
人材確保等支援助成金を人事はどう活用するか
目次
- なぜ助成金は活用されにくいのか
- 「制度が複雑で、どれが使えるかわからない」問題
- 「申請要件の事前整備」が必要なことを知らない
- 「申請書類の複雑さ」による断念
- よくある失敗パターン
- 失敗1:「採用してから申請」で受給を逃す
- 失敗2:「助成金のために制度を作る」が本末転倒
- 失敗3:「一度使って終わり」になる
- プロの人事はこう考える
- 「人材施策カレンダー」と助成金を連動させる
- 「社会保険労務士との連携」で専門性を補う
- 「就業規則の整備」が助成金活用の基盤になる
- 「助成金収入を人材投資に還流する」
- 明日からできる3つのこと
- 1. 現在活用している助成金を一覧化する(1時間)
- 2. 来期の人材施策に使える助成金を2つ調べる(2時間)
- 3. 顧問社労士に「助成金の使い方」を相談する(1時間)
- まとめ
- もっと深く学びたい方へ
人材確保等支援助成金を人事はどう活用するか
「助成金の情報は入ってくるが、どれが自社に使えるかわからない」「申請しようとしたら書類が多くて諦めた」——助成金・補助金の活用に課題を感じている人事担当者は多い。
政府は人材確保・育成・定着に関する様々な助成金制度を設けており、要件を満たせば数十万〜数百万円の支援を受けることができます。でも制度の複雑さ・申請の手間・情報の分散により、活用できていない企業が多い。
この記事では、人材関連助成金を人事業務に組み込むための考え方と、活用のポイントをお伝えします。
なぜ助成金は活用されにくいのか
「制度が複雑で、どれが使えるかわからない」問題
人材関連の助成金は厚生労働省管轄のものだけでも数十種類あり、「採用」「育成」「働き方改革」「両立支援」など多岐にわたります。さらに都道府県や市区町村レベルの地域独自の助成制度もあります。
「どの助成金が自社に適用可能か」を網羅的に把握するには、制度への深い理解が必要です。人事担当者が他の業務を抱えながらこの全体像を把握することは容易ではありません。
「助成金があるらしいが、どれが使えるかわからない→調べる時間がない→諦める」というパターンが多くの企業で起きています。
「申請要件の事前整備」が必要なことを知らない
多くの助成金は「申請してから受給」ではなく「要件を整備してから→対象となる取り組みを実施して→申請する」という順序です。
「先に実施してから申請しようとしたら、実施前の計画書の提出が要件だった」「就業規則の整備が必要だったが、実施後では受給対象外になった」——「知っていれば受給できたのに、順序を間違えて受給できなかった」というケースは少なくありません。
「使いたい助成金は先に要件を確認する」という前向きな姿勢が重要です。
「申請書類の複雑さ」による断念
助成金の申請書類は、一般的に「計画書・実施報告書・支給申請書」と多くの添付書類が必要です。初めて申請する場合、書類の準備に相当な工数がかかります。
「工数を考えると、もらえる金額に見合わない」という判断で断念するケースもありますが、社会保険労務士への申請代行依頼や、一度の申請で継続的に活用できる制度を活用することで、コストパフォーマンスを改善できます。
よくある失敗パターン
失敗1:「採用してから申請」で受給を逃す
特定求職者雇用開発助成金などの採用関連助成金は、「ハローワーク経由の採用」が要件になっているものがあります。「ハローワークを通じて採用した」という要件を満たしていない採用方法だと、申請できません。
採用計画を立てる段階で「どの採用チャネルを使うか」を助成金の活用可能性と合わせて検討することが重要です。
失敗2:「助成金のために制度を作る」が本末転倒
「この助成金を受けるために、キャリアアップ計画を作りましょう」という社内説明で、助成金取得が目的化する。本来は「自社の人材育成・定着のために必要な施策を実施した結果として助成金を受ける」という順序が自然です。
「助成金が取れる施策だけやる」という考え方は、助成金制度の趣旨から外れ、自社の人材戦略も歪めます。
失敗3:「一度使って終わり」になる
一つの助成金を一度使って「助成金対応は完了」とする。でも助成金は毎年制度が更新・追加されており、自社の人材施策と合う新しい助成金が生まれていることがあります。
「年1回、使えそうな助成金を確認する」という定期的な情報収集の仕組みを持つことが、継続的な活用につながります。
プロの人事はこう考える
「人材施策カレンダー」と助成金を連動させる
プロの人事が助成金を活用するとき、「これをやるから助成金を取ろう」という発想をします。
年間の人材施策(採用計画・研修計画・制度変更計画)を「人材施策カレンダー」として整理し、各施策に対して「使える可能性のある助成金」を紐づけることで、事前の申請準備が可能になります。
「次期は新任管理職研修を強化する計画がある→人材開発支援助成金の一般訓練コースが使えるかもしれない→要件を確認して計画書を事前提出する」というフローが、助成金活用の実践的な設計です。
「社会保険労務士との連携」で専門性を補う
助成金の申請は専門知識が必要であり、社会保険労務士に申請代行を依頼することが、正確な申請と工数の削減につながります。
社会保険労務士は助成金の最新情報を持っており、「自社の状況でどの助成金が使えるか」の相談窓口にもなります。「顧問社労士がいる企業は、助成金の相談を積極的に行う」という姿勢が助成金活用率を高めます。
「就業規則の整備」が助成金活用の基盤になる
多くの助成金は「就業規則の整備」を要件としています。テレワーク勤務規程・育児・介護休業規程・キャリアアップ計画書——これらの整備が、複数の助成金の受給要件を同時に満たします。
「就業規則の整備を助成金の視点でも考える」——「この規程を整備することで、どの助成金の受給要件を満たせるか」を確認しながら整備することが、重複投資を防ぎます。
「助成金収入を人材投資に還流する」
助成金収入を「棚ぼた収入」として会社の一般財源にするのではなく、「人材投資原資として次の施策に使う」という設計が、人事としての戦略性を示します。
「今期の助成金収入X百万円を、来期の育成プログラム強化の原資にする」という予算の使い方が、経営に対して「人事が助成金を活用して自律的に投資原資を作っている」という評価につながります。
明日からできる3つのこと
1. 現在活用している助成金を一覧化する(1時間)
自社が現在受給しているまたは過去に受給した助成金を一覧化してください。「まだ活用できていない助成金があるか」の確認スタート地点になります。
2. 来期の人材施策に使える助成金を2つ調べる(2時間)
来期に実施を検討している人材施策(採用強化・研修実施・制度変更など)について、「使える可能性のある助成金」をひとつずつ調べてください。厚生労働省の「助成金・奨励金 検索システム」を使うと効率的に調べられます。
3. 顧問社労士に「助成金の使い方」を相談する(1時間)
顧問社労士がいる場合、「来期の人材施策でどの助成金が使えるか」を相談してください。社労士の専門知識を活かすことで、自力では気づかない助成金活用の可能性が見えることがあります。
まとめ
人材関連助成金は「知っている人が得をする制度」です。情報収集・事前準備・申請プロセスへの投資が、人材施策の原資を生み出します。
「小さく始めて成功事例を作って横展開する」——まず一つの助成金を取得し、申請プロセスを自社に組み込む経験が、継続的な助成金活用の土台になります。
もっと深く学びたい方へ
労務管理・助成金活用・コスト効率化を体系的に学びたい方へ。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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