育休復帰支援が「復帰させること」だけになっていませんか
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育休復帰支援が「復帰させること」だけになっていませんか

#エンゲージメント#評価#組織開発#キャリア#制度設計

育休復帰支援が「復帰させること」だけになっていませんか

「育休から職場復帰させる」ことはゴールではありません。「育休後も活躍し続けられる環境を作ること」が育休復帰支援の本質です。

「復帰したが、以前と同じように働けない」「キャリアが止まった感覚がある」「周囲に気を使いすぎて疲弊する」——育休復帰後の社員が感じているこうした困難は、「制度だけ整えれば解決する」問題ではありません。

育休復帰後の社員が感じる困難の多くは、「職場の文化・マネジャーの関わり方・仕事の設計」の問題です。「育休からスムーズに復帰させること」に加えて、「復帰後も本人が力を発揮できる職場を作ること」が、育休復帰支援の設計に求められています。

この記事では、育休復帰支援の本質と、人事として何をすべきかをお伝えします。


なぜ育休復帰支援は難しいのか

「復帰する側」と「受け入れる側」の双方に課題がある

育休から復帰する社員は「以前と同じように働けるか不安」「子どもの急な体調不良でチームに迷惑をかけるのでは」という不安を抱えています。

一方、受け入れる職場の側では「育休中にチームの業務をカバーしてきた」「復帰後の業務分担をどうするか」という課題があります。

双方に課題があるにもかかわらず、「復帰する側のサポート」だけに焦点が当たりがちです。「受け入れる職場への支援」も同様に重要です。

「時短勤務が当たり前」という思い込み

「育休復帰=時短勤務」という前提が強い職場では、「本人がフルタイムで戻ることを希望していても、時短でと勧められる」という状況が起きることがあります。

「育児中だから時短で」というのは「善意のサポート」に見えて、「本人のキャリアの選択肢を狭める」という問題を含んでいます。「本人が何を望んでいるか」を確認することなく「こうすれば良い」と決めてしまうことは、インクルーシブな対応とは言えません。

マネジャーの「扱い方がわからない」という戸惑い

「育休から復帰した社員との接し方がわからない」「どこまで配慮すべきか、過度な配慮になっていないか」——こうした戸惑いを感じるマネジャーは少なくありません。

マネジャーが「どう関わればいいか」を知らないまま放置されると、「過剰配慮(仕事を任せない)」か「放置(何も配慮しない)」という両極端の対応になりがちです。マネジャーへの具体的なガイドラインと支援が重要です。


よくある失敗パターン

失敗①:「復帰前面談」だけで終わる

復帰前に人事・上司と面談を行うことは重要ですが、「面談して終わり」という状態では不十分です。

復帰後の最初の3ヶ月間は「業務に慣れる・チームに再適応する・生活リズムを作る」という複数の課題が重なる大変な時期です。「復帰後の定期的な確認面談」を設けることが、困難の早期発見と対処につながります。

失敗②:「育休中の期間」のキャリア支援がない

育休中の社員は「職場から切り離されている感覚」を感じやすい時期です。「職場の情報が届かない」「自分のキャリアがどうなるか不安」という状態が長引くと、「職場への帰属意識が薄れる」ことがあります。

育休中でも「定期的な情報共有・勉強会への任意参加・人事担当者との定期連絡」を設けることで、「会社との縁が続いている感覚」を維持することができます。

失敗③:「本人の希望」を確認しないまま配置を決める

「子育てで忙しいだろうから、責任の軽い仕事にした方がいい」という判断を、本人に確認せずに行うことがあります。

「育児中だから」という理由での一方的な配置変更は、「キャリアの後退」として本人に受け取られることがあります。「本人が何を望んでいるか」「どんな働き方が可能かを自分で判断させる」ことが、インクルーシブな支援の基本です。


