人事の仕事、何から手をつけるか。優先度設定に迷わなくなる判断軸の作り方
目次
- なぜ人事は「優先度の迷子」になるのか——構造的な理由を理解する
- ある人事マネージャーが話してくれました。
- 人事が「優先度の迷子」になる3つの構造的理由
- 「リクエスト対応型人事」から抜け出せない罠
- よくある失敗パターン——何が「優先度の迷子」を悪化させるのか
- 失敗パターン①:「声の大きい人の依頼」から着手してしまう
- 失敗パターン②:「緊急度だけ」で判断して重要なことを後回しにする
- 失敗パターン③:「人事部内の都合」だけで優先度を決めてしまう
- 人事のプロはどうしているか——判断軸を持ち、優先度を制御する技術
- 工夫①:「経営の優先課題」から逆算して人事の優先度を決める思考法
- 工夫②:緊急度×重要度×事業インパクトの3軸で整理するフレームワーク
- 工夫③:ステークホルダーと「優先度の合意」を取るコミュニケーション技術
- 工夫④:定期的に優先度を見直す「人事版PDCA」の回し方
- 明日からできる具体的アクション——判断軸を持つための最初の一歩
- アクション①:「経営課題×人事貢献」マッピングを作る
- アクション②:週次「3軸スコアリング表」を運用する
- アクション③:月1回「優先度の合意ミーティング」を設定する
- まとめ——「機能する人事」への転換点
人事の仕事、何から手をつけるか。優先度設定に迷わなくなる判断軸の作り方
「やるべきことが多すぎて、何から手をつければいいのかわからなくなっています……採用も育成も制度改定も、全部が急ぎだと言われていて、朝から晩まで動いているのに、何も前に進んでいない感じがするんです」
この言葉を聞いたとき、私は「ああ、わかる」と思いました。人事の仕事は、範囲が広い。採用・育成・評価制度・組織開発・労務管理・コンプライアンス対応——それぞれに「重要性」があり、それぞれに「期限」があり、それぞれに「声をかけてくれる人」がいる。どれも「やった方がいい」のは間違いないのに、すべてを同時に前に進めることはできない。
問題は「忙しいこと」ではありません。「どれを優先するか」の判断軸が定まっていないことです。判断軸がないまま動いていると、「声の大きい人の依頼」「今日届いたメール」「昨日頼まれたこと」が自動的に優先事項になっていきます。その積み重ねが「常に動いているのに、大切なことが何も進まない」という状態を生み出します。
人事の優先度設定は、単なる「タスク管理」の話ではありません。「何を人事として解決するか」という仕事の定義そのものに関わる話です。経営が何を求めているのか、組織のどこにボトルネックがあるのか、自分たちは何のために動いているのか——そこから逆算して優先度を決めていくことが、「機能する人事」への第一歩になります。
この記事では、人事の優先度設定がなぜ難しいのか、よくある失敗パターンはどこにあるのか、そしてどうすれば「経営に貢献する判断軸」を持てるのかを、具体的なエピソードを交えながら考えていきたいと思います。一緒に考えてみたいと思います。
なぜ人事は「優先度の迷子」になるのか——構造的な理由を理解する
ある人事マネージャーが話してくれました。
ある中堅メーカーの人事マネージャーが話してくれました。在籍10年、人事部門の実務リーダーとして採用から育成、労務まで幅広く担当してきた方でした。
「先週一週間、何をやったか振り返ったんです。月曜は採用担当から『エージェントへの求人票を今日中に直してほしい』と言われて、半日かけて修正しました。火曜は現場マネージャーから『うちの部下のことで相談がある』と呼ばれて、2時間話を聞きました。水曜は役員から突然『今期の評価調整をもう一度やり直したい』と言われて、急遽データをまとめました。木曜は労務から『勤怠の処理が終わっていない人がいる』と連絡が来て対応して……。金曜には、4月から始める予定の管理職研修の設計を『そういえば全然進んでいない』と気づいたんです」
「で、その管理職研修はどうしましたか?」と聞くと、「また来週に回しました。もう3週連続で来週に回してます」という答えが返ってきました。
「でも管理職研修って、御社にとって重要じゃないんですか?」と聞くと、「重要です。今期の経営課題の一つとして社長から直接言われています。でも……緊急じゃないので、ずっと後回しになるんです」
これは、一人の人事担当者の怠慢ではありません。人事という仕事の構造的な問題です。
人事が「優先度の迷子」になる3つの構造的理由
理由1:リクエストは「緊急扱い」で届くが、重要課題は「静かにそこにある」
