人材ポートフォリオを設計できる人事が、経営の信頼を勝ち取る
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人材ポートフォリオを設計できる人事が、経営の信頼を勝ち取る

#採用#組織開発#経営参画#マネジメント

人材ポートフォリオを設計できる人事が、経営の信頼を勝ち取る

「経営から"人材戦略を示してほしい"と言われたが、何を示せばいいのか」「今の組織に必要な人材と、実際にいる人材のギャップをどう把握すればいいか」——こういった問いに向き合っている人事の方に、「人材ポートフォリオ」という考え方を紹介したいと思います。

あるサービス業の人事マネージャーが打ち明けてくれました。「経営会議で『来期の採用計画を出してください』と言われるたびに、毎年なんとなく前年比で数字を積み上げていた。でも社長から『うちの人材の全体像を見せてくれ。5年後にどんな組織にしたいのか、今の人材で本当に実現できるのか』と聞かれたとき、何も答えられなかった。その日から、人材ポートフォリオの考え方を真剣に勉強し始めた」と。

この話を聞いたとき、「経営に聞かれてから慌てる」のではなく、「先に見せに行ける人事」になることの大切さを改めて感じました。

人材ポートフォリオとは、「組織に必要な人材の種類・数・質」を体系的に整理し、「現状の人材と必要な人材のギャップ」を可視化したものです。これができると、「どの人材を採用すべきか」「誰を育成すべきか」「どの人材に異動・配置転換を進めるべきか」という意思決定の根拠が生まれます。

今日は、人材ポートフォリオの考え方と、人事担当者が実践で使えるアプローチについて一緒に整理してみたいと思います。


人材ポートフォリオとは何か

「必要な人材の全体像」を見る視点

人材ポートフォリオは、「個人」ではなく「組織全体として必要な人材の組み合わせ」を考える視点です。

「A職種は今5人いるが、来期の事業計画では8人必要」「Bのスキルセットを持つ人材が社内に不足している」「Cという役割を担う人材が特定の部署に偏っている」——こういった「人材の過不足・偏り」を把握することが、人材ポートフォリオの目的です。

「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という考え方があります。人材ポートフォリオは、「事業計画から逆算した必要人材(経営数字からの発想)」と「現状の人材の状況把握(組織状況からの発想)」を組み合わせたものです。この2つを結ぶことで、「今の採用・育成・配置の判断に根拠が生まれる」という状態を作ります。

「現状分析」と「将来設計」の2つの視点

人材ポートフォリオには「現状分析(今の人材の全体像)」と「将来設計(将来に必要な人材の全体像)」の2つの視点があります。

現状分析:今の組織にどんな人材が、どのくらいいるのか。職種別・スキル別・等級別・年齢別などで整理する。単に「何名いる」という頭数だけでなく、「どんなスキル・経験を持つ人材がどの層に分布しているか」という質的な視点が重要です。

将来設計:3〜5年後の事業を実現するために、どんな人材が何人必要か。現状との差(Gap)が採用・育成・配置の計画につながる。「事業計画」を読み込んだ上で、「その計画を実現するために人材面で何が必要か」を逆算します。

この2つを組み合わせることで、「今何をすべきか」が具体的な形で見えてきます。「採用3名・育成重点2名・配置転換1名」という施策の優先度が、ポートフォリオのギャップ分析から導き出されます。


よくある失敗パターン

失敗パターン1:「職種・人数」しか管理していない

「営業は20名、マーケティングは5名、エンジニアは30名」という「頭数」だけを管理している状態です。

人数だけでは「必要な仕事をこなせる人材がいるか」「次世代リーダーがいるか」「特定のスキルに偏りがないか」という問いに答えられません。たとえば「営業20名いる」という事実だけでは、「新規開拓が強い人材が何名で、既存顧客管理が中心の人材が何名か」は見えません。来期に新規市場を開拓する戦略を立てたとき、初めて「新規開拓スキルを持つ人材が2名しかいない」という問題が顕在化します。

「人数」だけでなく「スキル・経験・等級・成長段階」などの質的な情報もポートフォリオに含めることで、こういった「見えないリスク」を事前に把握できます。

失敗パターン2:「現状把握」で終わって「将来設計」がない

「うちの組織の人材の状況はこうです」という現状分析だけで終わり、「だから何をするか」という将来設計につながっていないパターンです。

現状の把握は重要ですが、それだけでは「今の延長線上の人材計画」しか作れません。「5年後に事業規模が倍になる計画があるのに、今の人員構成のまま採用だけ増やす」という発想は、将来設計なしには起きやすいミスです。

人材ポートフォリオは「現状分析+将来設計+GAPの把握+行動計画」という一連の流れとしてはじめて価値を持ちます。「GAPを埋めるための採用・育成・配置のセット」が、人材戦略の実体です。

失敗パターン3:人事だけで完結させる

人材ポートフォリオを人事だけで作って、経営や現場と共有しないパターンです。

どれだけ精緻なポートフォリオを作っても、「経営がそれを意思決定の材料として使わない」「現場マネージャーが育成・配置の判断に活かさない」なら機能しません。人材ポートフォリオは「経営と人事が人材戦略を共有するためのコミュニケーションツール」として位置づけることが大切です。

