制度設計・運用

人事考課の廃止・ノーレイティング、何を押さえるべきか。『評価をなくす』前に問い直すこと

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人事考課の廃止・ノーレイティング、何を押さえるべきか。『評価をなくす』前に問い直すこと

「ノーレイティングを導入しようという話が経営から出ているんですが、本当にうまくいくのか、正直不安で…。GEやアドビがやっているというのは知っているんですが、うちの会社で同じことをやって機能するのかどうか、どう判断すればいいのかもわからないんです」

こういった声を、人事担当者からよく聞くようになりました。ここ数年で「年次評価の廃止」「ノーレイティング(評価ランク廃止)」「パフォーマンスマネジメントの刷新」といった言葉が人事の世界でずいぶん広まりました。グローバル企業の先行事例が注目を集め、経営層からも「うちも検討してみては」という声が出てくるようになっています。

でも実際に検討を進めようとすると、壁にぶつかります。「廃止して何に変えるのか」「廃止することで社員の何が変わるのか」「現行制度の何が問題で、廃止がその解決策になるのか」——これらが見えないまま、外部事例の見た目だけで制度変更を進めようとすると、たいていうまくいきません。

評価制度は、給与・昇格・育成フィードバック・組織課題の把握など、複数の機能を同時に担っています。「ランクをなくす」という一点の変更が、こうした機能すべてに影響を与える。その全体像を把握せずに走り出すと、変えた後の方が現場の混乱が大きくなるケースもあります。

この記事では、ノーレイティング・人事考課廃止の本質とは何か、なぜ失敗するのか、そして人事のプロがどのような視点でこの問題に向き合っているのかを、できるだけ具体的にお伝えします。制度を「廃止する・しない」を決める前に、何を問い直すべきかを一緒に考えてみたいと思います。


第1章:なぜ今、ノーレイティングが注目されているのか

ある大手製造業の人事部長が話してくれました。「うちの評価制度、15年前から変わっていないんですよ。その間に事業の構造も、働き方も、求める人材像も全部変わったのに、評価だけが変わっていない。そりゃ現場から不満が出ますよ」と苦笑いしながら言っていました。続けてこう言ったのが印象的でした。「でも変えようとしても、何から手をつければいいのかわからなくて。ノーレイティングという言葉を聞いて、これが答えなのかと思いかけたんですが、調べれば調べるほど、そんなに単純じゃないとわかってきたんです」

評価制度への不満は「評価ランク」への不満ではない

多くの組織で評価制度への不満が高まっている背景には、いくつかの構造的な問題があります。

第一に、「フィードバックの頻度と質の低さ」です。年1〜2回の評価面談だけでは、社員は「自分がどう評価されているか」を知る機会が少なすぎます。フィードバックが少ないと、課題に気づくのが遅れ、修正の機会も失われます。評価結果を告げられる頃には、すでに手遅れになっていることも珍しくない。

第二に、「評価の公平感の低下」です。「上司によって評価が違う」「頑張っても評価に反映されない」「何が評価されているのかわからない」という声は、どの組織でも一定数あります。特に組織規模が大きくなるほど、評価者のばらつきが大きくなりがちです。

第三に、「事務負担の重さ」です。評価のための書類作成、評価面談の調整、評価結果の集計・調整——これらに費やす管理職・人事の時間はかなりのものです。「評価のために評価をしている」という感覚を持つ管理職も少なくありません。

こうした不満の積み重ねの中で、「ランクをなくせば楽になるのでは」「評価そのものをやめれば問題が解消されるのでは」という発想が生まれてくるのは、ある意味自然なことです。でもここで立ち止まって考えてほしいのは、これらの不満の根っこはどこにあるのか、ということです。

ノーレイティングが「答え」ではない理由

GEやアドビが年次評価廃止を打ち出した際の背景を振り返ると、単に「ランクをなくした」のではないことがわかります。彼らがやったのは、「評価の仕組み全体を、事業の動きに合わせて再設計した」ことです。

GEの場合、製造業中心の安定した事業構造から、デジタル・サービス領域への転換を進める中で、年単位の目標設定・評価サイクルが事業スピードに合わなくなったという文脈がありました。アドビも、定期的な「パフォーマンスレビュー」を廃止した後、マネジャーが継続的なチェックイン(1on1)を実施する仕組みに全体を作り替えています。

つまり、先行事例の企業が変えたのは「ランクをつけるかどうか」という一点ではなく、「どのサイクルで、どのような対話をして、何をもって処遇・育成を判断するか」という評価の構造全体だったのです。

