事業計画と人員計画がずれていると、必ずどこかで「人材不足」が爆発する
経営参画・数字

事業計画と人員計画がずれていると、必ずどこかで「人材不足」が爆発する

#採用#評価#組織開発#経営参画

事業計画と人員計画がずれていると、必ずどこかで「人材不足」が爆発する

「急に採用が必要になったと言われても、すぐには対応できない」「事業部が想定していた人数と、実際に確保できた人数が全然違う」「どの部署に何人採用するかは、経営が決めることだと思っていた」——事業計画と人員計画の連動について、こういったモヤモヤを感じている人事の方は多いのではないでしょうか。

人事が「採用の実務」をこなしているだけでは、事業成長に必要な人材を適切なタイミングで確保することはできません。事業計画から逆算した人員計画を作り、それを採用・異動・育成の計画につなげることが、「経営に貢献できる人事」の仕事です。

ある流通業の人事部長が、こんな経験を話してくれました。「新規事業の立ち上げを経営から告げられた2ヶ月後に、『その部門に5人必要です』と言われた。中途採用で動いても、実際に入社できたのはそこから5ヶ月後で、立ち上げに全然間に合わなかった。経営から『人事はなぜ早く動かなかったのか』と言われたが、私は『なぜ事業計画を事前に教えてくれなかったのか』と思っていた。その後、事業計画の策定会議に人事も参加させてもらうように経営に提案したら、前倒しで採用を動かせるようになり、人材不足の爆発はなくなった」と。

今日は、事業計画と人員計画の連動の考え方と、人事が実践できるアプローチについて一緒に考えてみたいと思います。


「事業計画と人員計画のズレ」が起きる理由

人員計画が「現状維持」から出発している

人員計画でよくある問題は、「今の人数をベースに増減を考える」という現状維持の発想から出発してしまうことです。

「今年は10人採用したから、来年も10人くらい」「あの部署は退職者が出たから、補充で2人採用」——こういった発想では、「事業成長に必要な人員を確保する」という目的から外れてしまいます。

「来期の事業目標を達成するために、どんな人材が何人必要か」という問いから出発することが、事業計画と連動した人員計画の作り方です。「現状+増減」という発想と「目標から逆算」という発想では、同じ数字になることがあっても、根拠と精度が全く異なります。後者の方が「なぜこの採用数が必要か」を経営に説明しやすくなります。

「採用リードタイム」が計算されていない

「急に採用が必要になった」という問題の多くは、「採用には時間がかかる」という現実が計画に組み込まれていないことが原因です。

中途採用の平均的なリードタイムは、採用開始から入社まで3〜6ヶ月程度。管理職や専門性の高い人材(エンジニア・マーケター・財務系専門職など)は半年〜1年かかることも珍しくありません。「来月から必要だから今月採用を始める」では間に合わないのです。

「事業計画を立てるタイミングで人員計画も立て、必要な採用を6〜12ヶ月前から始める」という逆算が必要です。採用リードタイムの実績値(職種別・採用チャネル別)を自社で把握しておくことが、この逆算の精度を上げます。

人事が事業計画策定プロセスに入っていない

多くの企業では、事業計画(売上目標・投資計画など)は経営・事業部門が作り、そこから人件費予算が決まったところで「じゃあ人事、この人数を採用してください」となります。

でも本来、「この事業計画を実現するためにどんな人材が何人必要か」という人員計画は、事業計画策定と同時並行で検討されるべきです。人事が事業計画のプロセスに入れていないと、「後から無理な採用目標を出される」問題が起きやすくなります。

「人事が事業計画の会議に入れてもらう」という小さな変化が、「人材不足の爆発を前倒しで防ぐ」という大きな効果につながります。「人事は採用を動かすのではなく、事業計画を一緒に作る立場になる」という意識の転換が必要です。


よくある失敗パターン

失敗パターン1:採用計画が「事業部の要望」の集合になる

各事業部から「〇人必要です」という要望を集めて合算したものが採用計画になるパターンです。

各事業部は「自分たちの仕事を増やしたい」という視点で人員要望を出すため、合算すると会社全体の人件費予算を超えることが多い。また、「本当に事業成長に必要か」という検証がされないまま要望が通ってしまうリスクもあります。

人事の役割は「要望の集計係」ではなく、「各部署の要望を事業計画の文脈で評価し、全社最適の人員計画を作る調整役」です。「この部署の要望は事業計画の何を実現するためか」という問いを各事業部長に向けることで、「本当に必要な人員」と「念のため確保したい人員」を仕分けできます。

失敗パターン2:人員計画に「育成・異動」の視点がない

採用だけが人員確保の手段と思っていると、「採用できなかったら人材不足」という状態になりがちです。

「既存社員の育成・異動・配置転換」も人員確保の重要な手段です。「この部署が必要としている能力を持っている人材が、他の部署にいないか」「今の担当業務から離れて新しい役割を担える社員がいないか」という視点が人員計画には必要です。

採用より育成・異動の方がコストが低く、入社後の定着率も高い傾向があります。「採用しかない」という発想から「採用・育成・異動を組み合わせる」という発想への転換が、人員確保の選択肢を広げます。

