コンピテンシー設計が「絵に描いた餅」になる会社と、機能する会社の違い
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コンピテンシー設計が「絵に描いた餅」になる会社と、機能する会社の違い

#1on1#採用#評価#組織開発#制度設計

コンピテンシー設計が「絵に描いた餅」になる会社と、機能する会社の違い

「コンピテンシーモデルを作りたい」という相談を受けることがあります。「どんな人材が活躍するかを明確にして、採用・育成・評価に活かしたい」という意図は素晴らしいと思います。

でも、コンピテンシーモデルを作った後に「結局使われていない」「採用でも評価でも活用しきれていない」という結果になることも少なくありません。

コンピテンシー(Competency)とは、高業績者に共通して見られる行動特性のことです。「優秀な人材に共通する行動・思考・態度」を言語化し、採用の見極め基準・評価の行動指標・育成の目標として活用することが目的です。

コンピテンシーモデルが機能しない会社と機能する会社には、設計と運用に大きな違いがあります。この記事では、その違いと、プロの人事がどうアプローチするかをお伝えします。


なぜコンピテンシーモデルは機能しないことがあるのか

「汎用的すぎる」コンピテンシーの罠

コンピテンシーモデルを作るとき、「コミュニケーション力」「問題解決力」「リーダーシップ」「主体性」といった要素が並ぶことがあります。これらは確かに重要な能力ですが、どの会社でも通用する「汎用的すぎるコンピテンシー」では、自社の「活躍する人材」を見極めるための基準にはなりません。

「コミュニケーション力が高い」というのは、どんな状況でどんな行動をすることを指すのか?技術系の専門職と営業職では「コミュニケーション力」の内容は全く異なります。自社・自職種の文脈に落とし込まれたコンピテンシーでないと、実際の行動観察・評価には使えません。

「作ることが目的」になる

コンサルタントに依頼したり、人事チームが時間をかけて設計したりして、立派なコンピテンシーモデルが完成する。でも、完成した後の「使い方」が設計されていないと、棚に眠ります。

採用ではどう使うか、評価ではどう使うか、1on1でどう話題にするか——コンピテンシーモデルは「作った後の使い方」を設計して初めて機能します。

現場が「自分ごと」として捉えない

人事が作ったコンピテンシーモデルを現場に展開しても、「これは人事が作ったもの」として捉えられてしまうと、評価や育成の場面で使われません。

コンピテンシーの設計プロセスに現場を巻き込むことが、「自分たちの言葉で定義されたもの」という感覚を生み、運用への定着を生みます。


よくある失敗パターン

失敗①:コンピテンシーが行動レベルで定義されていない

「顧客志向性が高い」「変化対応力がある」という定義だけでは、観察・評価ができません。「どんな状況で、どんな行動をとることが、このコンピテンシーを発揮していると言えるか」という「行動指標(BEI:Behavioral Event Interview)」のレベルまで落とし込まれている必要があります。

例えば「顧客志向性:顧客の要望を受け取るだけでなく、その背景にある課題を能動的に探り、要望を超えた価値提案を自ら行動する」というレベルで記述されていることが重要です。

失敗②:全役職・全職種に同じコンピテンシーを適用する

新入社員もマネジャーも同じコンピテンシーモデルで評価しようとすると、「このコンピテンシーは今の自分の仕事と関係ない」と感じる場面が生まれます。

役職・職種ごとに「期待される行動レベル」が違います。コンピテンシーの項目は共通でも、「このレベルの職位ではこの行動が期待される」という段階的な定義(ルーブリック)があると、育成の目標としても機能しやすくなります。

失敗③:コンピテンシーが多すぎる

「網羅的に作ろう」と思うと、コンピテンシー項目が15〜20個に膨らんでしまうことがあります。評価者が毎回15〜20項目を観察・評価するのは現実的ではありません。

実用的なコンピテンシーは5〜8項目程度に絞り込むことが重要です。「本当に自社で重要なコンピテンシーは何か」を優先順位づけることが、コンピテンシー設計の核心です。


プロの人事はこう考える

知る:自社の「高業績者」を分析する

コンピテンシー設計の出発点は、「自社で本当に活躍している人は、何が共通しているか」を分析することです。

高業績者へのインタビュー(BEI)、現場マネジャーへのヒアリング、業績データの分析——こうした方法で「自社の活躍者に共通する行動パターン」を特定することが、コンピテンシー設計の「材料」になります。

