
副業・兼業制度を「解禁するだけ」で終わらせないために
目次
- なぜ副業・兼業制度の設計は難しいのか
- 「会社へのリスク」と「社員の自由」のバランス
- 「副業の把握」が複雑
- 「過重労働防止」と「副業の自由」の両立
- よくある失敗パターン
- 失敗①:「申請が面倒で誰も使わない」制度になる
- 失敗②:「副業で得た経験」が本業に活かされない
- 失敗③:「副業を認めることへの社内の理解」が得られていない
- プロの人事はこう考える
- 知る:「社員が副業・兼業に求めていること」を把握する
- 考える:「承認・不承認の基準」を明確にする
- 動く:「副業の事例共有」を組織内で行う
- 振り返る:副業・兼業制度の「利用状況と効果」を定期確認する
- 明日からできる3つのこと
- 1. 現行の副業・兼業規程の「申請フロー」を社員視点で確認する(15分)
- 2. 「副業・兼業の承認基準」が明文化されているか確認する(15分)
- 3. 「副業・兼業を経験している社員」に話を聞く(30分)
- まとめ
副業・兼業制度を「解禁するだけ」で終わらせないために
「副業・兼業を解禁しました」——この一言でアナウンスして終わっていませんか。
2018年の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」改定以降、副業・兼業を解禁する企業は増えましたが、「解禁したが活用されていない」「制度はあるが申請が面倒で誰も使っていない」という声も多い。
副業・兼業制度は「解禁すること」が目的ではありません。「社員が外部での経験・学びを本業に活かし、組織と個人が共に成長できる状態を作ること」が目的です。
また「副業・兼業を認める」という判断は、「社員の自律的なキャリア形成を支援する」という経営の姿勢の表明でもあります。「許可制で厳しく管理する」姿勢では、「副業を解禁した」という事実と「社員が感じるメッセージ」が逆になることがあります。
この記事では、副業・兼業制度を「使われる制度」として設計するための考え方をお伝えします。
なぜ副業・兼業制度の設計は難しいのか
「会社へのリスク」と「社員の自由」のバランス
副業・兼業には「競業避止義務への懸念」「過重労働のリスク」「情報漏洩のリスク」「本業への影響」という会社側の懸念があります。一方で「社員の自律的なキャリア形成を支援する」という方向性も重要です。
「リスクを理由に過度に制限する制度」は、実質的に「解禁していないのと同じ」になります。「本業への影響がない範囲で」「情報管理を適切に行いながら」という合理的なルールの範囲で、社員の自由度を確保することが重要です。
「副業の把握」が複雑
副業・兼業の申請・管理は、「どんな副業をしているか」「収入はどの程度か」「健康への影響はないか」という情報の管理が必要です。でも「どこまで会社が把握すべきか」「社員のプライバシーにどこまで踏み込めるか」という判断は難しい。
「申請書類が多すぎて使いにくい」という制度は形骸化します。「必要最低限の情報を確認しながら、手続きをシンプルにする」設計が重要です。
「過重労働防止」と「副業の自由」の両立
副業・兼業の許可にあたって、「本業との合算で過重労働にならないか」という確認は事業者の義務です。でも「副業での労働時間を把握する」ことは現実には難しく、「自己申告」に頼る部分が多い。
「副業で過労死したら会社の責任か」という問いへの回答を、法的・実務的に整理しておくことが重要です。
よくある失敗パターン
失敗①:「申請が面倒で誰も使わない」制度になる
「副業を解禁したが、申請書類が多く・承認フローが長く・承認基準が不明確」という制度では、「申請のコストが副業のメリットを上回る」と感じた社員は申請しません。
「申請したが不承認になった理由がわからない」という経験が広まると、「申請しても無駄だ」という空気が生まれます。「シンプルな申請フロー」「明確な承認・不承認の基準」「申請者への丁寧な説明」が重要です。
失敗②:「副業で得た経験」が本業に活かされない
「副業を認めているが、副業での経験・学びが本業に持ち帰られていない」という状態は、個人と組織の双方にとって機会損失です。
「副業で得た経験・スキルを本業にどう活かすか」を1on1や面談で対話する文化を作ることが、「副業→本業へのフィードバックループ」を生みます。
失敗③:「副業を認めることへの社内の理解」が得られていない
