経営参画・数字

人事プレゼン、なぜ経営会議で通らないのか。承認を勝ち取る資料の作り方と場の設計

#1on1#エンゲージメント#採用#評価#研修

人事プレゼン、なぜ経営会議で通らないのか。承認を勝ち取る資料の作り方と場の設計

「経営会議で人事施策を提案したんですが、また先送りになりました……どうすれば聞いてもらえるんでしょう」

こういった声を、人事担当者の方からよく聞きます。それも一度や二度ではなく、「今期で3回目の先送りです」「資料の作り方は変えたつもりなんですが、毎回『もう少し詰めてきて』で終わります」という方が少なくありません。施策の中身には自信があるのに、経営会議という「場」を越えられない——その悔しさと焦りは、人事という職種をしっかり考えている人ほど深いと思います。

もし今あなたが同じ状況にいるとしたら、聞いてほしいことがあります。それは、「プレゼンが通らない理由は、施策の質でも資料の見た目でもない場合が多い」ということです。問題は多くの場合、「何を語るか」ではなく「誰の言語で語っているか」「どんな場の設計で臨んでいるか」にある。経営会議という特殊な意思決定の場が持つ論理を理解していないまま、人事の論理で提案を続けても、残念ながら結果は変わりません。

では、経営会議でプレゼンが「通る人事」と「通らない人事」の間には、何が違うのか。資料の構成だけを変えれば解決するのか。それとも、もっと根本的な何かが違うのか。本記事では、人事が経営会議で承認を勝ち取るために必要な考え方と、具体的な技術について、できるだけ丁寧に整理していきます。「次の経営会議こそ通したい」という方と一緒に考えてみたいと思います。


人事プレゼンが通らない「構造」を理解する

ある人事マネジャーが話してくれました。

ある製造業の人事マネジャーが話してくれました。彼は入社7年目、現在は採用から制度設計まで幅広く担当しているベテランです。

「去年の下半期、評価制度の見直しを経営会議に提案しました。現場からも不満の声が上がっていて、このままでは来期の採用にも影響すると思って、かなり本気で資料を作ったんです。でも結果は『検討します』で終わり。後から社長に聞いたら、『内容はわかったけど、今それを変える優先度が見えなかった』と言われて。自分としては問題点もしっかり書いたつもりだったのに、その言葉がずっと引っかかっています」

この「優先度が見えなかった」というフィードバックは、経営会議でプレゼンが通らない本質的な理由を端的に表しています。人事担当者は施策の「必要性」を語ります。しかし経営者が経営会議で判断しているのは「優先度」です。「やる意味があるか」ではなく「今やるべき理由が他の案件と比べてどれだけ強いか」——ここにズレがあります。

経営者の視点と人事の視点のズレ

人事担当者は、日々現場の声と向き合っています。「評価制度がわかりにくい」「1on1が形骸化している」「採用基準が不明確で入社後のミスマッチが多い」——こうした課題は、現場にいれば肌感覚として蓄積されていきます。そしてその課題を解決しようと真剣に考えるからこそ、経営会議への提案に力が入る。

一方で経営者は何を見ているのか。経営者の日常は、売上・原価・利益・キャッシュフローといった経営数字との格闘です。「A事業の売上が落ちている」「B部門のコストが計画比で20%超えている」「来期の資金調達をどうするか」——こうした問いが常に頭の中を占めています。

ここで根本的なズレが生まれます。人事は「人の問題」から出発して経営会議に来ます。経営者は「事業の問題」から出発して経営会議に臨んでいます。「エンゲージメント向上のために1on1を制度化したい」という提案が、「それで売上はどう変わるのか」「コストはどれくらいかかるのか」という経営者の思考回路にうまく接続できないと、「人事のやりたいこと」として処理されてしまいます。悪意があるわけではありません。ただ、「経営の言語」に翻訳されていないだけで、提案は届かない。

