福利厚生を「全員同じ」にしている限り、誰にも刺さらない
制度設計・運用

福利厚生を「全員同じ」にしている限り、誰にも刺さらない

#採用#評価#研修#経営参画#制度設計

福利厚生を「全員同じ」にしている限り、誰にも刺さらない

「充実した福利厚生を揃えているのに、社員から評価されない」「福利厚生にコストをかけているのに、採用でも定着でも効果が見えない」——こういった悩みを持つ人事の方は多いのではないでしょうか。

ある食品メーカーの人事担当者から、こんな話を聞きました。「保養所の利用促進に毎年100万円以上かけているのに、利用率は全社員の5%以下。でも廃止しようとすると古参社員から反対が出て……」。そのコストで何ができたか、と考えると頭が痛くなるとおっしゃっていました。

福利厚生は「全員に同じものを提供する」という考え方でずっと設計されてきましたが、社員の多様性が増した現代では、「一律の福利厚生」が誰にも刺さらないという状況が生まれやすくなっています。

今日は、福利厚生の最適化という視点から、「使われる福利厚生」をどう設計するかについて考えてみたいと思います。


福利厚生が「使われない」理由

ニーズが多様化している

20代独身社員、30代子育て中の社員、50代親の介護が始まった社員——それぞれが「有難い」と感じる福利厚生は違います。

「会社の保養所が使える」という福利厚生は、家族旅行を楽しめる30〜40代には有難いかもしれませんが、独身の20代には刺さりにくい。「社員食堂」はオフィスに毎日来る社員には価値があっても、リモートワーク中心の社員には価値が薄い。「退職金」は入社したばかりの若手よりも、長年勤めているベテランが有難みを感じる制度です。

「全員に同じものを提供する」という発想では、こういった多様なニーズには対応できません。結果として、誰にとっても「まあそれなりに便利だが、特別嬉しくはない」という状態になりやすいんです。

多くの調査でも、「福利厚生が充実している」という理由で転職先を選ぶ人は依然として多いにもかかわらず、入社後に「思ったほど使えない」「自分には関係なかった」という声が出てきます。これは、求人時の「福利厚生の見せ方」と「実際の使い勝手」にギャップがあるからです。

「使い方がわからない」という問題

福利厚生の利用率が低い原因の一つが、「どんな制度があって、どう使えるかがわからない」ことです。

ある中堅の製造業の人事担当者が、入社2年以内の社員20人にアンケートをとったところ、会社の福利厚生メニューを「だいたい把握している」と答えた人は3人だけでした。残りの17人は「あまり知らない」か「ほとんど知らない」。制度はあるのに知られていない——これが実態だということに、その方は衝撃を受けたとおっしゃっていました。

制度を作っても、「周知が不十分」「手続きが煩雑」「使ってもいいのかという雰囲気」——こういった障壁があると、利用されません。「作って終わり」ではなく、「使われる仕組みを作る」ことが必要です。

コストと効果が見えていない

人事が「福利厚生の見直し」を経営に提案するとき、難しいのが「今の福利厚生の効果がどれだけあるか」が見えていないことです。

「採用に効いているか」「定着に効いているか」「社員の満足度に影響しているか」——これらが数字で見えないまま、慣習的に続けている福利厚生が多いのが現状です。コストだけが積み上がり、効果の根拠が薄いまま予算を使い続けている状態は、経営から見ると「なぜ続けるのか」という疑問を生みやすい。逆に「やめる」というときには「社員から反発が出る」という板挟みになりやすい。

このジレンマを解消するためには、「福利厚生の利用率・効果の見える化」から始める必要があります。


福利厚生最適化の考え方

「選択型福利厚生(カフェテリアプラン)」の導入

多様なニーズに対応するための考え方として、「カフェテリアプラン(選択型福利厚生)」があります。

各社員に一定のポイントを付与し、そのポイントを使って「自分に必要な福利厚生を選択できる」という仕組みです。「運動施設利用」「スキルアップ支援(研修・書籍費)」「育児支援」「旅行・レジャー」「健康診断オプション」——様々なメニューから選べる形にすることで、各社員が「本当に役立つ」福利厚生を使えます。

実際にカフェテリアプランを導入した企業では、「福利厚生を使っている」と感じる社員の割合が大幅に増えたという事例があります。「保養所にはなかなか行けないけれど、書籍費補助で毎月本を買えるのが嬉しい」という若手社員の声のように、自分のライフスタイルに合った使い方ができるからです。

ただし、カフェテリアプランは運用コストがかかるため、「導入前にコストと効果を試算する」ことが重要です。「システム導入費用+運用費用」と「社員満足度向上による定着効果(採用コストの削減)」を比較した上で、経営に提案することが大切です。