また、「作って終わり」になることも多いパターンです。事業環境が変われば必要な人材像も変わります。「半年・一年に一度は見直す」という運用サイクルが組み込まれていないと、せっかく作ったポートフォリオも「古い地図」になってしまいます。


プロの人事はこう考える:人材ポートフォリオの設計

「事業戦略から必要な人材を逆算する」

人材ポートフォリオの将来設計の出発点は、「事業戦略から必要な人材を逆算すること」です。

「3年後に売上を〇〇億円にする計画なら、営業は何名必要か」「新規事業を立ち上げるために、どんなスキルを持つ人材が必要か」「DXを推進するために、どんな技術・経験を持つ人材が必要か」——事業計画の数字と方向性から、「必要な人材像」を具体的に描きます。

この逆算ができると、「採用費用に○○万円かかる」という議論から「このポジションに人材を採れば、XX事業で年間○○円の売上機会が生まれる」という投資対効果の議論に変わります。経営が「なぜこの採用が必要か」を数字で理解できると、人事への信頼と権限が高まります。

「9ボックス・グリッド」を活用する

人材ポートフォリオの定番ツールとして「9ボックス・グリッド」があります。縦軸に「将来のポテンシャル(成長可能性)」、横軸に「現在のパフォーマンス(業績・成果)」を取り、組織の全人材を9つのセグメントに分類するツールです。

各セグメントに分類された人材に対して、「どんな育成施策・配置転換が適切か」を判断します。「ハイパフォーマー×ハイポテンシャル」の人材は「次世代リーダー候補」として育成を集中投資する。「ハイパフォーマー×ローポテンシャル」の人材は「現職での活躍継続」を軸に貢献を引き出す——こういった分類が、育成・配置の意思決定の根拠になります。

ただし、9ボックスは「ラベリング」のためではなく、「育成・配置の議論の出発点」として使うことが重要です。「このゾーンの人材には一律にこの施策」という機械的な対応ではなく、一人ひとりの状況を踏まえた個別の育成設計に活かすことが本来の使い方です。

「ポートフォリオのGAPを定期的に確認する」

人材ポートフォリオは年1〜2回、「現状の人材ポートフォリオ」と「将来に必要な人材ポートフォリオ」のGAPを確認する場を作ることが重要です。

「今年、GAPを埋めるために何をしたか」「GAPが縮まっているか、広がっているか」「新たなGAPが生まれていないか」——この確認と経営へのフィードバックが、人材戦略の進捗管理になります。

定期的なレビューの場を持つことで、「採用・育成・配置の施策が人材ポートフォリオの改善に貢献しているか」を測ることができます。「今期の採用3名がポートフォリオのGAP縮小にどう貢献したか」を経営に報告できる人事は、「経営の信頼パートナー」としての地位を築いていけます。


明日からできる3つのこと

1. 「職種別・等級別の人材マップ」を作る(所要時間:2〜3時間)

まず「今の組織に何人のどんな人材がいるか」を職種別・等級別に整理した「人材マップ」を作ってみましょう。Excelの表1〜2枚で十分です。

この作業を通じて、「偏り」が見えてきます。「中堅層が薄い」「特定のスキルを持つ人材が1名しかいない(単一障害点のリスク)」「50代が多く5年後に大量退職が起きる可能性がある」——こういった気づきが、人材戦略の議論の出発点になります。完璧な分析でなくても、「今の人材の状況を一枚の紙に整理する」だけで、頭の中でぼんやりしていた課題が具体的な形になります。

2. 「3年後に増やしたいスキルセット・職種」を経営に聞く(所要時間:60分)

経営幹部1〜2名に、「3年後の事業計画を実現するために、今の組織で不足しているスキル・人材は何だと思いますか?」を聞いてみましょう。

「採用人数を教えてください」ではなく、「事業の将来に向けて、どんな人材が必要ですか?」という問い方に変えることで、対話の質が変わります。この対話が「事業計画と人材戦略の連動」の第一歩になり、人材ポートフォリオのTO BE(未来像)を描くインプットになります。

3. 「9ボックス・グリッド」を1部署で試してみる(所要時間:部長との対話1時間)

まず1つの部署の管理職と、「部署のメンバーを9ボックスで分類するとしたら」という対話をしてみましょう。完璧な結果でなくていい。「このメンバーはどのボックスだと思いますか?それはなぜですか?」という対話が、「育成すべき人材・方向性」を具体化するヒントになります。

一度試してみることで、「自分の組織でどう使えるか」のイメージが具体化します。うまくいった部署の事例を他の部署のマネージャーに共有することで、組織全体への展開も自然に進みます。


まとめ:人材ポートフォリオは「人材戦略の設計図」

人材ポートフォリオを描くことができると、「今どこに人材が過不足しているか」「将来に何が必要か」「それを埋めるために何をするか」という人材戦略の全体像が見えます。

「人事の仕事の質の7〜8割は"知る"の質で決まる」という言葉があります。人材ポートフォリオは、「自社の人材の現状と将来を深く知るための仕組み」です。これを持つ人事は、経営に対して「人材の視点から事業戦略を議論できるパートナー」になれます。

「採用人数を決める人事」から「人材戦略を設計する人事」へ——この転換のための第一歩として、まずは担当部署の人材マップを一枚作るところから始めてみましょう。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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