インクルーシブな組織を「多様性の宣言」だけで終わらせないために
組織開発

インクルーシブな組織を「多様性の宣言」だけで終わらせないために

#エンゲージメント#採用#評価#研修#組織開発

インクルーシブな組織を「多様性の宣言」だけで終わらせないために

「ダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます」——こう言いながら、「女性管理職比率の目標だけが走っている」「外国人社員を採用したが活躍できていない」という状態になっていませんか。

インクルージョン(Inclusion)とは「多様な人々が自分らしく参画し、力を発揮できる状態」です。ダイバーシティ(多様性)を確保しただけでは不十分で、「多様な人が実際に貢献できる環境」を作ることがインクルージョンの本質です。

「多様な人材を採用した」のに「活躍できていない」「職場の雰囲気になじめない」という状態は、インクルージョンができていないサインです。「数字の目標達成」よりも「実際に多様な人が活躍できる組織文化」を作ることが、インクルーシブな組織づくりの目的です。

この記事では、インクルーシブな組織づくりの本質と実践の考え方をお伝えします。


なぜインクルーシブな組織づくりは難しいのか

「多様性」と「インクルージョン」は別の課題

ダイバーシティ(多様性)は「どれだけ多様な属性の人材がいるか」という状態の指標です。インクルージョンは「多様な人が実際に力を発揮できているか」という体験・文化の指標です。

「多様な人材を採用した(ダイバーシティ)」だけでは、「多様な人が活躍できる(インクルージョン)」は達成されません。「どうすれば採用した多様な人材が力を発揮できるか」というインクルージョンの設計が別途必要です。

「無意識の偏見」が排除しにくい

インクルージョンを妨げる大きな要因に「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」があります。「女性は管理職に向いていないと無意識に思っている」「外国人社員の発言を軽く見ている」——こうした無意識の偏見は、本人が認識していないだけに「直接指摘しにくい」という難しさがあります。

「研修で無意識の偏見を学ぶ」ことは啓発として有効ですが、「組織の構造・意思決定プロセス」に偏見が組み込まれている場合、個人の意識変化だけでは解決しません。

「マジョリティ(多数派)の無自覚な特権」

インクルーシブな組織では、「マジョリティ(これまでの標準)」が自分の特権に気づくことが必要です。「日本語が母語でない人が会議で意見を言いにくい」「育児中の女性が会議後の飲み会に参加しにくい」——これらは「多数派にとって当たり前の慣行」が「少数派には参加しにくい壁」になっていることを示します。

この「壁」に気づいていない多数派が多い限り、インクルーシブな組織文化は変わりにくいです。


よくある失敗パターン

失敗①:「数字目標」だけが先走る

「女性管理職を2030年までに30%に」という数値目標を設定したが、「どうすれば女性が管理職として活躍できる環境になるか」という具体的な取り組みが伴わないケースがあります。

数字目標は「方向性を示す羅針盤」として重要ですが、「目標だけあって取り組みがない」状態では、無理な昇格や形式的な人事異動が起きやすい。

「多様な人材が自然に活躍できる組織文化を作ること」が先であり、数字目標はその結果として達成されるものです。

失敗②:「研修実施」で終わる

「アンコンシャス・バイアス研修を全社員に実施した」という取り組みは重要ですが、「研修後に何かが変わったか」を確認しないまま「インクルージョンに取り組みました」とすることがあります。

研修は「意識の変化」を促すが、「行動の変化」「組織の変化」には、「研修後の実践の場・フィードバック・継続的な対話」が必要です。

失敗③:「当事者の声」を聞かない

「少数派の人材が感じている困難・課題・不満」を聞かないまま「インクルーシブな取り組み」を設計するのは、「当事者のいない場所で当事者のことを決める」という状態です。

