感謝・承認の文化がない職場で、エンゲージメントは上がらない
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感謝・承認の文化がない職場で、エンゲージメントは上がらない

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感謝・承認の文化がない職場で、エンゲージメントは上がらない

「毎日頑張っているのに、誰にも認めてもらえていない気がする」「上司から怒られることはあっても、良かったと言われることがほとんどない」——こういった声は、職場でよく聞こえてきます。

人は「認められたい」「感謝されたい」という基本的な欲求を持っています。この欲求が満たされない職場では、モチベーションが落ちやすく、エンゲージメントの低下につながります。

あるIT企業の1on1研修を担当していたときのことです。参加した20代の社員が「上司と1対1で話すの、3ヶ月ぶりなんです」と言っていた。日常的にフィードバックを受けていない。評価面談は年2回あるけれど、それ以外の「認められる」機会が全くない。「自分はここで必要とされているのかな」という感覚でずっと仕事をしていた、と——そういった状況の方が想像以上に多いと感じています。

今日は、感謝・承認の文化をどう作るかについて、一緒に考えてみたいと思います。


「認められない」職場が生む問題

承認が少ない職場では、離職リスクが高まる

「認めてもらえない」という感覚は、「自分はここに必要とされていないのかもしれない」という思いにつながります。これが積み重なると、「もっと自分を大切にしてくれる職場があるのではないか」という離職意向につながりやすくなります。

特に優秀な人ほど、「自分の仕事が評価されているか」への感度が高い傾向があります。「給与は悪くないが、認められている感覚がない」という理由での離職は、実は少なくありません。

「なぜ辞めたんですか?」という退職ヒアリングで「給与が低かったから」という答えが返ってくることが多いですが、深掘りすると「頑張っているのに認められなかった」という感覚が背景にあるケースが多いと感じています。給与の不満は「表向きの理由」で、「承認されていない」という感覚が本質的な不満だったりする。

「ネガティブフィードバックだけ」の職場

「問題があったときは言う。でも良かったときは言わない」という管理スタイルの職場では、社員は「自分の仕事で何がうまくいっているかわからない」「とにかくミスをしないようにするしかない」という感覚になりやすいです。

これが続くと、「挑戦しない」「言われたことだけやる」という行動パターンが広がります。心理的安全性が低い状態とも表裏一体で、「失敗を恐れるあまり、新しいことに取り組めない」という問題につながります。

行動心理学の観点から言うと、「ポジティブな強化」(良い行動を認める)は、「ネガティブな強化」(悪い行動を指摘する)より、行動変容に効果的なことが多いです。「褒めて育てる」は甘やかしではなく、「正しい行動を強化する」科学的に根拠のあるアプローチです。

「頑張っても報われない」という空気が広がる

承認が少ない職場では、「頑張っても誰にも気づかれない」という経験が積み重なります。

最初は「もっと頑張ってアピールしよう」と思うかもしれません。でも何度頑張っても認められなければ、「どうせ頑張っても一緒だ」という無力感が生まれます。この状態を心理学では「学習性無力感」と呼びます。「やっても変わらない」という感覚が定着すると、自発的な行動が失われていきます。

エンゲージメントの高い組織では、「このチームで一緒に働いていることへの誇り」が共有されています。その誇りは、「自分の貢献が認められている」という実感から生まれる部分が大きいです。


感謝・承認の文化を作るために

「承認」は「褒めること」だけではない

承認(Recognition)は、「褒めること」だけではありません。「この人の存在・貢献が見えている」ということを伝えることです。

「先週のプレゼン、お客様への伝え方が工夫されていて良かったです」「あの難しい問い合わせへの対応、丁寧でしたね」——結果だけでなく「行動・プロセス」への具体的なフィードバックが、承認として機能します。

「小さなことでも気づいたら言葉にする」習慣が、承認の文化の基礎になります。「先輩が気づいてくれた」という一言が、若手の「もっと頑張ろう」という気持ちに直結します。

承認の形には様々あります。言葉での承認(「ありがとう」「すごかったよ」)、書面での承認(メールやSlackでのメッセージ)、公の場での承認(会議での紹介・表彰)——どれも有効ですが、「相手が喜ぶ承認の形」を選ぶ配慮も大切です。人前で褒められることが苦手な人もいれば、全員の前で言われることで最もモチベーションが上がる人もいます。

マネージャーが「最初に変わる」必要がある

感謝・承認の文化は、「マネージャーの行動から始まる」ことが多いです。

マネージャーが率先して「ありがとう」「それは良かった」「助かりました」という言葉を使うことで、チームにその文化が広がっていきます。「上司が言わないから言いにくい」という空気が職場には生まれやすく、マネージャーの行動が文化を作る最大の要因です。