経営会議という「場」の特性

もう一つ見落とされがちなのが、経営会議という場そのものの特性です。経営会議は「学習の場」でも「議論を深める場」でもありません。限られた時間の中で、複数の案件について「やる/やらない/保留」を判断する意思決定の場です。

参加者は社長・CFO・事業部長など、それぞれに違う視点と優先順位を持っています。人事の提案は、IT投資の提案、マーケティング予算の議論、組織再編の検討と同じテーブルで競います。そしてその場には「人事施策について深く議論する時間」は基本的にありません。「この提案は何が問題で、いくらかかって、やれば何が変わるのか」——この三点を30秒〜1分で理解できない提案は、「持ち帰り」か「先送り」になる可能性が高くなります。

さらに重要なのが、経営会議には「その場で初めて提案を聞く人がいる」という現実です。事前に十分な説明ができていないまま会議に臨むと、「もう少し詳しく教えてください」「この数字の根拠は?」という質疑が増え、議論が深まるどころか「次回に持ち越し」になります。経営会議は「発表の場」ではなく「承認を確認する場」として設計するのが、承認率を上げる基本的な考え方です。


よくある失敗パターン

失敗パターン①「人事の論理」で話してしまう失敗

最も多く見られる失敗が、「人事の論理」で話してしまうことです。具体的には、「エンゲージメントを高めるために」「従業員満足度の向上を目的として」「心理的安全性のある職場を実現するため」という入り方です。

これらの言葉が「なぜ失敗なのか」を説明する前に、一つ確認しておきたいことがあります。エンゲージメントや従業員満足度、心理的安全性——これらは確かに重要な概念です。しかし経営会議でこの言葉から話し始めると、「まず前提の説明から」という流れになります。「エンゲージメントとは何か」「なぜそれが重要なのか」「うちの会社のエンゲージメントスコアはどういう状態なのか」——この説明に時間を使うほど、「で、何をしたいのか」「いくらかかるのか」という核心部分に到達するまでに、経営者の関心は離れていきます。

問題はそれだけではありません。「人事の論理」で話すということは、「事業課題」との接続が欠けているということでもあります。たとえば、新規事業の立ち上げに向けて組織を強化したいという経営の文脈がある会社で、「エンゲージメント向上のための研修を導入したい」と提案する場合を考えてみてください。施策そのものが間違っているわけではないかもしれませんが、「今なぜこれか」という文脈がつながっていない。「この施策は、新規事業の人材強化という経営課題にどう直結するのか」——この接続線が見えないと、「それは大事かもしれないけど、今期の優先事項ではない」という判断になります。

「事業課題から逆算して、人事施策の意義を語る」というアプローチを取らない限り、人事の提案は常に「追加案件」として扱われます。追加案件は、優先度争いで負けやすい。これが「人事の論理」で話す失敗の本質です。

失敗パターン②「情報過多」で意思決定を妨げる失敗

二つ目の失敗は、情報量の問題です。「丁寧に説明したい」「根拠をしっかり示したい」という思いから、プレゼン資料が30枚・40枚になってしまう——これは人事担当者に多いパターンです。

情報を詰め込むことで「準備の質が高い」と思われると考えるのは、実は人事担当者の論理です。経営会議の参加者から見ると、30枚のスライドは「この人は何を決めてほしいのか」が見えにくいという問題を生みます。スライドが多いほど、論点が拡散します。論点が拡散するほど、議論は「細部の確認」に向かいます。「このページの数字の出典は?」「この調査はいつ実施したものですか?」——こうした質疑が続くと、経営会議は人事の資料の読み合わせになってしまいます。

経営者が経営会議での意思決定で必要としているのは、「何が問題で」「何をすることが有効で」「いくらかかって」「何が変わるか」という四点です。この四点を伝えるだけなら、10枚以内でも十分なことがほとんどです。残りの情報は「補足資料」として用意し、質問があった時に示す——こうした設計が、「スリムで意思決定しやすい」プレゼンを生みます。

