ダイバーシティ経営を「経営の成果」につなげるために
組織開発

ダイバーシティ経営を「経営の成果」につなげるために

#エンゲージメント#採用#研修#組織開発#経営参画

ダイバーシティ経営を「経営の成果」につなげるために

「うちもダイバーシティ経営に取り組んでいます」——この言葉が「女性管理職比率の目標を掲げている」「外国人社員を採用した」という事実を指しているだけなら、それは「ダイバーシティのための取り組み」であって、「ダイバーシティ経営」とは言えないかもしれません。

ダイバーシティ経営の本質は「多様な人材の多様な視点・経験・能力を経営に活かし、イノベーションと事業成長につなげること」です。「多様性のある状態を作ること(ダイバーシティ)」がゴールではなく、「その多様性が経営成果に結びついていること」が真のダイバーシティ経営です。

「人にとって良いから」という理由だけでなく、「事業成長のために必要だから」という経営的な論拠でダイバーシティ経営を推進することが、経営陣の理解を得て持続的な取り組みにする鍵です。

この記事では、ダイバーシティ経営を「経営の成果」につなげるための考え方をお伝えします。


なぜダイバーシティ経営は「成果」につながりにくいのか

「多様性の確保」と「多様性の活用」を混同する

「女性社員を増やした」「外国籍社員を採用した」という「多様性の確保」は、ダイバーシティ経営のスタートラインです。でも、それで「ダイバーシティ経営を実践している」と考えてしまうと、「多様な人材が実際に経営に貢献できているか」という問いが生まれにくくなります。

「採用した多様な人材が、どんな意思決定の場に参加しているか」「多様な視点がどのように事業戦略に反映されているか」——これらが問われないまま「多様性の確保」だけが進んでも、経営成果にはつながりません。

ダイバーシティが「コスト」として認識されている

「ダイバーシティへの投資(研修・制度整備・採用コスト)」は見えやすいが、「ダイバーシティによる経営への貢献(イノベーション・市場拡大・リスク低減)」は見えにくいため、「ダイバーシティはコストだ」という認識になりやすい。

「ダイバーシティが経営にどう貢献しているか」を数値・事例で示せる人事が、経営陣の理解を得てダイバーシティ経営を推進できます。

「日本の文化・慣習」との摩擦

日本企業の多くでは「同質性の高いチーム」が機能的に働いてきた歴史があります。「多様な人材が入ることで意見の衝突が増える」「意思決定に時間がかかるようになる」という経験が、「ダイバーシティは摩擦を生む」という印象につながることがあります。

でも、「摩擦のない意思決定」は「同質性からくる見落とし・リスク」を含んでいます。多様な視点からの意見が出ることが、「より良い意思決定のための必要な摩擦」であるという認識の転換が重要です。


よくある失敗パターン

失敗①:経営陣が「他人事」にしている

「ダイバーシティは人事の仕事」という認識が経営陣にある限り、ダイバーシティ経営は推進しにくい。人事が旗を振っても、「経営の意思決定に多様な視点が入る仕組みがない」「経営陣自身が多様性を重視する行動を取っていない」という状態では、組織に変化は生まれません。

ダイバーシティ経営は「経営トップのコミットメントとリーダーシップ」がなければ機能しません。CEOや経営陣が自ら発信し、率先して行動することが不可欠です。

失敗②:「特定の属性への優遇」として受け取られる

「女性優遇だ」「外国人社員だけ特別扱いされている」という声が出ることがあります。多数派が「自分たちが不公平に扱われている」と感じると、ダイバーシティへの抵抗感が高まります。

ダイバーシティ経営は「特定の属性を優遇すること」ではなく、「すべての人が公平に能力を発揮できる機会を作ること」です。この趣旨を丁寧に組織全体に伝えることが重要です。

失敗③:成果の測定がない

「ダイバーシティ経営に取り組んでいるが、何が変わったかわからない」という状態では、経営への説得力が生まれません。

「どんな指標で成果を測るか」を事前に設計し、定期的に結果を確認することが重要です。「多様性の指標(女性管理職比率等)」だけでなく、「経営成果への貢献(イノベーション数・市場シェア・エンゲージメント等)」との関連も測ることが理想です。


プロの人事はこう考える

知る:「自社のダイバーシティの現状」を多面的に把握する

ダイバーシティ経営を推進するための出発点として、「今の自社の多様性の実態」を把握することが重要です。

把握すべき指標: ・採用・昇格・離職の属性別データ ・管理職・経営層の多様性(性別・年齢・出身・経歴) ・社員のエンゲージメントの属性別差異 ・「意見が尊重されている」「自分らしく働ける」という感覚の属性別差異

「数字の多様性」だけでなく「経験・感覚の多様性」も把握することで、「どこに投資すべきか」が見えてきます。

考える:「多様性が経営成果に結びつく経路」を設計する

「多様な人材の多様な視点が、どのように事業成果に貢献するか」という経路を明確にすることが、ダイバーシティ経営を「経営の投資」として位置づけることにつながります。

例えば: ・「女性社員が製品設計に参加することで、女性ユーザーのニーズが取り込まれ、女性市場でのシェアが上がる」 ・「多様なバックグラウンドを持つチームが新規事業を担当することで、見落としが少ない事業設計ができる」