人事に届くリクエストの多くは、発信者にとって「急ぎ」です。「今日中に求人票を直してほしい」「今週中に研修日程を確定させてほしい」「来週の評価面談前にデータを出してほしい」——これらは相手の都合で「緊急」になっています。
一方、組織にとって本当に重要な課題——「管理職の育成」「採用基準の見直し」「評価制度の改定」「エンゲージメント低下への対応」——は、誰かから「今日中に」と言われることがない。期限が曖昧なまま、「いつかやらなければ」という認識でそこにあり続けます。
この非対称性が、「緊急なのに重要でないこと」が優先され、「重要なのに緊急でないこと」が後回しになり続ける状態を生み出します。
理由2:人事は「断りにくいポジション」にある
人事は、経営陣・現場マネージャー・従業員・採用候補者など、多くのステークホルダーと接する部門です。どのステークホルダーの要求も「無視できない」という感覚を持ちやすい。
現場マネージャーから「部下のことで相談したい」と言われれば断りにくい。役員から「このデータを今週中に」と言われれば断れない。採用担当から「今日中に修正してほしい」と言われれば対応するしかない——その積み重ねが、「自分の時間」を持てない人事を生み出します。
理由3:「人事の仕事の評価軸」が曖昧
営業なら「売上」、財務なら「コスト管理」という明確な指標がありますが、人事の成果は数字になりにくい。「採用充足率」「研修実施数」「離職率」などの指標はあっても、「人事として何が一番大切な仕事か」が組織内で合意されていないことが多い。
評価軸が曖昧だから、「何を優先すべきか」の判断基準も曖昧になります。結果として「来た順」「声の大きさ順」「緊急度順」で動くことになり、「経営への貢献度」という最も重要な軸が後回しになります。
「リクエスト対応型人事」から抜け出せない罠
リクエスト対応を続けていると、「人事は対応が速い」「何でも引き受けてくれる」という評価につながることがあります。これは短期的には「良い人事」に見える。しかし長期的には、「人事は言われたことをやる部門」というポジションに固定されていきます。
「人事に言っても何も変わらない」「人事は管理部門にすぎない」という認識が広がる組織では、人事担当者が何年経験を積んでも「経営パートナー」として扱われることはありません。
リクエスト対応型から抜け出すためには、「自分が何を優先するかを自分で決める力」が必要です。そのためには、「判断軸」を持つことが欠かせません。
よくある失敗パターン——何が「優先度の迷子」を悪化させるのか
失敗パターン①:「声の大きい人の依頼」から着手してしまう
人事部門の多くで見られる典型的な失敗が、「声の大きい人」や「役職の高い人」のリクエストが自動的に優先されるパターンです。
あるIT企業の人事部長が言っていました。「うちは役員が多い。副社長が5人いて、それぞれが人事に何かを頼んでくる。誰も彼らには逆らえないから、全員の依頼が最優先になる。結果、人事部が何をやっているかわからなくなっている」
この状態の問題は、「声の大きさ」と「事業への貢献度」が必ずしも一致しないことです。役員Aの依頼が「重要」で、役員Bの依頼が「あまり意味がない」という状況でも、両方が「最優先」として処理されていく。
しかも、「声の大きい人の依頼」を優先することが習慣化すると、人事担当者は「次に声が大きいのは誰か」を無意識に探すようになります。自分で優先度を判断する力が育たなくなり、「言われたことをやる人事」がますます定着していきます。
具体的な機会損失を考えると、人事担当者一人の稼働時間を月160時間とすると、「声の大きい人の依頼対応」に50時間費やしたとして、その間に「採用歩留まり率の10%改善」「管理職育成による生産性15%向上」などの施策が止まっていたとすれば、その損失は数百万円規模になりえます。「忙しい」ことのコストを、事業数字で考える視点が必要です。
声の大きい人の依頼を「一切受けない」ということではありません。問題は、「なぜこの依頼を優先するのか」という判断なしに動いてしまうことです。受けるにしても「今週のどのタイミングで、どこまでやるか」を自分で決める。それだけで、仕事の主導権が変わります。
失敗パターン②:「緊急度だけ」で判断して重要なことを後回しにする
「緊急・重要マトリクス」はよく知られたフレームワークですが、人事の仕事でこれを使うときに陥りやすい罠があります。「緊急度だけ」で判断してしまい、「重要だが緊急でない」領域の仕事が積み残され続けるパターンです。
