
人事DXの推進役になるために、最初に理解しておくべきこと
目次
- なぜ人事DXは「ツール導入で終わり」になりやすいのか
- 「課題解決」ではなく「ツール導入」が目的になる
- 現場の「使うメリット」が伝わっていない
- DXを「ITの仕事」として丸投げする
- よくある失敗パターン
- 失敗①:全部一気にDXしようとする
- 失敗②:データがバラバラで「統合活用」できない
- 失敗③:導入後のフォローアップがない
- プロの人事はこう考える
- 知る:「何を解決したいのか」を起点にする
- 考える:「データ活用の目的」から逆算する
- 動く:「一つのデータ活用」から始める
- 振り返る:ツールの「使用状況」を定期的に確認する
- 明日からできる3つのこと
- 1. 現在使っているHRツールの「使用率」を確認する(30分)
- 2. 「最も時間がかかっている手作業」を一つ特定する(15分)
- 3. 採用データを一つ分析してみる(60分)
- まとめ
人事DXの推進役になるために、最初に理解しておくべきこと
「うちの会社でもHR Techを活用したい」「人事業務をDXしていきたい」——こういう思いを持つ人事担当者は増えています。でも「何から始めればいいかわからない」「ツールを導入したが現場に使われていない」という悩みも多いのが現状です。
人事DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進役になることは、「ツールの導入担当者」になることではありません。「デジタルを活用して、人事の仕事の質と価値を高めること」が目的です。
人事DX推進の成否を分けるのは、技術的な知識よりも「何のためにデジタルを使うのか」という目的の明確さと、「変化を組織に浸透させるマネジメント力」だと思っています。ツールはどれだけ優れていても、「使われなければ意味がない」のです。
この記事では、人事DXの推進役として押さえておくべき考え方と、よくある失敗をお伝えします。
なぜ人事DXは「ツール導入で終わり」になりやすいのか
「課題解決」ではなく「ツール導入」が目的になる
「採用管理ツールを入れよう」「1on1ツールを導入しよう」——ツールから発想すると、「ツールを導入した」という行動自体が目的になりがちです。
でも、ツールは「課題を解決する手段」です。「今の採用管理の何が問題で、それをツールでどう解決するのか」という問いが先であり、ツールは後です。課題が明確でないまま導入したツールは「使われない機能」だけが増えていきます。
「手段ありきで人事を動かしてはいけない」——これは人事DXにも当てはまります。
現場の「使うメリット」が伝わっていない
新しいツールを導入するとき、「これを入れれば業務が効率化される」と人事側は思っていても、現場の社員やマネジャーにとっては「また新しい操作を覚えなければならない」というコスト感の方が強くなることがあります。
「このツールを使うと自分の仕事がどう楽になるか・良くなるか」が明確に伝わらない限り、ツールは使われません。
DXを「ITの仕事」として丸投げする
人事DXの推進を「IT部門に任せる」「ベンダーに依頼する」という形で丸投げすると、「業務の現実」を知らない人が設計した仕組みができあがることがあります。
人事DXは「人事が主体的に推進すること」が重要です。IT知識がなくても、「何のために・どんな状態を作りたいか」を人事が明確に語れることが、適切なシステム設計につながります。
よくある失敗パターン
失敗①:全部一気にDXしようとする
「一気に全部デジタル化しよう」という発想で多くのツールを同時に導入すると、組織に大きな変化コストがかかります。
新しいツールを使いこなすには学習コストがかかります。多くのツールを同時に導入すると、それぞれを使いこなせないままになりがちです。また、「何かがうまくいかないとき」に「どのツールの問題か」が切り分けられません。
「一つのツール・一つの課題」から始めて、成功事例を作ってから次に進むアプローチが重要です。
失敗②:データがバラバラで「統合活用」できない
採用管理ツール・勤怠管理ツール・評価ツール・研修ツール……それぞれのツールにデータが蓄積されているが、横断的に分析できない——という状態がよくあります。
「ピープルアナリティクス(人材データの分析活用)」を目指すなら、データの一元管理の設計が重要です。ツールを導入する際に「このツールのデータは他のシステムと連携できるか」を確認することが、後のデータ活用の可否を決めます。
失敗③:導入後のフォローアップがない