もう一つの情報過多として起きがちなのが、「選択肢を一つしか示さない」ことです。「この施策を導入してください」という一択の提案は、経営者に「承認か却下か」の二択しか残しません。何か懸念点があれば却下に向かいます。一方で「A案・B案・C案の三択で、それぞれコストと期待効果が違います」という提案は、「どの規模で進めるか」という議論に変わります。承認の可能性を残したまま、懸念を「どの案にするか」という議論に転換できる。情報量を絞りながらも、選択肢という形で経営者の「決める余地」を作ることが重要です。

失敗パターン③「根回しなし」で会議に臨む失敗

三つ目の、そして見落とされやすい失敗が「根回しをしないまま経営会議に臨む」ことです。

「根回し」という言葉には、どこか後ろめたいニュアンスを感じる方もいるかもしれません。しかし組織の意思決定という観点から見ると、根回しは「ステークホルダーへの事前の情報共有と懸念点の把握」です。これをしないまま経営会議に臨むことが、「その場で初めて聞く人が複数いる」という状況を生みます。

経営会議には通常、社長・CFO・事業部長など複数の意思決定者が集まっています。その中に一人でも「この提案について事前に何も聞いていない」という人がいると、「もう少し詳しく教えてください」という質疑が増え、議論が収束しにくくなります。逆に言えば、「この件については○○さんとは先日すり合わせ済みです」「CFOには事前に数字の確認をしていただいています」という状態で臨むと、会議での質疑は「懸念点の確認」ではなく「最終的な承認確認」になります。

根回しのもう一つの効果は、「反対意見を事前に把握できること」です。事前のすり合わせで「それについては○○という懸念がある」という声が聞けると、経営会議の場でその懸念への回答を先回りして準備できます。「おそらく○○という懸念をお持ちかもしれませんが、この点については……」という提案は、根回しなしには作れません。「会議の場で突然反論される」という最悪のシナリオを避けるためにも、根回しは技術として意識的に取り組む価値があります。


人事のプロはどうしているか

工夫①「経営課題から逆算」して人事施策の意義を語る構成法

経営会議でプレゼンが通る人事担当者が最初にやっていることは、「人事施策の説明」から始めないことです。代わりに彼らがやっているのは、「今期・来期の経営上の優先課題は何か」を起点に、提案を組み立てることです。

具体的な構成の例を見てみましょう。たとえば「中途採用の強化」を提案する場合を考えます。

「人事の論理」から始める構成はこうなります。「採用活動を強化するために、採用チャネルを拡充したいと思います。現在は求人媒体Aのみを使用していますが、今後は媒体B・Cも追加し、スカウト採用も始めることで、採用数を増やしたいと考えています。コストは年間で○○万円増加しますが、採用数が増えることで組織の強化につながります」

「経営課題から逆算」する構成はこうなります。「来期の新規事業展開に向けて、エンジニア人材の不足が最大のボトルネックになっています。現在の採用ペースでは、開発体制が計画比で3名不足する見込みです。この不足が続くと、プロダクトローンチが半期ずれる可能性があり、売上への影響は○○万円と試算しています。この課題に対応するため、採用チャネルの拡充を提案します。コスト増は年間○○万円ですが、採用遅延によるビジネス機会損失と比較すると、投資対効果は十分見込めると考えています」

この二つの構成の違いは何でしょうか。後者は「経営者が今最も悩んでいる問い」から入っています。「新規事業の開発遅延をどう防ぐか」という文脈の中に、人事施策が位置づけられています。これにより、提案は「人事のやりたいこと」ではなく「経営課題への解決策」として受け取られます。

この構成を作るために必要なのは、「経営の優先課題を理解する」という事前の情報収集です。経営計画・事業計画・社長の言葉・取締役会の議事録——これらから「経営が今最も優先しているテーマ」を把握し、そこに人事施策を接続させます。「人事の仕事」として施策を語るのではなく、「経営の問いへの答え」として語る。この逆算の発想が、経営会議でのプレゼンを根本から変えます。

