フレックス制度を「導入したら終わり」にしない人事の考え方
制度設計・運用

フレックス制度を「導入したら終わり」にしない人事の考え方

#エンゲージメント#採用#評価#経営参画#制度設計

フレックス制度を「導入したら終わり」にしない人事の考え方

「フレックス制度を導入したいが、どう設計すればいいか」「フレックスを導入しているが、使っている人が少ない」「フレックスが機能しているかどうかわからない」——フレックス制度に関する悩みは様々です。

フレックス制度は「柔軟な働き方を実現する制度」として注目されていますが、「導入すれば解決する」という発想は危険です。導入後の設計と文化づくりが、制度が実際に機能するかどうかを決めます。

あるIT企業の人事担当者が話してくれました。「フレックス制度を導入して半年後、使用率を調べたら全体の15%しか活用していなかった。理由を聞いてみると、『上司が定時で来ているから、自分だけずらすのは気まずい』『フレックスを使うと、評価で悪く見られそう』という声が多かった。制度を作っただけで、使いやすい文化を作っていなかった」と。この話を聞いて、「制度は文化があって初めて機能する」という当たり前のことを改めて実感しました。

今日は、フレックス制度の設計と運用について、一緒に考えてみたいと思います。


フレックス制度の基本と設計のポイント

フレックスタイム制の仕組み

フレックスタイム制は、「一定の期間(清算期間:1ヶ月、最長3ヶ月)の中で、総労働時間を満たせば、始業・終業の時刻を社員が自由に決められる」制度です。

フルフレックスと、コアタイム(必ず出社・就業する時間帯)を設けるフレックスの2種類があります。コアタイムがあると「チームで会議ができる時間帯を確保できる」というメリットがある一方、「コアタイムに縛られる」というデメリットもあります。

法的には、フレックスタイム制は労使協定の締結と、就業規則への明記が必要です。導入にあたっては労働基準法の要件を満たすことが前提になります。「制度を作ることより、運用できる制度を作ること」を意識した設計が重要です。

「誰のために」「何のために」導入するのか

フレックス制度を設計する前に、「誰のために」「何のために」この制度を導入するのかを明確にすることが大切です。

「育児・介護を抱えた社員のために」なのか、「通勤ラッシュを避けたい社員のために」なのか、「自分の業務スタイルに合わせて働きたい社員のために」なのか——目的が違えば、設計が変わります。

また、「フレックスによって何を実現したいか」も重要です。「多様な人材の採用・定着に貢献する」「社員のウェルビーイング向上を図る」「生産性の向上につなげる」——これらと、フレックス制度の関係を明確にすることで、経営に対して「なぜ導入するか・導入後の効果をどう測るか」を語れるようになります。


よくある失敗パターン

失敗パターン1:「使っていいけど使いにくい」雰囲気が残る

制度を作っても、「上司が使っていない」「使うと評価が下がるのでは」という雰囲気があると、制度は機能しません。

「フレックスを使っている人の評価が低くない」という事実を可視化する。「マネージャーがフレックスを積極的に使う」姿を見せる。「フレックスを活用しながら成果を出しているモデルケースを社内に広める」——こういった文化づくりが、制度の実際の活用につながります。

制度の活用率を定期的にモニタリングして、「低い部署はなぜ低いのか」を把握することも重要です。「数字に出てこない使いにくさ」を探ることが、制度改善の糸口になります。

失敗パターン2:管理が煩雑になって廃止になる

「フレックスにしたら勤怠管理が大変になった」「誰が何時から働いているかわからない」という問題が出て、制度を縮小・廃止するパターンです。

フレックス導入時には、勤怠管理の仕組み(システム・ルール)を同時に整備することが必要です。「フレックスを使いやすくする仕組み」と「管理を効率化する仕組み」をセットで設計しましょう。「フレックスを導入したいが、現行の紙の出退勤簿では管理できない」という場合は、勤怠管理システムの導入と並行して進めることが現実的です。

失敗パターン3:コアタイムが実質的に「全時間」になる

「コアタイムを設けます」という設計で、コアタイムが9時〜16時など長くなっていると、「フレックスの意味がない」という状況になります。

コアタイムは「チームで協働するために必要な最低限の時間」に絞る設計が理想です。「毎日11〜14時はコアタイム」くらいがバランスの取れた設定の目安になることが多いです。業務の性質によっては「週2日だけコアタイムあり、他はフルフレックス」という設計も有効です。


