キャリアオーナーシップを社員に育てる——人事の本当の仕事
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キャリアオーナーシップを社員に育てる——人事の本当の仕事

#1on1#エンゲージメント#評価#研修#組織開発

キャリアオーナーシップを社員に育てる——人事の本当の仕事

「会社がキャリアを決めてくれると思っていた。気づいたら何のスキルも身についていなかった」——こういったキャリアの後悔は、今の時代に起きやすくなっています。

一方で会社側も「社員の自律的なキャリア形成を支援したい」と言いながら、何をどうすれば良いか手探りな状態です。

「キャリアオーナーシップ」——自分のキャリアを自分で考え、選択し、責任を持つこと——を社員が持てる組織にするために、人事は何ができるでしょうか。この記事でお伝えします。


なぜ社員は自分のキャリアを考えられないのか

構造的原因1:「会社に決めてもらう」方が楽

「上司や人事が自分のキャリアを考えてくれる」という期待を持っている社員は少なくありません。これは会社に都合が良いことも事実で、「指示待ちの社員」は配置の自由度が高い。

でも社員が自律的にキャリアを考えないと、「やりたいことがわからない」「何に向いているかわからない」という状態が続き、エンゲージメントが低下します。社員がキャリアを「自分のもの」として持てるよう支援することが、組織と個人の両方にとって重要です。

構造的原因2:キャリアを考える機会が仕組みとして存在しない

「自分のキャリアを考えてください」と言われても、何をどう考えれば良いかわからない人が多い。

会社として「キャリアを考える機会」——キャリア面談・自己申告シート・社内の仕事体験制度・社内公募——を仕組みとして提供しなければ、「自律的に考えてください」は「放置」と変わりません。

構造的原因3:「今の仕事を続けること」が評価される文化

「今の仕事を頑張ることが評価される」「異動・挑戦を求めると変わり者に見られる」——この文化の中では、キャリアを積極的に考える動機が生まれません。キャリアへの挑戦を評価する文化と仕組みの整備が必要です。


よくある失敗パターン

失敗1:「キャリアデザイン研修をやれば終わり」

年1回のキャリアデザイン研修を実施して「キャリア支援をしています」と言えるが、社員の実際のキャリアは何も変わっていない——このパターンでは「研修の満足度は高いが行動変容ゼロ」という結果になりがちです。

研修はきっかけに過ぎません。研修後の「実際のアクション支援」が重要です。

失敗2:「キャリアパス表」を整備したが使われない

「このポジションからはこのポジションへ」というキャリアパス表を作っても、「自分がどこに向かいたいか」を考えていない社員には意味がありません。

キャリアパス表は「こんな可能性がある」という情報提供として有効ですが、その前に「自分はどうしたいか」という内発的な探求を促すことが先です。

失敗3:キャリア支援が「優秀な社員だけ」向けになる

「幹部候補には丁寧なキャリア面談をする」「一般社員はセルフケアで」という二極化は、多くの社員の自律性を育てません。全ての社員が「自分のキャリアを考える権利と機会を持っている」という文化が大切です。


プロの人事はこう考える

知る:キャリアオーナーシップの「3つの要素」

キャリアオーナーシップには3つの要素があります。

①自己理解:自分の強み・弱み・価値観・やりたいことを理解する力。「自分はどんな仕事で力を発揮できるか」「何があれば充実して働けるか」という問いへの答えを持つこと。

②環境理解:自社の中にどんな仕事の機会があるか、外の市場ではどんなスキルが求められているかを知る力。

③行動力:自己理解と環境理解をもとに、「こんな仕事に挑戦したい」「このスキルを身につけたい」という具体的な行動を起こす力。

考える:「人事が提供できるキャリア支援の場」を設計する

①自己理解の支援:ストレングスファインダーやMBTIなどの自己分析ツールの提供、キャリアコンサルタントとの面談機会、ピアコーチングの場(互いにキャリアを話す機会)。

②環境理解の支援:社内公募制度・社内副業制度・他部門見学プログラム・経営者や先輩社員との対話機会。

③行動支援:キャリアアクションプランを1on1で作成・フォローする機会、挑戦へのフィードバック・振り返りの場。

動く:「年1回のキャリア面談」を設計する

まず年1回、全社員に対して「キャリア面談」を実施します。内容は:「今の仕事で充実していることと不満なこと」「3年後にどんな状態でいたいか」「そのために何をしたいか」の3点を話し合うことです。

この面談があることで、「キャリアを自分で考えることが期待されている」という文化メッセージが伝わります。最初から完璧な面談でなくていいです。「話す機会がある」ことが大切です。

振り返る:キャリア支援の「成果」を測る

キャリア支援の効果を測る指標の例:社内公募への応募数・他部門への異動意欲の変化・自己申告の具体性(「どこでも構いません」から「〇〇部門に行きたい」への変化)・離職率の変化(特に「成長機会への不満」起因の離職)。


明日からできる3つのこと

1. 「キャリアについて話してもいいですか?」と聞く面談を一人から始める(1時間)

チームの中の一人に「今の仕事で将来のキャリアについて一緒に考えてみませんか?」という面談を設けます。この一回の経験が、キャリア支援の設計に役立ちます。

2. 社内で「他の仕事を見てみる機会」を一つ作る(1ヶ月)

「1日他部門見学」「ジョブシャドウイング(他の人の仕事を一日見学する)」という機会を一つ設けます。「社内に自分の知らない仕事がある」という気づきが、キャリアの可能性を広げます。

3. 年次面談の中に「3年後の自分」の問いを加える(次回面談から)

次回の評価面談または1on1に「3年後、どんな状態でいたいですか?」という問いを加えます。答えられなくても構いません。「考えていい」という許可を与えることが最初の一歩です。


まとめ

キャリアオーナーシップは「与えるもの」ではなく「育てるもの」です。社員が自分のキャリアを自分のこととして考えられるようになるには、考える機会・話せる場・挑戦を評価する文化が必要です。

「悩まなくていいことは手放し、本当に悩むべきことに時間を使う」という言葉があります。社員が「自分のキャリアについてどう悩むべきか」を整理できるよう支援することが、人事の本当の仕事の一つです。そのキャリアへの向き合いが、個人の成長と組織の活力を同時に生み出します。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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