
ハイブリッドワークが生み出す人事の新しい課題——「見えない働き方」を支援するために
目次
- ハイブリッドワークが生む構造的な課題
- 「見えない格差」の問題
- コミュニケーションの断絶
- マネジメントスキルの要求水準が上がる
- よくある失敗パターン
- 失敗1:「ルールだけ」のハイブリッドワーク
- 失敗2:「評価制度を変えないままハイブリッドに移行する」
- 失敗3:マネージャーへのサポートなしで変革を求める
- プロの人事はこう考える
- 「成果」で評価できる制度設計
- マネージャーへの具体的な支援
- 「意図的なつながり」の設計
- エンゲージメントのモニタリング強化
- 明日からできる3つのこと
- 1. チーム別の「出社率とエンゲージメント」の相関を確認する(2時間)
- 2. マネージャーに「ハイブリッドで一番困っていること」を聞く(2時間)
- 3. 「出社の目的」を一つのチームで言語化する(1時間)
- まとめ
- もっと深く学びたい方へ
ハイブリッドワークが生み出す人事の新しい課題——「見えない働き方」を支援するために
「テレワークと出社を組み合わせたハイブリッドワークを導入したが、マネジメントが難しくなった」「リモートと出社で社員間に目に見えない格差が生まれている気がする」——ハイブリッドワーク導入後に多くの企業で聞かれる声です。
コロナ禍で一気に広がったリモートワークから、多くの企業がハイブリッドワーク(出社とリモートの組み合わせ)に移行しました。でもハイブリッドワークは「リモートワーク」と「出社」のいいとこ取りのようでいて、実は両方の課題を複合させた新しい難しさを持っています。
この記事では、ハイブリッドワーク環境における人事の課題と、その対処法をお伝えします。
ハイブリッドワークが生む構造的な課題
「見えない格差」の問題
ハイブリッドワークが生む最も深刻な問題のひとつが、「プレゼンス偏向(Proximity Bias)」です。オフィスに出社している人材が、リモートで働く人材より有利な評価・昇進機会を得やすいという現象です。
ある企業での話です。ハイブリッドワーク導入後1年が経ち、昇進者のほぼ全員が週4日以上出社していた。リモート中心で働いていた優秀な人材が「なぜ自分は昇進しないのか」と疑問を持ち、数名が退職した。調べてみると、マネージャーが無意識に「よく会う人」を高く評価していたことがわかりました。
「見えないところで働いている人」への評価の公正性は、ハイブリッドワーク環境における人事の重要な課題です。
コミュニケーションの断絶
ハイブリッドワークでは、「情報の非対称性」が生まれやすいです。
オフィスで偶発的に起きる会話(廊下での立ち話、昼食時の雑談)から生まれる情報・関係性は、リモートワーカーには届きません。この「見えない情報格差」が、リモートワーカーの孤立感や意思決定への参加感の低下につながります。
また、ハイブリッドチームでの会議では、出社組とリモート組で発言のしやすさが異なり、オフィスにいる人の声が大きくなりやすいという問題もあります。
マネジメントスキルの要求水準が上がる
ハイブリッドワークは、マネージャーに高度なスキルを求めます。
「部下を直接見ていない状態で成果を管理する」「リモートと出社の部下に公平に関わる」「非同期・同期コミュニケーションを使い分けて情報を伝える」——これらはオフィスのみの環境では必要なかったスキルです。
「ハイブリッドワークになって部下の管理が難しくなった」と感じているマネージャーの多くは、「見えない部下に成果を求める」スキルを身につける機会なく変化に直面しています。
よくある失敗パターン
失敗1:「ルールだけ」のハイブリッドワーク
「週3日出社・2日リモート」というルールを作るが、「なぜその比率なのか」「出社日に何をするべきか」という設計がない。結果として、出社日はリモートでできる作業を会社でやるだけになり、「何のために出社しているのか」という疑問が生まれます。
出社の目的(協働・関係構築・特定の作業)とリモートの目的(集中作業・個人の生産性)を明確にした上でルールを設計することが重要です。
失敗2:「評価制度を変えないままハイブリッドに移行する」
従来の「上司が部下の行動を観察して評価する」前提の評価制度のまま、ハイブリッドワークに移行するケースがあります。
成果で評価する仕組み、プロセスの可視化の方法、リモートとオフィスで評価の公正性を保つルール——これらを評価制度に組み込まないまま進めると、不公平感が高まります。
失敗3:マネージャーへのサポートなしで変革を求める