「採用・定着への効果」で絞り込む

福利厚生を最適化する際の判断軸として、「採用に効く(候補者の入社意思を高める)」と「定着に効く(在籍社員の満足・定着を高める)」を分けて考えることが有効です。

採用時に候補者が重視する福利厚生(リモートワーク制度、育児支援、フレックス)と、在籍社員が価値を感じる福利厚生(健康支援、スキルアップ支援、家族手当)は必ずしも同じではありません。

「この福利厚生は採用候補者に刺さるか、在籍社員に刺さるか」を意識して整理することで、限られたコストをより効果的に配分できます。採用競争が激しい職種・年代に向けては「採用に効く福利厚生」を厚くし、長期定着を促したい層には「定着に効く福利厚生」を充実させる——そういった層別の設計が有効です。

施策の効果は「売上伸長・コスト削減・リスク低減」の3軸で整理すると経営に伝わりやすくなります。育児支援の充実は「多様な人材の採用による売上伸長」と「優秀人材の定着によるコスト削減」として語ることができます。

「不要な福利厚生を廃止する」勇気も必要

長年続けてきた福利厚生の中には、「ほとんど使われていないが、慣習として続けている」ものがあるかもしれません。

利用率の低い福利厚生を廃止することは社員の反発を生みやすいですが、「廃止分のコストをより効果的な福利厚生に振り向ける」ことで、全体の満足度を上げることができます。

あるIT企業では、利用率が3%を下回っていた社員旅行の補助制度を廃止した代わりに、「スキルアップ研修費の補助額を月2万円から月5万円に増額」しました。廃止当初は一部の声がありましたが、「学びたいことを自由に学べる」という制度が好評となり、若手社員の定着率が改善したという話を聞いたことがあります。

廃止を検討する際は、事前に社員への丁寧な説明と代替案の提示が必要です。「廃止する理由」と「代わりに何を充実させるか」を一緒に伝えることで、納得感を高めることができます。


明日からできる3つのこと

1. 「現在の福利厚生の利用率」を確認する(所要時間:1〜2時間)

現在の福利厚生メニューそれぞれの「利用率(利用人数/対象社員数)」を計算してみましょう。「10%以下の利用率」の福利厚生は、「なぜ使われないか」を調査する必要があります。

まず数字を出してみるだけで、「あの制度こんなに使われていないのか」という発見があるはずです。その発見が、改善の出発点になります。利用率のデータがない場合は、担当部門(総務・経理)に協力をお願いして、過去1年の実績を把握することから始めましょう。

2. 社員に「どんな福利厚生があると嬉しいか」を聞く(所要時間:アンケート設計1時間、回収・集計1〜2時間)

短いアンケートで「今の福利厚生で最も役立っているもの」「あったら嬉しい福利厚生を3つ選んでください(選択肢から)」を聞いてみましょう。社員のニーズを把握することが、福利厚生最適化の出発点です。

「選択肢から選ぶ」形式にすると回答が集まりやすくなります。自由記述は「その他・コメント欄」程度に留め、集計しやすい形にするのがポイントです。年代別・部署別・ライフステージ別に集計できると、より具体的な改善方針が見えてきます。

3. 「福利厚生の周知状況」を確認する(所要時間:30分)

新入社員や入社1〜2年の社員に「会社の福利厚生制度を把握していますか?」を聞いてみましょう。「知らない制度が多い」なら、「制度の充実」より「周知の改善」が優先課題です。

入社時の説明だけでなく、「半年後・1年後・ライフステージが変わったタイミング」で改めて福利厚生を案内する仕組みを作ることが効果的です。「結婚したとき」「子どもが生まれたとき」「介護が始まったとき」——そのタイミングで関連する福利厚生を案内するだけで、利用率は大きく変わります。


まとめ:福利厚生は「誰のための投資か」を考える

福利厚生は「会社の費用」ですが、「社員への投資」として考えると、その効果を測る視点が変わります。

「施策の効果は売上伸長・コスト削減・リスク低減の3つで整理する」という考え方があります。福利厚生も「採用力向上(売上)」「定着率改善(コスト削減)」「社員の健康・ウェルビーイング維持(リスク低減)」として整理できます。「使われる福利厚生」を設計することが、投資の価値を最大化する道です。

「全員に同じものを提供する」から「それぞれに必要なものを届ける」という発想への転換が、現代の福利厚生設計のカギだと思っています。完璧なカフェテリアプランを最初から導入する必要はありません。まず「利用率の確認」と「社員ニーズの把握」から始めて、少しずつ「使われる福利厚生」に近づけていくことが大切です。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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