「でも、うちのマネージャーはそういうことを言うタイプじゃなくて……」という声も聞こえます。そういうマネージャーに「褒めてください」と言うだけでは変わりません。「なぜ承認が重要か」を数字で示す(承認の少ない職場の離職率データ、エンゲージメントスコアとの相関など)ことと、「具体的にどう言えばいいか」をスキルとして伝えることの両方が必要です。

「仕組み」で承認を促す

個人の習慣だけでなく、「仕組み」として承認を促す取り組みも有効です。

  • 週次の朝礼やSlackチャンネルで「今週の感謝」を共有する場を作る
  • 評価制度に「チームへの貢献・他者への支援」を評価項目として入れる
  • 四半期に一度、「MVPや特に貢献した行動」を全社で表彰する

「小さく始めて、成功事例を作って横展開する」という考え方で、まず一部署から試してみることが現実的です。一つの部署で「感謝共有の文化ができた」という成功事例が生まれると、他の部署も「うちでもやってみたい」という気持ちになりやすくなります。


プロの人事はこう考える:承認文化の設計

「良いことを言う」習慣の障壁を理解する

「感謝・承認の大切さはわかっているが、なかなかできない」という管理職は多いです。

「褒めると甘やかすことになる」「日本の職場では褒めるのが照れくさい」「何を褒めればいいかわからない」——こういった障壁があることを理解した上で、「どうすれば障壁を下げられるか」を設計することが大切です。

「行動への具体的なフィードバック」の練習(ロールプレイ)、「承認のフレームワーク(SBI法:状況・行動・影響で伝える)」の共有——こういったスキル研修が、「できない」の障壁を下げます。

SBI法の例:「今日のプレゼン(状況)で、客先の反応を見ながら説明の順番を変えた(行動)のが良かったと思う。お客様が理解しやすそうだったし、私も安心して聞けた(影響)」——このフォーマットで伝えると、「何がなぜ良かったか」が具体的に伝わり、相手もその行動を繰り返そうという動機が生まれます。

「公正な評価」と「日常的な承認」の両輪

感謝・承認の文化は、「公正な評価制度」と「日常的な承認」の両方が必要です。

どれだけ「ありがとう」と言っていても、評価制度が不公平に感じられている職場では、承認文化は育ちません。「言葉での承認」と「制度での公正な評価」が両立していることで、「本当に認められている」という実感が生まれます。

逆に、公正な評価制度があっても「日常的な承認がない」職場では、「年2回の面談だけが評価の場」という状態になります。日々の仕事の中で「認められている感覚」が薄いと、評価面談での「A評価」もあまり響かなくなることがあります。


明日からできる3つのこと

1. 今日、部下・同僚に一つ「具体的なフィードバック」をする(所要時間:5分)

今日一日、「あなたの〇〇という行動が、△△という点で良かった」という具体的なフィードバックを一人にしてみましょう。「なんとなく良かった」ではなく、「何が」「なぜ」良かったかを言葉にする。まず一人から始めてみてください。

「今日のお客様との電話対応、最後に確認の一言を入れていたのが良かったです。お客様に安心感を伝えられていたと思います」——これだけで十分です。具体的に言うことが照れくさければ、メールやSlackでのメッセージから始めても良いです。

2. 「感謝共有の場」を一つ作る(所要時間:設計に30分、実施は週5〜10分)

チームの定例会議の冒頭に「今週、チームの誰かに感謝したことがあれば一言どうぞ」という1分を追加してみましょう。「仕組み」を作ることで、「習慣」が生まれます。

Slackを使っている職場なら、「#thanks チャンネル」を作って、チームメンバー同士が気軽に感謝を投稿できる場を作るのも効果的です。テキストで残るので、後から見返して「あのとき認めてもらったな」という記録にもなります。

3. 管理職向けに「承認の練習」の機会を作る(所要時間:60分)

次の管理職研修に「具体的なフィードバックの練習(SBI法)」を30分追加してみましょう。「状況(Situation)・行動(Behavior)・影響(Impact)」を使って伝えるフォーマットを練習することで、「何を言えばいいかわからない」という障壁を下げることができます。

研修後に「先週の承認チャレンジ:一日一回具体的なフィードバックをする」という宿題を出し、翌週の冒頭で「やってみてどうでしたか?」を共有する——このサイクルが、習慣の定着に効果的です。


まとめ:承認文化は「人が力を発揮できる土壌」

感謝・承認の文化を作ることは、「社員を甘やかすこと」ではなく、「社員が力を最大限に発揮できる土壌を作ること」です。

「人を生かして、事をなす」という言葉があります。人が力を発揮するためには、「自分の存在と貢献が認められている」という実感が必要です。感謝・承認の文化は、「人が生きる組織」の根幹です。

「エンゲージメントを上げたい」「優秀な人材に長く働いてほしい」という目標があるなら、制度の充実や給与の改善と並んで、「日々の承認文化」に目を向けることが大切です。大きな制度変更をしなくても、「マネージャーの行動」と「小さな仕組み」から、承認文化は育てていくことができます。地道に、継続的に育てていきましょう。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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