実践する上でのヒントをいくつか挙げます。まず「経営計画書を年に一度ではなく、毎月確認する習慣」を持つことです。経営の優先課題は変化します。半年前に最優先だったテーマが、今は優先度が下がっていることもある。常に最新の経営課題をキャッチアップし、提案の文脈を最新の状態に保つことが大切です。次に「経営者・事業部長と月に一度は非公式に話す機会を作る」ことです。経営会議の前に「今期、事業上の最大の懸念事項は何ですか」と聞ける関係性が、「経営課題から逆算した提案」を可能にします。

工夫② 経営者が意思決定しやすい「数字と選択肢」の見せ方

「数字で語る重要性はわかっているんですが、どんな数字を使えばいいのかわからない」という声をよく聞きます。経営会議でのプレゼンで効果的な数字の使い方には、いくつかのパターンがあります。

まず「現状の問題を数字で示す」パターンです。たとえば離職率が業界平均と比べてどうか、採用コストの年間総額はいくらか、入社後1年以内の早期離職はどのくらいの頻度で起きているか——こうした「問題の深刻さを定量化する数字」は、経営者に「これは放置できない問題だ」という認識を生みます。

次に「施策をしないと何が起きるかを数字で示す」パターンです。「このまま離職率が現状維持だと、来期の採用コストは○○万円になり、今期比で○○万円の増加となります」「若手社員の離職が続くと、3年後の管理職候補が現在計画の半分しか育たないリスクがあります」——「何もしない選択のコスト」を数字で示すと、提案は「コストをかけるかどうか」ではなく「どのコストを選ぶか」という議論に変わります。

三つ目が「施策の投資対効果を試算する」パターンです。正確な数字でなくても構いません。大事なのは「ROIを考えようとしている姿勢」を示すことです。たとえば「1名の採用コストを150万円、育成コストを50万円とすると、入社1年以内の離職1件あたりの損失は200万円以上になります。研修コストが年間300万円で離職率を2ポイント改善できれば、20名規模の部門では年間400万円以上の損失を防ぐ計算になります」——こうした試算があると、「投資対効果の観点から検討する価値がある」と経営者は判断しやすくなります。

選択肢の見せ方についても整理しておきます。効果的なのは「三択+推奨案」の構成です。

  • A案:最小限の対応(コスト○○万円、期待効果:現状維持からの微改善)
  • B案:標準的な対応(コスト○○万円、期待効果:離職率2ポイント改善)※推奨
  • C案:充実した対応(コスト○○万円、期待効果:離職率4ポイント改善)

「推奨案はB案です」と明示することで、経営者は「Bを基準に検討する」という思考で見られます。コストを抑えたければA案、より効果を求めるならC案、という議論の余地も生まれます。「承認か却下か」という二択を、「どの規模でやるか」という議論に変換するのが選択肢提示の本質的な効果です。

さらに意思決定を促すために有効なのが「期限とマイルストーンの提示」です。「今月中にご承認いただければ、来月から準備を開始し、4月には施策を展開できます。逆にこの判断が来月にずれると、本格展開は6月になり、下半期の採用計画に影響が出ます」——こうした「判断の期限と遅延のコスト」を示すことで、「今決める理由」が明確になります。

工夫③ 会議前の根回し・ステークホルダー設計の技術

経営会議での承認率を最も確実に高める方法は、「会議の場を承認を確認する儀式にする」ことです。これを実現するのが、事前の根回しとステークホルダー設計です。

まず「経営会議の意思決定に影響力を持つ人」を特定します。一般的には社長・CFO・最有力の事業部長が候補です。この3者に対して、「経営会議の1〜2週間前に個別に時間をもらい、提案の内容を共有し、懸念点を聞く」という根回しを行います。

