制度設計・運用

コンピテンシーを設計するなら「使われる基準」を目指してほしい

#1on1#採用#評価#組織開発#面接

コンピテンシーを設計するなら「使われる基準」を目指してほしい

「コンピテンシーモデルを作ったけど、現場で使われていない」「定義が抽象的すぎて、評価に使えない」——コンピテンシー設計に取り組んだものの、こういった問題に直面している人事の方は少なくないのではないでしょうか。

コンピテンシー(Competency)は、「高い業績を生み出す行動特性」のことです。採用・育成・評価の基準として活用できる便利な概念ですが、うまく設計・運用しないと「大量の言葉が並んだ文書」で終わってしまいます。

今日は、使われるコンピテンシーを設計するための考え方について、一緒に考えてみたいと思います。


なぜコンピテンシー設計は難しいのか

「定義が難しい」という本質的な問題

コンピテンシー設計の難しさの核心は、「活躍している人がなぜ活躍しているか」を言語化することの難しさにあります。

活躍している人に「なぜうまくいっているのか」を聞いても、「気合いと根性です」「経験があるので」という答えが返ってくることが多い。「暗黙知」の問題と同じで、その人も「なぜうまくいっているか」を自分で意識していないことが多いんです。

コンピテンシーを定義するには、活躍している人の行動を丁寧に観察し、「なぜその行動を取るのか」を深く聞き出すインタビューが必要です。これは相当な時間と技術を要する作業です。

「網羅的にしよう」として複雑になりすぎる

コンピテンシー設計でよくある失敗は、「漏れなく定義しよう」として、コンピテンシーの数が20〜30個になってしまうことです。

項目が多すぎると、評価で全部を使おうとすると膨大な手間がかかります。「こんなに多いなら、適当にチェックするしかない」という状態になると、コンピテンシーは機能しなくなります。

「自社固有のもの」になっていない

コンピテンシーは「自社で活躍する人の特徴」を定義するものです。でも、参考書籍やコンサルから提供されるコンピテンシーモデルをそのまま使ってしまうと、「どの会社にも当てはまる汎用的な定義」になってしまいます。

「主体性がある」「コミュニケーション能力が高い」——これは汎用的すぎて、「自社で活躍する人の特徴」を表していません。「自社のお客様に対して、〇〇な状況で△△という行動ができる」という自社固有の言語で定義されたコンピテンシーが必要です。


よくある失敗パターン

失敗パターン1:「コンサルに任せて出来上がったものをもらう」

外部コンサルにコンピテンシー設計を任せて、出来上がったものを「はい、これがコンピテンシーです」と展開するパターンです。

設計プロセスに関わっていない現場の管理職や社員は、「これが自分たちの仕事ぶりを表しているのか」という実感が持てません。コンピテンシーは、設計プロセスに関わった人ほど使いこなせるようになります。

失敗パターン2:評価にしか使わない

コンピテンシーを「評価の基準」としてしか使わないパターンです。

コンピテンシーは、採用時の「この人が活躍できるかどうかの見極め」、育成時の「どの能力を伸ばすかの判断」、1on1での「成長の振り返り」にも使えます。評価だけでなく、「人と組織の成長を支える共通言語」として活用することで、コンピテンシーの価値は何倍にもなります。

失敗パターン3:一度作ったら更新しない

事業や組織が変わっても、コンピテンシーを更新しないパターンです。

5年前のコンピテンシーが、今の事業環境にフィットしているか——定期的に見直しが必要です。コンピテンシーは「活きている文書」であるべきです。


プロの人事はこう考える:コンピテンシーの設計

まず「ハイパフォーマーへのインタビュー」から始める

良いコンピテンシーを設計するための出発点は、「自社で最も活躍している人たち」へのインタビューです。

「あなたが担当した案件で最もうまくいったのはどれですか?そのとき、あなたはどんな行動を取りましたか?」「逆に、難しかった案件はどれですか?そのときどう対処しましたか?」——こういった行動面接法(BEI)の質問を使って、具体的な行動エピソードを引き出します。

そのエピソードの中に「なぜこの人は活躍しているのか」のヒントがあります。それを分析・分類することで、自社固有のコンピテンシーが定義できます。

コンピテンシーは「5〜8個」に絞る

コンピテンシーの数は、「5〜8個程度」に絞ることをおすすめします。

「多すぎる」より「少なすぎる」くらいが、実際には機能しやすいです。5〜8個なら、評価者も被評価者も「このコンピテンシーは何か」を覚えられます。覚えられるから、日常的に使えるようになります。

「手段ありきで人事を動かしてはいけない」という考え方があります。コンピテンシーも「網羅性」を追い求めるより、「現場で実際に使われること」を最優先に設計することが大切です。

「行動レベル」の定義にこだわる

コンピテンシーの定義は、「行動レベル」まで落とし込むことが重要です。

「顧客志向」というコンピテンシーを例にすると:

  • 抽象的な定義:「顧客の立場に立って考え、行動できる」
  • 行動レベルの定義:「顧客から要望を受けたとき、要望の背後にあるニーズを確認する質問を必ずする。対応後は顧客の満足度を確認し、必要なら改善策を提案する」

行動レベルで定義されたコンピテンシーは、「できているかできていないか」が評価しやすく、「どう行動を変えればいいか」も明確になります。

設計プロセスに現場を巻き込む

コンピテンシーを「使われるもの」にするためには、設計プロセスに現場の管理職を巻き込むことが大切です。

「こういうコンピテンシーを考えているのですが、現場の実態に合っていますか?」「この定義で、実際の評価に使えると思いますか?」——こういったフィードバックを受けながら設計することで、「自分たちが作ったもの」という当事者意識が生まれ、使われやすくなります。


明日からできる3つのこと

1. 自社のハイパフォーマー3人に「うまくいった案件の話」を聞く(所要時間:各30〜60分)

コンピテンシー設計の第一歩として、自社で最も活躍していると思われる社員3人に、「最近うまくいった仕事の話」を聞いてみましょう。「そのとき具体的にどんなことをしましたか?」という質問を繰り返すことで、行動パターンが見えてきます。

2. 既存のコンピテンシーを「現場で使われているか」確認する(所要時間:管理職3人へのヒアリング、各30分)

もし既にコンピテンシーが存在するなら、管理職3人に「コンピテンシーを評価以外で使っていますか?」「コンピテンシーの定義は現場の実態に合っていますか?」を聞いてみましょう。「使われていない」「合っていない」なら、改善の余地があります。

3. コンピテンシーを「5個に絞るとしたら」を考えてみる(所要時間:2〜3時間)

現在のコンピテンシーが多すぎるなら、「もし5個に絞るとしたら何を残すか」を考えてみましょう。絞ることで、「本当に重要なコンピテンシーは何か」が浮かび上がってきます。


まとめ:コンピテンシーは「使いながら育てるもの」

コンピテンシーは、一度完璧に作るものではなく、「使いながら改善していくもの」です。

「小さく始めて、成功事例を作って横展開する」という考え方があります。コンピテンシーも、まず一つの職種・階層に絞って試してみて、「使えた」「こういう改善が必要だ」という経験を積んでから、全社に広げていく方が現実的です。

完璧なコンピテンシーを作ることよりも、「現場で実際に使われるコンピテンシーを育てていく」ことを目指してほしいと思っています。


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