なぜこれが起きるかというと、人事に届くリクエストの多くが「緊急フラグ付き」で来るからです。「今日中に」「今週中に」「明日の会議前に」——こうした期限がついたリクエストは「緊急」に見える。一方、「3ヶ月後の施策に向けた設計」「来期の制度改定のリサーチ」「組織エンゲージメントの分析」などは、期限が曖昧なため「緊急でない」と分類されます。
しかし、本当に重要な仕事ほど「時間がかかる」「すぐに成果が見えない」「誰かから急かされない」という特徴を持ちます。管理職の育成プログラムを設計するには3ヶ月かかるかもしれない。評価制度の見直しには半年かかるかもしれない。でもそれをやらないことの損失は、毎月静かに積み上がっています。
例えば、管理職の育成が遅れることで「一人当たり生産性が5%低下」し続けた場合、100名規模の組織なら年間で数千万円の損失になりえます。「緊急ではない」が「重要」な仕事を後回しにするコストは、誰にも見えないまま積み上がっていく。これが「緊急度だけ」判断の最大のリスクです。
「緊急度」に「重要度」と「事業インパクト」を掛け合わせて優先度を判断する。これが、失敗パターン②を抜け出すための第一歩です。
失敗パターン③:「人事部内の都合」だけで優先度を決めてしまう
三つ目の失敗パターンは、「人事部として何をやりたいか」「人事担当者として何に興味があるか」「今の人事リソースで何ができるか」という「人事部内の都合」を起点に優先度を決めてしまうことです。
これは「悪意のある行動」ではありません。むしろ「善意の人事」が陥りやすいパターンです。「採用の質を上げたい」「研修をもっと充実させたい」「1on1の文化を広めたい」——これらは本質的に良い動機から来ています。しかし、それが「事業・経営の優先課題」と一致していない場合、「人事がやりたいことをやっている」状態になります。
ある成長フェーズのスタートアップで、人事担当者が「エンゲージメントサーベイの導入」を優先課題として半年かけて推進していました。しかし経営陣の最優先課題は「採用充足」と「管理職育成」でした。エンゲージメントサーベイが完成した頃には、採用ポジションの欠員が続き、現場の生産性低下が深刻化していたという事例があります。
「人事部内の都合」起点の優先度設定は、「人事が一生懸命動いているのに、経営から評価されない」という状況を生み出します。経営は「自分たちの課題を解決してくれているか」という軸で人事を評価するからです。「人事として何をやるか」は、「経営として何を解決したいか」から始める。この順序を間違えると、どれだけ優秀な人事担当者でも「機能している人事」にはなれません。
人事のプロはどうしているか——判断軸を持ち、優先度を制御する技術
工夫①:「経営の優先課題」から逆算して人事の優先度を決める思考法
「機能する人事」に共通しているのは、「自分が何をすべきか」を経営の優先課題から逆算して考えていることです。これは「経営に言われたことをやる」という受け身の姿勢とは違います。「経営が向き合っている課題を理解した上で、人事としてどう貢献できるかを自分で考える」という能動的な姿勢です。
具体的にどうやるか。まず「経営の優先課題を把握する場を持つ」ことが出発点です。経営会議の議事録を読む、役員との定期面談を設ける、決算発表や中期経営計画を読み込む——これらは「人事として経営を知る」ための基本動作です。
経営の優先課題が把握できたら、「その課題の解決に、人事はどう貢献できるか」を考えます。例えば「今期の最優先課題は新規事業の立ち上げ」という状況なら、人事として優先すべきは「新規事業部門への採用充足」「新規事業リーダーの育成支援」「新規事業と既存事業をまたいだ人材の流動化」などです。一方、「ウェルビーイング施策の充実」「人事制度の細かい改定」などは、この時期は優先度を下げるべきかもしれない。
この逆算の思考を持つと、「今の自分の仕事は経営課題に紐づいているか」という問いが自然と生まれます。紐づいていない仕事は「やらない」か「後回し」にする判断ができるようになります。
重要なのは、この判断を「月1回以上」見直すことです。経営の優先課題は変わります。期初に立てた計画が、市場環境の変化で変わることがある。四半期ごとに「自分の優先度設定が、今の経営課題と合っているか」を確認する習慣が、長期的に「機能する人事」を維持するために欠かせません。
経営課題から逆算することで、もう一つのメリットがあります。「優先度の説明ができるようになる」ことです。「なぜAよりBを優先しているのか」を聞かれたとき、「経営課題XへのYという貢献のため」と答えられる人事は、「単に後回しにしている」人事とは全く違う信頼を得られます。経営陣や現場マネージャーとの関係性において、「優先度の説明ができる」ことは大きな差別化になります。