根回しの場で大事なのは、「説得しようとしない」ことです。根回しの目的は、「この件について、先に情報共有させてください。懸念点があれば今の段階で教えていただけますか」という姿勢で臨むことです。相手の懸念を聞き出し、「その点については、こういった対応を考えています」と応答する。これを繰り返すことで、「根回し済みのステークホルダー」が増えていきます。

根回しの効果は三つあります。一つ目は「反対意見を事前に把握できる」こと。二つ目は「提案に関心を持ってくれるキーパーソンが事前に増える」こと。三つ目は「会議での突発的な質疑を減らせる」ことです。

ステークホルダー設計というのは、「誰に・いつ・どの順番で根回しをするか」を戦略的に設計することです。たとえばCFOが費用対効果について懸念を持ちそうな場合、事前にCFOと数字のすり合わせをしてから、社長への根回しに臨む。社長が「CFOはどう思っている?」と聞いたときに「先日確認いただいており、数字の前提については了解をいただいています」と答えられる状態を作るのです。

根回しで気をつけたいのは、「個々の根回しで言ったことに一貫性を持つ」ことです。Aさんには「A案を推奨しています」、Bさんには「B案の方が良いと思っています」という根回しをしてしまうと、経営会議の場で矛盾が生まれます。根回しの段階から「一貫した提案内容」で臨み、あくまで「懸念点の把握と対応の準備」を目的とする姿勢が重要です。

また、根回しは「直接の上司・CFO・社長」だけに限定する必要はありません。現場への影響が大きい施策の場合は、「現場のマネジャー層に事前にヒアリングし、現場の声を根拠として資料に盛り込む」という準備が、経営会議での説得力を高めます。「現場のマネジャー20名にヒアリングしたところ、80%がこの課題を感じていると回答しています」という一文は、「人事が勝手に考えた施策」ではなく「現場の声を踏まえた提案」という印象を与えます。

工夫④ 否決された時のリカバリーと「次の機会」の作り方

どれだけ準備を重ねても、提案が否決されることはあります。大事なのは「否決された後の動き方」です。否決をゴールではなく、「次の承認への起点」として捉えられるかどうかが、中長期での成果に影響します。

否決された直後にやるべきことは二つです。一つ目は「否決の理由を正確に把握すること」。「今期の予算的に厳しい」なのか「施策の効果に疑問がある」なのか「このタイミングではない」なのか——理由によって、次のアプローチは変わります。経営会議が終わった後、できれば当日か翌日に、意思決定者の一人に「今日の提案についてフィードバックをいただけますか」と聞きに行くことを習慣にしてください。「先送り」と「否決」は違います。「今期の予算では難しい」ならば、来期の予算編成の段階で再提案するというアプローチが取れます。

二つ目は「否決の記録を残すこと」です。「いつ・何を提案し・どういう理由で否決されたか」を記録しておくことで、数ヶ月後に状況が変化した時の「再提案の根拠」として活用できます。「以前○月の経営会議で提案した件ですが、あの時の懸念事項だった○○について、その後○○という状況の変化があり、改めて提案できる状況になったと考えています」——こうした「前回との連続性を示すアプローチ」は、「場当たり的な提案」ではなく「継続して経営課題を考えている人事」という印象を作ります。

次の機会を作るために有効な戦術として「小さな承認を積む」というアプローチがあります。大きな施策が一度否決されたとき、「では、まず小規模なパイロット施策を試すことはできますか」という形で提案を縮小する。小さな施策が承認され、実績が出れば、それが次の大きな提案の根拠になります。「先期にパイロットで実施した研修について、参加した部門では離職率が3ポイント改善しました。この実績を踏まえ、今期は全社展開を提案したいと考えています」——実績に基づく提案は、仮説に基づく提案より格段に承認されやすくなります。