「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」という考え方が、コンピテンシー設計にも当てはまります。「自社の人材」を深く知ることが、汎用的なモデルではなく「自社にフィットしたコンピテンシー」につながります。

考える:用途から逆算して設計する

コンピテンシーモデルを「何のために使うか」を最初に明確にすることが重要です。

採用での活用:面接で評価すべき観察ポイントとして使う → 行動事実を引き出す質問の設計につながる

評価での活用:上司が部下の行動を観察・評価するための基準として使う → 行動レベルの詳細な定義が必要

育成での活用:「現在の自分と期待水準のギャップ」を認識し、成長目標にする → 段階的な成熟度の定義が必要

用途に応じて、コンピテンシーモデルの粒度や表現が変わります。「すべての用途に使えるモデル」を一つ作ろうとすると、どの用途にも微妙に合わないものになりやすいです。

動く:現場と協働で設計する

コンピテンシー設計のワークショップを現場マネジャーと一緒に行うことをおすすめしています。

「あなたのチームで最も活躍している人の行動を3つ教えてください」「その行動が評価される背景にあるのはなぜですか?」という問いから始めて、現場の言葉でコンピテンシーの原石を集める。それを人事が整理・言語化して、再び現場に確認してもらう。このプロセスが「現場が自分ごとと感じるコンピテンシー」を作ります。

「小さく始めて、成功事例を作って横展開する」——まず一つの部署・一つの職種のコンピテンシーを丁寧に設計し、それが機能したら横展開していくアプローチが有効です。

振り返る:年に一度コンピテンシーを見直す

事業が変われば、求められる行動も変わります。コンピテンシーは「一度作ったら終わり」ではなく、定期的な見直しが必要です。

年に一度、「このコンピテンシーはまだ自社の活躍者を説明しているか?」「事業の変化で追加・修正が必要なコンピテンシーはないか?」を確認するサイクルを持つことが重要です。


明日からできる3つのこと

1. 「自社で最も活躍している人3人」の共通点を挙げる(30分)

今すぐ「自社で間違いなく活躍している」と思う人を3人思い浮かべてください。その3人に共通する行動・思考・姿勢はどんなことでしょうか。この問いへの答えが、コンピテンシー設計のヒントになります。

着手ポイント:「優秀そうに見える」ではなく「確実に成果を出している」人を選ぶことが重要です。

2. 現在の評価基準を「行動レベル」で書き直してみる(60分)

現在の評価項目の一つを取り上げて、「この項目が高評価の人はどんな行動をとっているか」を具体的に書いてみましょう。「コミュニケーション力:B評価の人の行動例」「A評価の人の行動例」という形で書き直すことで、評価基準が行動ベースになっていきます。

着手ポイント:一項目から始めるだけで十分です。すべてをすぐに書き直そうとしなくていいです。

3. マネジャー一人に「チームで活躍する人の行動」を聞く(30分)

マネジャー一人に「あなたのチームで最も活躍している人は、どんな行動をとっていますか?」と聞いてみましょう。その答えが、コンピテンシーの「現場の言葉」になります。

着手ポイント:「優秀な人の特徴」を聞くのではなく「具体的にどんな行動をとっているか」を聞くことが、行動指標に近いコンピテンシーを引き出すコツです。


まとめ

コンピテンシー設計は、「完成させること」が目標ではありません。採用・評価・育成の場面で実際に使われ、「組織の活躍者を育てる」という目的に貢献することが目標です。

「自社の高業績者を知ること」から始まり、現場と協働で「行動ベースのコンピテンシー」を設計し、使いながら磨いていく。その地道なプロセスが、絵に描いた餅ではなく、本当に機能するコンピテンシーモデルを作ります。

遠回りに見えますが、その積み重ねが採用・育成・評価の質を根本から変えていくと思っています。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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