数字の視点から言えば、経営が「売上を20%成長させる」という目標を持っているなら、「どのポジションに何人採用することが、その20%成長に貢献するか」を逆算して採用計画を立てることができます。「採用数」ではなく「事業目標への貢献度」から逆算して採用優先度を決める人事は、経営と同じ言語で話せる存在になります。
工夫②:緊急度×重要度×事業インパクトの3軸で整理するフレームワーク
「緊急・重要マトリクス」に「事業インパクト」という第三の軸を加えることで、人事の優先度設定は一段階精度が上がります。この3軸フレームワークは、「緊急で重要だが事業インパクトが低い仕事」と「緊急ではないが重要で事業インパクトが高い仕事」を区別するために有効です。
3軸の定義を整理します。
緊急度(Urgency):いつまでにやらなければならないか。今日・今週・今月・今四半期など、時間的な制約の大きさ。
重要度(Importance):組織にとってどれだけ本質的な課題か。単発対応か、構造的解決につながるか。
事業インパクト(Business Impact):この仕事を完了することで、どれくらいの事業成果につながるか。売上・コスト・生産性・離職率などの数字への影響度。
この3軸でタスクを整理すると、「緊急度は高いが事業インパクトは低い」タスクを見える化できます。例えば、「採用担当からの求人票修正依頼(緊急度高・重要度中・事業インパクト低)」と「管理職育成プログラムの設計(緊急度低・重要度高・事業インパクト高)」を比較すると、後者を優先すべきだという判断が数字として見えてきます。
実際の運用は、週初めに「今週のタスクリスト」を3軸でスコアリングすることから始めます。緊急度・重要度・事業インパクトをそれぞれ1〜5点でスコアリングし、合計点が高いものから順に着手順序を決める。単純なようですが、「なんとなく緊急なもの」を自動的に優先するのではなく、「意識的に判断する」プロセスを挟むことで、優先度の精度が大きく変わります。
事業インパクトを数字で考える習慣は、人事担当者として重要なスキルです。「採用1名の機会損失コストはいくらか」「管理職の育成遅れが1ヶ月続いた場合の生産性損失はいくらか」「エンゲージメント低下が離職率1%上昇に与える採用コストへの影響はいくらか」——これらを大まかでも計算できる人事は、優先度の判断の質が変わります。
「人事の仕事はコストに見えやすく、ROIが見えにくい」という問題は、人事担当者自身が「自分の仕事の事業インパクトを数字で考える習慣」を持つことで変えていける。3軸フレームワークは、その習慣を身につけるための実践的なツールになります。
工夫③:ステークホルダーと「優先度の合意」を取るコミュニケーション技術
優先度を自分の中で決めるだけでは不十分です。「その優先度をステークホルダーに説明し、合意を得る」コミュニケーションができて初めて、「人事として主体的に動ける」状態が生まれます。
多くの人事担当者が苦手とするのが、「今は他の優先度が高いので、そちらは来月以降にさせてください」という断りのコミュニケーションです。特に役員や上位職からの依頼に対して「待ってほしい」と伝えることは、精神的なハードルが高い。
しかし、このコミュニケーションができないまま「全部引き受ける」状態が続くと、人事の仕事の質は下がり続けます。すべてに中途半端に対応することで、「何もちゃんとできていない」という状態が生まれるからです。
「優先度の合意」を取るコミュニケーションのポイントは三つあります。
一つ目:「断る」ではなく「代替案を提示する」
「それは今月はできません」ではなく、「今月はA・Bに集中しているので、来月の第一週には着手できます。それまでに〇〇を準備しておくと、よりよいものができます」という形で伝える。相手の依頼を「拒否」するのではなく、「いつ・どのような形で対応するか」を提案する形にすることで、「信頼できる人事」として認知されます。
二つ目:「優先度の判断根拠を共有する」
「なぜ今これを優先しているのか」を相手に伝えることが重要です。「今期の経営課題として挙げられている管理職育成に集中するため、採用支援は来月以降にしています」という説明は、「単に後回しにしている」印象を与えません。根拠のある優先度判断を共有することで、相手も「人事がちゃんと考えて動いている」と理解できます。
三つ目:「優先度の合意を定期的に確認する場」を持つ
月1回、または四半期ごとに「人事の優先課題と、その進捗」を経営陣や主要ステークホルダーと共有する場を設けることが有効です。「今月の人事の優先事項はこれです。先月合意した内容から変更があるなら教えてください」というアジェンダを持った定期ミーティングは、「人事の動きが見えない」という不満を解消し、「人事と経営が同じ方向を向いている」状態を維持するために機能します。