「ダイバーシティ×事業成果」の仮説を立て、検証していくことが重要です。

動く:「経営意思決定への多様な声の参加」を仕組みとして作る

経営の意思決定の場(経営会議・事業計画レビュー・重要会議)に、多様な視点が入る仕組みを作ることが重要です。

具体的な方法: ・経営会議への多様な属性の社員の参加(オブザーバー・意見発表の機会) ・プロダクト・サービス設計への多様な社員の参加 ・経営陣との定期的な対話会(若手・女性・外国籍社員等)

「多様な人がいる」だけでなく、「多様な人の声が経営に届く構造」を作ることが、真のダイバーシティ経営です。

振り返る:ダイバーシティ経営の進捗を年次で確認する

年次でダイバーシティ経営の進捗を確認する場を設けることが重要です。

「数値目標の達成状況」だけでなく、「取り組みを通じてどんな事業成果・組織変化があったか」を振り返り、「次年度の優先取り組み」を設計する。このサイクルが、ダイバーシティ経営を「やりっぱなし」ではなく「機能する経営のツール」にします。


明日からできる3つのこと

1. 「経営会議・重要会議の参加者の属性」を確認する(15分)

自社の経営会議・重要な意思決定の場の参加者を確認し、「どれだけ多様な属性の人が参加しているか」を見てみましょう。「ほぼ同質の参加者だ」という場合、「多様な声が経営に届く機会がない」というサインです。

着手ポイント:「会議に呼べる人がいない(多様な人材が育っていない)」という場合は、採用・育成の課題の裏返しとして捉えることも重要です。

2. 「ダイバーシティが事業に貢献した事例」を1つ探す(30分)

自社の中で「多様な視点・経験が新しいアイデアや事業成果につながった事例」を1つ見つけてみましょう。この事例を経営への発信に使うことで、「ダイバーシティ経営の価値」を具体的に示せます。

着手ポイント:小さな事例でも構いません。「外国籍社員のアイデアで製品デザインが改善された」「女性社員の発案でサービスの課題が見えた」という事例が、ダイバーシティの具体的な価値を示します。

3. 「属性別のエンゲージメントスコア」を確認し、差があれば原因を探る(30分)

エンゲージメントサーベイのデータを「女性/男性」「管理職/非管理職」「年代別」などの属性で集計してみましょう。差がある属性グループについて、「なぜ差が生まれているか」をヒアリングすることが次のステップです。

着手ポイント:属性別の差は「インクルージョンの課題がある領域」を示す貴重な指標です。


まとめ

ダイバーシティ経営は「多様な人材を揃えること」ではなく、「多様な人材の多様な視点が経営に活かされている状態」です。そのためには「多様性の確保」「インクルージョンの実現」「経営意思決定への多様な声の参加」の3つが揃うことが必要です。

「経営数字から発想する人事」という視点でダイバーシティ経営を推進することで、「人にとって良いから」だけでなく「事業成長のために必要だから」という経営言語での対話ができる人事になります。

まず「自社のダイバーシティの現状データ」を把握することから始めてみてください。


ダイバーシティ経営と組織設計を実践的に学びたい方へ

経営に貢献する人事の実践を学べる場があります。

▶ 人事のプロ実践講座への詳細はこちら 講座の詳細・申込みはこちら

▶ 人事の仲間と学べるコミュニティ「人事図書館」 人事図書館の詳細・入会はこちら

吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

著者の実践講座を見る →
0

経営視点で考える人事の実践力を磨きませんか?

書籍『「人事のプロ」はこう動く』著者による実践講座。現場で使える経営視点の人事力を身につけます。

関連記事

育休復帰支援が「復帰させること」だけになっていませんか
組織開発

育休復帰支援が「復帰させること」だけになっていませんか

育休から職場復帰させることはゴールではありません。育休後も活躍し続けられる環境を作ることが育休復帰支援の本質です。

#エンゲージメント#評価#組織開発
インクルーシブな組織を「多様性の宣言」だけで終わらせないために
組織開発

インクルーシブな組織を「多様性の宣言」だけで終わらせないために

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます——こう言いながら、女性管理職比率の目標だけが走っている外国人社員を採用したが活躍できていないという状態になっていませんか。

#エンゲージメント#採用#評価
労務監査を「指摘されてから対応する」から「先手を打つ」に変える
組織開発

労務監査を「指摘されてから対応する」から「先手を打つ」に変える

先日、労働基準監督署の調査が入りまして……——こういう経験をした後に労務管理を整えなければと動き始める企業が少なくありません。でも調査が来てから慌てて整備するより、調査が来ても問題ない状態を日頃から維持する方が、組織のリスクも経営の信頼もずっと高くなります。

#採用#組織開発#経営参画
「組織の見える化」が人事を強くする理由
組織開発

「組織の見える化」が人事を強くする理由

組織の状態が肌感覚でしかわからない——そういう人事担当者は少なくないと思います。なんとなく最近チームの雰囲気が悪い何か問題が起きそうな気がするという感覚はあるけれど、それを根拠に経営に提言することは難しい。

#1on1#エンゲージメント#組織開発