ピープルアナリティクスを「難しそう」で終わらせない人事の第一歩
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ピープルアナリティクスを「難しそう」で終わらせない人事の第一歩

#エンゲージメント#採用#評価#組織開発#経営参画

ピープルアナリティクスを「難しそう」で終わらせない人事の第一歩

「ピープルアナリティクスをやってみたいが、データがなくて」「データはあるが、どう分析すればいいかわからない」「分析できても、経営にどう伝えればいいかわからない」——ピープルアナリティクス(People Analytics:データを使った組織・人材の分析)への関心は高まっていますが、「難しそう」という印象で第一歩を踏み出せていない人事担当者も多いです。

ピープルアナリティクスは、高度な統計分析や機械学習の知識がなくても始められます。

あるサービス業の人事担当者が話してくれました。「部署ごとの離職率は毎月計算していたが、なぜ高いのかは現場の感覚しかなかった。試しに『離職者の属性(在籍年数・部署・評価スコア・残業時間)』をExcelで整理して比較したら、残業が月50時間を超えた翌月から3ヶ月以内に離職している人が全体の60%を占めていることがわかった。そのデータを経営会議で見せたら、『それは本当か』という話から、具体的な残業削減の対策につながった」と。

「高度な分析ツールがなくても、Excelで始められる」——この体験が、ピープルアナリティクスへの最初の一歩を身近にしてくれます。

今日は、ピープルアナリティクスの実践的な始め方について一緒に考えてみたいと思います。


ピープルアナリティクスで何ができるのか

「勘と経験」をデータで補強する

ピープルアナリティクスの目的は、「勘と経験を否定すること」ではなく、「勘と経験をデータで補強・検証すること」です。

「あの部署は最近雰囲気が悪い気がする(勘)→エンゲージメントスコアを見ると、確かに先月比5%低下している(データ)→何が原因かをさらに深掘りする(問いの精度を上げる)」という流れが、ピープルアナリティクスの実践です。

データは「答え」を出してくれるのではなく、「問いの精度を上げる」ものです。「なんとなくうまくいっていない気がする」という感覚を「どのデータでどう確認するか」に変える習慣が、組織の意思決定の質を上げます。

ピープルアナリティクスの活用例

ピープルアナリティクスで実際に行われている分析の例をいくつか挙げます:

  • 離職予測:過去の離職者の属性(部署・役職・評価・在籍年数・残業時間)のパターンを分析し、「離職リスクが高い社員」を早期に特定する
  • 採用の質分析:採用チャネル別・面接官別に「入社後の活躍度・定着率」を比較し、「採用の質が高いチャネル・面接官」を特定する
  • パフォーマンスドライバー分析:「高い業績を出している社員の特徴」を分析し、採用基準・育成施策に反映する
  • エンゲージメントの要因分析:「エンゲージメントが高い部署と低い部署の違い」を分析し、改善の優先事項を特定する

これらすべてに最初から高度なツールが必要なわけではありません。「Excelでできる分析から始める」という発想が、実践への最短ルートです。


ピープルアナリティクスの始め方

ステップ1:「問い」を先に立てる

ピープルアナリティクスの出発点は、「データ収集」ではなく「問いを立てること」です。

「なぜ特定の部署の離職率が高いのか?」「採用した社員の定着率を高めるために、採用段階で何を見るべきか?」「エンゲージメントが低い部署の共通点は何か?」——こういった「答えを知りたい問い」を先に立てることで、「何のデータが必要か」が明確になります。

「問いなしにデータを集める」と、「データが集まったが何に使えばいいかわからない」という状態になりやすいです。「経営が今知りたいこと」「現場が困っていること」から問いを立てることで、分析結果が意思決定に直結しやすくなります。

ステップ2:「すでに持っているデータ」を棚卸しする

多くの企業では、「分析に使えるデータがすでにある」のに「それをデータとして意識していない」ことが多いです。

  • 人事マスタ(入社日、部署、役職、等級、給与)
  • 退職者データ(退職日、退職理由、在籍年数)
  • 評価データ(半期・年次の評価スコア)
  • 勤怠データ(残業時間、休暇取得日数)
  • 採用データ(応募チャネル、面接官、選考期間)

これらを「分析に使えるデータ」として整理するだけで、ピープルアナリティクスを始められます。「データがない」という状態は、「データの存在に気づいていない・整理されていない」という状態であることが多いです。

