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ウェルビーイング経営は「社員を甘やかす話」ではない

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ウェルビーイング経営は「社員を甘やかす話」ではない

「ウェルビーイングを高めましょう」と言うと、「社員を甘やかすのか?」「仕事の厳しさを軽視している」という反応が返ってくることがあります。でも、ウェルビーイング経営の本質は「社員を甘やかすこと」ではありません。

「社員が心身ともに健康で、仕事に意味を見出し、力を発揮できる状態を作ることが、事業の持続的成長につながる」——これがウェルビーイング経営の考え方です。今日は、ウェルビーイング経営の本質と、人事がどう取り組めばいいかについて一緒に考えてみたいと思います。


ウェルビーイングとは何か

「幸せ」だけを意味しない

ウェルビーイング(Well-being)は日本語で「幸福」「健康」「幸福感」などと訳されますが、単に「幸せな気分」を意味するわけではありません。

WHO(世界保健機関)の定義では、ウェルビーイングは「身体的・精神的・社会的に良好な状態」とされています。「仕事がつらい」という状態もウェルビーイングの低下ですが、「仕事に意味を見出せず、ただこなしているだけ」という状態も同様です。

一方で、「仕事は大変だが、意味があって、仲間と一緒に乗り越えている」という状態はウェルビーイングが高い状態と言えます。ウェルビーイング経営は「楽な仕事を提供する」ことではなく、「困難でも意味を感じながら力を発揮できる状態を作る」ことです。

ウェルビーイングと事業成果の関係

ウェルビーイングと事業成果の関係は、様々な研究で示されています。

ウェルビーイングが高い社員は、創造性・生産性・協働力が高く、欠勤・離職が少ない傾向があります。ウェルビーイングへの投資は「社員を甘やかすコスト」ではなく、「生産性・定着率を高めるための投資」として捉えられます。

「施策の効果は売上伸長・コスト削減・リスク低減の3つで整理する」という考え方があります。ウェルビーイング施策も「生産性向上による売上伸長」「離職率低下による採用コスト削減」「メンタル不調の予防によるリスク低減」として整理できます。


よくある誤解と失敗パターン

誤解1:「福利厚生を充実させること」がウェルビーイング

「社食を豪華にした」「無料のジムを設けた」——これらは悪くありませんが、これだけでウェルビーイングが高まるわけではありません。

「仕事に意味を見出せない」「上司が信頼できない」「キャリアが見えない」という状態で、どれだけ福利厚生を充実させても、ウェルビーイングの向上には限界があります。

誤解2:「ウェルビーイングを高める」イベントで完了

「ウェルビーイング研修を実施しました」「マインドフルネスの時間を設けました」——これらも一定の効果はありますが、「イベントで完了」にしてしまうパターンは効果が限定的です。

ウェルビーイングは「文化」です。日常的な仕事の中で、「この仕事に意味がある」「仲間を信頼できる」「成長できている」という感覚が積み重なることで高まります。

失敗パターン:マネージャーが変わらないと何も変わらない

ウェルビーイング向上の施策をいくら打っても、「現場のマネージャーのマネジメントスタイルが問題」であれば、効果は限定的です。

マネージャーが「部下の声を聞く」「部下の成長を支援する」「心理的安全性を作る」——こういった行動を取らなければ、組織全体のウェルビーイングは向上しません。ウェルビーイング経営の成否は、マネージャーの力量と姿勢に大きく依存します。


プロの人事はこう考える:ウェルビーイング経営の実践

「ウェルビーイングの状態」を測定する

ウェルビーイング経営を実践する第一歩は、「現在の社員のウェルビーイングの状態を把握すること」です。

エンゲージメントサーベイに「仕事の意味を感じているか」「職場の人間関係はどうか」「プライベートと仕事のバランスはとれているか」「将来のキャリアについて見通しがあるか」という設問を組み込む。これを定期的に計測することで、「どの要素が低いか」「どの部署が課題か」が見えてきます。

「仕事の意味」を語れる文化を作る

ウェルビーイング向上で最も効果が高い取り組みの一つが、「仕事の意味・目的を語れる機会を増やすこと」です。

「この仕事が誰のどんな課題を解決しているか」「この仕事が事業・社会にどんな価値を生み出しているか」——これを上司が語る機会(チームミーティング、1on1)を意識的に作ることが、「仕事の意味」を感じられる環境を育てます。

「すべての組織に人事のプロを」「誰も犠牲にならない組織を当たり前に」という言葉があります。ウェルビーイング経営は、この理念を体現する取り組みです。

マネージャーがウェルビーイングの主役になれる支援をする

ウェルビーイング向上の主役はマネージャーです。人事の役割は「マネージャーがウェルビーイングを高める行動を取れるように支援すること」です。

「部下の状態を定期的に確認する1on1の設計」「部下の変化に気づくためのサインの共有」「部下の自律性を尊重しながら支援するマネジメントスタイルの研修」——こういった支援が、マネージャーを「ウェルビーイングの主役」にします。


明日からできる3つのこと

1. サーベイに「ウェルビーイング関連の設問」を加える(所要時間:設問設計に1〜2時間)

次のエンゲージメントサーベイに「仕事に意味を感じているか(0〜10点で)」「プライベートと仕事のバランスが取れているか」という設問を加えてみましょう。これだけで「ウェルビーイングの現状把握」が始まります。

2. 管理職に「部下の状態確認の問いかけ」を共有する(所要時間:1時間)

「最近、調子はどうですか?」「今の仕事で一番楽しいこと・つらいことは何ですか?」——こういった「部下のウェルビーイングを確認する問いかけ」を3〜5個まとめて、管理職向けに共有してみましょう。

3. 「仕事の意味」を語る場を一つ作る(所要時間:1〜2時間の設計)

「この会社の仕事が誰の役に立っているかを語り合う場」(顧客の声を共有する会議、事業の影響を社内で伝えるニュースレターなど)を一つ作ってみましょう。「仕事の意味」を実感できる機会を作ることが、ウェルビーイング向上の大切な一歩です。


まとめ:ウェルビーイング経営は「事業成長の基盤」

ウェルビーイング経営は「人にとって良いから」という理由だけでなく、「事業の持続的成長のため」という経営的な根拠を持った取り組みです。

「人を生かして、事をなす(搾取でもぬるま湯でもなく、葛藤し続ける)」という考え方があります。ウェルビーイング経営は、社員を「消耗するリソース」ではなく「価値を生み出す人」として大切にしながら、事業を前に進める——そういう経営の在り方です。人事がこのテーマを経営に語れるようになることが、組織全体の持続的成長につながると思っています。


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