ツールを導入して「使い方説明会」を一度やった後に、フォローアップがない——という状態がよくあります。最初は使っていても、慣れない操作に挫折したり、自分のやり方に戻ったりすることが多い。
導入後3ヶ月間は「定着のための集中サポート期間」として、使い方の疑問対応・利用状況の確認・フィードバック収集を丁寧に行うことが重要です。
プロの人事はこう考える
知る:「何を解決したいのか」を起点にする
人事DXを推進する前に、「今の人事業務のどこに最も大きな課題があるか」を正確に把握することが出発点です。
課題の類型: ・業務効率の問題(データ入力の手作業・情報の転記・集計の手間) ・意思決定の質の問題(データがないため感覚で判断している・組織の状態が見えない) ・体験の質の問題(採用候補者の体験・社員の評価体験・学習体験が良くない)
「何の問題を解決したいか」が明確になれば、「それに合ったツール・アプローチ」を選べます。
「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」——DX推進でも、まず「自社の課題」を深く知ることが最初のステップです。
考える:「データ活用の目的」から逆算する
「人事データを活用したい」という発想のとき、「何のためにデータを使うか」を先に決めることが重要です。
・採用:どのチャネルから来た人が最も活躍・定着するかを知りたい ・育成:どんな経験をした人がマネジャーとして成功しやすいか知りたい ・離職予防:誰が離職リスクを持っているかを事前に知りたい ・生産性向上:どのチームがどんな行動で高業績を出しているかを知りたい
目的が決まれば、「そのために必要なデータは何か」「そのデータを取るためにどんな仕組みが必要か」が逆算できます。
動く:「一つのデータ活用」から始める
まず「一つの問いに答えるためにデータを使ってみる」という小さな実践から始めることをおすすめします。
例えば、「直近3年で採用した方の定着率を採用チャネル別に集計してみる」という小さな分析でも、「どのチャネルが最も定着率が高いか」という採用戦略への示唆が生まれます。
この「小さなデータ活用の成功体験」を経営や現場に見せることで、「人事がデータで考えている」という信頼が生まれ、DX推進への理解が高まります。
振り返る:ツールの「使用状況」を定期的に確認する
導入したツールが実際に使われているかを定期的に確認することが重要です。使用率が低いツールは「なぜ使われていないか」を調査し、「改善か廃止か」を判断する必要があります。
「使われていないツールにコストを払い続ける」という状態は、次のDX投資への障壁になります。
明日からできる3つのこと
1. 現在使っているHRツールの「使用率」を確認する(30分)
現在導入しているHRツール(採用管理・勤怠・評価等)について、「実際にどのくらい使われているか」を確認してみましょう。使われていない機能・ツールがあれば、それが最初の改善対象です。
着手ポイント:ツールの管理画面に利用統計がある場合は、ログイン率や機能別の使用率を確認しましょう。
2. 「最も時間がかかっている手作業」を一つ特定する(15分)
現在の人事業務の中で「最も時間がかかっている手作業」は何ですか?それを一つ特定することが、DX化の優先課題を見つける出発点です。
着手ポイント:「毎月5時間以上かかっているルーティン作業」を探してみてください。そこがDXによって最も大きな時間節約ができる領域です。
3. 採用データを一つ分析してみる(60分)
直近1〜2年の採用データを使って、「採用チャネル別の定着率」または「どの時期の採用者が早期離職しやすいか」を集計してみましょう。この分析が「データで採用を語れる人事」への第一歩です。
着手ポイント:完璧な分析でなくて大丈夫です。Excelで入社者と在籍状況を整理するだけで十分な出発点になります。
まとめ
人事DXの推進役になることは、テクノロジーのプロになることではありません。「デジタルを活用して人事の課題を解決し、組織に価値をもたらす」という目的を持ち、変化を組織に浸透させるマネジメント力を持つことです。
「遠回りに見えても、課題から逆算してツールを選ぶことが近道」——これが人事DX推進で最も大切な考え方です。まず一つの課題から始めて、成功事例を積み上げていきましょう。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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