勤怠管理システムの選定と活用——「入れて終わり」にしないために
制度設計・運用

勤怠管理システムの選定と活用——「入れて終わり」にしないために

#評価#研修#経営参画#制度設計#テレワーク

勤怠管理システムの選定と活用——「入れて終わり」にしないために

「勤怠システムを導入したが、打刻漏れが多くて管理できていない」「機能が多すぎて現場が使いこなせない」「月末になると手作業で集計している部分が残っている」——システムを導入したのに、運用の課題が残り続ける。このパターンは勤怠管理システムに限らずあらゆるHRテクノロジーで起きやすいことです。

勤怠管理システムは、正しく選んで・正しく設定して・正しく使われてこそ価値が生まれます。特に、法改正への対応・多様な勤務形態の管理・給与計算との連携という3つの要件が満たされていることが重要です。この記事では、勤怠管理システムの選定から活用までの実践ポイントをお伝えします。


なぜ勤怠管理システムの導入は難しいのか

構造的原因1:「現場の運用」が設計されていない

システムを導入する前に「社員はどのタイミングで・どのデバイスで・どんな方法で打刻するか」という現場の運用フローを詳細に設計しておかないと、「システムはあるが使われていない」という状況が生まれます。

特に「打刻漏れが多い」という問題は、システムの問題ではなく「打刻しやすい環境になっているか」という運用設計の問題であることが多い。

構造的原因2:自社の勤務形態の複雑さへの対応不足

「フレックスタイム制・裁量労働制・時短勤務・シフト制・テレワーク」——多様な勤務形態が混在する会社では、一つのシステムで全てに対応できないことがあります。

選定時に「自社の全ての勤務形態に対応できるか」を確認せずに導入すると、特定の勤務形態の社員だけ手作業が残るという状況になります。

構造的原因3:給与計算・人事システムとの連携が不十分

勤怠データを給与計算・人事システムと連携できていないと、「勤怠システムのデータを手作業でエクスポートして、給与計算に手入力する」という作業が発生します。これでは導入効果が半減します。

システム選定時に「既存の給与計算システムとのAPI連携・データ連携の可否」を確認することが重要です。


よくある失敗パターン

失敗1:機能の多さで選ぶ

「あのシステムは機能が充実している」という理由で選ぶと、自社に不要な機能が多すぎて現場が混乱します。

勤怠管理システムに必要な機能は「自社の勤務形態に対応した打刻と集計ができること」「法定管理(36協定管理・有給取得状況管理)ができること」「給与計算との連携ができること」の3点が基本です。それ以外の機能は「あると便利」程度に考え、基本機能の精度と使いやすさを優先します。

失敗2:価格の安さだけで選ぶ

月額が安いシステムが「法改正への追随が遅い」「カスタマーサポートが弱い」「給与計算との連携ができない」という問題を抱えていることがあります。

労働時間管理に関する法改正(残業上限規制・有給義務化等)への対応スピードが遅いシステムは、法的リスクをもたらします。「初期コスト・月額コスト」だけでなく「法改正対応の実績」「サポートの質」を確認することが重要です。

失敗3:管理職が「勤怠確認・承認」のフローを理解していない

システムを導入しても「管理職が承認フローを使っていない」「締め日に承認が終わらない」という運用上の問題が頻発します。管理職への研修と「いつ・何を・どう操作するか」のマニュアルを整備することが、運用の定着に欠かせません。


プロの人事はこう考える

知る:勤怠管理システムの「選定基準」を整理する

選定時に確認すべき主な観点:

①対応勤務形態:フレックス・裁量労働・変形労働時間制・シフト制・テレワーク——自社の全勤務形態に対応しているか。

②法的管理機能:36協定の上限管理(アラート機能)・有給取得日数の自動管理・高度プロフェッショナル制度の対応(必要な場合)。

③連携性:給与計算システム(弥生・freee・COMPANY等)・人事システムとのデータ連携の可否と方法。

④打刻手段:ICカード・スマートフォンGPS打刻・PC ログイン連携・顔認証——現場の業務環境に合う打刻方法があるか。

⑤サポート体制:法改正時のシステム更新対応・導入時の設定支援・運用中のサポート(電話・チャット等)の品質。

考える:「要件定義」から選定を始める

システム選定の前に「自社の勤怠管理に何が必要か」という要件を定義します。

要件定義のステップ:①現在の勤怠管理の課題を洗い出す(何が手作業か・何が管理できていないか)。②自社の勤務形態の種類と社員数を整理する。③給与計算・人事システムとの連携要件を確認する。④法的管理の必須要件(36協定管理・有給管理)を明確にする。

この要件リストを元に、複数のシステムを比較評価することで「自社に合った選択」ができます。

動く:試験導入(パイロット)を設計する

全社導入の前に「1部門・1ヶ月の試験導入」を行うことを推奨します。試験期間中に確認すること:打刻漏れの発生状況・現場から出た操作上の疑問・管理職の承認フローの習熟度・給与計算との連携の精度。

試験導入で課題を洗い出してから全社展開することで、「全社に展開したら問題が多発した」というリスクを減らせます。

振り返る:「勤怠データの活用」を定期的に確認する

勤怠システムは「管理のため」だけでなく、「分析のため」にも使えます。

活用できるデータ:残業時間の部門別トレンド・有給取得率の推移・長時間労働者のアラート状況・欠勤・遅刻の動向。これらのデータが人事の「働き方改革の効果測定」「長時間労働対策の根拠」として使えます。

「入れたが分析に使っていない」状態では、システム投資の効果が半減します。


明日からできる3つのこと

1. 現在の勤怠管理の「手作業が残っている部分」をリストアップする(1時間)

月末の勤怠集計・有給残日数の確認・36協定のアラート確認——手作業が残っている部分を洗い出します。これが「システムに求める要件」のリストになります。

2. 給与計算システムとの「連携状況」を確認する(30分)

現在の勤怠管理データが、給与計算システムにどのように渡っているかを確認します。「手作業でエクスポート・インポートしている」ならAPI連携への変更が優先課題です。

3. 現行システムの「36協定管理機能」を確認する(30分)

現在使っているシステムに「36協定の上限に近づいたら管理職・人事にアラートが届く機能」があるかを確認します。なければ、この機能を最優先に追加するか、機能があるシステムへの移行を検討します。


まとめ

勤怠管理システムは「法令遵守の基盤」であり、「働き方改革の実績を測る道具」でもあります。「入れること」より「使いこなすこと」に投資することが、システムの価値を最大化します。

「小さく始めて横展開する」というアプローチは、勤怠システムの導入にも当てはまります。一部門での試験導入で運用を磨いてから全社展開することで、「全社リリース後のトラブル」を最小化できます。「使える状態になっていること」が、勤怠管理の本当のゴールです。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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