「ハイブリッドワークをうまくやってください」という指示だけで、マネージャーへの具体的な支援がないケースが多いです。
ハイブリッドワークの運営方法、リモートメンバーとのコミュニケーション設計、非同期ツールの使い方——これらのスキルと知識を提供せずに「成果を出してください」と言うだけでは、マネージャーが疲弊します。
プロの人事はこう考える
「成果」で評価できる制度設計
ハイブリッドワーク環境で公正な評価を実現するために最重要なのが、「成果で評価できる制度」への移行です。
「何時間どこで働いたか」ではなく「何を達成したか」が評価の軸になるように設計を見直す。そのためには、職種ごとに「何が成果か」を明確に定義し、目標設定の仕組みを整備することが前提です。
成果の定義が曖昧なまま「成果で評価しろ」と言っても、評価者は「よく見かける人」を高く評価するバイアスに引きずられます。
マネージャーへの具体的な支援
ハイブリッドワーク環境でマネージャーをサポートするために、人事が提供できる具体的な支援があります。
- ハイブリッドチーム運営のガイドライン作成(出社・リモートの活用指針)
- 非同期コミュニケーションツールの活用研修
- 「リモートメンバーとの1on1を充実させる」ための面談設計支援
- 「プレゼンス偏向を防ぐ」ための評価者トレーニング
「小さく始めて、成功事例を作って横展開する」——まず一つのチームでハイブリッドワークの最適な運営モデルを作り、それを横展開する。この地道な取り組みが組織全体を変えていきます。
「意図的なつながり」の設計
ハイブリッドワーク環境で自然発生しにくくなった「偶発的なつながり」を、意図的に設計することが人事の役割です。
チーム全員が出社する日を「コラボレーションデー」として設定する、月1回のオフサイトミーティングを組み込む、バーチャルウォータークーラー(雑談専用のオンラインスペース)を設ける——こうした「意図的なつながりの機会」が、ハイブリッドチームの一体感を保つ鍵です。
エンゲージメントのモニタリング強化
ハイブリッドワーク環境では、従業員の状態変化が見えにくくなるため、エンゲージメントのモニタリング頻度を上げることが重要です。
年1回のサーベイから、月1回または四半期ごとの短いパルスサーベイへの移行。特にリモートワーカーとオフィスワーカーの回答を分析し、差異が生まれていないかを定期確認する。差異が見られた場合は早期に対処することで、格差の固定化を防げます。
明日からできる3つのこと
1. チーム別の「出社率とエンゲージメント」の相関を確認する(2時間)
チーム別の出社率データとエンゲージメントスコアを照らし合わせ、傾向を見てみてください。「出社率が高いチームのエンゲージメントが高い」のか「リモート中心のチームのエンゲージメントが高い」のか、チームによって違いがあるのかを確認する。これが自社のハイブリッドワーク最適化の手がかりになります。
2. マネージャーに「ハイブリッドで一番困っていること」を聞く(2時間)
マネージャー5人程度に「ハイブリッドワークで最も難しいと感じることは何か」を聞いてみてください。「リモートメンバーの状態が把握しにくい」「会議でリモートと出社で発言量が違う」などの声が、支援ニーズを教えてくれます。
3. 「出社の目的」を一つのチームで言語化する(1時間)
あるチームの出社日に「なぜ今日出社しているのか・出社の価値は何か」を話し合う15分を設けてみてください。「出社するから良い」ではなく「何のために出社するか」を言語化することが、ハイブリッドワークの質を上げる起点になります。
まとめ
ハイブリッドワークは「リモートと出社を組み合わせた便利な制度」ではなく、「新しい働き方に合わせたマネジメント・評価・コミュニケーションの再設計」を求める変革です。
「知る→考える→動く→振り返る」のサイクルでハイブリッドワークの課題に向き合い、自社に合った運営モデルを育てていく。それが人事の役割だと思っています。
最初から完璧な制度は作れません。試しながら改善し続けることが、ハイブリッドワーク成功の鍵です。
もっと深く学びたい方へ
ハイブリッドワーク・エンゲージメント・マネジメント支援を体系的に学びたい方へ。
人事のプロ実践講座では、働き方変革と組織マネジメントの実践知識を学べます。
ハイブリッドワークの悩みを持つ人事仲間と情報交換したい方は、人事図書館もどうぞ。
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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