また「否決後のリカバリー」として重要なのが、「会議後の丁寧なフォローアップ」です。否決されたからといって次の会議まで何もしないのではなく、「この件については引き続き情報を収集しています」「先日共有した課題について、その後データが取れましたので参考までに」という形で、定期的に情報を提供し続ける。これにより、「先送りになった提案」が「重要な課題として継続的に認識される」状態を保つことができます。意思決定者の頭の中に「あの人事が言っていた件」として残り続けることが、「次の機会が来たときに思い出してもらえる」状態を作ります。


明日からできる具体的アクション

アクション①:「経営課題の棚卸し」を今週中に実施する

所要時間:2〜3時間 必要なもの:今期の経営計画書・直近3ヶ月の会議議事録・事業部長との対話メモ 最初の一歩:「経営計画書を開く」

今から経営課題から逆算した提案を作るために、まず「今期の経営優先課題」を整理してください。経営計画書を読み直し、「今期最も重視されているテーマは何か」「そのテーマの達成に向けた最大のボトルネックは何か」を書き出します。次に「そのボトルネックと、自分が今考えている人事施策がどう接続するか」を言語化してみてください。

この作業で「接続している」と思えない場合、提案の入り口を変える必要があるかもしれません。「自分がやりたい施策」から出発するのではなく、「経営課題を解決するために必要な人事施策は何か」という問いから出発し直すことが、次の提案の質を変えます。

経営計画書を読んで疑問が生じた部分や、理解しきれていない部分は「事業部長との1on1で確認する」という行動につなげてください。「△△について理解を深めたいのですが、お時間いただけますか」という依頼は、事業部長から見ても「経営を理解しようとしている人事」として好意的に受け取られることが多いです。

アクション②:直近の提案を「3ページ版」に凝縮する

所要時間:3〜4時間 必要なもの:直近で準備した提案資料・離職コスト・採用コストの社内データ 最初の一歩:「現在の提案資料のページ数を数える」

今準備している、あるいは過去に使った提案資料を取り出してください。そしてそれを「3ページ」に収める練習をしてみます。

  • 1枚目:「問題の現状」(数字で示す。離職率・採用コスト・生産性への影響など)
  • 2枚目:「提案の概要と選択肢」(A案/B案/C案と、各案のコスト・期待効果)
  • 3枚目:「今決めることの意味」(いつまでに決めると何ができるか、遅れるとどうなるか)

この3枚に収めるには、「何が本当に重要な情報か」を選別する必要があります。この選別作業そのものが、「経営者の視点で提案を見直す」訓練になります。残ったページは「補足資料」として別ファイルに保管し、質問があった時に使う準備をしておきます。

数字が手元にない場合は、「概算で試算する」ことを恐れないでください。「○○という前提で試算すると、年間○○万円の損失が見込まれます(実数は現在確認中)」という形でも、「数字で考えようとしている姿勢」は伝わります。正確な数字を追い求めるあまり提案が遅れるより、「試算ベースでも良いので今期中に提案を出す」方が多くの場合、経営への貢献として評価されます。

アクション③:次の経営会議の3週間前から「根回しスケジュール」を立てる

所要時間:最初の設計で1時間、実施には2〜3週間 必要なもの:経営会議のスケジュール・キーパーソン3名のカレンダー・提案の概要(1枚) 最初の一歩:「次の経営会議の日程を確認し、3週間前の日付を手帳に書く」

根回しは「思いついた時にやる」ではなく、「スケジュールに組み込む」ものとして設計してください。

まず「誰に根回しすべきか」を整理します。一般的には「意思決定に最も影響力のある3名」です。次に「3週間前・2週間前・1週間前」という形でスケジュールを立てます。

  • 3週間前:提案の最初のドラフトを完成させ、直属の上司に共有する
  • 2週間前:CFO(または財務責任者)に数字の前提を確認・すり合わせる
  • 1週間前:社長または最有力事業部長と「提案の概要」を共有し、懸念点を聞く
  • 当日:会議の場では「本日はご承認をいただく場として整理させてください」という前置きで入る