ステップ3:Excelで「集計・比較」から始める

ピープルアナリティクスは、最初から高度なツールや統計手法は必要ありません。Excelでの「集計・比較・可視化」から始められます。

「部署別の離職率を棒グラフで比較する」「採用チャネル別の定着率を表で比較する」「評価スコアと残業時間の相関をグラフで見る」「入社年次別の3年定着率を折れ線グラフで追う」——これらは、Excelの基本機能でできます。

「経年変化を眺める→アイディア(仮説)→人事施策→費用対効果→選択」という流れで考えると、データが施策につながりやすくなります。


プロの人事はこう考える:ピープルアナリティクスの実践

「分析の目的」を常に意識する

ピープルアナリティクスで陥りやすいのが、「データを分析すること」が目的になってしまうことです。

「このデータから何がわかりますか?」という問いではなく、「この問いに答えるために、どのデータが必要か?」という問いの順番で考えることが重要です。分析結果を「どう使うか(意思決定・施策)」まで考えることで、ピープルアナリティクスが「面白いデータを眺めるだけ」で終わらなくなります。

「経営の課題解決に直結する問いに答える分析」と「興味深いが使われない分析」を分けることが、分析の優先度設計の鍵です。

「定量データ」と「定性データ」を組み合わせる

ピープルアナリティクスでは、定量データ(数字)だけでなく、定性データ(声・エピソード)も重要です。

「離職率が高い部署がわかった(定量)→その部署の社員にヒアリングして、なぜ離職が多いのかを聞く(定性)」という組み合わせで、「何が起きているか」と「なぜ起きているか」の両方が見えます。数字は「何が起きているか」を示しますが、「なぜ起きているか」は多くの場合、人の声から明らかになります。

「データが示すこと」と「現場の声が示すこと」を両方持って経営に提言できる人事が、「信頼できる分析者」として評価されます。

プライバシーへの配慮を忘れない

ピープルアナリティクスでは、「個人データを扱うこと」への倫理的・法的な配慮が必要です。

特定の個人が誰かわかるような形でのデータ活用・公開は、プライバシーの侵害につながる可能性があります。「データは統計的に扱う」「個人が特定される形での活用は行わない」「データの利用目的を社員に明示する」という原則を守ることが重要です。「どう使うかのルール」を先に決めておくことで、「データ収集への社員の協力」を得やすくなります。


明日からできる3つのこと

1. 「離職率の部署別比較」を計算してみる(所要時間:1〜2時間)

まず最もシンプルな分析として、「部署別の離職率(過去1〜2年)」を計算してみましょう。「どの部署の離職率が高いか」を把握することが、「なぜ高いのか」を深掘りするための出発点になります。

離職率の差が大きい部署が見つかった場合、「その部署の残業時間」「評価スコアの分布」「マネージャーの変化」なども一緒に確認すると、仮説が立てやすくなります。

2. 「採用チャネル別の定着率」を調べる(所要時間:2〜3時間)

直近2〜3年に採用した社員について、「採用チャネル別(転職媒体A・エージェントB・リファラルなど)の入社後1年定着率」を計算してみましょう。「どのチャネルから来た人の定着率が高いか」がわかると、採用投資の最適化につながります。

「定着率が高いチャネルに採用予算を集中させる」という判断を数字で根拠づけられると、経営への提案がしやすくなります。

3. 「一つの問い」に答える分析をしてみる(所要時間:2〜3時間)

「なぜ最近、〇〇部署の残業時間が増えているのか」「新入社員の3ヶ月後定着率が低い傾向があるが、何が原因か」——一つの具体的な問いを選んで、持っているデータでその問いに迫る分析をしてみましょう。最初から完璧な分析でなくていい。「問いを立てて、データで考える」習慣を作ることが大切です。

分析結果をA4一枚にまとめて、上司や経営に「これを調べてみました」と見せてみましょう。フィードバックを得ることで、次の分析の精度が上がります。


まとめ:ピープルアナリティクスは「人事の洞察力」を高める

ピープルアナリティクスは、データサイエンティストのための高度な技術ではなく、「データを使って人事の意思決定の質を上げるための実践的なスキル」です。

「人事の仕事の質の7〜8割は"知る"の質で決まる」という言葉があります。ピープルアナリティクスは、「組織・人材について、より深く知るための手段」です。高度な分析ツールがなくても、「問いを立て、データで考える」習慣を持つことで、人事の洞察力は確実に高まります。

「今日から一つ、Excelで集計してみる」——その小さな一歩が、データドリブンな人事への転換点になります。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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