過重労働対策が「記録の管理」だけになっていませんか
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過重労働対策が「記録の管理」だけになっていませんか

#評価#組織開発#経営参画#制度設計#データ活用

過重労働対策が「記録の管理」だけになっていませんか

「残業時間は管理しています」——でも「勤怠記録は整っているが、実態と乖離している」「形の上では規定時間内だが、持ち帰り残業が横行している」という状態になっていませんか。

過重労働対策は「勤怠記録を適正に管理すること」だけではありません。「社員が健康的に働ける環境を作ること」「業務量・業務配分の問題に根本から向き合うこと」が本質です。

「記録上は問題ない」という状態が、「実態は過重労働」を隠してしまうことがあります。法的リスクを避けることは最低限として、「社員が健康で長く活躍できる働き方」を設計することが、人事としての本来の役割です。

この記事では、過重労働対策の本質的な考え方と実務での取り組みをお伝えします。


なぜ過重労働対策は難しいのか

「長時間労働の文化」が根深い

「残業して頑張っている姿が評価される」「早く帰ると仕事が少ないと思われる」という文化が根強い組織では、過重労働は「制度の問題」だけでなく「文化の問題」でもあります。

「残業ゼロにしろ」と号令をかけても、「評価される行動が変わらなければ」社員の行動は変わりません。「長時間働くことが評価されない文化」を作ることが、過重労働対策の根本的なアプローチです。

「業務量」と「人員」のバランスが合っていない

「業務量が増えているのに人員が増えていない」という状態は、個人が努力しても過重労働が解消されない構造的な問題です。

「残業を減らせ」という指令だけでは、「仕事が終わらないのに帰ること」への不安が生まれ、「サービス残業・持ち帰り残業」という地下に潜った過重労働が生まれます。「業務量と人員のバランス」という構造的な問題に向き合うことが重要です。

「長時間労働が成果につながる」という思い込み

「長く働けばそれだけ成果が出る」という思い込みが、組織全体に染み込んでいることがあります。

でも、「働く時間の長さ」と「成果の質」は比例しません。疲弊した状態での長時間労働は、判断力の低下・ミスの増加・創造性の低下を引き起こします。「時間ではなく成果を評価する」という評価文化への転換が、過重労働対策の土台になります。


よくある失敗パターン

失敗①:「月45時間以内にしろ」という指令だけ出す

「残業は月45時間以内にしてください」という通達を出しても、「何をどう削るか」の支援がなければ、現場のマネジャーは「どうしろというのか」と感じます。

「削減する余地のある業務の棚卸し」「優先度の低い業務の廃止・外注化」「業務プロセスの改善」——これらの支援をセットで提供することが重要です。「目標だけ示して手段を与えない」というアプローチは、現場を疲弊させます。

失敗②:上司が「帰れ」と言うが、自分は残っている

「早く帰るように部下に言うが、自分は毎日深夜まで働いている」という管理職の存在が、「本当に帰っていいのか」という雰囲気を作ります。

過重労働対策は「部下だけでなく管理職も含めた行動変容」が必要です。管理職自身の労働時間の可視化と、管理職への「自分の時間管理の改善」サポートが重要です。

失敗③:過重労働の「根本原因」を見ない

「残業時間の多い社員への個別注意」や「残業申請の厳格化」という対処療法では、「なぜ長時間働く必要があるか」という根本原因は解決しません。

「業務量の過多」「非効率なプロセス」「人員配置のミスマッチ」「無駄な会議・報告業務」——これらの根本原因を特定し、改善することが本質的な過重労働対策です。


プロの人事はこう考える

知る:「過重労働の実態」を正確に把握する

過重労働対策を設計する前に、「今の組織の労働時間の実態」を正確に把握することが重要です。

把握すべきこと: ・部署別・職種別の残業時間の実態 ・残業時間の多い社員の業務内容 ・「時間外申請なしで働いている実態」の有無 ・マネジャー自身の労働時間

「記録されている残業時間」と「実態の労働時間」のギャップを確認することが、対策の起点です。

考える:「業務の棚卸し」を組織的に行う

過重労働の根本原因として最も多いのは「業務量の過多」です。でも「どの業務が本当に必要か」を見直す機会がないまま、業務が積み重なっていることが多い。

組織的な業務棚卸しのアプローチ: ・全業務を「やめる」「減らす」「変える」「続ける」で分類 ・定例会議・報告書の必要性の見直し ・外注・自動化できる業務の特定 ・優先度の低い業務の廃止

「仕事を減らすことは怠慢ではない。不要な仕事をなくすことが組織への貢献」という発想の転換が重要です。

動く:「残業時間の多い部署」のマネジャーと原因を掘り下げる

残業時間が特に多い部署のマネジャーと、「なぜ長時間労働が発生しているか」を一緒に分析する場を設けることが有効です。

「責める」のではなく、「業務量・プロセス・人員配置について一緒に解決策を考える」というパートナーシップでの関わりが、マネジャーが本音を話しやすくします。

振り返る:「残業時間の変化」を定期的にモニタリングする

月次で部署別の残業時間の変化を確認し、「改善した部署・悪化した部署」を把握することが重要です。

悪化した部署には早めに介入し、「何が原因か」を確認することが、過重労働の深刻化を防ぎます。「改善した部署の取り組み」を他部署に展開することも重要です。


明日からできる3つのこと

1. 部署別の残業時間データを確認する(30分)

直近3ヶ月の部署別の月平均残業時間を集計してみましょう。「特に残業時間が多い部署」「残業時間が急増している部署」を特定することが、優先介入先を見つける出発点です。

着手ポイント:「月45時間超」「3ヶ月連続80時間超」という過労死ラインのアラートが出ている社員がいないかを確認することが最優先です。

2. 「無駄な会議・報告」を一つ廃止してみる(今週中)

自分が関わっている「本当に必要か疑問な定例会議や報告資料」を一つ選び、廃止・縮小を提案してみましょう。「小さな廃止」が「業務削減の文化」の種になります。

着手ポイント:まず自分の部門内で始めることで、「廃止しても問題なかった」という実証ができます。

3. 残業時間が多い社員に「何が最も時間を取っているか」を聞く(15分)

残業が多い社員と15分話し、「最も時間を取られている仕事は何か」「どうすれば減らせるか」を一緒に考えてみましょう。個人の感覚からわかる「業務改善のヒント」が得られることがあります。

着手ポイント:「なぜ残業しているか」という問い方ではなく、「どんな仕事に時間がかかっているか」という問い方の方が、改善の議論になりやすいです。


まとめ

過重労働対策の本質は「記録の管理」ではなく、「社員が健康的に働ける環境を設計すること」です。そのためには「長時間労働の文化の変革」「業務量と人員のバランスの見直し」「業務の棚卸しと改善」という構造的なアプローチが必要です。

「法的リスクを避けること」は最低限として、「社員が長く健康に活躍できる組織をつくること」が人事としての本来の目標です。まず「過重労働の実態を正確に把握すること」から始めてみてください。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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