この文脈を外して「ランクをなくす」だけを真似ると、問題が解決するどころか新しい問題が生まれます。「何を基準に給与を決めているのかわからない」「評価がないから自分の立ち位置がわからない」「上司の主観だけで処遇が決まっているように感じる」——こうした声が上がるのは、ランクをなくした後に別の仕組みを設計しなかったからです。

「評価制度は何のためにあるのか」を問い直す

評価制度を見直す前に整理しておきたいのが、「評価の目的」です。評価制度が果たす機能は、大きく3つに分けられます。

① 処遇(給与・昇格)の根拠を作る:誰にいくら払うか、誰を昇格させるかを判断するための情報を生成する機能です。組織の資源配分を合理的に行うために必要です。

② 育成のフィードバックを提供する:社員が自分の強みと課題を知り、成長の方向性を持つための対話の機会を作る機能です。

③ 組織課題を可視化する:評価分布や評価トレンドを見ることで、組織全体の状況を把握する機能です。「どの部門で人材育成が機能していないか」「どのスキルにギャップがあるか」を明らかにするのに使われます。

この3つをすべて一つの評価制度で担おうとするから、仕組みが複雑になり、どの目的も中途半端にしか果たせなくなります。「ノーレイティング」は、①の一部のやり方を変えるものですが、②③への対応を別途設計しなければ、評価制度全体として機能しません。

制度を変える前に、「今の評価制度の何が機能していて、何が機能していないのか」を目的別に整理することが、遠回りに見えて最も確実な道です。


第2章:よくある失敗パターン

失敗パターン①:「評価ランクをなくせば解決する」という誤解

最も多い失敗は、「ランクをなくすこと」が目的化してしまうケースです。

評価制度への不満が溜まった組織では、「今の評価制度が悪い→評価ランクをなくせばよくなるはず」という短絡的な発想が生まれやすくなります。でも、評価制度への不満の原因のほとんどは「ランクがあること」ではなく、「フィードバックが少ない」「評価基準が不透明」「評価結果が育成に活かされない」といった運用上の問題です。

ランクをなくしても、フィードバックの頻度が変わらなければ、社員の成長実感は変わりません。評価基準を見直さなければ、不公平感は消えません。むしろ、「ランクがなくなったのに、処遇はどう決まるのかわからない」という新しい不安が加わるだけです。

制度変更の前に確認してほしいのは、「今の評価制度で何が起きているか」という事実です。「評価後の離職率はどうか」「社員の評価制度への満足度はどのくらいか」「管理職の評価面談の実施率はどうか」——こうした数字を見ずに制度変更に踏み切ると、変えた後の効果測定もできません。

失敗パターン②:処遇決定の根拠が不透明になる

ノーレイティングを導入した後に多くの組織が直面するのが、処遇決定の難しさです。

評価ランクがある場合、「S評価は昇給率○%、A評価は△%」といった形で、処遇決定のルールを比較的シンプルに設計できます。でもランクをなくすと、「誰にいくら払うか」「誰を昇格させるか」を何を根拠に決めるのかが問われます。

よくあるのが、「マネジャーが個別に判断する」という設計です。ノーレイティングでは、マネジャーが部下の業績・行動・成長を総合的に判断して処遇を決めることになります。これ自体は正しい方向性ですが、「マネジャーが何を見てどう判断するのか」の基準が不明確なままだと、「結局、マネジャーの好き嫌いで決まる」という社員の不信感を生みます。

処遇決定の透明性を確保するためには、ランクがなくても「何をどう見て判断するか」の基準を言語化して社員に示す必要があります。「Aさんの昇給額が高いのは、○○の貢献が大きかったから」という説明ができる状態を作ることが、処遇の納得感につながります。

透明性のない処遇決定は、優秀な人材ほど不満を持ちやすくなります。自分の貢献が正当に評価されているかどうか確認できないからです。結果として、ノーレイティング導入後に優秀層の離職が増えるというケースも報告されています。これは経営にとって大きなリスクです。

失敗パターン③:管理職の能力への依存が高まるのに育成投資を怠る

ノーレイティングが機能するかどうかは、管理職の能力に大きく依存します。

ランクがある評価制度では、「S・A・B・C・D」という評価ランクの付け方について、ある程度ルールで縛ることができます。でもランクをなくして、「継続的なフィードバックと個別判断に基づく処遇決定」という仕組みにすると、管理職が「何を、どのくらいの頻度で、どのように部下に伝えるか」が制度の質を大きく左右します。