この「優先度の合意」コミュニケーションが機能し始めると、不思議なことが起きます。「声の大きい人からの急ぎ依頼」が減り始めるのです。「人事は優先度を持って動いている」という認識が広がることで、「とりあえず急いで頼む」という行動が減り、「人事に相談するときは、優先度と期限を明確にして頼む」という文化が生まれてきます。
工夫④:定期的に優先度を見直す「人事版PDCA」の回し方
優先度は一度決めたら終わりではありません。経営環境・組織の状況・人事リソースは変化します。定期的に優先度を見直し、「今の状況に合った優先度」に更新し続けることが、「機能する人事」を維持するために必要です。
「人事版PDCA」のサイクルを具体的に示します。
Plan(月初):優先課題の設定と合意
月初に「今月の人事優先課題リスト」を作成します。経営の優先課題・前月の進捗・今月の期限・3軸スコアリングを踏まえて、今月取り組む優先テーマを3〜5個に絞り込む。これを経営陣または直属の上司と共有・合意する。
「月の優先課題が3〜5個に絞れている」という状態を作ることが目的です。10個も15個も「最優先」にはできない。意識的に絞ることで、「何に集中するか」が明確になります。
Do(週次):週の優先タスクを決める
週初めに「今週やること」を最大5つに絞ります。「月の優先課題」から分解した具体的なタスクを選び、「今週これが終わらなければ月の優先課題が進まない」という順序で並べる。これにより、「突発的な依頼が来ても、自分のコアタスクが何かを忘れない」状態が維持できます。
Check(週末・月末):進捗の確認と理由の分析
週末に「今週の優先タスクが完了したか」を確認します。完了しなかった場合、「なぜ完了しなかったか」を一行でメモする。「突発依頼が3件来た」「思っていたより時間がかかった」「情報収集が必要で止まった」など、理由を記録することで、「次月の計画」の精度が上がります。
月末には「今月の優先課題が予定通り進んだか」を振り返り、「来月に持ち越すもの」「来月新たに追加するもの」「優先度を下げるもの」を整理します。
Action(翌月のPlanに反映):学びを次サイクルへ
毎月の振り返りで得た「なぜ計画通り進まなかったか」の学びを、翌月の計画に反映します。「突発依頼が多い月は、優先タスクを少なめに設定する」「制度改定は必ず2ヶ月前から着手する」など、自分の仕事パターンを学習することで、計画の精度が徐々に上がっていきます。
この「人事版PDCA」を回すことで生まれる副産物が、「人事の仕事の可視化」です。「今月、人事は何をやっていたか」を説明できるデータが自然と蓄積されます。これは「人事の評価」において重要な資産になります。「何をやったかが見えない人事」から「何をやったかが明確な人事」への転換は、組織内での人事部門の信頼構築に直結します。
数字の観点から見ると、「人事版PDCA」によって優先度設定の精度が上がることで、「事業インパクトの高い施策への時間投下比率」が上がります。週160時間の稼働を「事業インパクト高・優先度高の仕事」に70%以上使えている状態と、「リクエスト対応」に70%使っている状態では、年間を通じた事業貢献の差は大きくなります。
明日からできる具体的アクション——判断軸を持つための最初の一歩
アクション①:「経営課題×人事貢献」マッピングを作る
所要時間: 2〜3時間(初回)、月15分(更新時)
必要なもの: 経営会議の議事録または中期経営計画・現在の人事タスクリスト・A3紙またはスプレッドシート
最初の一歩: まず「経営が今期に解決しようとしている課題」を3〜5個リストアップします。情報源は経営会議議事録・社長スピーチ・中期経営計画など。次に「自分が現在対応している人事タスク」をリストアップし、それぞれが「どの経営課題に貢献しているか」を線で結びます。
このマッピングをやると、多くの場合「経営課題に紐づいていないタスク」が全体の30〜50%あることがわかります。それらは「いったん止める」または「後回しにする」候補です。逆に「経営課題に強く紐づいているのに、時間をかけられていないタスク」も見えてきます。これが「本来最優先すべき仕事」です。
このマッピングは月1回更新することをすすめます。経営課題が変わったとき、自分の優先タスクを連動して更新する習慣が、「経営と同じ方向を向く人事」の基礎動作です。