プロの人事はこう考える

知る:「育休復帰者が抱えている困難」を把握する

育休復帰者への支援を設計する前に、「育休から復帰した社員が実際にどんな困難を感じているか」を把握することが重要です。

「復帰後のアンケート」「1〜3ヶ月後のフォロー面談での声」——これらを継続的に収集することで、「うちの職場で育休復帰者が感じやすい困難」のパターンが見えてきます。

「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」——育休復帰支援でも、「当事者の経験を知ること」が設計の起点です。

考える:「復帰後3ヶ月のサポート設計」を作る

育休復帰後の最初の3ヶ月間を「重点サポート期間」として、以下を設計することが有効です。

・復帰前:本人の希望確認面談・業務再開のための情報共有 ・復帰1週目:マネジャーとの業務確認・チームへの挨拶・緊急連絡の確認 ・復帰1ヶ月後:フォロー面談(困っていないか・調整できることがないか確認) ・復帰3ヶ月後:振り返り面談(今後のキャリアの方向性について)

「人事が見ていてくれる」という安心感が、育休復帰後の定着に大きく寄与します。

動く:マネジャーへの「育休復帰者の受け入れガイド」を作る

マネジャーが「育休復帰者とどう関わればいいか」がわかるよう、具体的なガイドラインを提供することが重要です。

ガイドラインに含める内容: ・復帰前面談で確認すべきこと(本人の希望・体調・希望業務内容) ・最初の1ヶ月のフォロー方法 ・「過剰配慮」と「適切な配慮」の違い ・本人から「急な休みが必要」と言われたときの対応方針

「マネジャーに任せきり」にせず、人事から具体的なサポートを提供することが重要です。

振り返る:「育休復帰後の定着率・活躍状況」を追跡する

育休復帰後1年以内の離職率、復帰後の評価結果、復帰後のエンゲージメントスコア——これらを追跡することで、「育休復帰支援の質」を測ることができます。

「育休復帰後1年以内の離職率が高い」という結果が出た場合、「どの段階でどんな困難が起きているか」を詳しく調べることが重要です。


明日からできる3つのこと

1. 「直近1〜2年の育休復帰者」の状況を確認する(30分)

直近1〜2年で育休から復帰した社員が「現在どうしているか」を確認してみましょう。「引き続き活躍している」「離職した」「元気がない様子」など、現状を把握することがサポートの出発点です。

着手ポイント:「把握できていない」という場合は、「人事が育休復帰者をフォローする仕組みがない」というサインです。フォロー体制の整備を検討してください。

2. 育休中の社員への「定期連絡」の仕組みを確認する(15分)

現在、育休中の社員と「どのくらいの頻度で、誰が、どんな内容で」連絡を取っているか確認してみましょう。「連絡が取れていない」「マネジャーまかせ」という状態なら、人事からの定期連絡の仕組みを作ることを検討してください。

着手ポイント:「育休中に何も連絡がなかった」という経験が「職場への帰属意識の低下」につながることがあります。3ヶ月に1度でも人事から連絡するだけで印象が変わります。

3. 「復帰後のマネジャーへのサポート」として何を提供しているか確認する(15分)

マネジャーが育休復帰者を受け入れる際の「人事からのサポート」として何が用意されているかを確認してみましょう。「何もない」という場合、まずシンプルな「受け入れチェックリスト」を作ることから始めてみてください。

着手ポイント:「マネジャーが困っているが相談先がない」という状態は、育休復帰者へのサポートの質を下げます。「人事が相談に乗ること」を伝えるだけでも意味があります。


まとめ

育休復帰支援は「復帰手続きを整えること」ではなく、「育休復帰後も本人が活躍し続けられる職場環境を作ること」です。そのためには「本人の希望を確認すること」「復帰後の重点サポート期間を設けること」「マネジャーへの具体的な支援を提供すること」の3つが重要です。

「誰も犠牲にならない組織を当たり前に」——育児中の社員も、育児中でない社員も、それぞれの状況で力を発揮できる職場を作ることが、インクルーシブな組織の姿です。

まず「直近の育休復帰者の現状を確認すること」から始めてみてください。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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