訂する根拠が得られます。


まとめ:JDは「採用戦略の言語化」である

ジョブディスクリプションは、単なる採用のための書類ではありません。「この仕事で何を実現したいか」「そのためにどんな人材が必要か」という採用戦略の言語化です。

「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という視点から見ると、JDも「事業の目標達成に必要な人材はどんな人か」という経営的な問いから出発するものであるべきです。「事業が達成したい成果」→「その成果に必要な人材要件」→「採用基準・面接設計」という逆算の流れが、採用の精度を高めます。

最初から完璧なJDを作ろうとしなくていい。まず「活躍している社員の特徴を言葉にする」ところから始めてみましょう。その一歩が、採用を「感覚頼み」から「設計で決まるもの」に変えていく第一歩だと思っています。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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