女性社員・外国籍社員・障がいのある社員・育児・介護中の社員——「実際にどんな困難を感じているか」を丁寧に聞くことが、実効性のある取り組みの設計につながります。


プロの人事はこう考える

知る:「誰がどんな困難を感じているか」を把握する

インクルーシブな組織づくりを始める前に、「今の組織で多様な人材がどんな経験をしているか」を把握することが重要です。

把握の方法: ・多様な属性の社員を対象とした定性的なインタビュー ・エンゲージメントサーベイの属性別集計(女性/男性・外国籍/日本籍・世代別等) ・採用・昇格・離職データの属性別分析

「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」——インクルージョンでも、「当事者の実態を知ること」が設計の起点です。

考える:「仕組み・プロセスに組み込む」アプローチ

インクルージョンを「研修・啓発だけ」から「仕組み・プロセスに組み込む」へ転換することが重要です。

仕組みへの組み込みの例: ・採用面接の評価基準から無意識の偏見が入りにくい構造化面接の導入 ・昇格・昇進の判断プロセスに多様な視点が入る委員会設計 ・会議の進め方のルール(発言機会の均等化・非同期での意見収集) ・育児・介護・副業等のライフイベントを踏まえた柔軟な働き方制度

「個人の意識変化」に頼るのではなく、「仕組みが多様性を支える」状態を作ることが、持続可能なインクルージョンにつながります。

動く:「小さなインクルーシブな変化」を可視化する

「インクルーシブな職場づくりの取り組みが進んでいる」という感覚を社員が持てるよう、「取り組みの進捗と変化」を定期的に発信することが重要です。

「このチームでは会議の進め方を変えた」「この部署では育児中の社員が管理職になった」——小さな変化を可視化することで、「組織は変われる」という信頼が生まれます。

振り返る:「多様な人材の活躍状況」を数値で確認する

「インクルージョンが進んでいるか」を確認するための数値指標: ・属性別のエンゲージメントスコアの変化 ・女性・外国籍・障がい者社員の管理職比率の変化 ・多様な属性の社員の離職率の変化 ・「自分の意見が職場で尊重されている」という感覚のサーベイスコア

「取り組みの結果、何が変わったか」を測ることが、次の改善につながります。


明日からできる3つのこと

1. エンゲージメントサーベイを「属性別」に集計してみる(30分)

直近のエンゲージメントサーベイの結果を「性別」「世代別」「雇用形態別」に集計してみましょう。「全体のスコアは問題ないが、特定の属性グループのスコアが低い」という差が見える場合があります。

着手ポイント:差が見えた場合、「なぜその属性グループのスコアが低いのか」を当事者へのインタビューで確認することが次のステップです。

2. 「社内の女性・外国籍・多様な属性の社員」と対話の場を設ける(来月中に)

多様な属性の社員3〜5名と「職場での経験・感じている困難・改善してほしいこと」を聞く場を設けてみましょう。「当事者の声を直接聞くこと」が、インクルーシブな組織づくりの最も重要な情報源です。

着手ポイント:「会社への批判・不満」を聞くことへの抵抗感があるかもしれませんが、「知ることで改善できる」という前向きな姿勢で臨むことが大切です。

3. 自社の採用面接・昇格プロセスに「構造化の仕組み」があるか確認する(30分)

採用面接の評価基準・昇格の判断プロセスを確認し、「評価者の主観・バイアスが入りにくい構造になっているか」を見てみましょう。評価基準が曖昧・評価者一人の主観に依存している場合は、改善の余地があります。

着手ポイント:まず採用面接の評価シートから見直すことが、比較的取り組みやすい改善の出発点です。


まとめ

インクルーシブな組織づくりは「宣言」や「研修」だけでは実現しません。「当事者の声を聞き」「仕組み・プロセスに多様性を支える設計を組み込み」「変化を可視化する」という継続的なサイクルが必要です。

「誰も犠牲にならない組織を当たり前に」——多様な人が自分らしく力を発揮できる組織は、多様な視点を経営に取り込み、より良い意思決定ができる組織でもあります。

まず「多様な属性の社員の声を聞くこと」から始めてみてください。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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