「部下の強みと課題を的確に把握する」「成長を促す質の高いフィードバックをする」「処遇決定の根拠を部下に説明できる」——これらを全管理職ができるかというと、正直なところ、ほとんどの組織でできていません。

それにもかかわらず、「ノーレイティングを導入する」「管理職に権限を委ねる」という変更だけを進めて、管理職への育成投資をしないまま運用すると、どうなるか。「マネジャーによって評価の質がバラバラ」「フィードバックの量・質が管理職次第でまったく違う」という状況になります。これは、制度変更前の問題をそのまま持ち越すか、悪化させるかのどちらかです。

管理職の育成は時間がかかります。制度変更のスピードと育成のスピードを合わせる計画を作らないと、制度だけが先走って現場がついていけない状況になります。


第3章:人事のプロはどうしているか

工夫①:「評価の目的」を3つに分解して整理する

人事のプロが評価制度の見直しに着手するとき、まず行うのが「評価の目的の分解」です。

第1章でも触れましたが、評価制度が担う機能は「処遇決定の根拠」「育成フィードバック」「組織課題の可視化」の3つです。この3つを分解して、「現在の制度の何がどの目的を果たせていないか」を明確にすることが、見直しの出発点になります。

例えば、「フィードバックが少ない」という不満が大きい組織では、問題の本質は「育成フィードバック」の機能が弱いことです。この場合、ランクをなくすことよりも、フィードバックの仕組みを強化する方が直接的な解決策になります。

一方、「処遇の納得感が低い」という不満が大きい組織では、問題の本質は「処遇決定の根拠」が不透明であることです。この場合は、処遇決定の基準を明確化・言語化する取り組みが先です。

目的を分解することで、「ノーレイティングが自社の問題の解決策として適切かどうか」が明確になります。「評価ランクをなくすこと」が直接解決できる問題と、そうでない問題を区別できるようになるのです。

この分解作業を経営層に対しても行うことが重要です。「ノーレイティングを導入しよう」という経営の声の背後にある「本当に解決したい問題」を確認することで、「制度変更」という手段が適切かどうか、改めて経営と議論できます。「社員のエンゲージメントを上げたい」という目的なら、ノーレイティングよりも先にやることがあるかもしれない。「優秀層の離職を防ぎたい」という目的なら、処遇水準の見直しの方が効果的かもしれない。目的を明確にすることで、手段の選択に幅が生まれます。

なお、この分解作業を行う際には、社員へのヒアリングや社内アンケートのデータも重要な素材になります。「評価制度のどの部分への不満が多いか」を定量・定性両面で把握することで、課題の優先順位が見えてきます。感覚ではなくデータに基づいて課題を整理することが、経営層への説明力にもつながります。

工夫②:フィードバックの頻度を先に上げる

評価制度の見直しを検討している組織に対して、人事のプロがよく提案するのが「まずフィードバックの頻度を上げることから始める」という順序です。

年1〜2回の評価面談を、月次の1on1に変える。これだけでも、社員が「自分の仕事がどう見られているか」を把握できる頻度が大幅に変わります。フィードバックが増えれば、社員は課題に早く気づけるようになり、改善のサイクルが速くなります。管理職も部下の状況をリアルタイムで把握できるようになるため、年末の評価面談で「実は半年前からパフォーマンスが落ちていました」という後出しの評価をしなくて済むようになります。

ここで重要なのは、「1on1をやる」という形式の変更だけでなく、「何のための1on1か」を管理職が理解しているかどうかです。ただ月次で面談の時間をとっても、「近況報告で終わる」「上司から一方的に指示が出るだけ」では、育成フィードバックの機能を果たせません。

1on1で扱うべき内容のガイドラインを作ること、管理職に対して「効果的な1on1の進め方」を研修や事例共有を通じて伝えること——こうした支援を並走させることで、形式と内容が合わさって効果が出ます。

フィードバックの頻度を上げることは、ノーレイティングの「前提条件」でもあります。ランクをなくして管理職が個別判断で処遇を決めるためには、管理職が日常的に部下の状況を把握していることが必要です。フィードバックの仕組みがない状態でノーレイティングを導入しても、管理職は「部下のことを十分に把握しないまま処遇を決める」ことになってしまいます。

フィードバック頻度の向上は、制度変更の有無にかかわらず、組織の生産性向上と人材育成に直結します。この取り組みを先行させることで、評価制度変更の効果を最大化できます。また、「フィードバックを増やしたら、実はランクの廃止は必要なかった」という結論になるケースもあります。

