働き方改革を「残業削減」だけで終わらせない
制度設計・運用

働き方改革を「残業削減」だけで終わらせない

#エンゲージメント#採用#評価#経営参画#制度設計

働き方改革を「残業削減」だけで終わらせない

「残業時間は減ったが、仕事の量は変わっていない。結果的に持ち帰り残業や休日対応が増えた」「残業規制をしたら、優秀な社員が成果を出せなくなって転職した」——働き方改革の「副作用」に苦慮する人事担当者の声があります。

働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制・有休5日取得義務・月60時間超の残業割増賃金率引上げが実施されました。「コンプライアンス対応」としての残業削減は必要ですが、それだけでは「真の働き方改革」にはなりません。

この記事では、残業削減を超えた「真の働き方改革」の考え方と、人事が取り組むべき設計をお伝えします。


なぜ働き方改革は機能しにくいのか

「仕事の量は変わらないのに、時間だけ減らす」矛盾

働き方改革の最大の失敗パターンは「残業を削減する」という目標を掲げながら、「仕事の量・やり方」は変えないことです。

「同じ仕事量を短い時間でやる」ためには、「業務の効率化・自動化」「不要な仕事の削減」「権限委譲による意思決定の迅速化」が必要です。これらの取り組みなしに「残業するな」というメッセージだけ出すと、社員は「評価を下げないために、サービス残業(見えない残業)か持ち帰り残業をする」という行動を取ります。

見かけの残業時間は減っても、実態は変わらない——あるいは悪化する——という状況が生まれます。

「画一的な制度」が多様な働き方ニーズに対応できない

「全員9時〜18時」「全員週5日出社」という画一的な働き方は、様々なライフステージ・事情を持つ社員のニーズに対応できません。

「育児・介護と両立させたい」「通勤負荷を減らしたい」「集中して作業できる環境が欲しい」——こうしたニーズに「例外なく同じルールで」対応しようとすると、「優秀だが柔軟な働き方を必要とする社員」が離職するリスクがあります。

「柔軟性と成果」を両立できる制度設計が、多様な人材の活用を可能にします。

「管理職の評価基準」が変わっていない

「部下を長時間働かせないこと」が管理職の評価に反映されなければ、管理職は「早く帰らせると成果が落ちる」という恐れから、実質的な長時間労働を容認し続けます。

「チームの残業時間の削減」「部下のエンゲージメントの維持」「生産性(単位時間あたりの成果)の向上」を管理職の評価指標に組み込むことが、管理職の行動変容を促します。


よくある失敗パターン

失敗1:「ノー残業デー」だけで取り組む

特定の曜日を「ノー残業デー」として定め、その日の残業を禁止する。でもノー残業デーの翌日に残業が集中するだけで、週全体の残業時間は変わらない。

「残業しない日を作る」という表面的な施策より、「残業が生まれる構造(仕事量・業務の非効率・意思決定の遅さ)を変える」という根本対処が重要です。

失敗2:「制度を作ったが使われない」

テレワーク制度・時差勤務制度・フレックス制度を整備したが、「利用すると評価が下がるかもしれない」「上司の目が気になって使いにくい」という雰囲気から利用率が低い。

制度整備と「制度を使いやすい職場文化の醸成」は別の取り組みです。管理職が率先して制度を活用すること・制度利用者を評価で不利にしない明示的なメッセージが、利用率を上げます。

失敗3:「残業削減が目的化」する

「残業時間を○時間削減する」という数値目標を設定し、その達成が目的になる。でも残業時間の削減が「生産性の向上・社員のウェルビーイングの改善」と連動していなければ、「数字のための施策」になります。

「何のために働き方を変えるのか(生産性向上・採用競争力向上・社員の健康・持続的な成長)」という目的から逆算した指標設計が重要です。


プロの人事はこう考える

「業務改善」と「働き方改革」をセットで進める

プロの人事が働き方改革を推進するとき、「残業削減」と「業務改善(業務量の見直し・効率化)」をセットで進めます。

「どの業務が残業を生んでいるか」を特定するために、「業務棚卸し(全社員が一週間の業務を時間単位で記録する)」を実施します。この棚卸しで「不要・削減可能な業務」「効率化できる業務」「他者・システムに移譲できる業務」が見えてきます。

「業務量を減らさずに残業を減らす」は矛盾であり、業務量の削減なしには持続しません。

「成果で評価する」仕組みへの移行

「時間ではなく成果で評価する」仕組みへの移行が、「短時間で高い成果を出すことが評価される」という文化を作ります。

「○時間働いた」ではなく「○の成果を出した」という評価軸の転換は、評価制度の見直し(成果型評価の強化)と管理職の行動変容(成果を評価できる目標設定・フィードバックスキルの習得)を伴います。

