
ダイバーシティ経営を「経営の成果」につなげるために
目次
- なぜダイバーシティ経営は「成果」につながりにくいのか
- 「多様性の確保」と「多様性の活用」を混同する
- ダイバーシティが「コスト」として認識されている
- 「日本の文化・慣習」との摩擦
- よくある失敗パターン
- 失敗①:経営陣が「他人事」にしている
- 失敗②:「特定の属性への優遇」として受け取られる
- 失敗③:成果の測定がない
- プロの人事はこう考える
- 知る:「自社のダイバーシティの現状」を多面的に把握する
- 考える:「多様性が経営成果に結びつく経路」を設計する
- 動く:「経営意思決定への多様な声の参加」を仕組みとして作る
- 振り返る:ダイバーシティ経営の進捗を年次で確認する
- 明日からできる3つのこと
- 1. 「経営会議・重要会議の参加者の属性」を確認する(15分)
- 2. 「ダイバーシティが事業に貢献した事例」を1つ探す(30分)
- 3. 「属性別のエンゲージメントスコア」を確認し、差があれば原因を探る(30分)
- まとめ
ダイバーシティ経営を「経営の成果」につなげるために
「うちもダイバーシティ経営に取り組んでいます」——この言葉が「女性管理職比率の目標を掲げている」「外国人社員を採用した」という事実を指しているだけなら、それは「ダイバーシティのための取り組み」であって、「ダイバーシティ経営」とは言えないかもしれません。
ダイバーシティ経営の本質は「多様な人材の多様な視点・経験・能力を経営に活かし、イノベーションと事業成長につなげること」です。「多様性のある状態を作ること(ダイバーシティ)」がゴールではなく、「その多様性が経営成果に結びついていること」が真のダイバーシティ経営です。
「人にとって良いから」という理由だけでなく、「事業成長のために必要だから」という経営的な論拠でダイバーシティ経営を推進することが、経営陣の理解を得て持続的な取り組みにする鍵です。
この記事では、ダイバーシティ経営を「経営の成果」につなげるための考え方をお伝えします。
なぜダイバーシティ経営は「成果」につながりにくいのか
「多様性の確保」と「多様性の活用」を混同する
「女性社員を増やした」「外国籍社員を採用した」という「多様性の確保」は、ダイバーシティ経営のスタートラインです。でも、それで「ダイバーシティ経営を実践している」と考えてしまうと、「多様な人材が実際に経営に貢献できているか」という問いが生まれにくくなります。
「採用した多様な人材が、どんな意思決定の場に参加しているか」「多様な視点がどのように事業戦略に反映されているか」——これらが問われないまま「多様性の確保」だけが進んでも、経営成果にはつながりません。
ダイバーシティが「コスト」として認識されている
「ダイバーシティへの投資(研修・制度整備・採用コスト)」は見えやすいが、「ダイバーシティによる経営への貢献(イノベーション・市場拡大・リスク低減)」は見えにくいため、「ダイバーシティはコストだ」という認識になりやすい。
「ダイバーシティが経営にどう貢献しているか」を数値・事例で示せる人事が、経営陣の理解を得てダイバーシティ経営を推進できます。
「日本の文化・慣習」との摩擦
日本企業の多くでは「同質性の高いチーム」が機能的に働いてきた歴史があります。「多様な人材が入ることで意見の衝突が増える」「意思決定に時間がかかるようになる」という経験が、「ダイバーシティは摩擦を生む」という印象につながることがあります。
でも、「摩擦のない意思決定」は「同質性からくる見落とし・リスク」を含んでいます。多様な視点からの意見が出ることが、「より良い意思決定のための必要な摩擦」であるという認識の転換が重要です。
よくある失敗パターン
失敗①:経営陣が「他人事」にしている
「ダイバーシティは人事の仕事」という認識が経営陣にある限り、ダイバーシティ経営は推進しにくい。人事が旗を振っても、「経営の意思決定に多様な視点が入る仕組みがない」「経営陣自身が多様性を重視する行動を取っていない」という状態では、組織に変化は生まれません。
ダイバーシティ経営は「経営トップのコミットメントとリーダーシップ」がなければ機能しません。CEOや経営陣が自ら発信し、率先して行動することが不可欠です。
失敗②:「特定の属性への優遇」として受け取られる
「女性優遇だ」「外国人社員だけ特別扱いされている」という声が出ることがあります。多数派が「自分たちが不公平に扱われている」と感じると、ダイバーシティへの抵抗感が高まります。
ダイバーシティ経営は「特定の属性を優遇すること」ではなく、「すべての人が公平に能力を発揮できる機会を作ること」です。この趣旨を丁寧に組織全体に伝えることが重要です。
失敗③:成果の測定がない