工夫③:処遇決定の透明な基準を別途設計する

ノーレイティングを導入するうえで外せない設計が、「処遇決定の基準の言語化」です。

ランクがあれば「S評価は昇給率○%」というルールで処遇が連動しますが、ランクをなくす場合は「何を見て、どう処遇を決めるか」を別途明確にする必要があります。

処遇決定の基準として設計されることが多いのは、以下のような要素です。

・期待役割の達成度:その人に期待していた役割をどのくらい果たせたか ・行動・スキルの発揮:組織が大切にしている行動指針・コンピテンシーをどのくらい体現できたか ・チームへの貢献:個人の成果だけでなく、チームや組織への貢献度 ・市場価値との比較:外部の給与水準と比べて処遇が適切かどうか

これらの要素をどの重みで見るかを決め、「AさんはXXの貢献が大きかったため昇給額を○%とした」という説明ができる状態を作ることが、処遇の納得感につながります。

ここで経営数字との接続も重要です。処遇決定の基準を「事業への貢献」という観点から設計することで、「給与は人件費というコストではなく、事業成果への投資」という経営視点と整合させることができます。「このプロジェクトで売上○億円の貢献をした」「コスト削減に○百万円貢献した」という定量的な貢献を処遇に反映させる仕組みを持つ組織は、優秀な人材のモチベーションを維持しやすくなります。

一方で、すべてを定量で測ることには限界もあります。「チームの心理的安全性を高めた」「後輩の育成に多大な時間を使った」といった貢献は数字に出にくい。だからこそ、「定量で測れる貢献」と「定性で評価する貢献」の両方を設計に組み込むことが必要です。

処遇決定の基準を設計したら、それを社員にオープンにすることが大切です。「こういう基準で処遇を決めています」という情報の透明性が、社員の信頼感と納得感を生みます。

工夫④:管理職の対話力を育成投資の柱に据える

ノーレイティングが機能する組織とそうでない組織の最大の違いは、管理職の対話力です。

人事のプロが制度変更と並走して必ず実施するのが、「管理職の育成投資」です。具体的には次のような内容です。

フィードバックスキルの強化:「強みを活かした仕事のアサインメント」「課題を本人が気づけるような質問の仕方」「評価結果を建設的に伝える方法」を体得できる研修・ロールプレイ。座学だけでなく、実際の場面を想定した練習が効果的です。

処遇説明力の養成:「なぜこの処遇になったのか」を部下に説明できるスキルを磨くための研修。処遇決定のロジックを理解させると同時に、「難しい会話をする場面でのコミュニケーションの取り方」を練習します。難しい話を避けてしまう管理職に多い問題を、具体的な場面のシミュレーションで解決します。

管理職同士の学び合いの場:「うちの部門では1on1をこうやっている」「このメンバーのフィードバックに悩んでいる」という情報交換・相談の場を定期的に作ること。孤独になりがちな管理職が学び合える場は、運用の質を底上げします。

こうした育成投資は、時間もコストもかかります。でも、管理職の能力が制度の成否を左右するノーレイティングにおいては、この投資を省くことは制度変更の失敗確率を大きく上げることと同義です。

また、管理職育成の効果を測定することも重要です。「1on1の実施率」「部下の育成実感スコア」「管理職の評価面談への自己評価」——こうした指標を定期的にモニタリングすることで、育成投資の効果と課題が見えてきます。データに基づいて改善を続けることが、管理職の能力向上と制度の定着を支えます。

なお、管理職育成に力を入れることは、ノーレイティングの文脈だけでなく、どんな評価制度においても有効です。「管理職が評価制度を正しく運用できる」という状態は、評価制度の基礎体力そのものです。ノーレイティングを導入するかどうかに関わらず、この投資は必ず組織のリターンになります。

人事のプロが大切にしていること

ここまで4つの工夫をお伝えしましたが、人事のプロが評価制度の見直しに向き合うとき、共通して持っているスタンスがあります。

それは、「制度は手段であり、目的ではない」という視点です。「ノーレイティングを導入する」こと自体が目標になってしまうと、導入後の運用が疎かになります。「社員が成長を実感できる組織を作る」「事業の成長に貢献できる人材を育てる」という目的に向かって、評価制度という手段をどう使うか——この順序を常に保つことが、制度変更を成功に導くうえで最も重要な原則です。

また、「経営との対話」を継続することも不可欠です。評価制度の見直しは、人件費・組織文化・管理職の働き方など、経営の複数の関心事に関わります。「評価制度をこう変えることで、人件費の配分をこう変え、優秀層の定着率をこう改善し、事業の成長にこう貢献できる」という経営視点での説明ができる人事担当者は、制度変更のプロジェクトを推進するうえで圧倒的に有利な立場に立てます。