「時間管理から成果管理へ」——この転換は一朝一夕では難しいですが、長期的な働き方改革の根本です。

「多様な働き方を選べる」制度設計

フルタイム・時短・テレワーク・フレックス——様々な働き方を組み合わせて選べる「働き方のメニュー化」が、多様なライフステージの社員の継続就労を可能にします。

「どの働き方を選んでも、貢献に応じた評価がされる」という仕組みが、「働き方の多様化」を実現します。「時短勤務者は成長機会が制限される」「テレワーク者は評価が下がる」という「見えない不利益」を解消することが、制度の実効性を高めます。

「経営数字で語る」働き方改革の正当化

働き方改革の経営への説明を「社員のウェルビーイングのため」だけでなく「採用競争力・定着率・生産性・企業イメージ」という経営指標での語りに変えることが重要です。

「残業時間が業界平均を上回っていると採用に影響する(求職者が選ばない)」「働き方が柔軟な企業の離職率は平均○%低く、採用コストが△万円削減される」——このような論拠が経営の投資判断を促します。


明日からできる3つのこと

1. 「業務棚卸し」を一つのチームで試みる(2週間の実験)

一つのチームで「1週間の業務を時間単位で記録する」実験を提案してください。「不要・削減・移譲できる業務」が可視化されると、「残業を生んでいる構造的な問題」が見えてきます。

2. 「制度の利用率」と「制度を使いにくいと感じる理由」を調べる(1時間)

テレワーク・時差勤務・フレックスなどの柔軟な働き方制度の利用率を確認し、利用率が低い場合は「なぜ使いにくいのか」を数名にインタビューしてください。「制度はあるが使えない」文化の原因が見えてきます。

3. 「時間×成果」のマトリクスで自部門の課題を特定する(1時間)

自分の部門または関わりの深い部門について「残業が多い社員×成果が高い」「残業が少ない社員×成果が高い」「残業が多い社員×成果が低い」の分布を考えてみてください。どの象限が多いかが、取り組むべき課題を示します。


まとめ

働き方改革は「残業時間の削減」という手段から始まりますが、「業務改善・成果評価・多様な働き方の実現」という本質的な変革につながるときに初めて「真の働き方改革」になります。

「手段ありきで人事を動かしてはいけない」——残業規制という「手段」に引きずられず、「事業成果と社員の継続的な活躍を両立する職場作り」という目的を常に意識することが、人事に求められる姿勢です。


もっと深く学びたい方へ

働き方改革・制度設計・生産性向上を体系的に学びたい方へ。

人事のプロ実践講座では、働き方の多様化と生産性向上の実践知識を経営目線で学べます。

人事のプロ実践講座の詳細を見る

働き方改革・制度設計に悩む人事仲間と情報交換したい方は、人事図書館もどうぞ。

人事図書館について詳しく見る

吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

著者の実践講座を見る →
0

人事の知見が集まるコミュニティで、実践知を学びませんか?

人事図書館は、人事のプロフェッショナルが集まる学びのコミュニティです。

関連記事

管理職の仕事はなぜこんなに大変になったのか——人事が支援できること
制度設計・運用

管理職の仕事はなぜこんなに大変になったのか——人事が支援できること

管理職をやりたがる社員が減っている管理職の負荷が高くなって、燃え尽きるケースが増えている——管理職の疲弊と管理職忌避の問題は、多くの企業で深刻化しています。

#1on1#エンゲージメント#採用
人材確保等支援助成金を人事はどう活用するか
制度設計・運用

人材確保等支援助成金を人事はどう活用するか

助成金の情報は入ってくるが、どれが自社に使えるかわからない申請しようとしたら書類が多くて諦めた——助成金・補助金の活用に課題を感じている人事担当者は多い。

#採用#評価#研修
ハラスメント相談・調査の実務——「受けたら終わり」にしない対応の設計
制度設計・運用

ハラスメント相談・調査の実務——「受けたら終わり」にしない対応の設計

ハラスメントの相談を受けたが、次にどう動けばいいのかわからなかった調査を実施したが、当事者双方から不満が出た——ハラスメント対応の実務は、知識と経験なしには難しいのが実情です。

#研修#組織開発#経営参画
副業解禁後に増える労務リスク——人事が知っておくべき実務の落とし穴
制度設計・運用

副業解禁後に増える労務リスク——人事が知っておくべき実務の落とし穴

副業を解禁したが、その後の労務管理に自信がない副業者が増えてきて、何か問題が起きないか不安——副業・兼業制度を導入した企業の人事担当者から、こうした声をよく聞きます。

#採用#評価#組織開発