失敗パターン3:計画を作って終わり、修正しない

年初に人員計画を作って、その後は修正しない——事業環境が変化しても計画が変わらないパターンです。

事業計画は期中に修正されることがあります。新規事業の立ち上げ遅延、想定外の組織変更、主要顧客の喪失——こういった「計画外の変化」に人員計画が追いついていないと、「人材が過剰な部署と不足する部署が同時に存在する」という非効率が生じます。四半期ごとに「計画通り進んでいるか」を確認・修正するサイクルが必要です。


プロの人事はこう考える:事業計画と人員計画の連動

「事業計画を読む力」を磨く

人員計画を事業計画と連動させるためには、人事が「事業計画を読む力」を持つことが必要です。

売上目標が〇%増なら、営業は何人必要か(生産性の試算)。新規事業を立ち上げるなら、どんなスキルセットを持つ人材が必要か(スキル要件の特定)。既存事業の自動化が進むなら、どの職種の人数が減り、どの職種が増えるか(人員構成の変化予測)——こういった「事業計画から人員への影響」を読み解く力が人事に求められます。

財務・事業計画の基本知識(売上・粗利・固定費・変動費・損益分岐点)を持っていると、「事業計画から人員計画への翻訳」がしやすくなります。決算書や事業計画書を読む習慣を持つことが、人事がこの翻訳役を担うための基礎です。

「供給の視点」も持つ

人員計画には「需要(事業に必要な人材)」だけでなく、「供給(どうやって人材を確保するか)」の視点も必要です。

  • 社外採用(新卒・中途・業務委託・副業人材)
  • 社内育成(既存社員のスキルアップ・資格取得支援)
  • 社内異動(他部署からの配置転換・ジョブポスティング)
  • 外部連携(派遣・業務委託・アウトソーシング)

これらの「供給オプション」を組み合わせて人員確保を設計することが、戦略的な人員計画です。採用一本に頼らず「複数の供給オプションを常に持つ」という設計が、突発的な人材ニーズへの対応力を高めます。

事業部と「共同で人員計画を作る」プロセスを作る

人員計画は人事が「作って事業部に提示する」のではなく、「事業部と一緒に作る」プロセスを設計することをおすすめします。

「来期の事業計画を達成するために、どんな人材が必要で、いつ頃から必要になりますか?今の組織で足りているところ・足りていないところを一緒に整理しませんか?」という問いを事業部門長に向けて、対話しながら計画を作る。

このプロセスを通じて、「事業部が必要としているものを人事が深く理解する」と同時に、「採用の現実(時間がかかること・市場の状況)を事業部が理解する」という相互理解が生まれます。この相互理解が、「急に採用が必要になった」という問題を減らします。


明日からできる3つのこと

1. 「採用リードタイム」を過去の実績から計算する(所要時間:1〜2時間)

過去1〜2年の採用実績から、「採用開始から入社まで平均何ヶ月かかっているか」を職種別・採用チャネル別に計算してみましょう。「採用リードタイムの実績値」を持っておくことで、「いつ採用を開始すれば、いつ入社できるか」を事業部に伝えられるようになります。

採用リードタイムの実績値は、「来期の人員計画を何ヶ月前に立て始めるべきか」の根拠にもなります。「最長の採用リードタイムが6ヶ月なら、来期4月入社が必要な人材は前年10月には採用を開始している必要がある」という形で、経営に説明できます。

2. 来期の事業部長3人に「来期の人員ニーズ」をヒアリングする(所要時間:各30〜60分)

「来期の事業計画を達成するために、人材面でどんな変化が必要だと思っていますか?」「いつ頃どんな人材が何人必要になりそうですか?」「今の組織の中で、来期に向けて育成すべきだと思っている人材はいますか?」——来期の計画策定前に、事業部長に聞いてみましょう。

この情報が、先手を打った採用計画・育成計画につながります。ヒアリングした内容を「人員ニーズの整理表(職種・人数・必要時期・優先度)」としてまとめて事業部長に確認することで、認識のズレを早期に解消できます。

3. 「事業計画と人員計画を連動させた資料」を1枚作ってみる(所要時間:2〜3時間)

来期の事業目標(売上・利益・新規事業など)と、それを達成するために必要な人材(採用・育成・異動の計画)を1ページにまとめた資料を試作してみましょう。完璧でなくていい。「人事が事業計画から人員計画を考えようとしている」というシグナルを経営に示すことが第一歩です。

この資料を持って経営会議に参加することで、「人事が採用の実務担当者」から「経営の人材戦略パートナー」という見られ方へ変化するきっかけになります。


まとめ:「人員計画の共同設計」が経営パートナーへの道

事業計画と人員計画を連動させることは、「人事が経営の一部になる」ための重要な一歩です。

「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という言葉があります。人員計画の策定は、この「両利き」を実践する場そのものです。「事業の成長に何人が必要か(経営数字から)」と「今の組織にいる人材をどう活かせるか(組織状況から)」の両方を見ながら計画を作る。

採用リードタイムの把握・事業部長とのヒアリング・四半期ごとの計画修正——この三つを習慣にするだけで、「人材不足の爆発」を前倒しで防ぐ人事の力が育ちます。最初から完璧な連動はできません。まず「採用を決める前に、事業部長と話す機会を作る」という小さな変化から始めてみてください。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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