「人事はコストセンター」という見られ方を変えるのも、評価制度の見直しを経営目線で語れるかどうかにかかっています。


第4章:明日からできる具体的アクション

アクション①:自社の評価制度を「目的別」に棚卸しする

所要時間:2〜3時間(一人でできる) 必要なもの:現行の評価制度に関する資料・社内アンケートデータ(あれば)

最初の一歩: A4用紙(またはスプレッドシート)に「処遇決定の根拠」「育成フィードバック」「組織課題の可視化」の3つの列を作ります。現行の評価制度の各要素(評価シート・評価面談・評価ランク付け・評価結果の通知など)を書き出し、それぞれがどの目的に対応しているかを整理します。

整理した後に問うのは、「この3つの目的のうち、どれが最も機能していないか」です。機能していない目的を特定できれば、「何を変える必要があるか」が見えてきます。ノーレイティングが解決策として適切かどうかも、この棚卸しの後に判断できます。

この棚卸し作業を一人でやるのではなく、人事チームや信頼できる管理職と一緒にやることで、「現場から見た評価制度の問題」も拾えます。異なる立場からの視点を組み合わせることで、課題の解像度が上がります。

アクション②:管理職の1on1実施状況を数字で把握する

所要時間:1〜2時間(調査設計)+回答収集期間1週間 必要なもの:簡単なアンケートフォーム(Google FormsやMicrosoft Formsで作成)

最初の一歩: 管理職向けの簡単なアンケートを作成します。質問項目の例は以下です。

  • 部下と1on1をどのくらいの頻度で実施しているか(月1回以上・四半期に1回程度・半年に1回程度・ほぼ実施していない)
  • 1on1で主に何を話しているか(業務進捗・キャリア・育成・雑談・その他)
  • 1on1のやり方について困っていることがあれば教えてください(自由記述)

この数字を把握することで、「現在の1on1の実施状況」という事実が見えます。「実は半数以上の管理職がほぼ1on1をしていない」という状態であれば、制度を変える前にまず1on1の仕組みを整える必要があることがわかります。

この調査結果は、経営への報告にも使えます。「現状の評価・フィードバックの実態はこうなっています、だからこういう改善が必要です」という提案の根拠になります。

アクション③:「評価制度見直しの目的」を経営と言語化する

所要時間:経営との対話1〜2時間(準備含む) 必要なもの:アクション①②で整理した現状分析、評価制度見直しの目的案

最初の一歩: 評価制度の見直しについて経営層と話す機会を設けます。その際、「ノーレイティングを導入するかどうか」ではなく、「評価制度の見直しで何を実現したいか」を議題にします。

経営に確認する問いの例:

  • 「評価制度を変えることで、どんな状態を実現したいですか?」
  • 「今の評価制度のどこに最も問題を感じていますか?」
  • 「優秀な人材の定着・活躍という観点で、評価制度はどう機能してほしいですか?」

これらの問いに対する経営の答えを聞くことで、「経営が本当に解決したい課題」が見えてきます。その課題に対して「ノーレイティングが有効か、それとも別の手段が適切か」を一緒に考える流れを作ることが、この対話の目的です。

経営との対話を「制度を変えるための承認を得る場」ではなく「目的を共有する場」として設計することで、評価制度の見直しプロジェクト全体が、経営の問題意識に根差したものになります。これが、後々の制度定着にも大きく影響します。


まとめ

ノーレイティングや人事考課の廃止は、「評価制度という問題を解決するための手段の一つ」です。手段そのものが目的化すると、本来解決したかった問題が残ったまま、新たな問題だけが加わることになります。

制度を変える前に問い直すべきことは、シンプルです。「今の評価制度は、何の目的のために存在していて、どの目的が機能していないのか」——この問いを丁寧に整理することが、制度見直しの方向性を決めます。

フィードバックの頻度を上げる、処遇決定の基準を透明にする、管理職の対話力を育てる——これらは、ノーレイティングを導入するかどうかに関わらず、どんな評価制度においても効果を発揮します。「まずここから始める」という取り組みが、評価制度改革の土台を作ります。

評価制度は、「組織が何を大切にするかを映す鏡」です。ランクをなくすかどうかよりも、「自分たちの組織は何を大切にしていて、その価値観を評価という仕組みでどう体現するか」を問い続けることが、長く機能する評価制度につながります。

その問いを経営と一緒に持ち続けられる人事担当者が、組織にとって本当に価値のある存在になれると、私は思っています。


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