プロの人事はこう考える:フレックス制度の設計

「業務の性質」によって適用範囲を決める

フレックス制度は、すべての業務・職種に同様に適用することが難しいケースがあります。

「顧客対応が必要な業務(受付・コールセンター)」「チームで連携が必要な製造工程」「特定の時間帯に業務が集中する業種」——これらはフルフレックスを適用しにくい業務です。

「どの業務・職種にフレックスを適用し、どこには適用しないか」を業務の性質に応じて設計することが、制度の実効性を高めます。「一律導入が難しければ、まず適用しやすい職種で試験導入して成功事例を作り、横展開を検討する」という進め方が、リスクを抑えながら制度を広げる方法です。

「成果管理」への移行を同時に考える

フレックス制度を機能させるためには、「時間で管理する」から「成果で管理する」への意識転換が必要です。

「何時間働いたか」ではなく「何を達成したか」で評価する目標管理の仕組みを整備することで、「フレックスを使いながら、成果を出している」という状態が評価されやすくなります。「フレックスを使って早退したのに成果が出ている人より、残業している人の評価が高い」という逆転現象が起きると、制度の趣旨が崩れます。

「時間ではなく成果で評価する」という評価制度との整合性が、フレックスが長く機能するための土台です。

「使った人の声」を継続的に集める

フレックス制度の運用改善のために、「制度を使っている人・使っていない人の声」を継続的に収集することをおすすめします。

「フレックスを使ってみてどうでしたか」「困ったことはありましたか」「なぜ使っていないのですか」「制度をもっと使いやすくするために改善できることはありますか」——定期的なフィードバック収集が、制度の継続的な改善につながります。

「制度の活用率」だけでなく「活用している人の満足度」「活用していない人の理由」という質的な情報を合わせて把握することで、「制度が何をもたらしているか」を正確に評価できます。


明日からできる3つのこと

1. 現状の課題を整理する(所要時間:1〜2時間)

フレックス制度の検討や改善に着手する前に、「なぜ今これが必要なのか」「どんな課題を解決したいのか」を整理しましょう。「採用競争力を上げるため(採用応募者から柔軟な働き方を求められている)」「育児中の社員の離職防止のため」「通勤負荷の軽減で生産性を上げるため」——目的によって、適切な設計が変わります。

また、「フレックス導入後の効果をどう測るか」を先に決めておくことも重要です。「採用応募数の変化」「育児中社員の定着率」「エンゲージメントスコアの変化」——指標を決めておくことで、経営への報告が具体的になります。

2. 社員3〜5人に「どんな働き方ができると助かるか」を聞く(所要時間:各20〜30分)

制度を作る前に、実際に利用しそうな社員の声を聞きましょう。「何時頃から働けると良いですか」「コアタイムはどのくらいあると、チームとしての仕事がしやすいですか」「今の働き方で困っていることは何ですか」——こういったヒアリングが、「使われる制度設計」につながります。

若手・中堅・育児中社員・管理職と、異なる立場から意見を聞くことで、「誰にとって何が必要か」がより具体的に見えてきます。

3. 類似企業のフレックス制度を3社調べる(所要時間:2〜3時間)

同業・同規模の企業がどんなフレックス制度を設けているかを調べてみましょう。「採用サイト」「有価証券報告書(人材に関する記載)」「IR資料」などで情報が得られることがあります。他社の事例から「何がうまくいって、何が課題だったか」を学ぶことが、自社設計の参考になります。


まとめ:フレックスは「文化」が機能させる

フレックス制度は、ルールを作るだけでは機能しません。「使うことが普通」という文化が育ってはじめて、制度が活きてきます。

「手段ありきで人事を動かしてはいけない」という考え方があります。フレックス制度も「制度を入れることが目的」ではなく、「多様な働き方を実現して、採用・定着・生産性に貢献すること」が目的です。その目的から逆算して、自社に合った設計と運用を考えてほしいと思っています。「導入して終わり」ではなく、「導入後に使われているかを確認し、改善し続ける」姿勢が、制度を生きたものにします。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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