「ダイバーシティ経営に取り組んでいるが、何が変わったかわからない」という状態では、経営への説得力が生まれません。
「どんな指標で成果を測るか」を事前に設計し、定期的に結果を確認することが重要です。「多様性の指標(女性管理職比率等)」だけでなく、「経営成果への貢献(イノベーション数・市場シェア・エンゲージメント等)」との関連も測ることが理想です。
プロの人事はこう考える
知る:「自社のダイバーシティの現状」を多面的に把握する
ダイバーシティ経営を推進するための出発点として、「今の自社の多様性の実態」を把握することが重要です。
把握すべき指標: ・採用・昇格・離職の属性別データ ・管理職・経営層の多様性(性別・年齢・出身・経歴) ・社員のエンゲージメントの属性別差異 ・「意見が尊重されている」「自分らしく働ける」という感覚の属性別差異
「数字の多様性」だけでなく「経験・感覚の多様性」も把握することで、「どこに投資すべきか」が見えてきます。
考える:「多様性が経営成果に結びつく経路」を設計する
「多様な人材の多様な視点が、どのように事業成果に貢献するか」という経路を明確にすることが、ダイバーシティ経営を「経営の投資」として位置づけることにつながります。
例えば: ・「女性社員が製品設計に参加することで、女性ユーザーのニーズが取り込まれ、女性市場でのシェアが上がる」 ・「多様なバックグラウンドを持つチームが新規事業を担当することで、見落としが少ない事業設計ができる」
「ダイバーシティ×事業成果」の仮説を立て、検証していくことが重要です。
動く:「経営意思決定への多様な声の参加」を仕組みとして作る
経営の意思決定の場(経営会議・事業計画レビュー・重要会議)に、多様な視点が入る仕組みを作ることが重要です。
具体的な方法: ・経営会議への多様な属性の社員の参加(オブザーバー・意見発表の機会) ・プロダクト・サービス設計への多様な社員の参加 ・経営陣との定期的な対話会(若手・女性・外国籍社員等)
「多様な人がいる」だけでなく、「多様な人の声が経営に届く構造」を作ることが、真のダイバーシティ経営です。
振り返る:ダイバーシティ経営の進捗を年次で確認する
年次でダイバーシティ経営の進捗を確認する場を設けることが重要です。
「数値目標の達成状況」だけでなく、「取り組みを通じてどんな事業成果・組織変化があったか」を振り返り、「次年度の優先取り組み」を設計する。このサイクルが、ダイバーシティ経営を「やりっぱなし」ではなく「機能する経営のツール」にします。
明日からできる3つのこと
1. 「経営会議・重要会議の参加者の属性」を確認する(15分)
自社の経営会議・重要な意思決定の場の参加者を確認し、「どれだけ多様な属性の人が参加しているか」を見てみましょう。「ほぼ同質の参加者だ」という場合、「多様な声が経営に届く機会がない」というサインです。
着手ポイント:「会議に呼べる人がいない(多様な人材が育っていない)」という場合は、採用・育成の課題の裏返しとして捉えることも重要です。
2. 「ダイバーシティが事業に貢献した事例」を1つ探す(30分)
自社の中で「多様な視点・経験が新しいアイデアや事業成果につながった事例」を1つ見つけてみましょう。この事例を経営への発信に使うことで、「ダイバーシティ経営の価値」を具体的に示せます。
着手ポイント:小さな事例でも構いません。「外国籍社員のアイデアで製品デザインが改善された」「女性社員の発案でサービスの課題が見えた」という事例が、ダイバーシティの具体的な価値を示します。
3. 「属性別のエンゲージメントスコア」を確認し、差があれば原因を探る(30分)
エンゲージメントサーベイのデータを「女性/男性」「管理職/非管理職」「年代別」などの属性で集計してみましょう。差がある属性グループについて、「なぜ差が生まれているか」をヒアリングすることが次のステップです。
着手ポイント:属性別の差は「インクルージョンの課題がある領域」を示す貴重な指標です。
まとめ
ダイバーシティ経営は「多様な人材を揃えること」ではなく、「多様な人材の多様な視点が経営に活かされている状態」です。そのためには「多様性の確保」「インクルージョンの実現」「経営意思決定への多様な声の参加」の3つが揃うことが必要です。
「経営数字から発想する人事」という視点でダイバーシティ経営を推進することで、「人にとって良いから」だけでなく「事業成長のために必要だから」という経営言語での対話ができる人事になります。
まず「自社のダイバーシティの現状データ」を把握することから始めてみてください。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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