この「根回しスケジュール」を一度作れば、次回以降は「このフローを繰り返す」だけです。最初は時間がかかっても、習慣化すれば「根回しにかける時間」は徐々に減っていきます。なぜなら、根回しを重ねるほど「この人事は信頼できる」という評価が積み上がり、事前のすり合わせがスムーズになっていくからです。


まとめ

人事が経営会議でプレゼンを「通す」ために必要なことを整理してきました。

最も根本にあるのは、「人事の論理」から「経営の言語」への翻訳です。エンゲージメントや従業員満足度といった言葉を、売上・コスト・生産性・投資対効果という経営数字に接続させること。これがなければ、どれだけ丁寧に資料を作っても、経営者には「人事のやりたいこと」として届いてしまいます。

次に大事なのは「場の設計」です。経営会議は「学習の場」でも「議論を深める場」でもなく、「意思決定を確認する場」です。この場の特性を理解した上で、根回しによってあらかじめ「賛同者」を作り、会議の場は承認の確認として使う。この設計ができている人事担当者と、そうでない人事担当者の間には、プレゼンの承認率に大きな差があります。

そして「否決」をおそれないことも、実は重要なポイントです。否決は「終わり」ではなく「次の起点」です。否決の理由を正確に把握し、小さな実績を積み重ね、状況の変化を捉えて再提案する——こうした「粘り強さと戦略性」を持つ人事担当者が、中長期で経営のパートナーとして認められていきます。

人事が経営会議で承認を勝ち取ることは、「交渉術」や「話し方のテクニック」の問題ではありません。経営が何に悩んでいるかを理解し、その問いに人事の専門性で答えるという、「両利きの人事」のあり方そのものです。数字で語り、経営課題から逆算し、場を設計する——このアプローチを一つずつ実践することが、「承認されない人事」から「経営に頼りにされる人事」への転換点になると考えています。

一度に全部を変える必要はありません。まず一つ、「次の提案資料を3ページに凝縮する」という小さな実践から始めてみてください。


この記事が参考になったという方は、ぜひ「人事のプロ実践講座」の詳細もご覧ください。

👉 人事のプロ実践講座の詳細はこちら


本記事は書籍『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』(吉田洋介著)の思想に準拠して執筆しています。

#人事 #経営会議 #人事プレゼン #人事戦略 #人事図書館

0

経営視点で考える人事の実践力を磨きませんか?

書籍『「人事のプロ」はこう動く』著者による実践講座。現場で使える経営視点の人事力を身につけます。

関連記事

経営参画・数字

人事部門を「コスト部門」から「戦略パートナー」に変えるための考え方

人事は管理部門でしょ?人事の仕事は採用と労務管理だよね——こういった認識が経営者や事業部門に根付いている組織では、人事担当者がどれだけ頑張っても、戦略的な仕事ができないという状況が生まれます。

#エンゲージメント#採用#評価
経営参画・数字

ウェルビーイング経営は「社員を甘やかす話」ではない

ウェルビーイングを高めましょうと言うと、社員を甘やかすのか?仕事の厳しさを軽視しているという反応が返ってくることがあります。でも、ウェルビーイング経営の本質は社員を甘やかすことではありません。

#1on1#エンゲージメント#採用
経営参画・数字

HR ROIで「人事の価値」を経営に証明できる人事になる

人事施策を提案しても、経営から"効果がわからない"と言われてしまうエンゲージメント向上のための施策を実施したいが、コスト対効果を説明できない——こんな経験を持つ人事の方は多いのではないでしょうか。

#1on1#エンゲージメント#採用
経営参画・数字

人的資本開示に、人事はどう向き合えばいいのか

人的資本開示、うちも対応しなければと思っているんですが……何を開示すればいいのかわからなくて——2023年の有価証券報告書への人的資本情報の記載義務化以降、この話題を避けて通れなくなった人事の方が増えています。

#採用#研修#組織開発