このアクションの目的は「完璧なマップを作ること」ではありません。「経営課題との接続を意識する思考習慣を持つこと」です。最初は粗くても構いません。「経営がどこを向いているか」を人事担当者が意識し始めるだけで、日々の判断の質が変わります。
アクション②:週次「3軸スコアリング表」を運用する
所要時間: 週初め30分
必要なもの: 今週のタスクリスト・スプレッドシートまたはメモ帳
最初の一歩: 月曜の朝30分、「今週やろうとしていること」を全部書き出します。次に各タスクを緊急度(1〜5)・重要度(1〜5)・事業インパクト(1〜5)でスコアリングします。合計点が高い順に並べ替え、上位5つを「今週のコアタスク」に設定します。
事業インパクトのスコアリングに迷う場合は、「このタスクを完了することで、売上・コスト・生産性・離職率などにどれくらいの影響があるか」を大まかに考えます。精緻な計算は必要ありません。「高い(5)・中(3)・低(1)」の3段階で考えるだけでも、「なんとなく緊急なもの」を優先するよりはるかに精度が上がります。
最初の2〜3週間は「スコアリングの感覚がつかめない」と感じる方も多いです。その場合は、週末に「今週スコア高かったものを実際に優先できたか」を振り返ることで、スコアリングの精度を上げていきます。3ヶ月続けると、「事業インパクトで考える」感覚が自然に身につきます。
アクション③:月1回「優先度の合意ミーティング」を設定する
所要時間: 月1回30分
必要なもの: 経営陣または直属上司との定期ミーティング枠・「今月の人事優先課題リスト」1ページ
最初の一歩: まず「今月の人事優先課題と、その根拠」を1ページにまとめます。「①採用充足(理由:新規事業立ち上げに伴う技術者不足への対応)」「②管理職育成(理由:経営課題として挙げられたリーダーシップ強化への対応)」のように、優先課題と経営課題への接続を簡潔に記載します。
このメモを持って、経営陣または直属上司との月1回のミーティングに臨みます。「先月の優先課題の進捗」「今月の優先課題の設定」「変更が必要な場合の調整」という30分のアジェンダで運用します。
最初はこちらからミーティングを申し込む必要があるかもしれません。「月1回、人事の動きを共有する場を設けたい」と提案することから始めます。経営陣の多くは「人事が何をやっているかわからない」という状態を解消したいと思っているため、この提案は概ね歓迎されます。
このミーティングを3〜6ヶ月継続すると、「人事が経営と同じ言語で話せている」という信頼感が形成されます。それが「経営パートナーとしての人事」への道を開く最初のステップになります。
まとめ——「機能する人事」への転換点
人事の優先度設定に迷う根本には、「判断軸がないこと」があります。判断軸がなければ、来た順・声の大きさ順・緊急度順で動くことになり、「大切なことが永遠に後回しになる」状態が続きます。
この記事で考えてきたことを整理します。
人事が「優先度の迷子」になるのは、個人の能力の問題ではなく、人事という仕事の構造的な問題です。リクエストは緊急扱いで届き、重要課題は静かにそこにある。断りにくいポジションにあり、評価軸が曖昧——この構造を理解することが出発点です。
よくある失敗パターンには「声の大きい人の依頼を優先する」「緊急度だけで判断する」「人事部内の都合で決める」という三つがあります。いずれも「経営課題との接続」が欠けていることが共通しています。
人事のプロが持っている判断軸は、「経営の優先課題から逆算する」「3軸(緊急度×重要度×事業インパクト)で整理する」「ステークホルダーと優先度の合意を取る」「定期的に見直すPDCAを回す」という四つの工夫に集約されます。
大切なのは、これらを「一度に全部やろうとしない」ことです。まず一つから始める。「経営課題×人事貢献マッピング」を作るだけでも、自分の仕事の見え方が変わります。週次の3軸スコアリングを2週間続けるだけでも、「なんとなく優先していたもの」が見えてきます。
「何から手をつけるか」の判断軸を持つことは、人事としての仕事の質を変えるだけでなく、「経営パートナーとして信頼される人事」への転換点になります。
「忙しい人事から、機能する人事へ」——その転換は、一つの判断軸を持つことから始まります。
この記事が参考になったという方は、ぜひ「人事のプロ実践講座」の詳細もご覧ください。
本記事は書籍『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』(吉田洋介著)の思想に準拠して執筆しています。
#人事 #人事の優先度 #人事戦略 #タスク管理 #人事図書館
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