「管理職が副業を申請されても困る」「副業している社員が本業を疎かにしないか心配」という管理職の懸念が放置されたまま制度を導入すると、「マネジャーが副業申請を事実上妨げる」という状態になることがあります。
管理職への「副業・兼業制度の趣旨の説明」と「副業中の社員との関わり方のガイドライン」を提供することが重要です。
プロの人事はこう考える
知る:「社員が副業・兼業に求めていること」を把握する
副業・兼業制度を設計する前に、「社員はなぜ副業をしたいのか」「どんな副業を考えているのか」「何が障壁になっているか」を把握することが重要です。
「収入補填のため」「スキルアップのため」「社外人脈の形成のため」「自分のやりたいことを試すため」——社員のニーズは多様です。「ニーズを理解した上で設計した制度」は、「会社が想定した制度」より使われやすくなります。
「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」——副業制度でも、「社員が何を必要としているか」を知ることが設計の起点です。
考える:「承認・不承認の基準」を明確にする
副業・兼業の承認・不承認の判断基準を明確にすることが、「申請した社員への誠実な対応」と「管理職の判断の一貫性」につながります。
原則的な不承認事由の例: ・競業に当たる副業(自社と直接競合する事業への従事) ・情報漏洩のリスクが高い副業(取引先・業務関連組織への従事) ・本業に明らかな支障が生じる副業(本業時間中の副業・長時間の副業) ・社会的信用を損なう副業
これら以外は原則として認めるという「許可制ではなく届出制に近いスタンス」も選択肢の一つです。
動く:「副業の事例共有」を組織内で行う
副業・兼業を実際に行っている社員の「経験・学び・本業への影響」を組織内で共有することが、制度の活用促進と「副業への理解」につながります。
「このような副業経験が本業でこう活きた」という事例が見えると、「副業を考えていなかった社員」が前向きに検討し始めることがあります。
振り返る:副業・兼業制度の「利用状況と効果」を定期確認する
年に一度「副業・兼業の申請件数・承認率・不承認の主な理由・利用者の満足度」を確認することが重要です。
「申請件数が少ない」場合は「申請のハードルが高いのか」「副業をしたい社員が少ないのか」「制度の認知が低いのか」を分析することが次のステップです。
明日からできる3つのこと
1. 現行の副業・兼業規程の「申請フロー」を社員視点で確認する(15分)
現在の副業・兼業規程の申請フローを「社員が実際に申請しようとしたらどう感じるか」という視点で読み直してみましょう。「面倒だ」「わかりにくい」と感じたら、改善の余地があります。
着手ポイント:「実際に申請した社員・申請を検討した社員」に「申請のしやすさ」を聞いてみることが、最も正確なフィードバックになります。
2. 「副業・兼業の承認基準」が明文化されているか確認する(15分)
承認・不承認の判断基準が就業規則・副業規程に明確に記載されているかを確認してみましょう。「曖昧な判断基準」は「管理職による恣意的な判断」を生みます。
着手ポイント:承認基準が不明確な場合、「原則として認める」「これらに該当する場合は不承認」という形での明確化を検討してください。
3. 「副業・兼業を経験している社員」に話を聞く(30分)
現在副業・兼業を行っている社員と「どんな副業をしているか」「本業への影響・活かし方は?」「制度の使いやすさは?」を聞いてみましょう。リアルな声が制度改善のヒントになります。
着手ポイント:「副業を申請したが不承認になった社員」がいれば、「理由を伝えたか」「本人が納得しているか」を確認することも重要です。
まとめ
副業・兼業制度は「解禁すること」ではなく、「社員が外部での経験を通じて成長し、その学びが本業にも組織にも還元される仕組みを作ること」が目的です。そのためには「シンプルな申請フロー」「明確な承認基準」「副業経験の本業への還流」「管理職への理解促進」が重要です。
「誰も犠牲にならない組織を当たり前に」——副業・兼業を通じて「本業と副業の双方で自分らしく活躍できる社員」を支援することが、インクルーシブな組織の一つの姿です。
まず「現行の副業規程の申請フローを社員視点で確認すること」から始めてみてください。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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